ウイニングショット   作:スカイ・ブルー

5 / 9
5・・紅白戦

 

 

 

 

 

翌日の練習。3年生投手の丹波光一郎さんがエースを降ろされたという話題が広まっていた。今、青道高校にはピッチャーは丹波さんと2年生投手の川上憲史さんの2人しかいない。絶対的エースが不在の中、次の夏大会までどうなるのか。もしかすると1年生の投手が使われるかもしれない。そんな雰囲気が1年の間には広がっていた。

 

その噂の丹波さんは黙々とグラウンド内を走っている。それを横目に見ながら、青道高校野球部は練習を続けていた。……勿論、沢村もタイヤを担いで走っていた。

 

そんな中、首脳陣が近々紅白戦をやるという話をしていたのは誰も知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の晩飯の時間。俺と沢村、小湊春市と晩飯を食べていた時にそれは起こった。春市とは同じクラスの隣の席で好きなゲームが同じ等と意気投合した仲だ。

 

「よぉ沢村、大分食べれるようになったんだな」

 

レギュラー捕手として活躍している二年生の御幸さんが話しかけてきた。

 

「…そんなこと別に良いだろ?」

 

「栄純君、敬語敬語!」

 

「それよりさ、何で今日はこんなに静かなんだ?」

 

沢村は中学で敬語を習わなかったのだろうか。そんなんで社会に出たら大変である。いくら相手するのが面倒な御幸さんでもだ。

 

「(何かイラッときたんだが)何だ、聞いてなかったのか?」

 

「何が?」

 

「明日、1年vs2、3年で試合だぞ」

 

「「「え!?」」」

 

「まぁ、今回が初めてだからな。本来ならうちの1年は体力作りがメインで、普通はレギュラー選考なんてしねぇんだわ。まぁ、俺は別だったけど♪」

 

成る程、だからこんなに皆静かだったのか。後、御幸さんがウザい。

 

「ん?俺は出れるのか?」

 

「「「………………」」」

 

「おい、御幸!何とか言え!」

 

沢村は御幸さんの胸ぐらを掴みながら言った。おおっと、お茶が溢れる所だった。

 

「沢村。俺、一応先輩なんだが…」

 

「栄純君!こら、止めなさい!」

 

春市が段々、沢村のお母さん化してるのは俺の気のせいだろか……。

 

沢村と御幸さんがじゃれあってる中

 

「あの、隣いいですか?」

 

声が聞こえてきた方を見ると、お盆に食事を載せた降谷が立っていた。降谷はそのまま返事を聞く事無く沢村と御幸さんの間に座った。

 

「おい!何でここに座るんだよ!あっちにも席空いてんじゃねーか!」

 

沢村が抗議するのを無視し、降谷は御幸さんに向かって宣言した。

 

「御幸先輩……自分は明日ここにいる誰にも打たせる気はありません。 そしたら自分の球、受けてもらえませんか?」

 

「は!?」

 

「……随分と言うなぁ」

 

降谷の発言に一気に周りの空気が凍った。また、それを聞いた先輩たちは席を立ち上がり、降谷の周りへと向かった。

 

「おいルーキー、言ってくれんじゃねぇか!」

 

「誰にも打たせる気ねぇだと?お前、なめてんのか?」

 

「中学出たばかりのクソガキがでけぇ口叩きやがって…」

 

「おもしれぇ、バカスカ打ってやろうじゃねぇか!」

 

「御幸に受けてもらいたきゃ、結果残してから言えや!。」

 

現場は一気触発。だが、降谷はそんな先輩たちを気にしないのか

 

「それで、御幸先輩。受けてくれますか?」

 

降谷には今、他の人など目に入らないようだ。

 

「おい!みっともない真似はすんな!俺達はプレーで語るしかねぇんだ!」

 

丹波さんの一言でこの騒ぎは収まった。けれど、丹波さんも投手として負けられないのか、降谷とお互いに目で牽制しあっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の1年vs2、3年の試合。日曜日ということもあってか、ギャラリーは多い。父兄やここのOBが大勢来ている。

 

そんな中、開始前の雰囲気は両チームで極端に異なっていた。1年は初めての試合だからか浮かれてる奴ばかりで、どこかフワフワした雰囲気。方や2、3年は重苦しい雰囲気が漂っていた。この試合が決勝戦だという様に……。

 

そして1年が後攻で始まった。

 

カキーン!

