その影響なのかとんでもない数のオカルトを保有した彼が、ある一人の少女に一目惚れ恋する物語。
清澄高校の一年C組の教室。既にお昼を過ぎた事もあって射し込む太陽は低いものの、窓際の真ん中に位置する俺の眠気を誘発するには充分な効果を見せていた。
そんな俺の右隣では、今はまだ授業中だと言うのに携帯電話を弄って麻雀をしている奴がいる。教科書で隠してはいるが、そんにガチャガチャ音を立てて良く気付かれないと素直に思う。
呆れて言葉も出ない俺ではあるが、聞かなかった授業で後悔するのは彼だ。知らぬ存ぜぬを貫き通す事としよう。
「なあ
そんな事を考えていた折、問題である張本人の
そしてその携帯電話の画面には、この世界で最も有名なゲームと言えるだろう“麻雀”が映し出されていた。
「知らない。白潑中でも切っとけば? 多分次に筒子の三六八が来て四暗刻単騎待ちになるから」
「そんな都合の良い話があるか。麻雀は牌効率と運に支配されるゲームなんだからな。この状況で三元牌を切るのはど素人だぜ」
そう言って俺にドヤ顔を向けて来る京太郎に対し『だったら聞いて来るなよ』と思わなくもないが、恐らくは彼なりに俺を気遣ってくれているのだろう。
何と言っても、俺がこの教室に来るのは退院後実に三ヶ月ぶり“らしい”のだから。
ここまで言えば、いくら勘の悪い奴でも気が付くだろう。
そう。実は俺、平行世界の自分に憑依しました。
「えっ……? マジで四暗刻単騎待ちなんだけど……」
そうして俺が自分の状況を振り返っていると、再び麻雀ゲームに没頭していた京太郎からそんな声が上がる。驚きと疑問が入り混じったような声色に僅かな期待があった事を考えると、人をど素人と言っておきながら三元牌を切ったようだ。恐らくは『現実は甘くないんだぜ!』とか言いながら俺に携帯を見せる算段だったのかも知れない。
京太郎はどことなくオロオロしながらも、今か今かと携帯に食い入り和了牌である筒子の一を待っている。
そして、狙っていたそれが来たのだろう。京太郎は立ち上がると、授業中であるにも関わらず大声でそれを宣言した。
「よっしゃー! 四暗刻単騎ツモ和了で16000・32000だ! 初めてダブル役満で和了れた!」
一体何事だとクラス全員が注目するも、京太郎は余りの喜びからかそんな視線を一切気にしない。ただ役満での和了と言う初めての感動に打ち震えているのだろう。
その初めての喜びと言う物は、この世界に来たばかりの俺も感じた事である為理解出来る。今まで夢だった事が現実になればそりゃあ嬉しいだろう。出来る事なら拍手で祝福してやりたい所ではあるが、残念ながらそれは叶わないらしい。
「最後にオチを付けるなら、場が悪かった……だな」
「須賀、席に着け。あと、携帯は授業終了まで没収な」
「そんなっ!? まだオーラスが残ってるのに!?」
そんな悲痛な声を京太郎の声を最後に、俺の普通な授業は再開されたのだった。
――――――――
「二四って麻雀出来たんだな。俺はてっきり初心者かと思ってたよ」
「いやいや、初心者だよ。役とルールしか知らない。点数計算は出来ないしな」
その日の放課後。例の一件が京太郎の興味を惹いたのか、彼が授業が終わると一番に俺へと話し掛けて来た。内容は勿論麻雀に関してであり、この世界に来てからは久々に話が弾んでいる。
「へぇ、それじゃあ麻雀は独学か?」
「いや、東京で入院中にお見舞いに来てくれた女の子から教わった。なんでも麻雀のチャンピオンらしい」
「チャンピオンかぁ……。だから四暗刻を予想出来たんだな」
正直な話それは違うが、ここは黙って頷いておく。京太郎はどう見ても普通側だし、せっかく仲良くなれたのに電波な発言をして距離を置かれるのは避けるべきだ。
そうして京太郎との話に花を咲かせていると、恐らくかなり時間が経っていたのだろう。教室に掛けられている掛け時計を見て京太郎は慌てたように立ち上がり、俺の腕を引っ張って言う。
「なあ、せっかくだし麻雀部に来いよ。一局打つ位の時間はあるだろ?」
「うーむ……」
京太郎の誘いは素直に嬉しいのだが、どうするべきだろうか。この時期の麻雀部と言うとかなり本気になっている時期の筈だ。そんな所に部外者が入り込み、尚且つ“普通”の麻雀を打たずに掻き乱して消える。考えただけで最悪と言って違いない。
しかし、ここで断るのも京太郎との今後の付き合いに関わる。
「な、どうだ?」
「……分かった」
「おお、じゃあ早速行こうぜ!」
そして俺は『普通に打てば無問題じゃん』と結論を下し、京太郎の誘いに乗る事となった。
これが、俺のこの世界での二度目のミスだったのだろう。
――――――――
「八連荘役満、字一色、四暗刻単騎、大四喜。えっと、6倍役満……で良いかな?」
『……』
