織斑千冬は一人、一夏が戻ってくる生徒控え室で待っていた。
初の男性操縦者はなるべく秘匿にするため、模擬戦闘の日程も一人だけずらしている。
そのため……2人の再会を邪魔する者は誰もいない。
さて、第一声に何を言おうか。
いっそのこと無言で抱きしめてもいいかもしれない。
先ほどの一夏を見ているときの不安よりもやはりどこまでも喜びと期待が続く。
千冬以外誰もいない静かな部屋で表情をころころ変える千冬はまるで恋人とのデートを待ちわびる少女の顔だった。
そうして妄想にふけるうちに、扉のノブが回る。
ギィ、と扉が軋む音で途端に背筋を伸ばす千冬。
ゆっくりと扉が開く中で千冬の胸の高鳴りは最高潮まで上り詰めていた。
扉が開ききり姿を見せる一夏。
映像やモニター越しでしか最近の一夏を見ていなかった。
前に見たときよりも子どもっぽさが抜け、顔が凛々しい。
身長もずいぶんと伸びている……鍛え抜かれた体は無駄な鍛え方をしていないためか、見事な体系を維持している。
先ほどまであれほど再会場面を考えていたと言うのに中々言葉が出てこない。
振り絞るように一言。
「い…いちか……」
かすれたような声。
その声に一夏は笑顔で返事をした。
「久しぶり、千冬姉。会いたかったよ」
待望の一夏からの言葉……それが全てを壊した。
突然だが一夏は女性にもてる。幼さの抜けた今の一夏にこんな顔で返事をされたら大抵の女性は落ちるだろう。
しかし
「あ……あ……」
ポツリと始めは控えめに一滴。
そうして現状を理解しきると、千冬は涙が止まらなくなった。
何なんだこれは……確かに誰もが見ほれるほどの笑顔なのかもしれない。
それでも
(久しぶり、千冬姉。会いたかったよ)
この言葉を聞いたとき、背筋が凍った。
誰よりも一番一夏のことを考えていた千冬だからこそ分かる。
まったく……言葉に心が乗っていない。
単なる社交辞令。
とりあえず言っておこう。
その程度のレベルで紡がれた言葉。
昔の2人は思いあっていた。
しかし今は千冬の一方通行になっていた事実。
そして、一夏をここまで変えてしまった原因となるだろう、あの時助けに行くことが出来なかった過ちと後悔。
様々な思いがぐちゃぐちゃに千冬を襲った。
「どうしたの、千冬姉。大丈夫?」
涙の止まらない千冬にとても心配そうな声で駆け寄る一夏。
それでも千冬には分かる。
赤の他人を心配するレベルどころか……心配すらしていない。
無関心……それが辛かった。
いっそ、千冬が助けに来なかったためひどいめにあった……そうやって罵ってもらったほうが全然マシだっただろう。
「あぁぁぁぁ」
もう我慢は出来なかった。
ここにはとてもじゃないけど居られない。
そうして泣きながら千冬は逃げるように部屋を出て行った。
その後しばらくして洗面所で胃の中身を吐き続け、死んだような顔をした千冬を山田麻耶が見つけるのであった。
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千冬が部屋を出て行った後、一人部屋に残される一夏。
「兄弟の感動的な再会を再現しようとしたんだけどな……」
無表情で無機質な声。
「まあ、いいか。帰ろう」
何事も無かったように荷物を持ち出口へと歩いていく。
人前で社交的な態度をとれるようになった一夏。
それでも彼はどこまでも壊れていた。
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