艦娘たちと共に ~海洋戦争戦闘録~   作:ヨシ ヒロ

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やっと最初の章が終わる…。


9 終息

 

 それは全くの偶然だった。

鎮守府空襲の報を受けた時、祥鳳と瑞鳳を中心とする機動部隊は西方海域の哨戒活動をしていた。急いで哨戒機を呼び戻したのだが、その時1機の機から入電があったのだ。

 

“翔鶴型と思われし正規空母二隻発見”と。

 

 そしてこの哨戒機を通して偶然遭遇した他の鎮守府所属の翔鶴と瑞鶴の機動部隊に急遽支援に来てもらう事となったのだ。

 その後翔鶴と瑞鶴の部隊はサンタジョージアのすぐ南の海域を突っ切って祥鳳、瑞鳳の部隊と合流した。

 サンタジョージア周辺の制空権はほぼ敵のものとなっていた為、これは実に危険な賭けだった。しかし幸運にも敵の航空隊はムエルタの鎮守府にくぎ付けになっていたのか、翔鶴達が敵に捕捉される事はなかった。

 そして到着した航空隊は敵機の編隊に一気に奇襲攻撃を仕掛けた。猛烈な地上の対空砲火に殆どの敵機がくぎ付けになっていたのだ。お陰でその後の航空戦は殆ど一方的な展開となった。

 

 

 三好は自分の頭上で繰り広げられる空前のスケールのドッグファイトをただただ黙って見ていた。(いくらサイズは小さ目とはいえ)百数十機もの航空機が入り乱れながら、互いの後ろを取り合って様々なアクロバット飛行を続けていると言うのはもちろん彼の人生で初めて見る光景だった。

 見ていると、ここは先に攻撃を仕掛ける事が出来た味方側に分があるようで、撃墜される機は敵の方が多かった。零戦の格闘性能と中の人(妖精さん)の高い練度が相まって神業的な飛行術が次々と繰り出されいった。次第に状況がこちらに傾いて来るのを三好は感じた。

 

 

 大鳳、祥鳳、瑞鳳の零戦で構成された斬り込み部隊はまず西側に移動しながら高度を上げた。敵の後続部隊や後退する部隊とと出くわすリスクもあったが、運良く敵に気付かれる事無く敵の編隊よりも高所に陣取れた。そこから太陽を背にして機銃を撃ちまくりながら敵の編隊に降下し、見事奇襲に成功した。

 

 斬り込み部隊が突っ込み、敵の護衛戦闘機を引き付けている間に翔鶴、瑞鶴の第二部隊が突入し、防備が手薄になった爆撃機、攻撃機を攻撃した。鈍重な爆撃機と攻撃機は軽量で身軽な零戦の格好の餌食だ。

 零戦はギリギリまで爆撃機に近づき、両翼の20mm機関砲で木っ端微塵にした。機首にある7.7mm機銃は頑丈な爆撃機には効果が薄く、さらに戦闘機と交戦する時には真っ直ぐに飛ぶ7.7mm弾の方が狙いやすい為、多くの機は温存していた。

 

 「ドドドドッ」という音と共に両翼から20mm機関砲の弾丸が放たれる。

 20mmの弾丸は当たれば一撃必殺の威力があるが、その分重量が重い為、山なりの非常に当てにくい弾道で飛んでいく。零戦に乗っているパイロットはそれを見越して若干目標の上を狙っているようで、山なりに飛ぶ曳光弾が丁度目標に当たるようになっているのが地上からも確認出来た。

 それを見た隊員達全員が驚嘆した。彼らの殆どはレシプロ機が飛んでいる場面さえ見たことが無かった。

 

 状況が不利な事を悟ると、敵の部隊は撤退を始め、西側に引き返して行き、それを追う零戦との間で追撃戦になった。しかしここで日暮れも近い事もあって零戦の追撃部隊はすぐに引き返した。

 しかし安堵出来たのもほんの一瞬で、敵の部隊はここでさらに思わぬ攻撃を喰らう事になった。

 蒼龍と飛龍の部隊が先回りして待ち構えていたのだ。殆どの機は後方からの追撃隊を警戒していた為、余計に対応が遅れた。これによって敵の編隊は完全に混乱状態に陥り、壊滅した。ここまで日が沈むまでのほんの短い間の出来事だった。

 

 

 かくして「ムエルタ大空襲」は終わりを告げた。戦闘は終わったが、島の者達はこの後夜通し戦後処理に奔走する事になった。

 この時点で出払っていた艦娘達も殆どが帰艦し、事前に要請していた輸送艦「おおすみ」なども到着し、戦闘が終わった後にも関わらず島中は騒然としていた。

 

 

