ウイニングショット   作:スカイ・ブルー

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8・・練習後の練習

 

関東大会が終わり、また普段の練習に戻った。しかし、一年生投手降谷の活躍が他の高校に危険視され、練習試合などを申し込んでくるところが多くあった。練習でもギャラリーが増えている。

 

ただ、そう悪い事ばかりでもない。降谷の活躍により他の投手たちも奮起してきている。エースで三年生投手丹波さんは大きく曲がるカーブを武器に日々投げ込んいた。最近は幅を広げる為、フォークを覚えたそうだ。リリーフ経験が多い二年生投手川上さんは低めのサイドスローを丁寧に投げている。先程からキャッチャーのミットを動かせもしない抜群のコントロールをしている。そして、今注目の的の一年生投手降谷は体力増加の為、走っている………あれ、走ってんのか?……二軍では沢村がキャッチャーのクリスさんという人と共に練習をしている。前までは沢村は部屋に帰るとブツブツ文句ばっかり言ってたのが、ここ最近、急にお師匠様~となついていた。……彼に何があったのだろうか。

 

そして俺、林山沫流はピッチャーの練習をしているのでは……

 

伊佐敷「ごらぁあ!林山、ぼーとしてんならそこをどけぇええ!!」

 

沫流「大丈夫です!」

 

……なく外野をやっている。一軍にピッチャーが四人いる以上、全員が投手として試合に出るわけにはいかない。それならと、他のポジションも出来る俺が外野の練習もすることになったのだ。

 

「次、ライト!行くぞ!」

 

沫流「どんどんお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

片岡「よし、今日はこれで終了だ!片付けをして部屋に戻れ!」

 

沫流御幸「はい!」

 

既に日課となっている俺の全力投球練習は今もやっている。片岡さんは俺が初回で投げたきり、一度も投げてないのにも関わらず何も言ってこない。どこか恐ろしい。

 

今は御幸さんと共に片岡さんがぶっ飛ばした球を拾い集めている。

 

御幸「なぁ、沫流」

 

沫流「何ですか、御幸さん」

 

投球をしてる時は全然気付かなかった疲労も、練習が終わると一気にのしかかってくる。今日も疲れたな~と思っていると御幸さんが話かけてきた。

 

御幸「確かさ、お前、バッターが立っていると全力で投げれないとか言ってたよな?」

 

沫流「あ~、確かにそんなこと言ってましたね」

 

バッターが立つと嫌でも思い浮かんでくる。

 

御幸「ならさ………バッターいなかったら全力で投げれるんじゃね?」

 

沫流「……どうでしょうね」

 

そんなこと、思いもしなかった。

 

沫流「まぁ、無理じゃないですかね。この投球スタイルで行くと決めましたしね…それにバッターがいなくて投げれても野球出来ませんよ」

 

そもそもバッターがいない野球などただのキャッチボールである。

 

御幸「バッターがいなくて投げれるかも知れないか……よし、やってみようぜ!」

 

御幸さんはそう言ってキャッチャー用具を装備する。

 

沫流「え!ちょっ、俺もう疲れましたよ!」

 

御幸「まぁまぁ、いいからさ!」

 

結局、御幸さんに押しきられ、一回だけ投げる事になった。

 

沫流「どうせ、一緒ですって」

 

御幸「まぁ、変わらなかったらそん時はそん時だ。でも、もし投げれたら一歩前進したて事だろ?」

 

沫流「まぁ、それもそうですけど…」

 

御幸「投げてこいよ、ほら!」

 

そう言うと、全身を大きく見せ、ミットを構えた。

 

御幸「ほら!来いよ!」

 

沫流「はぁ………行きますよ」

 

沫流は右腕を振りかぶり…投げた。

 

パァン!