 

「また、ホームランだ!」

 

「流石は上級生だ!」

 

これで9点目。まだ初回だと言うのに、1年のチームには既に諦めムードが漂っていた。今、ピッチャーをやっている奴も顔が真っ青だ。初回でこんなにも取られるとは思わなかったのだろう。肩で大きく息をしている。

 

沫流はこの試合はサードで先発をしていた。今の所、一度も内野にはボールは行っておらず、暇であった。

 

「おい!まずはアウト1つ取るぞ!」

 

沫流が声をあげるが誰も声を掛け合わさない。たった1つのプレーで試合の流れは変えられるのに、誰もそうしようとはせず、早く終わらないかなと言う様にプレーしている。

 

「ピッチャー!丁寧にコースついていけ!俺の所にボールを転がせたら絶対に捕球するから!」

 

沫流がそう言うと相手バッターはこちらを睨み殺さんばかりに見てくる。ピッチャーは声を掛けられた事で少し落ち着いたのか、コクンとこっちを見て頷くと、一度深呼吸をした。そのせいか肩の力が抜け、先程とは違う筋の良い球を投げた。

 

ガキン

 

だが、さすがは先輩。その球を綺麗に打ち返した。打球は2、3塁間へと走る。

 

しかし、それを待っていた。

 

「…フッ!」

 

バスン!

 

「アウト!」

 

「しゃあ!!ワンナウトだ!」

 

予想通り、先輩はサード方向に打球を放った。ここで相手を打ちのめせば、勢い付く事は無いと思ったのだろう。

 

「ピッチャー、今のはナイスだ!後、アウトは2つ!しまっていこう!!」

 

ピッチャーもやっとアウトが1つ出たことで、ホッとした表情を浮かべていた。他の1年も何となくやる気が出てきた気がする。

 

「よっしゃ!気合入れて行くぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、一点を追加されたが何とかファーストゴロと外野フライで初回の表を終えた。次は1年が打席に立つ番だ。相手のピッチャーは元エースの丹波さん。この人からどれだけ打てるかが鍵となる。

 

だがしかし、現状は甘くなかった。

 

「バッターアウト!チェンジ!」

 

さすがは元エースと言えば良いのか。三者三振で抑えてきた。マウンドに立つ丹波さんからは、気迫が凄い。それだけ熱を入れて投球していると言うことだろう。だが、これで少しはモチベーションが上がった1年のテンションががた落ちだ。この試合でアピールをする等と思っていた開始直後の雰囲気はどこへ行ったのだろうか。

 

2回表。1年はピッチャーとサード以外を代えて出陣。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3回表。ここで敗者濃厚な1年に新たなピッチャーが出陣した。

 

「ピッチャー、降谷出ろ!」

 

片岡監督に呼ばれたのは降谷暁。遂に、豪速球を投げる投手が出てきた。降谷は早く投げたいと思ってるのか、足早にマウンドへと立った。

 

降谷の球は並のキャッチャーでは捕るのは難しいんじゃないのかと疑問に思いつつも沫流はサードポジションについた。

 

そして、降谷の第一投目。

 

ズガン!

 

降谷の球はキャッチャーのミットを弾き、監督のマスクにぶち当たった。グラウンドに静けさが漂う。その中で、ある人の声が響き渡った。

 

「…降谷、合格だ!明日から一軍に混ざって練習をしろ!」

 

たったの1球。それだけで降谷は片岡監督を認めさせてしまった。

 

「マジか、1年でもう一軍かよ」

 

「おいおい、あの1年誰だよ。マークしとけ!」

 

「降谷暁だってよ!北海道から来たらしいぜ!」

 

ガヤガヤと外野は降谷の球を見て騒いでいる。だが、先輩たちは納得がいかないのか、監督に抗議しはじめた。

 

「監督!ちょっと待ってください!」

 

「こいつはまだ1球しか投げてないんですよ!?」

 

「3回……いや2回あれば必ず攻略してみせますから!」

 

降谷の一軍上がりに猛反対する先輩たち。確かに1年が一軍へ行ったら、その分の自分たちの枠が減る。それに先輩と言うプライドもある。先輩たちは必死であろう。

 

「投げさせてやりたいが、こいつの球を捕れる捕手がいない。こいつの球が打ちたいのならば、一軍の練習で打ってこい!」

 

