東方雷人伝   作:ドディドドン

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第六話 綿月姉妹

 剣二が月に来て、何十年と過ぎた。時というのは早いもので、仕事やら永琳の我が儘やらに追われている毎日を過ごしていると普通だったら死んでいてもおかしくない年月が過ぎていた。しかし、剣二は神としての人生……ならぬ神生を歩み始めたために老いることなく、また病にもならず、若い姿のまま過ごしていた。

 そんな毎日を過ごしているとどうしても退屈な日々に感じていく、たまに剣の大会などがあるが、それに出たら優勝は確実なことが解っている。

 仕事は大半が部下が事件を解決するためほとんどすることがない。毎日部屋で書類を整理するか、鞘から出さない刀の手入れをするかだ。今日もだらだらと過ごそうとしていた。

(そろそろ引退しようかな?)うとうと、うとうと

(お金ならあるしなぁ)うとうと、うとうと

(剣術道場を開くのもわるくないなぁ……)うとうと、もそもそ

(それにしても………眠いなぁ)うとうと、うと……うと……

「くーーー…………すー」

 机に突っ伏し朝の9時だというのに昼寝を決め込む剣二。意識が闇に落ちかけたその時、

――パシッ!

 何か板状の物に頭を叩かれて一気に意識を起こされた。頭を上げると、ノートを持った永琳がいた。

「ったく、なんだよ」

「なんだよ、じゃないわよ。何寝てんの、仕事しなさい仕事」

「仕事?何言ってんだ、俺の仕事がないことは平和だってことだ。いいことじゃないか」

「あらそう、じゃあ仕事を持ってk「遠慮します」……おい」

 永琳が何か余計な物を持ち込んできたので、また机に突っ伏し、昼寝を始める剣二。すると、永琳は剣二の首筋をぺろりと舐めた。うひぃ!と奇妙な声を放ち頭をあげる剣二をクスクスと笑う。

「英雄様の弱点は首ね」

「…………チッ……」

「そんな不機嫌な顔しないで、これは月夜見からのお願いでもあるのよ」

「何?そうすると結構大事な話だな」

「ええ、そうね。貴方だから頼める仕事なの」

 剣二だからこそ、と前置きして言った。

「私の生徒と戦ってほしいの」

 

綿月家―――

「依姫~!依姫~!そろそろおやつの時間よ~~!!……どうしたのかしら?」

 腰ほどもある長さの金髪を持ち、瞳の色は金色の美少女が屋敷の中で人の名前を呼びながら廊下を歩いていた。少女の名前は綿月豊姫。永琳の生徒のひとりである。

 すると、不意に部屋を仕切る障子が開いて薄紫色の髪を黄色いリボンを用いてポニーテールに纏めた少女が出てきた。名前は綿月依姫。豊姫の妹で、神降ろしを得意とする。

 姉妹揃って美しく天才で、永琳から教わることはすべて吸収してしまう。月の男の憧れの的だ。

「もう、お姉さまはお菓子お菓子。たまには運動したらどうですか?」

「あら、こんな所にいたの。それと、依姫、お菓子は私が運動して採った桃よ」

「運動したって、もう少ししたら宴会に出そうとしていたのにお姉さまは採ったのですか?」

「あらそう?それは楽しみね、いいじゃない、今日食べてまた食べる。ああ、私の至福の時間が増えるわね」

「そうですね、そして体重も「依姫……何か言った?」……なんでもないです」

 豊姫の威圧のある笑顔に負けて目をそらす依姫。すると、ペットの玉兎が声をかけた。

「依姫様~、豊姫様~、八意様がお見えになりました」

「あら、レイセン、これはちょうどいいわね。八意様と一緒に桃を食べましょう。ね、依姫」

「そ、そうですね。お姉さまだけ八意様とはずるいです。私も食べます」

 バタバタと急ぎ足へで玄関まで向かう2人と1匹。玄関には師と仰ぐ八意永琳がいた。

「あら、これはお出迎えありがとう。急だけど依姫、合わせたい人がいるの、刀を持って外に出る準備をしなさい。豊姫も来なさいな。」

 そう言い残すと永琳は玄関から出た。豊姫と依姫はお互いに顔を見合わせ、2人は部屋に戻って、豊姫は帽子を、依姫は刀身が長い刀を持ち外へ出た。

「八意様、合わせたい人とは誰ですか?」

 屋敷の門の前で待つ永琳に依姫は質問した。

「それはねぇ、剣術が上手い人よ。その人と依姫は戦ってもらうわ。」

「その方は男性ですか?」

 今度は豊姫が質問をした。

「さぁ?どうかしら?会ってみれば解るわよ。さあ、行きましょう」

 そう惚けながら懐から1枚の札を取り出し、地面に叩き付けると三人の姿は一瞬で消えた。

 

