俺はどうやら誘拐されたらしい。
千冬姉のモンド・グロッソ2連覇を阻止しようとする団体が出場辞退を目的に強攻策に出たのだ。
誘拐されているこの場面でこんなことを思うのは最低かもしれない…、でも千冬姉に助けに来なくていい、大会に出場してくれと思うと同時に必ず助けに来ると思っていた。
両親に捨てられ、唯一無二の家族だった千冬姉。両親に捨てられた経緯は詳しく知らない。それでもあの時自分はいらない子なのだ、必要とされることなんて無いんだ、そう絶望していた。それを救ってくれたのが千冬姉。役に立つとか、立たないとか……そんなのじゃなくて、ただただ俺の存在を必要としてくれる。厳しくはあってもずっと愛情を注ぎ続けてくれる。
だから今回も来てしまうのだと……そう信じて疑わない。
でも
「おい、織斑千冬が大会に出場しているぞ」
……え
「弟の命、惜しくないのか」
え……
千冬姉が…大会に出てる……。俺のことは……
「くそっ、計画変更だ。このガキ殺してずらかるぞ」
誘拐犯の一人がナイフを突きつける。
「運が無かったな…姉に見捨てられ、こうしてあっけなく殺されるなんてよう」
頭の中で思考がまとまらない。
俺は千冬姉にとって大切な家族じゃ無かったの……
よく怒られていたけど……
それでも頭撫でてくれたり……
笑顔を向けてくれたり……
千冬姉はすごいけど、弟の俺は何にも特別じゃ無くて……
すこしでも追いつこう、千冬姉の力にいつかなろうって……
がんばってたんだ……
でも……そうか……
俺は……
いらない子だったんだね……
「はは………はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
そこから先は詳しく語らない。
終わったころには周りに真っ赤な生ゴミが転がっているだけだった。
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織斑千冬は焦りを隠せない。
弟の一夏が誘拐されたと知ったのは大会が終わった後。
政府が千冬の優勝を優先し、伝えずにいた結果であった。
「一夏、一夏、一夏」
祈り続ける千冬。
束が大会中、政府の隠した一夏誘拐に気づき、単身で救出に向かっている。
完全に束頼り、携帯を見つめながらずっと連絡を待っていた。
そんな中、ついに着信が入る。
「一夏は!!!!」
電話にすぐさま出た千冬。
「ちーちゃん……いっくんは無事だよ」
束の言葉を聞き安堵でからか、体が崩れ落ちる。
「でもね……」
「なんだ」
話しがただでは終わらないことに気づき表情が引き締まる。
「今のいっくんをちーちゃんには会わせられない」
「なん…だと」
今にも携帯を握りつぶしそうになるほど怒りがあふれる。
「これも2人の為なの。今会ったら……何もかも壊れちゃう」
「どういうことだ!!説明しろ!!」
「ごめんね」
プープー
すでに電話はつながっていない。
「なんなんだ……」
しばらく何も考えることはできなかった。