片岡監督は上級生チームに一軍へ上がれと発破をかける。

 

「…監督、僕はまだ投げれます。それに林山君は僕の球捕れます」

 

降谷は一軍へ上がれるのは嬉しいが、1球しか投げれていない事に不満を持っていた。

 

「ふむ……だが、奴が投げる時に手を痛めてしまっては困る。もっと投げたいならば一軍の練習で投げろ」

 

「……はい」

 

「よし、次は林山が投げろ!」

 

「はい!」

 

降谷はまだまだ投げ足りない様で、釈然としない顔でマウンドに交代しに来た沫流にボールを手渡した。

 

「…どうぞ」

 

降谷はとても拗ねていた。

 

「まぁ、これで一軍へ行けるんだろ?御幸先輩に受けて貰えるじゃないか!有言実行だな!」

 

「でも…まだ1球しか投げてない」

 

「まぁ、そうだけどさ、一軍に上がったら嫌でも投げれるんだから、少しは我慢して見てろよ。お前、自分がマウンドに上がるまで爆睡してただろ?」

 

「……自分の出ない試合なんて興味ない」

 

降谷はそう言うとマウンドを降り、ベンチへと向かった。

 

そのベンチでは沢村が監督に何やらお願いをしているようで騒いでいる。しかも何故か涙を流している。あ、こんどは喜びだした。でもすぐに落ち込んだ。とても喜怒哀楽が激しい。

 

「ピッチャーは林山!サードに金丸!ライトに沢村入れ!」

 

沫流は捕手とサイン交換をし、遂にマウンドへ上がった。シニアのチームを抜けてから1年と半年。久々の試合に身体が喜んでいる。

 

「1プレー大事にしていくぞ!」

 

相手バッターは9番。最初は真ん中低めのストレート。

 

パァン!

 

「ストライク!」

 

まずはワンストライク。捕手の掲げたミットの中に寸分違わず入った。

 

「おお!アイツも中々の速さだぞ!」

 

「キャッチャー、手を動かしてないぞ!コントロールが川上並みに良いんじゃないか?」

 

次はアウトコースにストレート。

 

カキン!

 

「ライト!」

 

打者が打った球は上に打ち上げられた。これはアウトになるだろう。誰もが外野フライでワンアウトになると思っていた。

 

「「「バンザイするなぁ!!!」」」

 

「しまったっ!」

 

ライトで守備をしていたのは沢村。その彼が安易に捕れる球をバンザイしてしまった。

 

「三塁に投げろ!走ってんぞ!」

 

「ええぃ!こんちくしょぉぉおお!!」

 

沢村が投げたボールは三塁に向かっていった。が、彼はムービング使いである。投げた球は曲がり、走者の背中へぶち当たった。

 

これで現状はアウト無しの三塁。スクイズの可能性もある。

 

だが、マウンドに立っている沫流は

 

ブゥン!

 

「ストライク!」

 

走者を気にせず、寧ろ強気にインコース高めにストレートを投げた。打者は大きく空振りをした。しかし、沫流は今のプレーにどこかわざとらしいと感じた。そこで打者を注意して見てると三塁走者と目配せをしていた………様な気がした。

 

ここは自分の勘を信じ、キャッチャーに変化球用のサインを出す。キャッチャーが頷くの見て、身体を捻りながら右腕を降り下ろした。

 

「スクイズだ!」

 

三塁走者が走る。打者もバットをボールに合わせるよう横向けた。完全にタイミング合ったと誰もが思った。だが、ボールはバッターを嘲笑うかのようにバットの下を潜り抜けた。

 

「キャッチャー!タッチだ!」

 

沫流が叫んだのとキャッチャーがボールの入ったミットを戻ろうとした走者に触れたのは同時であった。

 

「アウト!」

 

「ナイス、ファインプレー!」

 

沫流が投げた球は縦のスライダー。1度も投げていなかった変化球をここで投げた事により、相手を欺きアウトを1つ貰う結果となった。

 

そしてこのバッターに対し3球目。

 

「アウト!ツー!」

 

先程のスライダーがまだ眼に焼き付いていたのか、バットはボールの下を通っていた。

 

悔しそうに1番打者が下がり、2番打者がボックスに立つ。バットをコンパクトに持っており、ミートを確実にしようとしているのだろう。

 

カァン!