 

 

 

 剣二は広い運動場に1人で立っていた。それは、今から来るであろう永琳の生徒の綿月依姫と手合わせするためである。

 依姫は神降ろしが使えて神々の力を使役できる。それは剣二の力を使役できることでもある。だが、力の扱いを間違えば自分自身を傷つけることにもなる。それを危惧した永琳は剣二と戦わせて能力を制御できるようにするために剣二と戦わせることにしたのだ。

(今度は月綿の面倒を見るのか。俺ってガキの面倒見るの多くないか?気のせいか?)

 そんなことを考えていると目の前に突然人が現れた。

「よお、うまく瞬間移動できたみたいだな。始めまして、お2人さん。俺は鍔基剣二、知っているかな?」

「鍔基?あの、雷神様の剣二様ですか?」

「そうだな、別名、建御雷神とも呼ばれているよ。まあ、この名前で呼ばれるのはあまり嬉しくないんでね。剣二の名で呼んで欲しい」

「あ、はい、解りました。私の名前は綿月依姫と申します、宜しくお願いします」

「ああ、よろしく。そして君は?」

剣二はまだ名前を知らない少女豊姫を見る。豊姫はハッとしてた表情をして自己紹介をし始めた。

「私は依姫の姉の豊姫です。ええと、今日は妹がお世話になります」

「ああ、宜しく。なるほど、豊姫は依姫の姉さんなんだ。君達の噂は部下から聞いているよ。曰く、美しい、とか、強かな女性だとかね」

「そうですか、こちらも剣二様の噂や強さは八意様から聞いています。強くて優しくまた、頼れる人だと。なので、一度会って見たいと思ってました。」

永琳ね、とんでもないやつから教わったもんだ。そう思いつつ

「そうか、英雄だの雷神だのって言われているけど、本当はただの男だから。さて、挨拶はここまでにして、早速手合わせ願えるかな」

そう言うと後ろに距離を大きく取り抜刀、目の前に刀を突き刺し依姫の準備を待つ。永琳は豊姫を連れて2人から離れる。十分距離を取ったところで

「先手はくれてやる。来いよ」

「ならば参ります!!」

依姫はそう言い放つと同時に踏み込み間合いを詰める。剣二は刀を地面から抜き、だらりと右側に垂らす。

「ぜいやあぁああ!!」

裂帛の気合と共に鞘の中で剣を加速させ居合斬りを放つ。

キィンーーと金属と金属がぶつかる音が響く。

「まだまだぁ!!」

依姫は勢いのある斬撃で剣二を攻め立てる。剣二はジリジリと後ろに下がっていく。

「八意様、一見依姫が攻めているようですが、剣二様は様子を伺っているのでしょうか?」

「それもあるけど、1番は依姫の神降ろしを見てみたいのでしょう。依姫としては剣二の力を見てみたい。まだ試合は始まったばかりよ」

剣戟を見ながら永琳は考えていた。

(神降ろしを全力で使えるチャンスよ、頑張りなさい依姫)

ガキン!!

鍔迫り合いから一旦距離をとり依姫は刀を地面に突き刺す。すると剣二の周りを地面から生えた刃が囲む。

「ほう、これが神降ろしか。この感じ、須佐之男命のだな」

「女神を閉じ込める祇園様の力。ここから抜け出すと祇園様の怒りに触れますよ」

「ククク、だからなんだ。悪いが抜けさせて貰うよ。いや、この檻を破壊しよう」

剣二は目を閉じ集中する。奥歯を噛み締め丹田から力を爆発させる。

「だぁありゃあああああ!!!!」

身体中から神力が迸り周りに生えていた刃は消し飛んでいた。

炎の様に蒼い闘気が身を包み、稲妻が絶え間無く周りを駆け巡っている。両目から殺気が走り依姫は喉仏に剣先を突きつけられた感覚に陥る。

「ーーーーーっーーーーっ」

依姫は左手を天高く掲げ言葉を言うが、剣二の耳には聞こえない。しかし、何かしらの神を呼んだのは理解した。

すると、空は雷雲が展開し豪雨と雷が降り注ぎ7匹の炎の龍を召喚する。

炎の龍は剣二を焼きつくそうとするが、突然ボジュウと音を立てて消え去った。炎が消えた場所には剣を振り上げている剣二がいる。

「…………何だ今のは、見世物か?」

(やはり、このような攻撃では通用しない!仕方が無いアレを使わせてもらいます)

依姫は刀を鞘の中へと納めて両手を天高く掲げて大きく宣言した。

「建御雷神よ、身に纏いし雷の力!!私にかの者を打ち砕く力を!!」

すると、依姫に巨大な雷が落ちた。バチバチと身体から放電する姿は、まさしく建御雷神けんじそのまんまだった。

(す、すげぇ、俺が女になったみたいだ)

 剣二は表情には出さないが内心驚いていた。一方依姫は冷や汗を掻いていた。

(こ、これがあの方の力、力を制御するだけなのに……いっぱいいっぱいだわ)

 お互いに内心驚いている中、先に動いたのは剣二の方だ。

(あれが俺の力だろうと、そうでなかろうと本気で行く!)

