ウイニングショット   作:スカイ・ブルー

9 / 9
9・・葛藤

 

 

 

4番の後の二人を三振に仕留め、この回は終わった。沫流はチームの皆に良くやったなと背中を叩かれている。

 

八回表。ここで沫流チームのクリーンアップが回ってきた。今日二打席ヒットを打っているショートだ。その回ってきたバッターに対し御幸は驚きの声をあげる。

 

御幸「おい、これ白河じゃねぇか!」

 

白河勝之。現稲代実業高校の二番手を務める好打者である。去年の夏に苦しめられた相手だ。

 

夏川「そうなの。この時の試合ではクリスさんを始め三年生はほとんどいないけどね」

 

と言うことは、沫流の奴は東京都丸亀シニアにいたのかと驚く御幸。

 

御幸「あれ?俺は何度もここと戦ったけど、一度も沫流見たことが無いぜ?」

 

夏川「沫流君は家の事情でほとんど試合に出てこなかったからね…。練習は出てたけど、公式試合には一度しか出れた事が無いのよ…」

 

二人が話している間にも試合は続いている。

 

ピッチャーが投げた球を綺麗に打ち返すしヒットにさせる白河。続く2番、3番も連続ヒットを出し、早くもノーアウト満塁である。そして続く4番は沫流とバッテリーを組んでいたキャッチャーである。だが、ファールを打ちながらも三振に倒れた。そして5番。ここで沫流の出番がきた。

 

御幸「ここはホームランでも打つか?」

 

そう推測する御幸。バッティング練習で長打を放つ沫流を見ていたからであった。

 

しかし、御幸の推測は早くも崩れる。ピッチャーが投げる球を一球、二球と大きく空振りをしたのだ。当たれば飛びそうなスイングだが、振ったバットとボールとの距離は20㎝ぐらい空いている。

 

御幸「………もしかして、この時の沫流って下手くそ?」

 

夏川「え、えっと……まぁ…」

 

そう言葉を濁す夏川。

 

大降りの空振りをしている沫流にチームメイトから野次が飛ぶ。

 

沫流は不満そうな顔をすると先程とは違うバッティングフォームをした。それは白河が打つ時と良く似ていた。

 

夏川「沫流君は白河君を尊敬していて、何でも真似をしてたんですよ」

 

沫流はシニアに入ってすぐに白河になつき、いつでも後ろをつけて回った。最初は煩わしくしていた白河も、段々と沫流をかまう様になり、この試合の時は既にシニア名物カルガモ親子とまで言われていた。

 

沫流はバッティングフォームを変え、挑む三球目。低めのストレートを綺麗に当てた。ボールは内野の頭を越え、ヒット。塁に出ていた三人は沫流が打つ前から走っており、既にホームに二人目が帰っている。沫流は一塁で止まり、ワンアウト一、三塁となった。

 

御幸「なぁ……こいつら沫流が打つって分かっていたのか?」

 

打つと分かっていなければランナーは二人も帰れなかっただろう。そう疑問を持つ御幸に

 

夏川「沫流君はね……白河君の真似をして打つと9割の確率で当たるんだけど……我流で打とうとすると絶対に当たらないのよ…」

 

何と言うか極端な沫流のバッティングであった。

 

夏川「最初は自分の好きなように打ちたい!って言ってたんだけど全然当たらなくてね……。それでツーストライクまでは自分の好きなバッティングをすれば良いから、追い込まれたら白河流のバッティングをしろ!って事になったの」

 

説得が大変だったのよと苦笑いする夏川。

 

沫流に続くバッターはヒットを打つもゲッツーを喰らい点は入らず。九回表で最後のバッターが倒れると試合は終了。5-4で丸亀シニアは負けた。

 

そこで、ビデオが終わった。

 

御幸「いやぁ~、今と昔とじゃ全然違うな~」

 

昔の沫流のピッチングは常に全力で投げ、三振を取るところは取る、打たせる時は打たせるときっちり分かれていた。チームがだれないようテンポ良く投げている。だが、今のピッチングは三振を取る事は一度もせず、全て打ち取らせるスタイルに変わっていた。

 

どちらが悪いという訳ではないが、昔のスタイルの方が断然チームの指揮が上がるだろうと御幸は思った。

 

片岡「御幸、お前なら奴をどうリードさせる?」

 

映像を見てる中、ずっと黙ったままだった監督が口を開いた。

 

