ウイニングショット   作:スカイ・ブルー

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6・・二人の思い

レギュラーの戦力として戻ってきた丹波、増子。新戦力として加入となった林山と降谷。一軍はその4名を加え、日々の練習に取り組み既に5日が経った。

 

「降谷ぁ!足止まってんぞ!もっと走れ!!」

 

体力が圧倒的に足りず、登板してもすぐに交代させられそうな降谷には持久力をつける為、毎日グラウンドを走る日々が続く。

 

一方、もう1人の新加入者は

 

「今の良く捕ったぁ!!だが、もっと出足を速くしろぉ!」

 

林山は外野の守備の練習をしている。ブルペンには投手の丹波、川上が捕手を相手に投げ込んでいる。一軍に入ってからは、降谷を除く投手陣でローテーションを組みそれぞれの練習に取り組む。今日は守備もそれとなくこなせる林山を外野として使えるか練習している。林山のコーチとして3年生でセンターを務め、外野リーダーでもある伊佐敷純が指導をしている。三年生でセンターを務めている。伊佐敷は強面だが、後輩思いのある先輩である。

 

一軍の練習に水分休憩が入り、ベンチで水分を取っていると

 

「おい、林山!」

 

「純さん何でしょうか」

 

「どうだ?もう練習には慣れたか?」

 

「はい、何とか……」

 

「ほぅ、お前はあそこでバテてる奴と違って体力はありそうだな」

 

そう言って、地面に伸びている降谷を指差す。

 

「流石に先輩達には敵いませんが、降谷よりは体力はあるつもりですね」

 

「まだ軽口は叩ける余裕はありそうだな……夏休みになったらその余裕も無くなるから覚悟しとけよ」

 

最後の方が何と言ったか聞き取れなかったが、何故か不吉な予感がした。

 

「…純さん、今何と?」

 

「あ、それと、監督が休憩終わったらブルペンに来いだとよ!体力がまだ有り余ってんだから、さっさと行け!」

 

「ちょっ!最後!最後の言葉を…!」

 

「それはまたいつかな!ほらっ!さっさと行けぇ!!」

 

沫流は純さんに追い立てられる様にブルペンへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「監督!只今参りましたっ!」

 

「…来たか」

 

沫流がブルペンに行くと既に片岡監督が待っていた。隣に1人の御幸さんではないキャッチャーもいる。

 

「今からここで投げて貰う。今日はここにいる宮内に受けて貰え」

 

監督の隣にいたキャッチャーは宮内と言う人らしい。

 

「初めまして、林山沫流と言います!」

 

「…フンス。宮内啓介だ。宜しく」

 

御互いに自己紹介をし、球種確認をする。

 

「林山は何がある?」

 

「えっと、フォーシームとチェンジアップ、縦スライダーの3つです」

 

「分かった、取り合えずフォーシームを投げてこい!」

 

「はい!」

 

宮内さんとサインを確認しあうと、位置につく。

 

「よし、ど真ん中のストレート来い!」

 

そう言って、ズッシリと構える宮内さん。キャッチャーのミットが大きく見える。

 

「…行きますっ!」

 

右腕を振りかぶり、ミットに向かって投げる!

 

パァン!

 

「ナイスボール!」

 

投げたボールは宮内さんのミットへ寸分違わず入った。

 

「…フンス。取り合えず、ストレートだけ投げてこい!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから全部で100球投げ、今日のメニューは終了。50球目まではストレート1本。そこからは変化球も交ぜた投球練習。ストレートとチェンジアップはキャッチャーが指示した場所へと行くが、縦スライダーはコントロールが定まらず、紅白戦の時にちゃんとキャッチャーのミットへと狙い違わず入ったボールは完全にマグレだという事実が露見した。

 

クールダウンをしている途中、放送で林山の名が呼ばれた。指定された場所は片岡監督の部屋である。

 

沫流は今日の投球練習での内容について言われるのかと恐々しながら、監督の部屋のドアをノックした。

 

「1年の林山です。入っても良いでしょうか?」

 

