「はい。うp主です」
「○○○店の店長です」
「あ、店長」
「うp主くん、今日、21時に入っているけど、18時から入れる?」
「え?」
「実はKくんが事故にあってしまって」
「え? Kさんが事故ですか!?」
「そう、お願いできる?」
「はい。分かりました」
「では、お願いしますね」
バイト中……
「当分出れなさそうだから、この日とこの日もお願い出来る?」
「はぁ……。つまり、二週間続けて18時から朝6時まで出てほしいと……」
14連勤バイトが始まったうp主
これは、海よりも遠い。
ずっと昔の《おとぎ話》―――
ある所に美しいお姫様がいました。
髪は月も恨む黄金。
瞳は赤より濃く紅。
声は小鳥も恥じ入る音色。
そんな美貌を持つ彼女はある日、それも16の誕生日に地獄を味わいました。
彼女はその国で忌み嫌われる存在だったからでした。
民衆に知られた彼女は監獄に入れるも脱走を図ります。
しかし、唯一信じていた妹にも裏切られ、彼女は決意しました。
「世界を壊して、私は生きる」
しかし、彼女はそこである真実を知りました。
調律者と呼ばれる存在に気に入られた彼女は立ち向かうが、一度も勝てませんでした。
ボロボロになっても彼女は諦めず、立ち向かい。
仲間の力を借り、調律者に勝ちました。
そして、そこに新しい国を作り平和に暮らしました。
◇◇◇
「海っ! 見えたぁっ!」
トンネルを抜けたバスの中でクラスの女子が声を上げる。
臨海学校初日、天候にも恵まれて無事快晴。陽光を反射する海面は穏やかで、心地よさそうな潮風にゆっくりと揺らいでいた。
「おー。やっぱり海を見るとテンション上がるなぁ」
「う、うん? そうだねっ」
バスで隣の席になったのは秋葉だった。しかし、どうも出発してからずっとこんな感じで、いまいち話を聞いていない。今も、返事だけしてすぐまた手元に視線をやっている。
「……IS制作も良いが、今日は……」
「えっ」
開いている画面を閉じさせ、秋葉に海を見せる。秋葉は目に映る海を眺めては、時々思い出し笑いでもするかのように笑みを漏らす。
「まったく、秋葉は朝からえらくご機嫌だな」
通路を挟んで向う側、箒が若干むすっとした顔で言ってくる。
「久しぶりに海を眺めたからね」
箒の言葉もなんのその、笑顔で返す秋葉だった。
それにしても。意外なことに箒の隣は空席なのだ。その空席はセシリアの席、山田先生曰くアリアとセシリアが寝坊したらしいので『後で合流するので先に行っててください』だそうだ。
「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ」
千冬姉の言葉で全員がさっとそれに従う。指導能力抜群であった。
言葉通りほどなくしてバスは目的地である旅館前に到着。四台のバスからIS学園一年生がわらわらと出て来て整列した。
「それでは、ここが今日から三日間お世話になる『ひなた荘』だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」
「「「よろしくお願いしまーす」」」
千冬姉の言葉の後、全員で挨拶する。この旅館には毎年お世話になっているらしく、着物姿の女将さんが丁寧にお辞儀をした。
「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」
歳は三十代くらいだろうか、しっかりとした大人の雰囲気を漂わせている。仕事柄笑顔が絶えないからなのか、その容姿は女将という立場とは逆に凄く若々しく見えた。
「あら、こちらが噂の……?」
ふと、俺と目のあった女将が千冬姉にそう尋ねる。
「ええ、まあ。今年は一人男子がいるせいで入浴分けが難しくなってしまって申し訳ありません」
「いえいえ、そんな。それに、いい男の子じゃありませんか。しっかりしてそうな感じを受けますよ」
「感じがするだけですよ。挨拶しろ、馬鹿者」
ぐいっと頭を押さえられる。いや、今しようとしたんだって。本当に。
「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」
「うふふ、ご丁寧にどうも。
そう言って女将さんはまた丁寧なお辞儀をする。その動きは先程と同じく気品のあるもので、こう言う大人な女性に耐性のない俺としては少し緊張してしまう。
「不出来の弟でご迷惑をおかけします」
「あらあら。織斑先生ったら、弟さんには随分と厳しいんですね」
「いつも手を焼かされていますので」
いや、それ程でもないと思うんだけど、しかし事実な部分もあるので否定は出来ない。ああ……早く千冬姉に迷惑をかけない大人になりたいもんだ……。
「それじゃあ皆さん、お部屋の方にどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられるようになっていますから、そちらをご利用なさってくださいな。場所が分からなければ何時でも従業員に訊いてくださいまし」
女子一同は、はーいと返事をするとすぐさま旅館の中へと向かう。とりあえずは荷物を置いて、そこからなんだろう。
◇
―――海。
レジャースポットと言えば山派、海派と二分されるメジャースポット。
夏になると多くの人々が光に集まる虫のように、本能的に集まる場だ。
―――実際のところ、足に付いた砂は頑なに体から離れることを拒み、日差しに焼かれた肌は長く人体を苦しめ、潮風は髪を秒単位で蝕む、冷静に考えてしまうと何が楽しいのか全く持って不可能なリア充専用フィールド。
何処かのゲーマの兄が言っていたことだが、そんない忌々しいスポットも、状況が変われば話も変わる。
「よっ、と……」
とりあえず準備運動を始める一夏。何年振りの海だった為、足が攣って溺れても格好悪いと、腕を伸ばして脚を伸ばして背筋を伸ばす。
「い、ち、か~~~っ!」
おう? ―――って、のわっ!?
