秋葉と言う名前に織斑家特有の数字が入っていないと思うが、実はある。
葉はハと言い換えるのだ。
◇◇◇
時間はあっという間に過ぎ、現在7時30分。大広間を3つ繋げた大宴会場で、一夏たちは夕食を取っていた。
『いただきまーす!!』
全員、浴衣を着用していた。
どう言う訳か、この旅館は『お食事中は浴衣着用』が決まりみたい。
始めての浴衣に秋葉はあんまり落ち着かなかったが、夕食の刺身が美味しかったから別に良かった。
◇
「…………」
秋葉は指定された部屋に戻ると、小型ディスプレイを起動させる。
自分の身は自分で守れるようにと、更識家に教わった秋葉は独自でISの設計をおこなっていた。
コアの癖は把握しているので、それに合わせて設計するのだが、短期戦機体は今まで開発されたISは2機しか存在しない。
1つは、千冬伯母さんの『暮桜』であり、もう一つが、父の『白式』なのだ。
アリアちゃんが私の為に集めた2つのISの稼働データから設計図まで入手していた事は驚きだったけど、おかげで基礎は完成する事は出来た。
そこから、オリジナルを取り入れると流石に難しい。世界各国の設計図を参照するも、この子と相性がいい装備がない。良くて本来の出力の半分も出せない。
「……流石、束さんが手がけた機体だけの事はある」
『夜桜』、『白式』は篠ノ之束が作った機体でありどちらも同じコアなのだ。
しかもそれ以前にあの機体にも使われていたことには、驚きだったけどね。
「秋葉さん、いますか?」
「ん? なに?」
部屋の外から呼ばれ、作業を一旦中止して出て見ると、シャルロットがいた。
「織斑先生が……」
「…………分かった」
シャルロットが言いたい事を察し、秋葉は織斑先生がいる部屋へと向かう。
数分後、織斑千冬と織斑一夏と書かれた張り紙のある部屋へと到着する。
もちろん、ノックを忘れずに入出許可を取った上で入ると、セシリアが一夏にマッサージをされていた。
ちなみに、アリアは千冬の傍の椅子に座っていた。
「ほれ」
入るなり、千冬は手元にあった缶ジュースを秋葉に投げる。
秋葉はそれを受け取る。
「一夏、マッサージはもういいだろう。それと、聞き耳を立てている3人。そろそろ入って来い」
沈黙が僅かに数秒流れたが、その後ゆっくりとドアが開く。
立っていたのは箒に鈴にラウラだった。
「ほれ、全員好きな所に座れ」
ちょいちょいと手招きをされて、3人はおずおずと入る。そして言われた通りに座布団を弾いて座る。
「お前はもう一度風呂にでも行って来い。部屋を汗臭くされては困る」
「ん。そうする」
千冬の言葉に頷いた一夏は、タオルと着替えを持って部屋を出る。
その後は、沈黙が続く、そのもそのはず、どうして分からない秋葉、アリア以外の女子5人組は、言われたまま座った所で止まってしまっている。
「おいおい、葬式の通夜か? いつものバカ騒ぎはどうした」
「い、いえ、その……」
「お、織斑先生とこうして話すのは、ええと……」
「は、始めてですし……」
「まったく、しょうがないな」
千冬は旅館の備え付けの冷蔵庫から清涼飲料を取り出し、箒・シャルロット・鈴・ラウラ・セシリアへと渡す。
「い、いただきます」
全員が同じ言葉を口にして、そして次に飲み物を口にする。
女子の喉がごくりと動いたのを見て、千冬はニヤリと笑った。
「飲んだな?」
「は、はい?」
「ま、まさか!?」
「バカか? 客人にそんな事をする訳がないだろう」
そう言って、さらに冷蔵庫からある物を取り出す。
龍のマークが描かれた缶ビールだった。
プッシュッ! と景気のいい音を立てて飛沫と泡が飛び出す。
「なんだ? 私は作業オイルでも飲む物体にで見えたか?」
「い、いえ、そう言う訳では……」
箒たちは、いつもの『織斑千冬』と目の前の人物と一致せなかった為、一瞬フリーズしていた。
「まあ、口止め料はもう払ったからな」