御幸「俺なら…4番を三振に抑え、他は打ち取る…ですかね。そこは状況によりけりですけど」

 

あれのピッチングを見るからにリードが楽しそうだと考える御幸。今の沫流のピッチングは自分の構えたミットのところへ必ず来るのでリードが楽なだけに少し物足りない。しかも、その分打たれやすくもあるのが欠点である。

 

片岡「今日はもう帰って寝ろ。もう夜遅い」

 

時計は既に10時を回っている。片岡は夏川に五千円札を一枚渡すと

 

片岡「今日はタクシーで帰れ、釣りはいらん」

 

夜遅くに女性が歩くのは危険とお金を渡すとタクシー会社に連絡をかけた。

 

そうして解散をしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~次の日の練習~

 

片岡「今からネットに向かって投げてもらう」

 

いつも通り御幸さんに向かって20球程投げていると、監督に突如言われた。俺がバカスカ打たれるから練習内容を変えてきたのだろうか?

 

御幸「まずはいつも通り投げてみて」

 

御幸さんは俺の横で見物をするみたいだ。

 

沫流「じゃあ、投げますね」

 

俺はネットの中心に向かって丁寧に投げた。

 

御幸「うん、OKOK」

 

何がOKなのだろうか?御幸さんは一人で頷くと

 

御幸「じゃ、次は全力で投げて」

 

次は全力投球をご希望らしい。

 

沫流「全力で…ですか?」

 

沫流「そうそう。ネットに向かってなら投げられるんだろ?」

 

御幸「まぁ、一応は……」

 

人に見られながらは一度も無いが、ネットに向かってなら何回もある。取り合えず、全力で投げてみようと右腕を振り抜いた。

 

御幸「おぉ!降谷よりは若干遅いぐらいか?まぁ、それでも速いけど」

 

人にじっくりと見られながら投げると言うのは始めてだが、上手く投げれた。

 

御幸「監督!」

 

御幸さんは監督に合図すると、監督はネットの後ろに立った。何をするのか。

 

沫流「御幸さん?今から何を?」

 

御幸「まぁ、一回投げてみて」

 

監督がネットの後ろにいる状況で投げろと御幸さんは言う。

 

御幸「バッターはいないし、キャッチャーもいない。あるのはネットと近くにいる観客だと思って投げてみろよ」

 

これなら投げられるんじゃないかと御幸さんは思っているようだ。

 

御幸「ほら、早く投げろって」

 

今は御幸さんの言う通り、投げてみよう。そう思うと右腕を振りかぶり投げた。

 

沫流「!!」

 

ネットへと届くボール。だが、それは自分では全力でと投げたはずなのに普段の練習と変わらないボールであった。

 

沫流「もう一回投げます!」

 

そう言って投げた。結果はさっきと同じ、いつもと何ら変わらないボールだった。

 

これには自分も驚きが隠せない。

 

沫流「…ちっ!何で投げれん!」

 

一人苛ついている自分の元へ監督がやって来た。

 

片岡「御幸どうだ?」

 

御幸「完全に無意識ですね」

 

片岡「そうか」

 

何の話をしているんだ。

 

片岡「多分、何の事か分かっていないだろう。今言うのも良いが言うよりも見る方が早い。今日の練習は終わりだ。片付けてから俺の部屋へ来い」

 

監督はそう言うと、一人戻っていった。

 

沫流「御幸さん、監督は何を?」

 

御幸「まぁ、行ったら分かるさ」

 

御幸さんは答えをはぐらかし、片付けを始めた。先輩だけに片付けをさせる訳にもいかず、すぐに自分も片付けに入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沫流御幸「失礼します!」

 

片付けてが終わると御幸さんと共に監督の部屋へと急いだ。部屋に入ると監督と何故かマネージャーの夏川さんがいた。

 

沫流「何で夏川さんがここに?」

 

その疑問に御幸さんが答えてくれた。

 

御幸「夏川にちょっと手伝って貰ってたんだよ」

 

部屋にはビデオが再生されていた。映っているのは俺今日の練習のピッチングである。相変わらず、監督にぶっ飛ばされている。

 

片岡「林山。今から自分のピッチングを良く見ておけ」

 

監督は映像を指差し言った。

 

映っているのは丁度ネットへ向かって投げている最中である。一球目はいつも通り、二球目は全力。違うのはそれだけで、何も変わらない。そして、監督がネットの後ろに立った直後の投球。全力で投げた球が何故かいつも通りと変わらなくなってしまったやつだ。

 

それにどこか違和感を覚える。続く二球目。やはり何かがおかしい。

 

片岡「何で投げれて無いか分かるか?」

 

沫流「いえ……違和感はあるんですけど…」

 

片岡「もう一度流す。良く見ておけ」

 

そうしてもう一度映像が流れる。自分のフォーム…変わりはない。足の角度、ボディバランスも変わりない。そして腕を振り上げ…投げ……る!?

