やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 片足のヒーロー 作:kue
時系列が原作とは違いますがご了承ください。
由比ヶ浜ルートに危うく入りかけた日の2日後の放課後、特別棟にある奉仕部部室へ杖をコツコツ突きながら向かっていると由比ヶ浜と雪ノ下の2人が部室の扉の前で何やら固まって中を見ていた。
……雪ノ下はともかくなんで由比ヶ浜までいるんだよ。
「おい」
「うひゃぅ!」
かわいらしい悲鳴かつおかしな悲鳴を上げながら由比ヶ浜がこちらを向き、雪ノ下は声までは出さなかったが肩を大きくビクつかせながら振り向いた。
「い、いきなり声をかけないでくれるかしら」
「杖を突く音で気づけよ……で、部室入んねえの?」
「部室に不審者がいるの! ヒッキー! やっちゃって!」
「片足の俺に任せるかよ普通……」
押してくる2人に呆れながら突っ込みつつも部室の扉を勢いよく開けると不審者らしき人物が腕を組みながら窓の外に見える太陽で顔を焦がしていた。
もうじき初夏だというのにコートを着て、指ぬきグローブをはめ、ちょっと小太りのその人物はゆっくりとこちらへ振り向くと口角を上げた。
「クックックック……待っておったぞ。比企谷八幡」
俺はその人物の顔を見た瞬間、部室から出て思いっきり扉を閉め、雪ノ下と由比ヶ浜と共にこの場から離れようとするが扉が開き、俺の服を掴まれた。
「何故、逃げるのだ」
「貴方の知り合いのようだけど」
「知らん……こんなやつ知らん」
学校で会いたくない奴、暫定ナンバー1である材木座義輝など俺は絶対に知らん!
心の中で悲痛な叫びをあげながら奴の手を必死に話そうとするがいかんせんこちらは片足だけでバランスが悪いため、小太りでがたいも大きめの奴の手を払いのけることはできなかった。
「相棒の顔を忘れるとは見下げ果てたぞ、八幡」
「相棒って」
「あのドラマ良いよな。でも探偵ものでは俺は古畑さんが好きだけどな」
「え、何それ」
……グスン。良いもん! 1人だったから再放送をずっと見てただけだもん!
「とりあえず中に入ってくれないかしら、2人とも」
雪ノ下にウザったそうに言われ、仕方なく部室の中へ入り、椅子に座ると何故か材木座は腕を組んだ状態で汗をかきながら窓際に立った。
「ここは奉仕部とやらでいいのか、八幡」
「ええそうよ」
「そ、そうか……平塚教諭によればお主は我の願いを叶えなければならない義務があると聞いたが本当か?」
「語弊があるわ。私たちは補助をするだけ。叶えるのはあなた自身よ」
「は、はいぃ」
おい、素に戻ってるぞ……相変わらずこいつは俺以外の人間とろくにしゃべることはできないらしい。
材木座輝義。ある日の体育で先生にこいつだけペアが汲めていないからボールを上げるだけでいいからペアを組んでほしいと言われたのが運の月。何故かこいつに付きまとわれてしまったわけだ。
「ところで2人の関係って何なの? さっき相棒とか言っていたけど」
「ふっ。よくぞ聞いてくれた。我らが出会ったのは今から三千万年前にさかのぼる。光と闇、その二つが争っていた時代、我らは敵同士だった。しかし共通の敵が現れた時、我らは協力し、見事打ち勝った……その子孫が今、この現代で再び邂逅したのだ!」
「体育でペアを組まされました」
俺が超簡単に言ってやると2人は首を上下に振り、納得した様子を見せ、材木座は何故か軽く悲壮感を漂わせながら俺を見てくる。
こいつは中二病を引きずったまま高校生になってしまったのだ。ラノベに中二病がヒロインの子がいるが現実はあんな生易しい物じゃない。中二病は異物と判断され、排除される。
「時に八幡。我の願いを叶えてくれるのか」
「さっき雪ノ下も言ってたろ。補助するだけだって」