「あぁ、入れ」

 

「失礼します!」

 

部屋に入ると、片岡監督が一人座っていた。サングラスごしにも分かるくらい鋭い目つきでこちらを見ており、眉間にはシワが寄っていた。

 

「…林山。何故、練習中に一度もちゃんと投げてない?」

 

「え?いえ、そんな事は無いです!」

 

「いや、お前はセーブしながら投げているだろう。だいたい7割くらいか?元々のフォームから改造したのかは知らないが、今のでは今後投げられなくなるぞ」

 

「..いえ、昔とはフォームは変え「まだ、デッドボールを出した試合を引きずっているのか」.. !?」

 

何故、片岡監督が昔の自分を知っているのかと沫流は訳が分からなくなっていた。

 

言葉に詰まる林山を鋭い目つきで見ながら

 

「林山が入っていたコーチの高原は知っているだろう?奴とはちょっとした知り合いでな」

 

監督は椅子をクルリと回し、窓の外を見ながら話し始めた。

 

「俺はその日は練習も無く暇をしていた時に、奴からうちに凄いピッチャーがいるんだが見に来ないか?と唐突に誘われた。奴の野球人に対する目利きは信用している。あいつに凄いとまで言わせたのはどんな奴だと見に行った。そして、見せて貰ったよ。俺は鳥肌がたった。まだまだコントロールは甘いが、ピッチャーとしての素質は投手として最高級だと確信した。その日の試合以降も少し暇が出来れば、そいつを見に行った。勧誘しようとしたのも確かだが、純粋に奴がプレイする中でどう成長していくのかも楽しみにしていた。だが、俺が最初に見た日以来、姿を現さない。高原から辞めたと聞いて驚いた。どこへ行ったのかも分からないとも言っていた。それから一年半。俺も既に忘れていた頃に、この青道高校野球部のグラウンドでそいつはいた。だが、そいつの投球スタイルは違っていた」

 

監督は沫流の正面に立つと、低く、それでいて有無を言わさない声で問いかけた。

 

「…なぁ、林山。あの試合から、お前は何を思い感じた?」

 

監督は口を閉ざした。だが、沫流も一向に口を開かない。両者の間に長い沈黙が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこか遠くでカラスが鳴いた声が聞こえた。それをきっかけにか、沫流は口を開けた。

 

「...自分は今後、デッドボールを出さない様にと投球スタイルを変えただけです」

 

「ふむ..確かに今のならばデッドボールは出にくいかもしれない。だが、野球、いやスポーツ全般において絶対は無い。それを分かっていて変えたのか?」

 

片岡監督の問いかけに数瞬迷いながらも頷く。

 

「そうか..そのスタイルで以後も迷いはないか?」

 

「...はい」

 

「ならば、夜に1人でネットに投げるのを止める事だな」

 

「!!」

 

「この部屋からは良くグラウンドが見える。夜遅くに誰が投げているのかもな」

 

監督はもう一度、沫流の目を見て言った。

 

「林山、再度問おう。今のスタイルでは故障する恐れがある。最悪の場合、投げられなくなるかもしれない。だが、それは改善しなかった場合だ。改善すれば今のでも充分通用するだろう。それは大いに結構!だが!練習中も真剣に取り組め!投げるスタイルを変えて不貞腐れているのか知らないが、一々不満がありそうな態度で練習をやられるのは迷惑だ!そこをハッキリしろ!」

 

そこで片岡監督は自分を落ち着かせるようにか息を吐いた。

 

「明日...明日の練習が始まるまでに答えを聞かせろ」

 

「...はい」

 

「では、戻れ。話は以上だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいません、遅くなりました!」

 

「沫流ちゃん、お帰り。倉持と沢村ちゃんは先に風呂へ行ったよ」

 

どうやら増子は沫流の帰りを待っていたようだった。それに気付いた沫流は急いで洗面用具の準備をしだした。

 

「....沫流ちゃん、何かあったかい?いつもより顔が険しいよ」

 

「いえ、元々こんな顔ですよ」

 

 

