私……クロエ・クロニクルの今までの人生を簡単にまとめると報われない人生……その一言に尽きる。
人工的に作られた生物兵器、それが私だ。
しかし遺伝子強化体として特別な方法で生み出されても必ずしも兵器として成功するとは限らない。
私より近接戦闘を得意とする者。
私より銃撃戦の得意とする者。
私より……ISの操縦を得意とする者。
多くの実験体の中でもやはり何かに秀でた者は出てくるのだ。
はっきりと得意分野が無く、まあまあいろいろな事ができる私はお金をかけてきた生物兵器としてははっきりいって落第点だ。
不要な者……失敗作は無茶な任務に駆り出せれいつ死んでもいいように扱われた。
少しずつ……少しずつ減っていく。
研究員は消えていった者を任務で大怪我を追ってとても任務の出来る状態じゃあ無くなった……そんなふうにオブラートに包んで話すが誰でもそれが上辺だけのものだとわかっていた。
確かに怪我を負っただけの者もいるかもしれない。
しかし、怪我で使えない兵隊をお金を賭けてまで研究所が養ってやる理由は無い。
処分、運が良くてどこぞに売られていくか……とにかくまともなことは望めないだろう。
そして当然ながら任務で死んでいった者もいたはずだ。
いつ自分にその役目が渡ってきてしまうのか。
私はいつも恐怖していた。
死にたくない、ただその一身で己を鍛えた。
何か無いか……何かに秀で、必要とされなければ私に生き残る道は無い。
毎日悩み、毎日鍛え、毎日苦しんだ。
それでも……
「お前にはある任務についてもらう」
どうにもならなかった。
私は、特別にはなれない、誰からも必要とされない……失敗作だった。
死地に赴くとき、もう何もかもがどうでも良かった。
あれだけ毎日のように苦しんだ努力は実ることがなく、たとえ運良く生き延びても碌な人生は送れない。
もうこの時点で私の人生は終わっているんだ。
人生を振りかえると思い返されるのはほとんど訓練のことだけだった。
苦しみ、結局実ることの無かった過去。
しかしそんな中でもほんの少し、日常的なことも思い出される。
いくら身体能力が高くても馬鹿では意味が無い。
まだ幼いころ、一般的常識を学ぶためドイツ国民の私生活を写したビデオを見せられることがあった。
そこには微笑ましい家族の団欒、恋人との生活……笑顔に満ちた幸せな世界があった。
もし私が正式に軍人として……いや、人として認められ表の舞台に立てていたら……いつかこんな生活も出来たのかもしれない。
いつ自分の身に何が起こるかわからないながらも、恋人を作り、家族となり、家庭を作っていく……そんな生活が。
「あぁ、いいな……」
絶望の中、思わず口から一言漏れていた。
ありえない未来。
しかしそれは……ありえなかったはずの未来に変わる。
「ねーねー、一緒にこない?私には君が必要なんだ」
突然聞こえた兎耳の声。
こうして絶望の未来は、幸せの未来へと変わっていくのだった。
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束様の研究室の着くまでにいろいろな話を聞いた。
様々な国の目から逃れるため隠れて生活していることやISについての細かな知識、そして妹のことなど。
しかしその中でも特に気になったのは今、束と共に暮らす織斑一夏という少年のことだった。
彼のことを話すとき、束様は一番いい笑顔をする。
心から彼のことが好きなのだとわかった。
しかし何故だろうか……見た目の笑顔とは裏腹、たまに悲しそうな見えるのは。
そんな疑問を抱いたまま、ついに織斑一夏を出迎えることとなった。
「おかえりなさいませ、一夏様」
束様の最愛に出会うのはいささか緊張したが、悟られず話せた。
「君は誰だい?」
ゾッ
一夏様の返事を聞いたとき、私は寒気と恐怖を感じた。
普通の人が見れば学校でもいかにももてるであろう好青年だ。
しかし死の恐怖に追われ続け、一度絶望を味わった私にはわかる。
これは……ひどい……。
外見からは全く想像できないほど中身が空っぽだ。
人として壊れきっている。
「私はクロエ・クロニクルといいます。束様に拾われてここにやってきました」
このとき感情を殺すことに必死だった。
しかし今に思えば関係ないのだ。
なぜなら、織斑一夏という存在は私に対して感情を揺さぶられることが無いのだから。
「そうか……まあ細かい話しは当事者に聞こうかな……ねっ、束さん」
束様の名を呼んだとき、私の中で一夏様の見え方変わった。
とてもうれしそうに
とても楽しそうに
とても幸せそうに
心が満ちていた。
そうか……
束様はだからあのとき……あんな顔をしたのですね。
こうしてクロエ・クロニクルは決意する。
この現状を少しでもいい方向へ変えていこうと。
一夏の歪さは普通の人には分かりません。
しかし一夏に近しい人、またわ一夏に近い絶望、苦しみを味わった者には分かってしまいます。
特にクロエのように人に評価されよう、必要とされなければならない……このような苦しみが一夏と類似しているからでしょう。