「構わぬ。我が頼みたいのはこれだ!」
そう言いながら材木座はコートの中から分厚い原稿用紙のコピーを複数セット取り出し、俺達に見せつける様にひらひらさせるが誰からも反応が返ってこず、キョロキョロと周囲を見渡しながら汗をかいている。
分かるぞ、材木座……ボッチが急にしゃべりだしたら静かになるあの現象……俺も嫌いだ。だから喋らない。
「それは何かしら」
「ラノベの原稿だ。我はとある新人賞に応募しようと思っておるのだが……友人がおらず、第三者の意見が聞けなくてな。第三者の意見無しに作品は完成せぬ」
「じゃあ、投稿サイトとか投稿スレに晒してみてもらえよ」
「……彼奴らはブレーキを知らぬ」
あぁ、こいつぼろ糞に叩かれるのが嫌なのか……まあ、誰だって自分が一生懸命書いた作品をぼろ糞に叩かれるのは見ていて気分が良い物じゃない。誰だって褒めてほしい……それがたとえ家族贔屓なものであったとしてもだ。
「要するに私たちが貴方の書いた作品を読んで評価すればいいのね」
「左様。感想、待っておるぞ」
結局、俺たち三人は材木座から250ページほどの原稿のコピーを受け取り、一晩かけて読むことになった。
翌日の放課後、俺たち3人は原稿用紙のコピーをもって材木座を中心に座り、奉仕部の部室に集まっていた。
物語を端的に言えばどこにでもいる普通の男子高校生が秘められた力に目覚め、前世の記憶、そして秘密結社と戦いながらヒロインたちと愛を育てていく……そんな感じのどこかで見たことがある内容だった。
俺と雪ノ下の原稿には付箋が大量に貼り付けられているが由比ヶ浜のは付箋どころか折皺すら見当たらないまっすぐとした綺麗な状態だ。
あいつ、絶対読んでないな。
「では、頼む」
「まず……想像を絶するくらいに面白くなかったわ」
「げっふぅ!」
一閃のもと切り捨てやがった……まあ、あんまりこういうのを読んだことないみたいだし、こういうラノベ作品のノリとか空気とか知らない奴が見ればそう思うわな。
「何でいつも倒置法なの? 『てにをは』の使い方知ってるの? そもそもルビの振り方がおかしいわ。能力にちからという読みはないのだけれど」
「そ、それは今流行の」
「流行に乗ればいいとでも思っているのかしら」
「げふん!」
「そもそも終盤、何故似ていることを何度も言っているのかしら。文章をダラダラ書いてページ稼ぎ?」
「ぴぎゃぁぁ!」
材木座は絶望ラインを突破したのか床に倒れこみ、白目をむいたまま天井を見ており、時折両肩が微くん微くんと痙攣しているように細かく動く。
そろそろオーバーリアクションもうざくなってきたし、止めの一撃を刺そう。
「八幡……」
俺は材木座の近くまで歩き、顔を覗き込みながらこう言った。
「あれ、なんのパクリ?」
材木座の口の中から魂のようなものが抜け出たのか完全に動きを停止した。
「貴方、私以上に酷薄じゃない」
「……フォローとして言っておくがラノベは内容じゃない……挿絵だ!」
「ごっぱぁぁ!」
材木座の変態っぷりに由比ヶ浜は俺の後ろに隠れて見る始末だし、雪ノ下に至っては最大限の侮蔑を込めた視線で材木座を見ている。
「ぐぅ……な、なかなか辛辣な評価であった……これを参考にまた書き直す!」
「お前、ドM?」
「確かに酷評はされた……だが酷評されたと言う事は伸びしろがあると言う事! 我はこれからもずっと新作を書き続けるぞ! 新作が書けたらまた持ってくる。読んでくれるか?」
……確かに俺は材木座とは会いたくない……だが会いたくないだけであって嫌いじゃない。むしろすげえって思っているくらいだ……俺にはないものをあいつは持ってるんだから。
「ま、気分による」
「構わぬ。さらばだ!」
こうして嵐のように来て嵐の様に材木座は去っていった。