 

投げた球は今まで投げたのと変わらなかった。

 

沫流「ほら、御幸さん。何も変わらなかったでしょ?」

 

御幸「…あぁ、そうだな」

 

御幸さんは何故か不可解な顔をしながら頷いた。

 

沫流「じゃあ、今日はこれでおしまいですね。ボールは片付けとくんで、監督に報告の方お願いします」

 

沫流はそう言うと、ボールが入った籠を持って倉庫へと歩いて行った。

 

御幸は沫流が歩いていく後ろ姿を見ながら

 

御幸「なぁ、今の撮れたか?」

 

??「バッチリ!ちゃんと撮ってあるわ!」

 

御幸が問うと物陰から一人の女性が現れた。

 

御幸「よし、なら監督の元へ行くぞ。夏川、それを見れるようにセット頼む」

 

夏川「分かってるよ!沫流君の為だからね」

 

物陰に隠れていた女性は二年生マネージャーの夏川だった。

 

御幸「それにしても、お前が手伝ってくれるとはなぁ~」

 

その日、帰るのが遅くなった夏川は急いで帰ろうとグラウンドの横を通った時だった。グラウンドに電気がついていたので、消し忘れかなと思い見ると、片岡監督と同級生の御幸、それに沫流がいた。慌てて隠れて覗き見ていると、どうやら沫流の全力投球練習らしいと言うことが分かった。その日の練習が終わり、監督が出てて行くのを見て、その背を追いかけた。

 

夏川「片岡監督!」

 

片岡「!夏川か、どうした?もう、夜遅いぞ」

 

いきなり現れた夏川に驚いた監督。

 

夏川「あの……沫流君の投球練習をしているんですよね?」

 

片岡「…見ていたのか」

 

夏川「はい。それで、あの…」

 

片岡「…すまないが、その事は黙っていてくれないか?少し、俺も奴に固執し過ぎたようだ」

 

片岡監督はそう言うと、気まずいのか背を向け部屋に戻っていく。監督が帰ってしまうのを慌てて

 

夏川「あの!監督!私は彼の中学の時を知ってます!」

 

監督が驚いたように振り向いた。

 

片岡「…何?そうなのか?」

 

夏川「はい!…私は沫流君がいたシニアのマネージャーをしていたんです!」

 

夏川がシニアのマネージャーをしていたのを初めて知る片岡監督。

 

片岡「それで…どうしたいんだ?」

 

夏川の意図を図りかねて、そう尋ねた。

 

夏川「私に…彼のお手伝いをさせて戴けませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御幸「しっかし、監督も粘るよな~」

 

かれこれ沫流の練習に付き合ってそろそろ一ヶ月がたつ。その中で全力で投げたのはたったの一回。それ以外は全ていつものピッチングだ。

 

御幸「確かに沫流の球は筋が良いし、球速も球威も問題ないけどさ……はっきり言ってそれなら降谷もいるし、コントロールなら川上もいるしな。何であんなに固執するか分からん」

 

そう言いながら歩く御幸。

 

夏川「監督は中学の沫流君見ちゃったからね」

 

御幸「そうそれ!夏川も言うけどさ、そんなに中学の沫流て凄かったのか?俺もシニアのチームいたけどさ、沫流なんて珍しい名前知らないぞ」

 

夏川「まぁ、沫流君は事情があってほとんど公式戦に出てなかったからね…。」

 

そこでふと夏川は思い出した。

 

「あ、そうだ!中学の時の沫流君のビデオが家にあるんだけど見てみる?」

 

昔、どういう風に投げてるのか分からないしビデオ撮ってくれないか?と沫流に言われてたのを思い出した。そのビデオは今でも家に大切に保管してある。

 

御幸「まじ?じゃあ、明日頼むわ!」

 

夏川「うん、明日ね!」

 

そうして、監督の部屋に着いた。

 

コンコン

 

御幸夏川「失礼します!」

 

中へ入ると、監督は毎日高島部長が書いている報告書を見ていた。

 

片岡「…遅かったな」

 

監督は御幸と夏川が入ってくるのを確認すると、報告書を机に置いた。

 

片岡「夏川、ビデオの準備を頼む」

 

夏川「はい!」

 

片岡「俺は珈琲でも入れてこよう…ミルクはいるか?」

 

御幸「俺はブラックでいいっす」

 

夏川「私はミルクをお願いします」

 

片岡「分かった」

 

片岡監督はそう言うと、隣の寝室へと入っていった。御幸はのんびりと寛いでいる。

 

