ウイニングショット   作:スカイ・ブルー

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4・・3人の投手

 

 

 

4月の中頃。青道高校の入学式からおよそ一週間がたった。俺を含め新入生にとって初めての高校生活。中学とは違った授業や行事や先生等、そして中学より更に厳しい部活。それを何とか無事に乗り切って迎えた最初の土曜日がきた。その日、青道高校野球部は大事な試合を迎えていた。

 

それは、春の都大会準々決勝。

 

夏の本戦や春の選抜がかかる秋大会と比べて重要度が劣っている春の大会。だが、今日の試合相手は昨年の秋大会で苦汁を飲まされた市大三高校。あの時の借りは絶対に返すとばかりに気合を入れている一軍の選手。いつかは自分も一軍に混ざってあの舞台へ出る。それまでは全力で応援をする二軍の選手。そして、青道高校野球部員として初めて応援しにいく1年生。そんな皆がバスに乗り、試合会場へ向かった。

 

そんな中、ある男は言った。

 

「やべ、腹痛でトイレ行ってたら置いてかれた…」

 

グラウンドへ立ちすくむ沫流に、淋しい風が吹いた。

 

だが、しかし。そんな彼に同じ仲間がいた。それは、片岡監督からグラウンドで走っていろと言われた沢村。そして、沫流と同じくトイレへ行っていて乗り遅れた降谷だった。奇しくも全員、投手希望であった。

 

「…なぁ」

 

「…何?」

 

「一緒にキャッチボールでもしないか?」

 

「やる」

 

「あ、俺も混ぜてくれぇえ!!」

 

「じゃあ、3人でやろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わはははは!気持ちいぃぜ!キャッチボールがこんなに楽しいとは!やっぱ野球はボール使わねぇとなぁ~」

 

「なんか楽しそうだね…」

 

「…そうだな」

 

キャッチボールは沢村→降谷→沫流の順で回していた。沢村はやはり日頃から走る事しかやっていなかったからか、とてものびのびとボールを投げている。

 

「そりゃそーだよ。ボール握ったの久々だからなっ!肩が軽い軽い!今ならあのフェンスまで届きそうな気がするぜ!」

 

(……いや、それは無理だろ)

 

先程から沢村のボールを受けている降谷は俺に向かってボールを投げながら

 

「……楽しそうなとこ悪いんだけど………君のボール真っ直ぐ来ないから気持ち悪い。……ちゃんとした球投げて」

 

「き、きもっ!?」

 

気持ち悪いと言われた沢村はショックで動きが固まった。そして今はキャッチボール中である。要するに俺の投げたボールが………鳩尾に入った。

 

「ぐぉぉぉぉぉぉ!」

 

「あ、悪い。大丈夫か?」

 

諸に鳩尾へ入ったボールの痛みに悶えつつ唸りながら

 

「…気持ち悪いって何だよ!俺は普通に投げてるぞ!」

 

「だってグニャグニャ曲がるし……捕りづらい」

 

「何と!?(そう言えば、赤城中の皆も…俺とキャッチボールすんの避けてたよーな………)」

 

「……けど捕りづらいってことは、打ちづらいってことだよね。君……ピッチャーに向いてるかも……?」

 

しかし、キャッチボールまでムービングとは……本当にナチュラルなんだなぁ。外野とか出来なさそうだ。

 

降谷は沢村から回ってきたボールを一瞬見つめ、握りしめると

 

「…そろそろ肩が暖まってきたから強めに投げるね」

 

そう言って、沢村に向かって振りかぶってボールを投げた。

 

ドパァン!!

