ウイニングショット   作:スカイ・ブルー

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3・・練習初日

 

 

 

 

ジリリリリリ♪ジリリリリリ♪

 

「…あぁねみぃ……もう6時かよ」

 

今日から青道高校の練習が始まる。最初の練習は6時半から。気合いれて頑張っていかなければ!そう思って二段ベッドの下から出ると、既に先輩たちはいなかった。早くも練習へ行ったのだろう。そういう姿勢を学ばなくては、俺も試合はおろかレギュラーにもなれない。明日からは先輩たちについていこうと思いつつ、練習着に着替え外へ出た。まだ春先だからか少し寒い。グラウンドまでジョギングで身体を温めよう。

 

「よし!気合いれて行くぞ!」

 

そう自分に掛け声をかけ、グラウンドへ走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……沢村はもう起きてるよな…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、1年は全員か?」

 

そう言ったのはグラサンをかけた厳つい顔のおっさん、もとい片岡鉄心監督である。ともかく威圧感が凄い。恐らく1年全員が監督の威圧に縮こまったであろう。

 

「よし、1年!左前から順に自己紹介しろ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

 

 

 

 

「南中出身、竹本篤です!どうぞ宜しくお願いします!」

 

「宮川シニア出身、大島広です!希望ポジションはショートですが、守備ならどこでも守れます!宜しくお願いします!」

 

流石は名門青道高校。同じ1年で、中学の時に活躍してる奴がたくさん入ってきている。自分と同じ投手希望も何人かいる。

 

「立川中学出身、林山沫流です!希望ポジションはピッチャーですが、他のポジションも一通りやったことはあります!」

 

先程から1年が自己紹介する度に、2、3年生の野球部の皆様に睨まれている。恐らくどんな奴なのか見極めているのだろう。

 

「あー!誰か遅れてきたのに割り込もうとしてるぞー!」

 

新入生の自己紹介が半ば終わった頃、そんな声が聞こえた。

 

練習開始初日から遅れるのは絶対不味いだろう。そんな不届き者は誰だと見たら…………うん、知らない人だ。知らない人にしておくのが一番であろう……。

 

「しまった(あの野郎!裏切りやがったな!)」

 

「…初日から遅刻とはいい度胸だな?おい小僧、練習が終わるまで走ってろ!後、もう一人紛れていた奴と同室の者も同罪だ!」

 

「「「はい!」」」

 

取り合えず沢村蹴っ飛ばそう。あ、既にもっちー先輩が蹴ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぬぬぬぬ…ご飯の量が多すぎる……」

 

「確かに……これは無理だ…」

 

罰走から戻ったら朝飯の時間である。俺と沢村は目の前にある大盛りに盛ったご飯の量に白旗を上げたい。練習等で死にかけるだろうなと思っていたが、まさかご飯で殺しにくるとは思わなかった。この林山沫流、不覚であった…………遊んでないで早く食べよう。

 

「よう、お二人さん。朝はよくも連帯責任を負わせてくれたなぁ?」

 

黙々と目の前の朝食を食べていると倉持さんが話しかけてきた。

 

「もっちー先輩、残念にも俺も巻き込まれた方です。全ては沢村にあります。吊し上げならば、沢村をどうぞ」

 

「ちょ、沫流!」

 

「ヒャハハハ。お前のせいじゃねぇのは分かってらぁ」

 

「さすがもっちー先輩!」

 

「だから、もっちー呼ぶな!そして、そんな沢村君に朗報だ!ご飯ドンブリに5杯以上がノルマだ!どうだ、嬉しいだろう?ヒャハハハ」

 

……鬼だろ!3杯でもキツイって言うのに…まぁ、俺は関係ないからな。沢村、頑張れ!

 

「そ、それはキツイっすよ、もっちー先輩!」

 

「じゃかましい!さっさと食えやオラァ!」

 

…沢村の心配よりも自分の心配を先にせねば…。頑張ってノルマをこなそう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ…もう無理、死ぬぅ……」

 

沢村はノルマの5杯を食いきったらしい。意外と根性があるみたいだ。ただ、その代償として死にかけているが…。

 

朝飯を食べた後は、軽いアップをした後に1年のテストが始まる。ここで結果を残さなければ、監督の目にも止まらないだろう…。

 

「1年は今からテストを始める!2、3年はAグラウンドへ行って練習を始めろ!」

 

「「「はい!」」」

 