ビデオのセットも終わり、監督も揃ったところで今日のピッチングを見た。沫流の投球スタイルは普段の練習で疲れているのにも関わらず、全然ぶれていなかった。そして、監督がいなくなった後の一球を見て、片岡監督と御幸の目が険しくなった。

 

御幸「……多分、今緩めましたね」

 

片岡「あぁ、そうだな」

 

そう二人で会話している。夏川には何が緩んだのかさっぱり分からない。

 

夏川「えっと…何が緩んだんです?」

 

最後のピッチングを繰返し見ている二人に聞いた。

 

御幸「今まではちゃんと腕を振り抜いてる。だが、最後のは途中でセーブしてるんだ」

 

御幸が解説してくれるが、夏川には何も違いが分からない。それでも二人の会話は進んでいく。

 

御幸「恐らく…全力で投げようとしたのを途中で止めましたね」

 

片岡「だろうな。球速はそんなに変わってないが、コントロールが甘く入っている」

 

御幸「これは気付いてセーブをした……んでしょうかね?」

 

片岡「いや、分からん。だが、気付いてるのならば、明日には同じ事をしないだろう」

 

御幸「成る程……では明日、同じ様な事が起これば…」

 

片岡「そうだな。これで奴に一歩前進させる事が出来るだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~次の日の練習~

 

沫流「え!またですか?」

 

御幸「そう!もしかしたらさ、今日は出来るかもしれないし」

 

沫流「まぁ、御幸さんが言うならやりますけど…」

 

監督がいなくなった後、また御幸さんが頼んできた。

 

御幸「よし、沫流!いつでも来い!」

 

ドンと構える御幸。

 

沫流「はいはい……行きますよっ!」

 

パァン!

 

そして、今日も昨日と変わらず終わった。

 

御幸は沫流が帰っていくのを見届けると

 

御幸「夏川、もういいぞ」

 

夏川「うん、今日もバッチリ撮れてるよ!」

 

御幸「よし、監督のとこへ急ぐぞ」

 

夏川「はーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御幸「これは…決まりですね!」

 

片岡「あぁ」

 

今日の最後に投げたピッチング。それは昨日と同じセーブされた右腕から放たれたボールだった。

 

御幸「監督。これからどうします?今のままの投球だと、腕に負担をかけることになる」

 

片岡「そうだな……明日はネットに向かって投げさせてみるか。確か、奴はネットに向かって投げていた時があった」

 

御幸「そうですね……一度人がいない状態で投げさすのも良いかもしれません」

 

御幸はそう言うとフーと溜め息をついて、監督が入れてくれた珈琲を飲んだ。そして、ふと思い出すと

 

御幸「あ、夏川!昨日の言っていたあれ、持ってきたか?」

 

夏川は一瞬あれって何?と考えたが

 

夏川「あぁ、あれね!持ってきたけど……どこで見るの?」

 

御幸「そうだな……片岡監督、夏川が林山の中学の時の試合ビデオを持ってきたんですけど、ここで見ていいですか?」

 

片岡「良いだろう。俺も奴の試合を見てみたい」

 

監督の許可をとった事を確認すると、夏川は家から持ってきたビデオをセットした。

 

夏川「これは沫流君が一年の冬に出場した練習試合です」

 

ビデオにはまだ幼い顔の沫流が映っていた。ビデオを撮っているのは夏川だろう。その夏川に向かって手を振っている。試合は5-2で6回裏、沫流がいるチームが負けていた。丁度、沫流が交代で出てきたようだ。

 

沫流は捕手とサインを確認しあうと、マウンドへ立った。その姿は中学一年生ながらも堂々としていた。ベンチからは沫流を応援する声も聞こえる。

 

そして試合が始まった。

 

沫流の初球。それはバッターの胸元すれすれのインコースをついたストレート。バッターは驚いて尻餅をついた。続く二投目。外角へのストレート。思いきってバットを振るが、明らかに振り遅れである。そして三投目。バッターは空振り三振で終わった。最後の球はチェンジアップ。最初のバッターをアウトにした事で調子を上げると、続く二人のバッターも三振に仕留め、マウンドで拳を挙げ吠える沫流。

 