 

降谷の投げたボールは沢村のグローブを弾いた。グローブとボールはそのまま地面へと転がっていく。

 

「あ、ごめん……力加減間違えた………」

 

沢村は驚愕の眼差しで降谷を見た。いくら強目に投げてしまったとは言え、グローブを弾かれるとは思わなかったのだ。沫流も降谷の投げたボールに驚きはしたが、それよりも思った事があった。

 

「順番的に次は俺だぞ、降谷!」

 

「あ、ごめん」

 

降谷は未だに驚いて尻餅をついている沢村に近付き、転がっていたボールを手に取った。

 

「北海道じゃ僕の球受け止めてくれる人がいなくてさ……。雑誌に載ってる記事見て、ここだったら僕の球を取ってくれると思ったからここに来たんだ…」

 

「北海道から来たのか!」

 

「うん。あの人…御幸先輩なら僕の全力投球、受け止めてくれると信じてね…」

 

降谷は寂しそうに言った。どうやら中学の時は捕れる奴がいなかったようだ。

 

「…一応、俺はキャッチャー経験あるから受けてみようか?」

 

沫流自身、キャッチャーをやったことが数回あり、それに自分よりも速く投げる奴の球を近くで見たいと言うのがあった。

 

「え!いいの?」

 

まさか、そんな提案が出るとは思わなかったのだろう。吃驚した顔で見てきた。

 

「まぁ、取れるか分からんけどな」

 

「あ、俺も投げたい!」

 

「沢村は降谷の後な。じゃあ、キャッチャー用具つけてくるから待っとけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャッチャーマスクを手に持ち、ブルペンへと向かった。既に沢村と降谷は準備が出来ているようだ。

 

「降谷!まず軽めに10球ぐらい投げてくれ」

 

マスクを被り、自分の準備が整うと降谷に声をかけた。

 

「うん」

 

降谷は頷くと足を上げ腕を振りかぶり……第一球を投げた。

 

パァン!

 

彼の投げた球は沫流のミットの中に収まった。

 

「ナイスボール!」

 

軽めにと投げたボールは140ぐらいの球速。全力で投げるとすれば、これより速いだろう。久々にキャッチャーをしながら、昔の感覚を思い出していく。

 

「次は低めで!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10球程降谷に投げて貰い、大体の感覚を掴むと座り直した。沢村は降谷の球を見て、うぉー!凄ぇ!俺も早く投げてぇ!と騒いでいる。

 

「よし、全力で投げて来い」

 

「…行くよ」

 

降谷はそう言うと腕を降り下ろした。

 

パァン!!

 

「…ちっ(くそっ、速い上に威力が強ぇ!)」

 

降谷の投げた球は軽めに投げた球とは違い、速く、そして威力が物凄かった。ミットから前に溢れたボールを降谷に投げ返すと

 

「もう一回来い!」

 

初見であの球を取るのは少し厳しかったが、まだ対応出来るレベルだ。まだ、入部して間もない頃に他の投手の投球を見れて有り難い。この投手からどうすれば打てるか、どうすればこの投手よりも負けない試合を出せるかと色々考えられる。今のうちに、降谷のボールを見ておきたい。それに、ボールを捕り損なったというのも少しばかり悔しい。

 

「次は絶対に取る」

 

俺が構えたのを見て、降谷は第二投目を投げた。

 

パァン!!

 

「…よし!」

 

降谷の全力投球二投目はミットの中にきちんと収まった。

 

「降谷!取ったぞ!」

 

「…凄い!本当に取った!」

 

降谷の中学では誰一人取れなかったと言っていた。降谷は青道高校へ来て良かったと思った。沢村も俺が取ったのに驚いてるのか、アホ面をかましている。

 

「ねぇ!もっと投げていい?」

 

「あ!降谷、そろそろ交代しろよ!俺だって投げたいんだ!」

 

「君、煩い。今は僕のが優先」

 

「何だと!次は俺だ!」

 

ギャーギャーギャーギャー騒いでる二人は、どう見ても幼稚園児の喧嘩にしか見えなかった。

 

「降谷は後5球投げたら交代、沢村はその後だ。20球交代でやるぞ!」

 

そして二人の投球練習はお昼になるまで続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




誤字脱字等ありましたら、教えて頂けると有り難いです。
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