ピッチャーとしてのテストは、制球力、投げれる球種等。後は1年全員で身体測定やバッティングなどを見るそうだ。

 

「沫流!お互い頑張ろうぜ!」

 

「おう!がん…「おい、小僧!そこで何をしている?」」

 

「何をって…テスト受け「何を言っている?貴様は練習に遅れる、遅れてきたのに対し謝罪もない。何故、そんな奴がテストを受けれるんだ?貴様はこれから1年間、グラウンドを走っていろ!」」

 

………どうやら沢村は遅れた事を謝りに行かなかったようだ。

 

「でも…「でももしかしもない!気に入らんのだったらすぐにこの青道高校野球部から出ていけ!」」

 

「ね、寝坊したのは自分の気持ちが甘かったからだ!謝罪しに行かなかったのも俺が悪い!けど…………エースになるためにここに来たんだ!俺はその気持ちだけは誰にも負けるつもりはねぇ!」

 

「ふん、くだらん。言いたい事はそれだけか?」

 

「く、くだらないって…俺は真剣にぃ!?」

 

沢村が言い切る前に片岡監督は腕を振り切った。遠くでボールがフェンスに当たったのが見えた。監督が立っている位置からフェンスまで100メートルちょっと。監督は助走も無しにその距離まで投げたのだ。

 

「おい、今の見たかよ!」

 

「何だあれ!どれだけ飛ばすんだよ!!」

 

1年は監督の遠投に驚きを表す。

 

「そりゃそうだろ。あの人はプロ入り拒否してまで母校で監督やるの選んだ人だかんな。今でもバリバリの現役選手だよ。あぁ見えてまだ30代だし」

 

「1年共が騒ぐのも無理はない」

 

さすがは2、3年生。既に監督の実力を知っているのか、そこまでの驚きを示さなかった。

 

「おい小僧!お前はうちでエースになると言ったな?ならば言葉はいらん。それを自分の実力で語ってみろ!」

 

監督はそう言って、沢村にボールを手渡した。

 

「このホームベースからあそこのフェンスまで約90メートルだ。遠投であのフェンスに届いたらピッチャーのテストに参加させてやろう」

 

「マジっスか!?」

 

「だが、もしフェンスまで届かなければお前は即刻ピッチャーを諦めてもらう!そして当分は青道高校野球部の一員とは認めん!」

 

「ハッハッハ、分かりやすくていいっすね!あのフェンス軽く飛び越えりゃいいんすよね!そんなの問題じゃねえぜ!」

 

沢村は軽く考えているが、そもそも遠投で100メートル近くを出すなど肩が強くないと無理だ。

 

「おいおい、無理だろ。投手希望の俺でも届かねぇぞ」

 

「あいつ、終わったな」

 

沢村が余裕そうに言うなか、他の1年はザワザワと否定的な言葉を漏らしていた。だが、沢村はこんな余裕そうに言うのだ。遠投はもしかすると得意なのかも知れない。ここは沢村に聞いてみるか。

 

「なぁ、沢村。もしかしてお前結構飛ばせる?」

 

「知らん!測った事なんて1度も無い!」

 

「は?」

 

沢村の回答に唖然としてしまった。…測ったことも無いのに、その元気はどこから出てるのだろうか。

 

「どうした、小僧!さっさと投げんか!」

 

「了解です!」

 

沢村は助走をとると、1度深呼吸をした。

 

「赤城中学出身、沢村栄純!!記念すべき高校野球生活の一球目いきます!」

 

そう言うと、沢村は勢いをつけて走り左腕を振り抜いた。沢村が投げたボールはどんどん遠くまで行く。これは届くと思った瞬間、80メートルぐらいだろうか、いきなり曲がり始めた。

 

「え?ちょ、おい曲がるな、真っ直ぐいけぇ!」

 

沢村の言葉にボールが反応する訳もなく、そのまま大きく曲がり、フェンスに届く前に地面へと到達してしまった。

 

「ギャハハハ!こいつ遠投でカーブ投げてんぞ」

 

「曲がらなきゃフェンスに届いてたんじゃねー?まぁ届かなかったけどな。アハハハハハ」

 

「俺、遠投でカーブ投げる奴初めて見たぜ!違う意味ですげぇよ」

 

沫流は沢村が投げたボールに対し驚きを示していた。何故なら日本では滅多に見ないナチュラルだからだ。

 

