関東大会前日。グラウンドに青道高校野球部員が全員集まった。
片岡「今から関東大会のメンバーを発表する。呼ばれた者は返事をしユニフォームを取りに来い!」
「「「はい!」」」
片岡「1番、丹波!2番、御幸!3番……」
どんどん関東大会出場メンバーが呼ばれていく。
片岡「……18番、降谷!!以上このメンバーで関東大会は挑む!」
ここで番狂わせが起きた。今回の出場メンバーに一年生が入ったのだ。
片岡「明日、8時に食堂前に集合だ!1分足りとも遅れるな!」
「「「はい!」」」
そうして、今日の練習は終わった。皆が解散していく中
御幸「沫流」
沫流「何です、御幸さん?」
普段の練習後の全力投球練習は未だ続いている。だが、俺は初日以来、全力投球は一度もしてない。
御幸「俺、明日試合だからさ、あれは今日無しな」
沫流「分かってます。さすがに試合前は休んでください」
明日、レギュラーとして出るだろう御幸さんを自分の全力投球練習に付き合わせるのは不味いと言うのは分かっている。
御幸「すまん、じゃあな」
沫流「お疲れ様です」
御幸さんはそれだけを言いに来たのか、その後、投手陣と明日のピッチングについて話し合っていた。
沫流(…俺も今日はさっさと寝るか)
自分の寮部屋に戻ると、既に全員戻っていた。
沢村「…あ、わ、る……助けてくれ~」
扉を開けると沢村が助けを呼んできた。…どうやら沢村はもっちーさんとまたじゃれあっているようだ。仲の良い二人である。
倉持「ヒャハハハ!若菜って誰だぁ!さっさと答えやがれぇぇぇぇぇ!!!」
沢村「だから!幼馴染みって言ってるでしょ!」
よくよく聞くと、どうやら沢村の携帯に幼馴染みの若菜って子から応援メールが来たらしい。
沫流(何だ、ただのもっちーさんの嫉妬か」
倉持「嫉妬じゃねぇ!!」
どうやら口から出ていたらしい。
沢村ともっちーさんが騒がしくて増子さんの存在を忘れていた。どこにいるのかと部屋を見回すと何故か部屋の隅っこで暗い雰囲気を漂わせていた。
沫流「…ま、増子さん、どうしたんすか?」
増子「………プリン食べられた…」
よく見ると、プリンの残骸が増子さんの側にあった。…十中八九、沢村がまた無断で食べたのであろう。沢村も懲りない奴である。
沢村「ちょっ、ギブギブギブ!!」
倉持「若菜って誰じゃぁああ!!!」
増子「……俺の……プリンが…」
……はっきり言ってカオスだ。こんなんで明日の試合は大丈夫なのだろうか…。
その後、増子さんにプリンを買ってきてと頼まれ、もっちーさんとじゃれあっていた沢村を連れて、寮を出て五分のコンビニへと向かった。部屋を出たところ、春っちがいたのでついでに連行した。
…何故連行したかって?そんなの沢村の相手は疲れるからだよ。
コンビニへ着くと沢村はお菓子コーナーへ走り、その後を春っちが追いかけていた。完全に母子だと思うのは俺だけじゃないはず。俺は増子さんに頼まれたプリンと、部屋の人数分のお茶を買って外へ出た。二人はまだ、お菓子を選んでいる。
今日は満月。大きくて丸い月がとても綺麗に見える。
俺が空を見上げ黄昏ていると、キャプテンの結城さんとマネージャーさんたちがこっちへ歩いてきた。どうやら家へ帰る前にコンビニに寄りに来たみたいだ。
沫流「お疲れ様です」
結城「あぁ」
結城哲也さん。三年生でファースト。青道高校の四番を務める頼れる先輩である。
結城「今頃、コンビニに何を買いに……いつもの奴か」
沫流「そうです」
いつもの奴とは増子さんのプリンの事である。増子さんがプリン好きなのは、野球部全員が知っている事だ。
結城「帰るのが遅くなるなよ」
結城さんはそう言うとマネージャーたちと共にコンビニへ入っていった。が、一人のマネージャーは中へと入らなかった。
沫流「……先輩は行かないんですか?」
??「…私はいいのよ」
沫流「……そうですか」
そして無言の空気が続く。……沢村、春っち!早く帰ってきて!