 

「ファール!」

 

カァン!

 

「ファール!」

 

ストレート、スライダーと続けて投げた球を降り遅れながらもバットに当てファールにする2番打者。

 

ここで上級生チームに打たれれば、勢いづかれる。ここが勝負所だと判断し、その1球を丁寧に投げた。

 

「…バッターアウト!チェンジ!」

 

「しゃあ!!」

 

沫流が投げた球は、見事打者を三振にさせた。

 

「おいおい!この回、一点も入ってないぞ!」

 

「今の球はチェンジアップだろ!?緩急の差が激しいじゃねぇか!」

 

チェンジアップ。それはストレートと同じ投げ方で投じられる遅い球。沫流が投げたストレートは約140㎞/h前後。チェンジアップは120㎞/h前後。いきなり遅い球を投げられ、打者は見事空振りにされたのだ。

 

「お前、凄ぇじゃん!」

 

「先輩を0失点で迎えるなんて!」

 

「ああ、上手くいって良かったよ」

 

ベンチへと戻った沫流に同級生達が誉めてくる。少しくすぐったいなと思いつつ、次の打者は誰だと掲示板を見ようとすると

 

「はい、次は沫流君からだよ」

 

「お!サンキュー」

 

春市がバットを渡してくれた。お礼を言いながら、丹波さんからどうやって点を取るか考える。この表の回でついた1年の勢いを続けさせるには、まずは塁に出なければならない。この回の先頭打者である自分が失敗すると、勢いが削がれるかもしれない。バントでも何でも良いから絶対に塁に出ようと、沫流は心の中で誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3回裏。1年側の攻撃が始まった。

 

「宜しくお願いします!」

 

沫流は挨拶をし右打者のボックスへと入る。ピッチャーは元エースの丹波さん。持ち球はストレートとカーブ。このカーブを打てるかが鍵となる。

 

パァン!

 

「ボール!」

 

インコース、顔近くのストレート。恐らく、驚かせようとしたのだろう。だが、ここはポーカーフェイスで何事も無かった様に打席へと立つ。

 

丹波さんの2球目。大きく曲がるカーブが投げられた。

 

「ファール!」

 

……思ったより曲がる。だが、打てない球ではない。ここからは地道な作業を繰り返すだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファール!」

 

12個目のファール。2ストライクに1ボールとピッチャー側が追い込んでるのに丹波の表情は厳しい。目の前の打者に自分が投げた球をヒットは無いとはいえ、全て当てられているのだ。粘る相手に丹波は神経を尖らして投げる。

 

「ファール!」

 

13個目のファールが出された。

 

沫流が考えた作戦とは取り合えず粘るというもの。格下相手に粘られると、焦りが出てくるだろうという判断だ。その上、丹波が投げたボールをアウトコースの球は長打のファール、インコースの球とカーブはゴロ気味のファールとして打ち分けている。沫流はバッテリーが焦れて、インコースのカーブが来るのを待っていた。

 

丹波の14球目。フシッと言う声と共にボールが投げられた。

 

カキン!

 

「レフトの頭越えたぞ!」

 

「うおおおおおお!丹波さんから打ったぞ、アイツ!」

 

「アイツ、打つのも出来るのか!」

 

(よっしゃ!インコースのカーブを狙い打ち!)

 

沫流は二塁まで到達。遂に1年が初めて走者を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アウト!」

 

沫流の次の8番打者は大振りの三振でアウトとなる。だが、9番打者は丹波の初球アウトコースのストレートを上手く合わせ送りバントを成功させた。

 

だが、次の1番打者は

 

「ワハハハハ!沫流、このバットでホームランを打ってやるから安心しろよ!!」

 

バンザイをした男、沢村が打者として回ってきた。沢村のバッティングに希望をかけるしか無い。

 

「う~~!おいしょ~!」

 

「……ストライク!」

 

「くっ……紙一重か!」

 

「「「どこが!?」」」

 

沢村の振ったバットとボールの通った差は凡そ30㎝。沢村はこの後もストライクを取られ、完全に追い込まれる。

 

「沢村!せめて当てろ!」

 

「おうよ!!」

 

そして3球目。沢村のバットは………空を切った。

 

「栄純君!キャッチャー後ろに逸らしてるよ!走って!!」

 