日本において沢村みたいなボール…所謂、癖球を投げる人は大抵矯正される。それは、守備に関して曲げられると取りづらい等とマイナス面だからだ。しかし、それは野手に関して。沢村みたいな投手においては事情が変わる。取りづらいと言う事は打者からして打ちづらいと同じだからだ。その癖球を生かす投球をすれば簡単には打ち込まれないのだ。

 

沫流自身ムービングボーラーの球を見たことはある。だが、それは意識して投げられていたボールであって、沢村みたいに無意識のムービングは見たことが無かった。

 

「おい、小僧!答えは出たな?これが現実だ!分かったなら、グラウンドを走ってこい!」

 

だが、沢村は監督の課題に達する事は出来なかった。もし彼が合格していたのなら、ムービングボーラーとしてマウンドに立ち、投手として活躍出来たかもしれない。

 

「よし!今からそれぞれの希望ポジションのテストを始める!」

 

「「「はい!」」」

 

投手希望者にはここで一人脱落者が出た事で、自分が少しでも活躍出来る場が増えたと喜んでいるだろう。しかし…沫流は沢村と同室であり、友達にも(?)なった仲だ。素直には喜べなかった。だが、どうしようもない。沢村に声をかける事も無く、他の部員と共にテストを受けに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今年の1年はどうだ?」

 

今、この場にいるのは青道高校首脳陣の片岡監督、高島礼部長、太田一義部長の3人である。初日の練習が終わり、1年のテストの報告の為に監督の部屋に集まっていた。

 

「今年は優秀な1年生が多いですね。特にこの3人が中々の結果を出しています」

 

眼鏡を掛け、いかにも美人キャリアウーマンと呼べそうな人、高島は片岡に3人のデータを渡した。

 

「ふむ…。小湊春市、林山沫流、降谷暁か」

 

高島が渡した3枚の紙にはその3人の今回のテスト結果とこの高校に来た志望動機が書かれてある。

 

「ええ。小湊春市君はポジションはセカンド。3年にいる小湊亮介の弟だそうです。お兄さんに負けない程の守備範囲を見せ、送球も同じくらい上手いです。また、バッティングは高打率のスイングで、的確に打ち分ける事も出来ていました。志望理由は『兄と甲子園へ行く為に志望しました。3年間宜しくお願いします。』…だそうです。」

 

「ふむ…亮介の弟か。期待出来そうだな」

 

「次に林山沫流君はポジションはピッチャー。遠投は1年の中で2番目に長い110メートル。また球速は140前後で制球力は2年投手の川上君と張り合えるくらいのコントロールの良さです。志望理由は『所属していた監督にここが良いと言われたからです。宜しくお願いします。』…だそうです」

 

「……成る程」

 

少し、考えるそぶりを見せたものの、すぐに次の紙に目を移した。

 

「降谷暁君もポジションはピッチャー。遠投は120メートル、コントロールは少し甘いですが球速は150を越えるとても魅力のある球を投げますね。ただ、体力が他の1年生に比べ無いようです。志望理由は『僕の球を捕れるキャッチャーがいると思い、ここに決めました。』…」

 

「…ふむ」

 

「いやぁ、私は実際に見ることは出来なかったのですが、聞いてみると今年は有望な子達が多いですね!投手陣が弱いと言われているうちに2人も有望そうな子が!これは行けるかも知れませんな!」

 

そう、眼を輝かせながら喋るのは部長の太田だ。投手陣が弱いと言われる青道高校に頼れそうな投手が入ってきてさぞかし嬉しいのだろう。

 

「片岡監督。太田部長が言った様に2人も期待出来る投手が入りました。しかし、「君が言いたいのは沢村の事か?……はい」」

 

高島は自分が推薦した沢村が最初の段階で躓くとは思いもしなかった。彼のムービングは投手として生きるだろうと確信を持っている。だから、片岡監督の沢村の投手を辞めさせると発言に、少しでも彼の投手人生を長く出来る様に交渉したかった。

 

「…確かに奴は投手として恵まれた身体を持っているだろう。だが、まだ早い。今は投げさせるべきではない」

 

「…成る程」

 

「今日はこれで解散だ。いくら有望な1年が入ったとしても、まずは身体を慣らさなければならない。本格的に指導させるのは……上級生との試合を見た後だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




誤字脱字等ありましたら、教えて頂けると有り難いです。
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