 

沫流「腕か!」

 

僅かだが、途中まで振られていた右腕が緩まれる。

 

片岡「気付いたか」

 

監督と御幸さんは俺の状況を知っていたのだろう。だが、二人とも俺の練習に付き合っていてそんな余裕は無かった。そして、この映像が撮られているところにはカメラも無かったはずだ。

 

沫流「………これ撮ったの夏川さんですね?」

 

撮り方が昔見たのと同じであった。少し右上がりに撮られているのが特徴だ。

 

夏川「…よく分かったね」

 

沫流「昔撮ったのと撮り方が同じでしたから…」

 

夏川「……覚えててくれたのね」

 

沫流「まぁ、何回も見てましたし…」

 

御幸「はいはい、そういう思い出話は後で。沫流はこれを見てどう思う?」

 

夏川さんと喋ってたのを突如御幸さんが入ってきた。

 

沫流「…恐らく……この投げ方をすると肘が危ないと…」

 

御幸「分かってるなら良いけど、これをどうするかだ」

 

沈黙が続く。

 

片岡「…今日で約1ヶ月。お前にはずっと投げて貰ったが一向に改善はしなかった。これからは練習試合も多くある。夏の大会も近付いている。そんな中、お前一人の練習に時間を割いている余裕は無いのは分かるな?」

 

確かに片岡監督と御幸さんには強制練習だったが1ヶ月間、文句も言わず付き合ってくれていた。夏川さんにもいつからかは分からないが手伝ってくれていたのだろう。

 

片岡「林山。お前は昔のスタイルを捨ててまで投手としてここへ来た。怖いから今のスタイルに変えたとも聞いた。だが、未練を残しているのか稀に一人で全力投球しているのを何度も見た」

 

監督の話は続く。

 

片岡「そこで再度問う!お前は本当に今のままを貫くのか?それならば、今後それを貫け!ただし三年間、全力投球をすることを許さん!…だが、昔のスタイルに戻したいと言うのならば、最善の処置をしよう!」

 

そう言って、沫流の答えを待った。

 

沫流自身、今のだと不満が無いと言えばそれは間違いであるという事は分かっている。だが、昔の事を思い出すと、今でも手が震える。またマウンドに立って自分がそこで投げれるとは思えない。

 

そう一人葛藤していると、誰かが手を握った。夏川さんだ。

 

夏川「…沫流君。私は前の貴方がマウンドに立ってる姿が好きだったのよ。けど、今の貴方は好きじゃない。何でか分かる?」

 

沫流「……………いや…」

 

夏川「それはね、今の貴方を見てても楽しそうに思えないからよ。貴方はいつでも楽しく全力でやっていた。そんな貴方だから、チームの皆もついていったのよ」

 

沫流「………」

 

夏川「それに今の貴方を白河君が見たらどう思う?貴方は白河君にそんな姿を見せたいの?」

 

沫流「…それは……」

 

夏川「貴方とバッテリーを組んでいた多田野君もガッカリするよ」

 

沫流「………」

 

夏川「……私は前の貴方に戻って欲しい。だから……また一緒に野球を楽しも?」

 

沫流「………考えさせてくれ」

 

沫流はそう言うと、握られていた手を振り払った。

 

沫流「監督。明日の朝、答えを出します。後は一人で考えさせて下さい」

 

片岡「あぁ、良いだろう」

 

沫流「では失礼します」

 

沫流はそう言うと部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

整備されたグラウンド。そこに沫流はいた。彼の手には一つのボールが握られている。そのボールはシニアに入って初めてホームランを打った時のボールだ。ボールにはその時シニアに在中していたメンバーの名前が書かれてある。そのボールを手で玩びながら、ポケットから携帯を出した。電話帳から一人の名前を押す。携帯を耳にあてて、相手が出るのを待った。