そう言ってニヤリとする千冬。
女子一同は自分が持っている飲み物の意味に気付き「あっ」と声を漏らす。
「さて、前座はこのくらいでいいだろう。そろそろ肝心の話をするか」
2本目のビールをラウラに取らせ、また景気のいい音を鳴らす。
「お前ら、おいつの何処がいいんだ?」
あいつ、と言っているが全員が誰を指しているのかは分かっていた。
「わ、私は別に……以前より腕が落ちているのが腹立しいだけですので」
と、ラムネを傾けながら箒。
「あたしは、腐れ縁なんだけだし……」
スポーツドリンクのフチをなぞりながら、もごもごと言う鈴。
「わ、わたくしはクラス代表としてしっかりしてほしいだけです」
さっき程のマッサージの時に織斑先生に勝負下着を見られたことに反発か、ツンとした態度で答えるセシリア。
「ふむ、そうか。ではそう一夏に伝えておこう」
しれっとそんな事を言う千冬に、3人はぎょっとしてから一斉に詰め寄った。
「「「言わなくていいです!」」」
その様子をはっはっはっと笑い声で一蹴して、千冬はまた缶ビールを傾ける。
「僕―――あの、私は……やさしいところ、です」
ぽつりとそう言ったのはシャルロットで、声の小ささとは裏腹にそこには真摯な響きがあった。
「ほう。しかしなあ、あいつは誰にも優しいぞ」
「そ、そうですね……。そこがちょっと、悔しいかなぁ」
あははと照れ笑いをしながら、熱くなった頬をぱたぱたと扇ぐシャルロット。
「で、お前は?」
さっきから一言も発言していないラウラに、千冬が話を振る。
「つ、強いところが、でしょうか……」
「いや弱いだろう」
にべもない。何でもない事のように言う千冬に、珍しくラウラは食ってかかった。
「つ、強いです。少なくとも“心”は、私よりも」
心ねぇ……と言う千冬は、2本目のビールを空ける。
「それで、お前たちはどうなんだ?」
千冬の左右に座る秋葉とアリアに、千冬が話を振る。
「わたくしは、母が最初に認めた男性友人と言うことと約束でしょうか」
「約束?」
「はい。己の翼と剣を織斑家に預けている、と母は言っていました」
「ふ~ん」
千冬はまた缶ビールを傾ける。
「私は……父と言う事があるのか。良く分からないです」
分からない……秋葉にとっては織斑一夏は好きだ。父と言う意味合いでは、でも……それだけじゃない。
私の健康管理をしてくれるのは、世界が違うけれでも血の繋がった娘と言う事で接しているのだけれでも、それでいいのか? 分からない……。
「まあ、あいつは色々と役に立つからな。家事も料理も出来て、マッサージだってうまい」
そうだろう、オルコット? と話を振られたセシリアは、赤い顔をしてうつむく・頷く。
「とういう訳で、付き合える女は得だな。どうだ、欲しいか?」
「「「「「え!?」」」」」
箒・鈴・セシリア・シャルロット・ラウラは顔を上げる。それからおずおずと、ラウラが訪ねた。
「く、くれるのですか?」
「やるかバカ」
「「「「「ええ~……」」」」」
心の中で突っ込む女子一同。
「女ならな、奪うくらいの気持ちで行かなくてどうする。自分を磨けよ、ガキども」
3本目のビールを口にする千冬は、実に楽しいそうな表情でそう言った。
◇
「アリアちゃん。頼んでおいた設計データのシュミレーターは?」
「ええ。検証しましたが、問題ないとのことですわ」
帰り道、秋葉とアリアは秋葉の設計したISのシュミレーター結果を聞く。
「先程、開発が始まったので、明日の夕方には完成することですわ」
「そう。午前中の授業は他の人とやる事になるわね」
「ええ。ですが……」
「分かっているよ……あれは絶対に阻止する」
明日の正午に起こる事件……父が死にかける事件……銀の福音事件だけは阻止しなければいけない。
その日の為に秋葉とアリアは急遽、ISを作ったのだ。
「「全ては、父(小父様)の為に」」