俺はこんなの望んでない。《加筆中》   作:赤 有馬

8 / 13
前話を読み返してみたところ、矛盾点が見つかったため修正していて遅くなりました。

作者の最近
・自動車学校が忙しい
・昼夜逆転が辛い
・資料漁り

・水分摂取による体液濃度の低下。


fire4・娯楽

side遠山

 

私は負けた。

 

―――――全力で征く

 

彼女の口がそう動いた瞬間

 

 

彼女がいきなり視界からフツと消えた。

最高潮のHSSですら捉えることは出来なかった。

 

「ぐッ!!」

 

気づけば鳩尾に叩き込まれた拳。

HSSで知覚出来ない程の速度だったということだけは霞んでいく頭のなかでぼんやりとわかった。

それでも、意地で本来の目的を達成しようとしたものの、ただ前のめりに倒れるだけだった。

鳩尾に叩きこまれた痛みに、私の意識は遠くなっていく……。

 

消え行く意識、その中で倒れる私を抱きとめた彼女の口が

 

”お前が好きだ”

 

と動いたのが視えた。

 

じんわりとした温かいものが胸に満ちていくのを感じた。

 

(これが”恋”か、私の完敗だ……)

 

私はきっと笑えていただろう。

 

 

 

side神無月

 

―――全力で征く

 

そう、敵である彼女に告げる。

相手が相当な実力者であるだろう故に。

遠山キンジという規格外を破った彼女を真正面から倒したかった。

倒さなければならない、そう自分の中のナニカがそういっていた。

 

今できる技術で気配を消し、今出せる最高速度を自分から捻り出した。

 

律儀にも構えてこちらの攻撃を待ってくれている彼女に、向かって。

身体の内から骨が軋む音がし、筋が無理な動きに悲鳴を上げ、血管がいくらか切れブチブチという音と共に内出血をおこしていく。

口は体内の痛みに耐えるため、固く引き結ばれ、気合の烈帛の声も出なかった。

 

―――重い手応え。

 

強く握った拳によっていくらか感覚が麻痺した手でもわかるほどの。

 

それでも、彼女はこちらに進もうとしていた。

意識が飛んで、もう気絶してもおかしくなかった手応えだったというのに。

俺は全力の拳を当てきって動けなかった。

迫る、こちらを掴もうとしていた彼女の腕が空を切る。

彼女はゆっくりと俺に倒れてくるところだった。

だというのに、彼女はまだ目に意志があった。

倒れてきた彼女を抱きとめる。

 

”あの”遠山を下したであろうこの少女へと自らの勝利を確信するように呟く。

 

「お前の負けだ」

 

最後の最後まで足掻いた彼女は、その時、一瞬瞳に光を戻し、凄絶な笑みを浮かべた。

それはまるで、

 

『次は殺る……』

 

と言っているように感じさせるほどのものだった。

 

 

 

―×―×―

 

 

ソレが何故―――

 

 

―×―×―×―

 

 

 

「真、ちょっとベットでいいことしよう!!」

 

どうしてこうなったーーーーーーッ!!

 

 

 

 

 

― × ― × ― × ― × ― × ―

 

彼女を倒した、その時にビーーッというブザー音が鳴り、放送で教員が

『試験は終了だ、各自解散、気絶した者は協力して棟外まで運ぶように』

とアナウンスした。

……運んでおく?

自分が先ほど倒した少女を見る。

その時、きっと彼女の方を向く際に動かした首からはギギギと音がしたに違いない。

ここは屋上、ここに至るまでの階段はX段……。

別にサーヴァントのステータスからしたら余裕だが……。

……その、彼女は出るとこ出ている。というか、かなりグラマーである。

なんというか、恥ずかしい。女子だから、というのもあるが、なにより運んだら触れてしまう身体の、いい意味での豊かさが。

それでも、仕方がない。放置してくわけにもいかないし。

ここはおんぶして連れて行く『なお、気絶者はお姫様だっこで連れてくること』なんでや!!

 

― × ― × ― × ― × ― × ―

 

side某教師ども

 

「やっぱこうなったか。ハハハハハ」

 

受験生を監視するモニタールムでのこと。

そこでは幾人かの教師が集まっていた。それも、一つの画面の前に。

その正面、真ん前では蘭豹が機嫌よく酒をラッパ飲みしていた。

その画面、もちろん映っていたのは件の受験生、神無月真だ。

 

最後の戦闘、ソレを酒のツマミにしながら、蘭豹は上機嫌だった。

しかし、その周りの連中は通夜のような空気だった。

結論から言うと()の試験結果も理由の一つだが、一番の理由は

 

「いや、スマンなァ一人勝ちで。ハハハハ」

 

最後の試験を使った即席賭博の儲けだろう。

この賭けで手に入った金は百万近い。

今ラッパしてる酒がどれだけ買えるだろうか。

 

この賭けの発端は蘭豹がした発言による。

 

 

 ♢

 

 

「神無月真、ヤツを武偵Sランクとして登録しろ」

 

屋上で謎とされていた受験生・神無月真と接触し、このモニタールームに帰ってから彼女は口を開くなりこういった。有無をいわせぬ態度で。

 

当たり前だが、一教師の発言でそんなにあっさりランクを決められるはずがない。

それがたとえマフィアの愛娘の発言だとしても。

ソレを許したら独断でランクを決められる教師が武偵校には多すぎる。

 

当然だが、他の教師に却下される。

 