だが、しかし。ここで運が味方をした。キャッチャーがボールを後ろに逸らしたのだ!春市が叫んだのとほぼ同時に沢村はファーストへ全力ダッシュ。キャッチャーは急いでボールを捕球するとファーストへと投げた。ベースに先に到達するのは…

 

「セーフ!」

 

「うぉぉおお!振り逃げだが、塁に出やがったぞ!」

 

沢村が振り逃げとは言え、見事出塁を果たした。

 

「ファーストぉお!ホーム返せ!!」

 

誰が叫んだのか分からない。ファーストがホームを見ると既に沫流がホームベースを踏んだ所だった。

 

「うおおおおお!!あの1年ホーム帰ってきたぞ!!」

 

「1年が上級生相手に1点取ったぞ!?」

 

キャッチャーはホームへと帰還した沫流を愕然として見ていた。

 

沫流がヘルメットを脇に抱えながらベンチへと戻ると、祝福の嵐であった。

 

「お前すげぇよ!」

 

「よく走ったよな!俺だったら完全に三塁で止まったままだったぞ!」

 

「あぁ、上手くいって良かったよ……だが、まだ塁には沢村が残っている。次の奴、帰せるのか?無理なら俺なら帰せるって言う奴が代打で出ろ。この回で上級生を喰うぞ!」

 

お祭り騒ぎであったベンチが一気に静まりかえった。誰も自信が無く、おいそれと自分がと言えないのだ。そんな中、ある男がバットを持って立ち上がった。

 

「あれ?誰も出ないんだ?…なら代打、俺!」

 

ここで春市が代打として出場が決まった。

 

春市が挨拶をし打席に立つと、何やら沢村に合図を出している。2、3年は1年にサインが決まってるとは思わなく、困惑している。1年に1点を取られた影響もあるのだろう。どこか2、3年チームには落ち着きが見当たらなかった。

 

「え?何それ!?春っち!そのサイン、何!?」

 

だが、折角のチャンスを不意にした男がいた。その名も沢村栄純である。春市はダミーサインと言う事が通じなかった事で赤面しながら固まった。だが、気をとりなおすと

 

「俺が絶対ホームまで返す!2人で点取ろう!」

 

「い……いきなりの点取り発言!?何者だ!!」

 

「つーか前向きすぎんだろ……。まさか、こいつもあの沢村と言う奴と同じバカか?」

 

確かに体格は小さく、バットを短く持っている点で、春市に沢村をホームに帰せるバッティングが出来る様には思えないのだろう。

 

キャッチャーがサインを出し、丹波が投球モーションへと入る。それと同時に春市はバットを一番長い位置に握り直した。

 

(…得体の知れない相手にアウトコース……これほど狙いやすい球はないよねっ!)

 

カキン!

 

「「「な!!!」」」

 

キャッチャーは取り合えず、アウトコースへと思っていたのだろう。だが、それは春市に読まれていた。

 

「マジか!?アウトコースのボール球を狙い打ちやがった!!」

 

「ライト線ギリギリ入れば長打になるぞ!!」

 

「まさか最初からこれを狙ってやがったのか!?」

 

沢村は春市が打つと信じており既に走り出していた。

 

「急げぇ!ランナー二塁回ったぞ!!」

 

沢村はペースを落とさず三塁へ到達。しかし、そこで止まらずホームへと目指す。

 

「うぉぉおお!!三塁も蹴ったぞ!」

 

「ホームに突っ込む気だ!!」

 

「くそっ…ざけんな……1年ごときに2点もやれるかよぉ!!」

 

(仲間が点を取ろうって言ってくれたんだ…絶対に帰ってやる!!)

 

「おい!無茶だ!」

 

「間に合わねぇ~~!!」

 

キャッチャーの手元にボールが戻ってきた。

 

「うおおおおおおお!!!」

 

「クソガキが!!吹き飛ばしてやる!!」

 

思い切ってスライディングをした沢村。ただ、アウトになってもおかしくない……判定は…

 

「セーフ!」

 

「おおお!!この回に二点、1年が先輩相手に取りやがった!!」

 

「よっしゃ!俺らも続くぞ!」

 

「しゃあ!気合入れて行くぞ!」

 

先輩チームを相手に2点を取れた事で、やっと勢いがついた1年。だが

 

「両チーム整列!!」

 

「「「え!?」」」

 

「「「か、監督!」」」

 