増子さんには分かられてしまった。

 

沫流「まぁ、少し……悩み事がありまして…」

 

増子「そう言うのは先輩に言いなさい、沫流ちゃん。悩み事は溜め込まない方がいいよ」

 

増子さんのお父さんみたいな包容力に、ついつい口から出てしまった。

 

沫流「えっと…まぁ、何て言うか……。自分がしたプレーで失敗して流れが変わった時が怖くて…それで、少し悩んでて……」

 

増子さんは少し考えると

 

増子「そう言うのは、あまり考えないようにしてるよ。確かに自分のせいで負けたと言うのは、とても責任がある。けど、それをいつまでも背負っていたら前に進めない。次はどうしたら良いのか、どう改善すれば良いのかって、次へ次へと行動しなければ前に進めなくって、そのまま停滞したままだ。」

 

増子さんは前の試合でエラーをし、レギュラーを外された。けど、その事を反省し次に生かしているからこそ、今、一軍へと戻ったのだ。

 

沫流「…成る程。増子さん、ありがとうございます。参考になりました」

 

増子「そうか、それは良かった」

 

そう言って、増子さんは自分の洗面用具を持った。

 

増子「さて、沫流ちゃん。お風呂へ行こう」

 

沫流「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日の練習後~

 

御幸「よっ!」

 

沫流「え?御幸さん、何でここに?」

 

誰もいなくなったと思ったグラウンドに御幸さんがいた。

 

御幸「いやぁ~、監督にね、ここで待っているように言われたんだよ」

 

沫流「はぁ、そうですか」

 

そうして、御幸さんと雑談すること三分。

 

片岡「…よし、二人ともいるな」

 

ヘルメットを被り、バットを持った片岡監督が現れた。

 

片岡「今から、お前らはバッテリーを組め。俺がバッターとして入る」

 

御幸「え!監督自らが打つんですか!」

 

片岡「何だ、御幸。何か不都合でもあるのか?」

 

御幸「いえ、そう言う事では無く……」

 

片岡「なら、文句言わずにさっさと座れ!」

 

御幸「は、はい!」

 

御幸さんは監督の言われるまま、ポジションについた。

 

片岡「よし、林山。マウンドから御幸に向かって全力で投げてこい!甘かったら打つぞ!」

 

沫流「ぜ、全力でですか!」

 

片岡「そうだ!」

 

沫流「で、でも…」

 

片岡「グダクダ言わんとさっさと投げんかぁ!!」

 

沫流が渋っているのを監督が怒鳴り付けた。

 

片岡「林山!ストレート一本で俺から三振を取ってみろ!」

 

片岡監督はそう言うと、バットを構えた。御幸さんもマスクを被り構えている。

 

沫流(取り合えず、投げるしか無い)

 

沫流は右腕を振りかぶり、ボールをいつも通り投げた。

 

カキーン!

 

沫流が投げた球は片岡監督によって打たれた。

 

片岡「林山ぁ!それがお前の全力かぁ!」

 

そう言って、また構える監督。そして、また投げる沫流。

 

カキーン!

 

片岡「しっかりと投げてこんかい!!」

 

カキーン!

 

片岡「まだ甘いぞ!」

 

カキーン!

 

片岡「その程度かぁ!」

 

もう何度繰り返しただろうか。沫流が投げた球は一度も御幸のミットに入ること無く、全て監督に打たれていた。

 

御幸(さすが片岡監督だ。バットに全て当ててきている。だが、ここまで当てれるものなのか?いくらストレートだけとは言え、普通こんなに当てれないぞ)

 

そろそろ沫流が投げて50球を過ぎただろう。未だにミットへとボールは届かない。

 

御幸(監督も沫流に何を期待しているのか。練習後だから球速はいくらか落ちてるとは言え、全て俺が掲げたところへボールは飛んできているし、球速も申し分無い。これの何がいけないのか、後で監督に聞いてみるか)

 

御幸「片岡監督」

 

片岡「何だ」

 

御幸「何故ここまでやるのでしょう…。林山に何を期待しているのですか?」

 

これ以上やっても沫流を疲れさせるだけである。その旨を伝えると

 

片岡「確かに、そうだな…」

 

監督もそう判断したのか少し考える素振りを見せる。

 

片岡「残念だが…そろそろ止めさせるか。林山!後、一球投げて終わりだ!全力でさっさと投げてこい!」

 

御幸(全力でって………さっきから全力で投げているだろ!)