 

『もしもし』

 

「……沫流です」

 

『え!?マジか!久し振りだな!元気だったか?』

 

「えぇ、一応元気にやってます」

 

『そうかそうか。それは良かった』

 

「……少し相談に載ってくれませんか?」

 

『お?好きな奴でも出来たか?』

 

「いえ……野球の話です」

 

『あ~……どうせ、どうやったら前みたいに投げれるんだ、だろう?』

 

「………知ってましたか」

 

『全く…俺を誰だと思っているんだ?』

 

「…野球バカ?」

 

『おい!ひでぇよ、それは!』

 

「だって、皆言ってましたよ?あの人から野球をとったら何も残らないって」

 

『全く…。まぁ、それはいい。やっぱりまだ投げられないか?』

 

「はい…人がいるとどうしても無理ですね。頭で分かってても身体が反応してしまって……」

 

『成る程な……』

 

そして少しばかりの沈黙が続いた。

 

『えーとな、お前の場合は色々と考え過ぎなんだよ。だから、一度無心になって投げてみたらどうだ?それか、野球以外の事を考えて投げるとか……例えば夏川ちゃんでも考えてたらどうだ?』

 

「…は!?何でそこに唯が出てくるんですか!」

 

『えー何を今更言ってんだか。白河とお前だったらカルガモ親子みたいに、夏川ちゃんとだと熟年夫婦だったぞ。夏川ちゃんなら程よく力が抜けるだろう』

 

「あのですね、唯とはそもそも彼女ですら無いんですから…」

 

『はぁ!?嘘だろ!?あれだけ息のあった夫婦コンビが恋人ですら無いだと!!ちょっ、他の奴に聞くわ!じゃあな!』

 

「あ、ちょ………うわ、切りやがった」

 

沫流は通信が切れた携帯を耳から離した。

 

沫流「…やっぱりあの人と話して良かったな」

 

今後どうするかで頭の中がパンクしそうだったのに、あの人と喋ったおかげで色々と悩みが飛んでいった。

 

沫流(もう、充分逃げ回ったか…)

 

沫流の中でもう答えは決まっている。後は監督に言いに行くだけだ。

 

沫流「もう夜遅いし……監督には明日言いに行くか~」

 

よいしょっと腰を上げ、ズボンについた土を払う。

 

沫流「取り合えず、シャワー浴びて寝よ~」

 

だが、沫流は知らない。もう11時半を過ぎてるのにも関わらず、一向に帰らない沫流を心配して同室たちが捜索願いを出していた事を。そして、その後に長い説教が待っている事を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高原は久々に連絡してきた教え子が、遂に復活する事に喜んでいた。自宅の冷蔵庫からビールを出しグビグビと飲む。そして、ビールを持っている逆の手で携帯を操作し、電話をかけた。

 

プルルルルル♪プルルルルル♪

 

『はい、もしもし!』

 

「やぁ、夏川ちゃん」

 

『あ、高原さん!お久し振りです!』

 

「今、久々に沫流の奴から電話が来たよ~」

 

『……そうですか。どうでした?』

 

「あー、何か悩んでたみたいだけど取り合えず大丈夫じゃないかな。あいつ、悩むととことん悩むからな~」

 

『そうですよね……』

 

「まぁ、多分復活すると思うよ。夏川ちゃんの事でも考えろとか言っといたし」

 

『な、何で私なんですか!?』

 

「だってあいつの頭の中、野球以外だと夏川ちゃんしか考えてないしな~」

 

『それ、本当ですか!?』

 

「うん、ほんとほんと。あ、それとさ、沫流に聞いたんだけど、まだ付き合ってないの?あれだけ好き好きオーラ出してるのに」

 

『だって……沫流君気付いてくれないし…』

 

「だから直接言っちゃえって何度も言ってるじゃん。それに、沫流が活躍したら告白する人増えると思うよ~。あいつ顔は良いしさ」

 

『そうですけど……』

 

「まぁ、そこは頑張ってね、応援してるからさ」

 

『…ありがとうございます』

 

「あ、それと鉄心にありがとう、後は頼んだ!って言っといて~」

 

『了解です』

 

「ほいじゃあね~」

 

ピッ

 

電話を切ると、まだ残ってるビールをイッキ飲みした。

 

高原(鉄心、後は頼んだぞ)

 

 

 

 

 




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