それも監督の終了宣言によって叶うものでは無くなった。

 

「これ以上やっても時間の無駄だ。それぞれの練習に移るぞ!」

 

片岡監督の発言に誰も喋らない。

 

「片岡監督!まだ1年の攻撃は終わってません!」

 

沫流は咄嗟に口が出たのかあっと口を押さえる。だが、監督は沫流の発言に

 

「確かにまだお前達の攻撃は残っている。だが、この試合が始まって既に3回裏!今更やる気の出た小僧共!野球を嘗めてるのかっ!」

 

片岡監督の言葉に言葉を返せない1年達。

 

「お前達は負けそうな試合になったら、そのゲームを放り出すのか?さっさと諦めて終わるのか?勝ち試合しか出たく無いのならば、小学生相手にでも試合をしてこいっ!!1年の中で最初の試合から声をちゃんと出していたのは林山だけだぞ!点を取れたのも金丸、林山、沢村、小湊のバッティングのお陰だ!!1年の中で評価出来るのはコイツらだけだ!他の1年は自分達と何が違うのかよくよく考えろっ!」

 

次に片岡監督は1年と対面をしている2、3年チームに顔を向ける。

 

「1、2回は良い。1年相手に隙を見せず良く戦っていた。だが、今の3回裏の守り!何なんだ、この体たらくはっ!!お前らは予想外な事に慌てすぎだ!1プレー1プレーをもっと大事にしろ!」

 

「「「はい!」」」

 

一通り言い終わったのか、一息をつく片岡監督。2、3年に向けていた顔を1年に向き直ると

 

「だが………もし、1年全員がこの試合を続けたいなら、終了までやろう」

 

「「「……!!」」」

 

「どうなんだ!」

 

「「「………」」」

 

1年は誰も答えない。

 

「ちょっ……何を迷ってんだよ!このまま終わってもいいのか!?チャンスなんて、次いつくるのか分かんねぇんだぞ!自分の力を全て出し切って試合終わらせないのかよ!そんなの悔しくないのかよ!」

 

沢村の発言に悔しそうな表情を浮かべる1年。

 

「うるせぇ……振り逃げで塁に出た奴がえらそうにしやがって!」

 

「…え?」

 

「そうだ。てめぇだってバンザイして守備出来なかったくせに!」

 

「俺達だって、ただ憧れてこの野球部に集まった訳じゃねぇんだ!!悔しくないわけねぇだろ!!」

 

「つーか、さっきからなんでてめぇが仕切ってんだよ!」

 

「てめぇにだけは何一つ負ける気がしねぇよ!」

 

「何だと!!てか俺って嫌われてんのか?」

 

「皆プライドだけしか持ち合わせてないんだよ、栄純君」

 

(春市が……毒舌キャラになってる…)

 

沢村に言われ、立ち上がる1年達。沫流だけは一瞬、春市の黒さに気をとられていた。

 

「監督!試合続けさせて下さい!」

 

「「「お願いします!!」」」

 

片岡監督に一斉に頭を下げる1年。

 

「はぁ、何故、最初からそれができん!高校野球には次は無いんだぞ!」

 

シンと静まりかえる。

 

「次からは1年は沢村、2、3年は川上がピッチャーだ!しっかりと準備しておけ!」

 

「はい!」

 

「よし!やっと俺の出番だっ!!」

 

遂に自分の本職として出られる事に喜びを現す沢村。だが、この後にもう1つ重大な発表がされた。

 

「丹波、林山!お前らは明日から一軍だ。ダウンして今日は休め!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沢村がピッチャーとしてマウンドに上がり、五回裏の最後のバッターが倒れたところで、この試合は終わった。21-2という点差こそなったものの、3回からは充分に互角として戦った。沢村は4回に5番増子にホームランを打たれるも、それ以外は大きな当たりはなく全て打ち取った。

 

この試合を通して1年たちは1つ大きな一歩を踏み出したと言ってもいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一軍に上がる者……丹波光一郎、増子透、林山沫流、降谷暁の四名

 

二軍に上がる者……小湊春市、沢村栄純の二名

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「代打、俺!!」キリッ

 

「ちょ、止めてよ沫流君!」

 

 

 

 

 

 

 

 




誤字脱字等ありましたら、教えて頂けると有り難いです。

6/28(日)編集完了しました。
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