 島内では隊員と艦娘総出で負傷者の手当てと建物の修繕を行っていた。特に重傷の者は島の治療所に運ばれて治療を受けた後、輸送艦に移されて行った。

 治療待ちの重傷者達は悲痛なうめき声を上げていた。中には絶命する者もいる。動ける隊員達は所々に転がる肉片や遺品を集めていった。焼けただれた装甲車の残骸もてきぱきと撤去され、中にいた黒焦げの遺体も回収された。

 特任中隊はこのような事態も想定して、隊員達は殆どが災害時に救援や復興活動の為に現場に行ったことのある者や海外派遣に従事したことのある隊員達が集められていた。だから殆ど滞り無く復旧作業は続けられた。

 大多数の隊員達は最低限の会話をする時以外は口を開かずに作業を進めた。友が重傷者として運ばれたり、目の前で戦死するのを見た者には気持ちを整理する時間が必要であった。中には強い精神的ショックを受けて放心状態になったり泣き喚いている者もいた。正直な所、泣き出したいのは皆一緒だった。

 

 

 艦娘である摩耶も負傷者を担架に乗せて運ぶのを手伝っていた。負傷した者には声をかけて、考えられるだけの励ましの言葉をくれてやった。効果は分からなかった。

 その負傷した者達の中にあの空から降ってきた男、津久井がいるのを摩耶は見つけた。あの時は気付かなかったが、身体中を負傷しているようだ。

 

「よう。」

 摩耶が先に声をかけた。

「あ…おう。」

「傷は、その…大丈夫なのか?ああそれと、あん時はありがとな。」摩耶は普段こんなに相手に気を使ったやり取りなどしないからか、ややぎこちない。

「傷は大丈夫だ。だからここで待たされてる。それとあの時はお互い様だ。」

「…それもそうだな。でもなんであんな真似を?」

「海に落ちた時、君が助けてくれなかったら俺は滅多撃ちになって死んでた。だからその恩返しにな。それに…」

「それに?」

「せめて女の子の前じゃ格好いい所見せたかったからな。」

 津久井は苦笑いしながら言った。

 

 

 間一髪の所で助かった三好達も復旧作業に当たっていた。三好は最初気付かなかったが、機銃を破壊された時に破片を顔に浴び、軽い切り傷がいくつかできていた。 だから三好の顔には絆創膏が何枚か貼られ、ただでさえ初々しい三好をさらに初々しくしていた。

 三好達は工廠の修復を担当していた。建物の中に散らばった破壊された屋根などの瓦礫やガラス片を片し、簡単に孔をふさいだ。

 

 三好達の担当した区画の近くには艦娘達の入渠用のドックがあったが、誰が書いたか知らないが「覗き見厳禁」の貼り紙があちらこちらに貼ってあった。

 その入渠ドックには爆弾が直撃したようで、天井に大穴が開いていたのだが、これまた誰が書いたか知らないが、ドックの入口には「露天風呂始めました」と書かれた紙が貼ってあった。

 三好は壁の銃痕から光が漏れているのに気付いた。もう日は暮れた筈だが、どうやらかなり強い照明を焚いているようだ。外を見ると照明の下に大河内陸佐がたたずんでいるのが見えた。それにしてもまだあきつ丸の帽子を被ってるのか?

 

 

 大河内は野外に設置された照明の元で指示を送っていた。自身も打撲など多少傷は負っていたが、簡単な処置を済ませると医師には重傷の者をとにかく優先する事を伝え、再び中隊の指揮に戻った。

 もうとっくに日は暮れて普段なら辺りは暗闇に包まれているが、今はあちらこちらに照明が焚かれ、様々な光景を照らし出していた。

 

 照明の灯りの元で隊員達の三者三様の動きが見えた。粛々と作業を進める者も居れば、涙を流し嗚咽をこらえながら作業に当たっている者もいた。中には強い精神的なショックからか茫然自失としている者もいた。

 そして大河内の前には次々と遺体を入れた袋が並べられていった。原形を留めてない者も多かった。それを見て大河内の後ろの本多海将も顔をしかめた。

 

 大河内はそれらの光景を見ながら軽いフラッシュバックのようなものに襲われた。あの時と同じだ。もう3年前なのか。大河内の中に3年前の忌々しい記憶がよみがえった。

 

 思えばあの時もこんな夜だった。でもあの時自分達を照らしていたのは青白い照明弾だった。落下傘によってゆっくりと落ちて行く照明弾が照らし出したのは、やはり先程のような三者三様の隊員達の様子だった。

 遠くから銃声が響く。「タタタン」と乾いた音だった。それが段々近付いてくる。そして徐々に色々な音が聞こえて来る。機関銃を載せたゲリラのトラックのエンジン音、弾が跳弾する時に立てる「チューン」と言う音、そしていよいよ敵の気配まで感じた。89式小銃とあるだけの弾倉をもって騒音のする方に近づく。