沈黙の支配する麻雀部の部室。俺の対面に座るショートカットの女の子は顔を俯け、そのクリクリとした瞳に涙を溜めて震えていた。
左側に座るツインテールの女の子も、あり得ないとばかりに点数結果を見詰めている。
そして右側に座るロリロリしい女の子に限っては、口から魂でも出ているかと思う程燃え尽きている。
ここは、フォローするしかないだろうな。
「い、いやぁ……手に汗握る大接戦だったよ」
『……』
「て、点数制限がなければ誰が勝ってもおかしくはなかった。俺も何度も負けを覚悟したからね……」
『……』
「で、でも、諦めな心が大事なんだよきっと! ネーバーギブアップ!」
『……』
「お、俺もまさか“スキルホルダー”がいるなんて思わなくてさ。負けず嫌いが発動しちゃったのさ」
『……』
ダメだ、誰も反応しない。確かにやり過ぎてはしまったと思っているが、一応自重はしたのだ。これでも全力の100分の1も出してはいない。
だが、女の子を泣かしたら大抵は男が悪くなる。事実助けを求めて京太郎へと視線を向けたのだが、彼はフイと逸らしてしまったのだ。
俺は仕方ないと諦めて、対面に座る女の子へと頭を下げた。
「すいませんやり過ぎました! 失礼します!」
「……あっ」
これ以上この場に止まっているのは不味いと判断し、俺は謝った後すぐに背を向けて麻雀部を後にした。
背後から
俺はそれ以上何も考えず、涙を堪えて帰路へと着いたのだった。
それにしても、自重したとは言え随分と“スキル”を使ってしまった。全部思い浮かべてみるとかなりの量になる。
手牌が天和になるスキル・
手牌が地和になるスキル・
手牌が四暗刻になるスキル・
手牌が緑一色になるスキル・
手牌が大三元になるスキル・
手牌が字一色になるスキル・
手牌が四喜和になるスキル・
手牌が九連宝塔になるスキル・
手牌が清老頭になるスキル・
手牌が国士無双になるスキル・
鳴かせないスキル・
立直で上がらせないスキル・
ドラを取らせないスキル・
聴牌にさせないスキル・
順子にさせないスキル・
刻子にさせないスキル・
槓子にさせないスキル・
ポンをするとロンされるスキル・
チーをするとロンされるスキル・
カンをするとロンされるスキル・
安牌でロンされるスキル・
立直をするとロンされるスキル・
不要牌を捨てるとロンされるスキル・
筒子を集められないスキル・
索子を集められないスキル・
萬子を集められないスキル・
字牌を集められないスキル・
三元版を集められないスキル・
聴牌するとロンされるスキル・
当たり牌を見逃すスキル・
デジタル打ちの相手が失敗するスキル・
この局の間相手の麻雀系スキルを封印するスキル・
不要牌が来なくなるスキル・
麻雀運が異常に良くなるスキル・
相手が和了出来ず自分が和了するスキル・
和了するたび手牌が良くなるスキル・
和了するたびに次の和了点数が高くなるスキル・
鳴くたび手牌が良くなるスキル・
立直するたび手牌が良くなるスキル・
次のツモで和了するスキル・
相手と同じ配牌で先に上がるスキル・
同じ配牌が繰り返されるスキル・
裏ドラが必ず乗るスキル・
相手の得意手で和了するスキル・
相手が強ければ強いだけ麻雀の実力差が開くスキル・
望んだ牌が来るスキル・
手牌を崩して作り直せば前より良くなるスキル・
スキルを同時に使えば使うだけ麻雀が強くなるスキル・
聴牌以下にならないスキル・
麻雀で負けないスキル・
「役満系スキルが10個に、妨害系スキルが22個。補助系スキルの18個で合計50個のスキルか。……あれ? 自重したっけ?」
改めて思い出すと、そんなに自重していない気がして来た。この状況は言わば、ほのぼの系ギャグ漫画の主人公がいつものノリで喧嘩を売ったら、その相手が実はヤクザ漫画の主人公でしたって位に勘違いしていたのではないだろうか。
それに気付いた俺は橋の下にあるベンチに腰掛けると、自己嫌悪に飲まれて頭を抱えてしまったのだった。
「やべぇよ……。京太郎凄い引いてたよ。なんだよ96700オールって……。勘違いなんだよ。普通に打てば素人なんだよ……。オカルト頼みのダメな奴なんだよぉ……」
クラクラする頭の痛みを堪えながら、俺はそうしてベンチで一人懺悔を繰り返す。
そんな時であった。
「えっと、二四君。隣良いかな?」
「……へっ?」
突然聞こえた女の子の声に反応した俺は、顔を上げてそんな言葉を掛けて来た人物へと視線を向ける。
その人物は先程俺が勘違いした自重で泣かせてしまった人物で、麻雀を教えてくれたあの子ににている少女。
「……宮永さん?」
「えへへ、追い掛けて来ちゃった」
その言葉でキュンとしてしまった俺は、悪くないと思うんだ。なんと言うか、端的に言うと。
俺はたったその一言で、宮永咲に惚れてしまったのだった。
息抜きにネタで書いた物の為、続きを書く気はないです。