「あんた真面目ねぇ」
いきなり一夏に飛び乗って来たのは、鈴だった。
ちなみに着ているのはスポーティなタンキニタイプ。オレンジと白のストライプで、へそが出ているやいつだった。
「こらこら、お前もちゃんと準備運動しろって。溺れてもしらねえぞ」
「あたしが溺れたことなんかないわよ。前世は人魚ね、たぶん」
そうこう言いながら、一夏の体をしゅるりと駆け上がって肩車の体制になる。
「おー高い高い。遠くまで良く見えていいわ。ちょっとした監視塔になれるわね、一夏」
「監視員じゃなくて監視塔かよ!」
「いいんじゃん。人の役に立つじゃん」
「誰が乗るんだよ……」
「んー……あたし?」
にへへっ、と笑って見せる鈴。
「み、皆さん」
「お、山田先生―――」
恥ずかしそうな山田先生の声に振り向き挨拶をしようとし―――一夏は固まった。
半透明な素材のフリルやパレオをセパレートの水着に付けていた。
だが、一夏が固まったのは、その水着が原因では―――ない。
トップスからこぼれ出そうな農満な“それ”に―――脳を奔った数字に固まったのだ。
「―――ば、バカな。八十九、五十八、八十九……戦闘力、五十万だと―――ッ!?」
「な―――何故それを―――って違います! 何の話ですかっ!?」
山田先生の予想外の“胸囲度”を弾き出した脳内スカウターに一夏は戦慄した。
なんたることか。
今まで着痩せしていた為、見落としていたのかッ!?
「……ぬ、ぬぅ……山田先生のくせに、何というレベルの高さ―――ッ!」
「え、あ、そ、そうですか? そ、そんなでも、ないですわ……」
満更でもなさそうに、もじもじとする山田先生。
もう一言二言かけようかと一夏が口を開く―――が。
「ん? あれは何かな?」
「ん?」
鈴が指した方向の海に黒い影が現れ、徐々に大きくなる。そして、それは突如姿を現した。
「な、な、何っ!?」
天に向かって一直線に浮上した船は、そのまま前に倒れる。その衝撃で出来た波に一夏と鈴並び複数の生徒は波に流された。
船のハッチから二人の金髪の女性が姿を現す。
「「皆さん、お待たせしましたわっ」」
セシリアとアリアだった。お互いに青色のビキニを着ていた。
「セシリアにアリア!?」
いち早く起き上がった一夏は突如の登場に現れたセシリアたちに驚く。
「随分な登場ね。アリアちゃん」
「おっ、秋葉も来たんだ」
黒の生地に白い水玉模様のビキニを着た秋葉が姿を現すが、アリアは両指を四角を作り秋葉を眺めていた。
「いまいちですわ」
「え?」
どうやらアリアは秋葉の着ている水着がいまいちだったようだ。
「お願いしますわ」
パンパンと、手を叩き。後の方で待機していたメイドたちは秋葉に群がる。
秋葉の悲鳴と共に空から先程まで来ていた水着がひらひらと振って来る。
メイドたちが下がると新しく着された水着姿の秋葉がいた。
その瞬間、一夏の脳内スカウターは爆音をあげて飛んだ。
そこにいたのは―――女神だった。
光の乱反射し色を変える水色の髪は、海の日差しと風に揺れ、一層に鮮やかに。どんな彫刻師の心も一日で折れるだろう、究極と呼ぶに値する造形美。腹部が紐で編まれたワンピース。大きめのストールをパレオのように巻いており、問答無用なまでの美しさだった。
「酷いよ……アリアちゃん……」
急の出来事だった秋葉は涙目になるが、全員秋葉に首づけだった。
それもその筈、秋葉が着ている水着はアリアのオーダーメード。
価格にして、0が8個程ある値段だった。
そして一夏、秋葉、セシリア、その他の生徒に視線を一巡させて、アリアが笑って言う。
「役者が揃ったことですから……遊びましょう」
◇
―――白くまばゆい砂浜。
天上を鏡のように映して輝く海。
原色のインクをこぼしたような青空を、日差しが貫き、遠くの雲は流れる。
さざめく波の音、海鳥の声だけが響く中、複数の水しぶきが上がる。
脚が浸かる程度の浅瀬で戯れる一同に、アリアがビーチボールを放る。
「のほほんさん、パスですわ」
平和な日常がその日を始めて味わった秋葉はこんな日が続けばいいと願う。
しかし、それは長く続くことは無かった……。