 

御幸がそう思っていると、沫流が初めて投球フォームを変えた。

 

御幸(ワインドアップか!)

 

そして、今日のラスト一球が放たれた。

 

ズドン!

 

御幸(!!!)

 

片岡「…ナイスボールだ」

 

ラスト一球。それは監督のバットに当たる事無く、初めて御幸のミットへと届いた。

 

御幸(何だ今のは!?多少ボールは荒れたが、降谷並の球威と球速だぞ!?)

 

片岡「林山!ボールを片付けて終われ!明日も今日と同じくやるぞ!御幸はこの後、俺と来い!」

 

沫流御幸「「はい!」」

 

そして、この日の練習は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御幸「監督!今日のあれは何です!」

 

ここは監督の部屋。中に入ると、すぐに御幸が聞いた。

 

片岡「御幸、少し落ち着け」

 

未だ、興奮が冷めない御幸を落ち着ける。

 

片岡「御幸には今日見て貰ったが、最後の球、恐らく奴の全力で投げた球だろう」

 

片岡は机に置いていたタオルで額の汗を拭いた。

 

片岡「御幸。奴の球を受けてどう思った?」

 

御幸「……川上と同じくコントロールが良いピッチャーだと。練習でも宮内さんが受けてたのを見て、そう判断をしました。けど、最後の球は……まだ数回しか受けてませんが恐らく球速、球威で三振を取っていくだろう降谷と同じ様に思えました」

 

片岡「…そうか」

 

そこで、少しばかり無言が続く。先に口を開いたのは御幸だ。

 

御幸「監督は…何故、林山が全力で投げてないと分かったのですか?」

 

御幸はそれが不思議であった。自分から見ても沫流は全力で投げているように思えた。

 

片岡「昔、奴の球を見たことがあってな。それと今とでは全然違ったからな」

 

片岡はそう言って、まだグラウンドで片付けてをしている沫流を窓越しで見た。

 

片岡「奴は中学の時、チームメイトをデッドボールで頭に当てた事があった。それ以来、コントロール重視のスタイルに変えたそうだ。………未だに全力で投げるのが怖いらしい」

 

御幸は成る程と思った。実際にデッドボールを出して、それ以降、立ち直れなかったピッチャーは多くいると知っている。

 

片岡「だが、奴はプレースタイルを変えてまでもマウンドに上がろうとした。確かにそれも一種の方法だろう。たが、トラウマから逃げている事には変わり無い」

 

片岡はそう続ける。

 

片岡「うちに入った以上、このトラウマを乗り越えさせる。だから、今日投げさせたのだ。まぁ…今日に全力投球するとは思わなかったがな」

 

そう言って少し苦笑をした。

 

片岡「そこでだ、御幸。今後、今日と同じく練習後、奴と投球練習をしてくれないか?」

 

御幸「練習後にやるのは別に構いませんが……他の投手はどうしましょう?」

 

御幸からしても今青道高校にいる投手の中で、一番魅力があり受けてみたいと沫流の球を見て思った。だが、投手は他にもいる。

 

片岡「丹波、川上は普段の練習でお前が受けろ。降谷、林山はその間、宮内に受けてもらう」

 

御幸「…分かりました。では、林山のボールを受けるのは練習後だけですね」

 

片岡「……すまないな」

 

自分が勝手事を言っていると分かって御幸に謝る。

 

御幸「いえいえ、自分も受けてみたいと思いましたよ」

 

監督が謝るのに焦りながらも、そう返す御幸。

 

御幸「では、これで失礼します」

 

片岡「あぁ」

 