若輩者がモニターを見ても、蘭豹のように真の異常性は感じ取れない。

どう見ても一般出身が恐怖に動けずにいて、返した言葉は粋がってるようにしか視えないからだ。

あと当然だが、蘭豹を嫌うものは賛成するはずもない。

蘭豹の実家のことや、歳の割にこの学校内で幅を効かせている事に不満を持っているものも多い。

更に、この場には蘭豹の発言を補助してくれるような教師、綴やチャンは現在は依頼でいない。

現在このモニタールームには蘭豹を含め、六人の教師が居たが、五人が反対派だった。

当たり前だが、要求は通るハズがない。

 

しかし、それでも蘭豹は無理に押し通して『神無月真、Sランク』という書類を書いた。

 

その時のモニタールームの空気は最悪だっただろう。

お互い銃をチラつかせ、殺気を飛ばし合う。

まさに一触即発。

 

そんな折だ。

モニターには屋上へと続く階段を登っていく遠山の姿が映されていた。

ここで蘭豹は賭けをもちかけたのだ。

 

「ウチは神無月が勝つのに10万賭けるが、どや?」と。

 

もちろん蘭豹を嫌っている連中は対抗するように遠山に金を賭ける。

そして、血気盛んなこの学校の教師もまた血気盛ん。他の連中も賭ける。

ただ、どう考えても安全牌な遠山に。

周りからしたらこの賭けは、蘭豹が自分が見つけたお気に入りを周りに認められなかった事による癇癪で起こしたようにしか視えないだろう。

本人の考えは全く違う。

 

(コイツらカモやなァ。神無月は強えぇ、ウチに勝てん遠山じゃあ負けるだろ。コイツが遠山倒しゃァ必然的にアイツはSランクになる。そして結果の分かりきった賭けでウチは酒代が浮く。ええ話や。)

 

結果として予想通りに蘭豹の一人勝ち。

Sランクを撃破した謎の受験生に周りは沈黙し、愕然とした。

ついでに、本人は気づいていないが、『賭けで金を巻き上げられた』という屈辱を相手側に与えたが、他に『俺の目が蘭豹(コイツ)に劣っていただと?』という劣等感と敗北感も与えていた。

 

ほんとうの意味で蘭豹の完全勝利だったわけだ。

 

 ♢

 

さて、そんな蘭豹は酔っていた。

だからこそこんなことが起こった。

 

「オイ、そこの放送で試験終了入れろや。面倒いから気絶者は自分で運ばせろ。」

 

ここまでは良かった。

だが気分よく悪酔いした彼女は面白そうなことを思いついてしまった。

 

「オイ、放送の。気絶者はお姫様抱っこで連れてくるように言えや。ああ? いいんだよ、アイツらが狼狽したのを見るほうがよっぽどオモロイわ。なんで真面目に運ばせなきゃアカンねん。そんなん見ててもオモロないわ」

 

強襲科(ここ)の受験生の大体が男だ。更に残念な事に、女は真っ先にキンジが倒していったため、自力で棟外に出ている。

神無月の前に倒された峰理子もすでに自力で出ていた。

正直、残ってる女は神無月が倒した遠山だけだった。

つまり、男としてはそれなりに悲惨なことになっていた。

そして、唯一運ぶ相手が女の神無月は画面の向こうでためらっていた。

ソレを見た蘭豹はもちろん

 

「放送ォッ、やらんと撃つ言えや」

 

勝負に勝って上機嫌な彼女はいつもより理不尽50%upだった。

 

結局、画面の向こうで恥ずかしながらもシッカリと遠山をお姫様抱っこしている神無月を見て、彼女は指差してゲラゲラと大笑いした……。

 

― × ― × ― × ― × ― × ―

 

結局、やるしかないと覚悟を決めて彼女を運ぶ事になった。

 

放送で『早く行動してください。スナイパーは待機済みです』というアナウンスがはいり、『嘘だろ?』 と思って近くの建物に気を巡らせてみたところ、ほんとに居た。

苦虫を噛み潰したような面したオッサンがレミントンM700をコッチに向けていた。

 

スナイパーの方にやらない、やらないと手を振って拒否を示したところ、発砲された。

 

何故かは知らないが、更に苦い顔になっていた。大人の事情というやつだろうか。

遠目に狙撃銃をカチャカチャさせて急かしているのがわかる。

 

……………。

 

 

~十分後~

 

「……やっと着いた」

 

なぜ建物を下って行くだけなのにこんなに疲れなければいけないのか。

肉体的疲労よりも精神的な疲労が激しい。

 

道中にカメラでお姫様抱っこ(この格好)を撮られたり、下ネタをふられたり、冷やかしを受けたり、BGMで結婚式のテーマソングが流れたり……。

教師であろう彼らがそんなことをやってきた。

その共通項として何故か全員苦い顔だが。

 

それを屋上からここに来るまでにずっと受け続けていた。

 

 

「ああ、遅かったやない…ククク、やっぱ無理や…ハハハハハハッ」

 

蘭豹先生が蹲ってコッチを指さして笑っていた。

 

 

 

「ククッフフフ、あ、お前合格やから。ククク、ハハハハ」

 

 

 

え、この流れでソレを言う?

 

 

 

 

 

 




前話のキンジさんはマジ恋の百代さんを変態極振りして乙女を投げ捨てた感じで書きました。

今話は……アレ? 蘭豹主人公?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。