(剣二様の醸す空気が変わった!)

 走って距離を詰める剣二に対して依姫は術を宣言する。

「雷具:雷神の髪留め」

 左手の中に電気を帯びた数珠が溢れる。それを剣二に向かって投げつける。それを剣二は同じ技で相殺する。

 2人の間には雷が鳴らす轟音と閃光が駆け巡る。

「いやぁああああああああああ!!」

「だぁあああああああああああ!!」

 2人の刀をぶつけるたびに轟音が轟く。ガアン、ゴオン、ドオン。地が震え、空は曇り、大雨を降らし、天変地異でも起こっているかのような状態だ。

 何合打ち合っただろうか、2人は鍔迫り合いの状態から大きく距離を取る。

「はぁはぁ……」

「…………ふぅ…………どうした、もう終わりか?」

(あれほど剣を交えたのに汗すら掻かないなんて……このままじゃあ何やっても無駄ね、正直剣二様の技で勝てるとは思えないけど物は試しでやってみましょう)

 依姫は手の甲で額の汗を拭うと腰だめに刀を構えた。その構えを見て剣二は目を見開いた。

(あの構えは……!!)

「剣砲:鳴神」けんほう:なるかみ

(『剣砲:鳴神』は俺が扱う技で一番の破壊力の技だ。あれを扱うことができるなんて、神降ろしはすごいな。だけどその技をやるなら俺だって!)

「剣砲:鳴神」

 2人の刀身からは眩いほどの青い光が輝く。それを見た永琳は、豊姫を連れて空へと飛んだ。

「八意様!?」

「剣二があの技を使うならできるだけ距離をとったほうがいいわ。しっかり捕まっていなさい」

 物凄いスピードで地上から離れていく永琳。振り返った時には、2人とも技を発射する寸前だった。

「「剣砲:なるかみぃぃぃぃいい!!」」

 カッ、と地上が光輝いたと思ったら、とてつもない轟音と、技どうしがぶつかった衝撃で起きた波動が空中で静止する永琳と豊姫を襲う。それを永琳は1つの護符を取り出し即席の結界を張り身を守った。

 巨大な力と力の奔流がぶつかり巨大な爆発を起こす。

 土煙が2人を包み、上空にいる永琳にも二人の姿は確認できなくなった。

「八意様、依姫は……」

「わからないわ、取り敢えず行ってみましょう」

 2人は地上に着陸、すると依姫を抱きかかた剣二の姿があった。

「依姫!!」

「剣二!!」

 2人は剣二の元へと駆け寄る。

「依姫!!しっかりして!」

「豊姫、どきなさい私が診るわ…………大丈夫、体に外傷は無いわね、気を失っているみたい」

「まぁ、俺の力を使っている時から結構無茶してたみたいだし、休ませよう。どれ、瞬間移動するぞ」

 こうして依姫と剣二の戦いは剣二の勝利で終わった。

 

 

 

 

 

――――数日後

 

「俺を剣術指南役に?」

「ええ、そうです」

 月夜見に呼ばれて来てみると開口一番に言われたのが依姫の剣術指南になれとのこと。

「別に構いはしねぇが、理由は?」

「本人の希望です」

 ひうっ、と熱いお茶を飲んで小さな悲鳴を挙げて顔を少し赤くしながら言った。

「本人の希望?」

「ええ、悔しかったみたいですよ神降ろしを使っても勝てなかったって」

「ふーん」

 出されたお茶を飲みながら答える剣二、その様子を見て月夜見は言った。

「お茶熱くないんですか?」

「ん?ちょうどいいよ。猫舌の君には少し厳しかったかな」

「こ、こんなのフーフーすれば飲めるんです」

「無理に格好つけて舌火傷すんなよ。じゃあ、俺は行くよ」

「もう行くのですか?」

「一応、仕事がありますから」

「ふふ、そうですか。お眠りはいけませんよ」

 それには答えず、剣二は部屋を出た。

 

 

 

 

 

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