片岡は御幸が出ていった後、一枚の報告書を見た。そこには、二軍と三軍の内容が書かれてある。全て高島部長が書いたものだ。

 

片岡(今の一軍に投手は四名いるとは言え、皆どこか危うい。丹波はまだまだ本調子ではなく、川上は精神的に弱い。降谷は一試合完投出来るだけの体力が無いし、林山に至ってはトラウマで全力投球が出来ない。)

 

今の投手陣では三年生にとって最後の夏の大会で勝つことが難しい。

 

片岡(…沢村にクリスをつけるか)

 

そしてこの時、沢村の成長次第で一軍へと上げるという事が決まった。だが、誰も知らない。沢村とクリスが出会った初っぱなで喧嘩が起きると言うことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

片岡監督と御幸が去っていった頃

 

沫流「あ~、くそ~!監督、どんだけ飛ばしてやがんだよ!」

 

沫流は監督に言われた通り、ボールを片付けていた。先程まで投げていた右手にはまだ熱が籠っている。

 

沫流(今日…久し振りに人に向かって全力で投げたよな…)

 

沫流は自分が投げた右手の掌を見て、先程の光景を思い出した。

 

 

 

 

 

 

片岡監督にラスト一球だと言われてやっと終わるのかと思った。今まで投げた球は全て監督によって打たれている。さすがに自信が無くなっていた。

 

沫流(あぁ、くそっ!何で打たれんだ!)

 

イライラしながら御幸さんのミットを見る。ミットの位置はど真ん中。

 

沫流(くそっ、打たせる気満々じゃねぇか、御幸の奴!)

 

どんどん沫流の中でフラストレーションが溜まっていく。

 

沫流(そもそも何であんなにバカスカ打たれんだ!今日、俺は調子良いのに!)

 

普段の練習中、今日のストレートは切れてるぞと宮内さんにも言われていた。

 

沫流(あぁ、もう!丁寧に投げてられっか!監督の言う通り全力で投げてやる!)

 

元々、全力投球で投げていた自分にとって、コントロール重視で投げていると言うのはどうしてもセーブがかかる。沫流の知らないところで、ストレスは溜まっていたのだ。

 

沫流(監督のお望み通り全力だ!後悔しても知らん!)

 

両手を高く上げ、フォームに入る。青道高校へ入って初めてのワインドアップ。

 

沫流(絶対に打たせん!)

 

そして、今日ラストの投球。

 

沫流「…らぁ!」

 

右腕を振りかぶり投げたボールは今日一番の球速球威を持ってキャッチャーのミットへ入った。ここからでも、マスクを被っている御幸さんが驚いているのが分かる。

 

沫流(……やっぱり、全力投球は良いな…)

 

一気に今までの疲れやストレスが飛んだみたいだ。

 

沫流(今日、全力で投げた……けど、また投げろと言われたら無理だろうな)

 

いくら全力投球が気持ち良かったとは言え、そう簡単にはトラウマは治らない。

 

沫流(あの時、先輩の頭に当たった時は自分のせいで死んでしまうのかと)

 

頭に当ててしまった時は、真っ先に先輩の元へ走ったのを今でも覚えている。幸い、命に別状は無く、その後の後遺症も残らなかった。その先輩は今でも野球をしていて、甲子園で出場していたのも知っている。先輩も大丈夫だから、お前は全力でプレーしたらいいと言われたのも覚えている。だけど…

 

沫流(……もう、あんな想いはしたくない)

 

今日、全力で投げたのは自分が冷静では無かったから。そう自分に言い聞かせる。

 

ピッチャーは常に冷静でいること。そしてコントロールが良ければ、キャッチャーのリードが有る限り早々打たれる事もない。打たれたとしても、どこへ飛ぶのか分かれば守備も怖くはない。

 

沫流(監督には悪いけど………俺は今後もこのスタイルを貫いていきます)

 

 

 

 

 

 

 

………片岡鉄心監督と林山沫流。それぞれの思いは重ならなかった。

 

 

 

 

 

 

 




誤字脱字等ありましたら、教えて頂けると有り難いです。
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