御幸「はぁぁぁぁぁ……この歳で、もうこんなスピードがある球投げれんのかよ」

 

御幸は大きく息を吐いた。自分が中学で所属していたチームのピッチャーとは比べ物にならない。

 

そんな驚く御幸に夏川は沫流が誉められて嬉しいのか

 

夏川「御幸君、これはまだまだ序の口よ。沫流君が凄いのはこの後のピッチングだよ♪」

 

七回表。9番を三振に仕留め、先程の沫流と同じく三者三振をとるピッチャー。こちらのピッチャーも中々のものだ。

 

そして沫流が登板して二回目の七回裏。ここで相手の4番が回ってきた。この4番はこの試合で二打席ホームランを打っている。画面の中の沫流は守備をしている皆に打たしていくから頼むぞ!と叫んでいた。

 

そして一球目。バッターの膝元にストレート。しかしそのボールは勢いよく振り切られたバットによってキャッチャーのミットへとは届かなかった。だが、ボールは大きく飛んでいったがファールとなる。バッターはいつでもホームランを狙えると判断したのか、調子に載ったようにバットを大きく振って構える。今回の打席で三打席ホームランを成功させようとしているのだろう。だが、そんなバッターを気にせず、キャッチャーは審判にタイムを取って沫流の元へ向かった。そして沫流と一言二言喋ると戻っていく。そこで何を喋ったのかは分からないが、二人とも悪そうな顔でにやついていた。

 

そして二球目。キャッチャーのミットは低く構えられている。沫流の右手から放たれたボールは若干山なりを描くように飛んでいった。球速も遅い。

 

御幸(失投か!?)

 

バッターはこれ程打ちやすい球は無いぜと言うように、狙いをつけ振った。しかし、それはボールに当たる事無く空を切り、キャッチャーの構えているミットにはボールが入っている。ミットは最初に構えた位置から動きもしていない。

 

御幸(何だ今の!いくら何でも落ちすぎだろ!?)

 

沫流が投げた二球目。それはドロップと呼ばれるもの。又は縦カーブとも言う。縦カーブは丹波さんが得意としているが、今の沫流が投げた球はそれよりも格段に変化していた。一度落ち、そしてまだ落ちるという歪なボール。バッターは驚いていて、まだ現実に戻っていないようだ。

 

そうしている間にも続く三球目。アウトコースへと投げられたストレートは、まだ動揺しているバッターに振らせる事無くミットへと収まった。これで三振が決まったと誰もが思っていただろう。しかし、審判のサインはボール。続く四球目もボールとなる。その頃にはバッターも立ち直っていて、鋭い目付きで沫流を睨み付けている。次こそは打つと言う風に構えるバッター。そんなバッターに気にした様子も無く沫流は五球目を投げる準備をする。

 

片岡「…わざとボールにしたのか」

 

夏川「はい…この時のキャッチャーの人がそう言ってました」

 

ドロップを投げた後の二球はわざとボールにされた球だと監督は気付いていた。

 

夏川「次の球、見ていてください」

 

画面の中の沫流はキャッチャーのサインにニヤリと笑って頷くと、右腕を大きく振りかぶり投げた。そのボールは今日一番の球速を持ってミットへと飛んでいく。だが、沫流が投げた球はど真ん中へと進む。誰もが打たれた!と思った瞬間、ボールは右側へと曲がった。

 

カキン!

 

バッターが打った球は上手くミートをせずにサードへと勢いよく転がる。だが、サードはそれを危なげなく捕球するとファーストへ投げた。

 

「アウト!」

 

今のは確実に打たせた球と言うのが見てとれた。

 

片岡「……今のはシュートか」

 

夏川「そうです。確かこの頃に完成させたはずです」

 

シュート。それは投手の投げた腕の方向に曲がる球である。若干、ストレートよりも速くなる球種でもあり、中々使い勝手が良い。

 

夏川「この球と先程投げたドロップは、今後の沫流君のウイニングショットとなりました」

 

そして…と夏川は続ける。

 

夏川「……そして、この球が沫流君のトラウマとなるボールともなったのです」

 

三人とも何も喋らなかった。部屋にはビデオから流れる音声だが響いた……。

 

 

 

 




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