「RPG!!」誰かの叫び声と数発の銃声が聞こえたと思った次の瞬間には赤い尾を引きながら暗闇を引き裂いて弾頭が…。

 

 「中隊長殿!」

 声をかけたのはあきつ丸だった。

 

 辺りでは戦闘なんて行われていない。ハッとして大河内は再び指揮に専念しなければと意識を戻した。

 

 「中隊長殿、現時点での損害の集計が完了したであります。」

「ああ…ご苦労。」

 大河内は紙を受け取った。紙に書かれた数字を見ようとすると再びあきつ丸に声をかけられた。

 

「中隊長殿、出撃していた艦隊が…。」

 

 あきつ丸の見ている方を見ると、照明の灯りの中をツツジ64のメンバー、木曾、霧島、時雨、吹雪達が歩いて来るのが見えた。皆足取りは重く、ややうつむきながら歩いていた。皆全身ボロボロだった。

 艤装は付けて無かったから、誰かに預けたのだろう。皆歩きながら色々なものを見たであろう事は容易に察する事が出来た。

 四人は大河内と本多の前に並ぶと、一斉に背を伸ばし、自衛官顔負けの気をつけをした。上げた顔は様々な感情で満ちていた。とても言葉では言い表せないが、大河内はそこに再び3年前の自分達を重ねた。

 

「ツツジ64……ただ今帰艦した。」

 

 旗艦の木曾が敬礼をして言った。精一杯言葉を振り絞っているようだった。大河内と本多を見つめるその瞳は何時も以上に力が入っていたが、同時に悲壮感も漂っていた。

木曾の言葉の後、本多が大河内の前に出て言った。

 

「皆、よく戻った。…君達の指揮官は私だ。責任も私にある。君達だけが気負う事は無い。…今日はもう休んでくれ。君達は本当によくやった、生きて戻ってありがとう。」

 

 本多が下がり、今度は大河内が前に出た。しかしかけられる言葉は見当たらなかった。四人が背負ってしまったものを考えると、とても“気にするな”なんて言う事はできなかった。

 だから大河内は全員の肩をトントンと軽く叩いてやる事くらいしかできなかった。それでも何もしないよりはマシだった。

 特に今回が艦娘としては初陣だった吹雪は肩を叩いて目をあわせると、瞳からは大粒の涙をこぼした。声を出す事はなかったが、静かに泣いた。

 それでも大河内にはそれ以上の事はできなかった。あとは彼女達に彼女達なりに気持ちを整理してもらうしか無いと思ったからだ。

 やがて四人は工廠の方へ歩いて行った。吹雪には木曾が寄り添って何かを言いながらやはり重い足取りで歩いていた。

 

 

 大河内と本多は多大な出血を被った現実に直面した。

 

陸上自衛隊 410人

海上自衛隊 100人

 

死者

陸上自衛隊 59人

海上自衛隊 18人

合計  77人

 

負傷者

陸上自衛隊 94人(要後送67人)

海上自衛隊 48人(要後送26人)

合計  142人(93人)

損耗率  約33%

 

艦娘

轟沈 0隻

大破 5隻

中破 7隻

小破 6隻

 

 この日の戦闘での損耗率は3割を越えていた。深刻な損耗だ。どれくらい深刻かというとこれでこの島の自衛隊員達は「全滅」判定をくらってしまった。

 大河内は頭を抱えた。幸い艦娘達の方は一人も轟沈しなかった為、戦局自体の影響は最小限に済みそうだ。しかし隊員達の消耗は深刻だ。このままでは鎮守府の運営や予定していた前哨基地の設営にも支障が出る。

 

 直ちに人員の補充が必要だった。それにこれを機に人員と装備も強化するよう幕僚に打診する事にした。

 元々第5特任中隊は試験運用的な役目も果たしていた。“自衛隊はどれ程深海棲艦に対抗できるか”と。結果はかなりの損害は出たが、手持ちの装備でも多数の敵機を撃破する事が出来た。今後は今回の事を教訓に装備の強化もしていかなくてはならない。

 大河内と本多は、着実にこの戦争がエスカレートしていくのをひしひしと感じた。

 

 何にせよこれからやる事は山積みだ。それを思うと大河内も思わずため息が出てしまった。

 

「陸佐、大丈夫か?」

 海将も気を使って声をかけた。

「ええ、大丈夫かと言われたらそうでもありませんが。問題はありません。少し考え事を。」

「そうか…。」

 大河内はテッパチを頭から取った。思えばもう何時間もつけっぱなしだった。

「?」

 しかし彼が手に取ったのはボロボロになったあきつ丸の軍帽だった。

 




やっと1章が完結しました。
読んで下さった皆さま、ありがとうございます。
まだまだ稚拙な文章力ですが、今後も日頃の妄想をぶちまけていきたいと思います。
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