??「…ねぇ」
沫流「…何です?」
??「…久し振りに会ったね」
沫流「……えぇ、そうですね」
また、無言の空気が続いた。
??「……貴方、いつも私を避けてない?」
沫流「…先輩の気のせいです」
??「……白河君、稲代に行ったんだって」
沫流「…そうですね」
??「………」
沫流「………」
??「……ねぇ、どうしてあの時、一言でもいいから私に言ってくれなかったの?そんなに私は…頼りなかった?」
沫流「……何の話です?」
そこで、ついに相手が切れた。
??「何でさっきからそんな喋り方なのよ!私がどんだけ心配したと思ってるの!?メール拒否までして!!」
彼女の声が響いた。
??「……私たちは貴方を待っていたのよ…」
沫流「………」
??「……どうして…どうして何も言わないで去ったの」
彼女の声は泣いていた。
沫流「……俺にはもうあそこにいる資格なんて無かった」
??「誰も貴方の事、責めたりしなかったでしょ!」
沫流「それでも…俺のせいでチームは負けた」
??「だけど……それでも皆、貴方の事待っていてくれたのよ!貴方がいつか戻ってくるようにって…貴方の着るはずだったユニフォームをいつもベンチに置いて!」
沫流「………」
??「………私じゃなくても良かったから……せめて誰かに連絡ぐらいはして欲しかった…」
沫流「……ごめん」
いつもは煩いはずの騒音が今日に限ってない。周りは何故か静かだった。何の音も聞こえないくらいしーんと静まり返っていた。そして、また彼女が口を開きかけた時
沢村「やぁやぁ!待たせたな!沢村様のおと…お…り?あれ?何か来ちゃダメだった?」
空気の読めない沢村が出てきた。だが、今はそれが有り難い。
沫流「いや、そんなことないよ!さぁ、早いとこ帰らないとまた、もっちーさんに格闘技されるよ」
沢村「そ、それは嫌だ!春っち!行くぞ!」
春市「あ、栄純君、待って!」
沢村と春っちが走っていく。
沫流「…では、先輩。また」
??「ちょっと待っ…」
沫流「…チームに迷惑をかけたのは俺の責任です。だけど、もう今は関係ない。あの頃には戻れない………これ以上は何も言わないで下さい」
??「沫流君…」
彼女はまだ何か言いたそうだ。
沢村「沫流~!早く帰るぞ~!」
沫流「すぐ行くよ!」
沢村と春っちが遠くから呼んでいる。
沫流「では、これで失礼します」
沫流は彼女を通り越し、沢村たちの元へと向かう。彼女の横を通りすぎる時
沫流「……唯、ごめん」
去り際にそう呟き、走り去っていった。
梅本「いや~、期間限定のスイーツ売れ残ってて良かったぁ~」
二年生マネージャー、梅本幸子。黒髪を二つくくりにしているのが特徴だ。
梅本「あれ?唯ちゃん、どしたの?」
梅本が話しかけたのは、遠ざかる三人の後輩たちの背を見ている同じ二年生マネージャーの夏川唯だ。
夏川「ううん…何でもないの」
夏川は首を振った。だが、彼女の目は赤くなっていた。
梅本「もしかして…泣かされたの?」
梅本はそれに気が付くと、もう小さくなっている後輩たちを睨み付けた。
梅本「ふっふっふ…私の唯ちゃんを泣かしたのは誰だぁ!沢村か!春市か!林山か!いや沢村だね!さぁ、誰なんだ唯ちゃん、沢村でしょ!?」
普段の行いの差か沢村ばかり疑われる。
夏川「ううん、本当何でもないの」
夏川は梅本の形相にふふと笑うと
夏川「さっちゃん、さっさと帰ろ♪」
そう言うと、さっさと彼女は歩いていく。
梅本「…はぁ、元気なら良いんだけどね」
梅本は溜め息をつきながらも彼女と一緒に帰ったのだった。
夏川梅本(何か忘れてる気が……?)
~コンビニ前~
結城「…………置いてかれたのか」
藤原「……そうみたいね」
吉川「えと…その…多分…」
残されたのは結城と二人のマネージャー、三年生藤原貴子と一年生吉川春乃だ。
藤原「そう…私たちを置いて先に帰ったのね…。あの子たちにはお仕置きをしてあげないと…ふふふ」
結城吉川(藤原/貴子さん、怖ぇぇ!!)
そうして関東大会が始まった。
関東大会初戦、横浜港北高校との対戦。試合は6回表。今日の青道高校のピッチャー丹波は遂に横浜高校に捉えられた。そして、ここでピッチャー交代が行われた。
『ピッチャー、丹波光一郎君に変わりまして…18番、降谷暁君』
青道高校監督の片岡は二年の川上ではなく、一年の降谷を使ってきた。
「おいおい、ここで一年かよ!」
「何で川上じゃないんだ!」
「監督は何をしているんだ!」
観客は青道高校に不満を漏らす。
「おい、一年使ってきたぞ」
「俺たちも舐められたもんだな!」
「諸君、あの一年に高校野球の怖さを教えてあげようじゃないか!」
横浜港北高校はピッチャーが一年と聞いて、バカスカ打ってやろうと気合が入っている。
だが、この試合が終わる頃、この一年に注目させられるとは思いもしなかっただろう。
ズドン!
審判「バッターアウト!」
「…おい!見たかよあれ!?」
「めちゃくちゃ速く無かったか!」
「あれが一年の投げる球かよ」
「あいつの名前は……降谷…降谷暁だ!」
試合は9回裏に青道高校打線が爆発するも一歩追い付けず、6-5で横浜港北高校の勝利で終わった。
しかし、その日を境に青道高校の降谷暁というピッチャーの名が広まっていった。
誤字脱字等ありましたら、教えて頂けると有り難いです。