艦娘たちと共に ~海洋戦争戦闘録~   作:ヨシ ヒロ

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新章開始です!!
とてつもなく長くなってしまった…


強襲部隊
1 陸自のやり方


明成13年4月4日

 この日なんとか形にはなった鎮守府の会議室に自衛官と艦娘達が地図を張ったホワイトボードを前に集まっていた。久し振りの作戦会議だ。部屋には15人の艦娘と陸自からは第5特任中隊の7人の小隊長達と海自からは2人の小隊長達が集まっていた。艦娘達は各部隊の代表者、旗艦となった者達だ。

 

 この鎮守府の部隊の中核となっているのは勿論、戦艦と空母だ。2人一組でチームを組み、空母機動部隊と戦艦打撃部隊を作っていた。そしてそれに巡洋艦と駆逐艦7人前後の随伴(水雷)部隊がくっつき行動を共にするのが基本だった。

 そしてこの鎮守府には4つの機動部隊に4つの随伴部隊と、3つの打撃部隊に4つの随伴部隊が所属していて、今はその各部隊の旗艦が結集している。

 機動部隊からは加賀、飛龍、鳳翔、祥鳳、機動随伴部隊からは利根、球磨、鈴谷、神通、打撃部隊からは長門、日向、霧島、打撃随伴部隊からは木曾、高雄、鳥海、大井が代表として集まっていた。

 

 

 「諸君、今現在この南太平洋戦線は開戦以来最悪の状況となった。」

 本多海将がホワイトボードの地図を棒で指し示しながら言った。

「まず、この青い線が3月中の戦線だ。」

 青い線は東の端はマーシャル諸島のエニウェトク環礁から始まりオキシドル島とパラオを経由して西の端はタウイタウイまでを結んでいた。

 エニウェトク環礁はハワイから出発したコートニー中将率いるアメリカ艦隊の最前線で、オキシドル島は小笠原から出発した本多艦隊の最前線、ペリリュー島とタウイタウイは南西諸島から出発した榊原海将の艦隊の最前線だ。

 

 戦線とはいっても実情は味方が奪還した敵の拠点(と思われる海域)を線で結んだものに過ぎず、不明瞭な部分も多々あった。戦域が広大過ぎて敵にも味方にも戦線に「穴」があり、点と線で構成されたこの戦線は実際は目安程度にしかならなかった。

 深海棲艦側は一定の数がまとまって艦隊となって行動している事が多いが、規模もまちまちで少数の艦隊なら戦線を突破して後方に回り込み、ゲリラ的な活動をする事もあった。

 

 「そしてこの赤い戦線が、4月1日以降の戦線だ。」

 赤い線は基本的に青い線を踏襲していたが、マリアナ諸島の南だけ北に大幅に押し下げられ、敵勢力の突出部ができていた。

 その突出部の先端にあるのがサンタジョージア諸島だ。そして突出部の付け根に当たる部分には1つの環礁と小島が並んでいた。

 

 「米軍との協議の結果、サンタジョージア諸島の暗号が決まった。しっかりメモっとけよ。いいか、これよりサンタジョージアは『アルファ・ジュリエット』と呼べ、いいな?長いのが気に入らないなら『AJ』でも構わん。」

 何人かの艦娘はアメリカ式の暗号に若干不服な表情を見せたが抗議はなかった為、話は続いた。

「当初の予定ではこの『シエラ・ズールー』海域を攻略する為に敵の機動部隊を叩いて背後に回り込み、榊原の艦隊と合流して包囲網を作る予定だったが、大幅に変更する事になった。」

 

 

 コードネーム『シエラ・ズールー』、本来の名前は「ローク島」「ファレーズ環礁」で、両者の間の距離は30㎞程で2つまとめて『シエラ・ズールー』(以下『SZ』)と名付けられた。

 場所は突出部の付け根に当たる所で、以前から深海棲艦の拠点として認識されており、ローク島の湾内とファレーズ環礁の内部に強力な艦隊が常駐しているのが確認されている。

 本多艦隊の当初の優先目標はこのSZ海域の攻略だった。ここを奪回してミクロネシアにおける深海棲艦の最大級の拠点を落とせば、再び戦線の主導権を握る事ができると考えたからだ。

 しかしこの海域にはかなり強力な艦隊が常駐しており、さらに地の利も防御をする深海棲艦側にある為、一筋縄ではいかない事は明確であった。

 そこで本多は大河内の助言を元に新たな作戦で攻略する事にした。一旦SZ海域は保留し、敵の航空戦力の斬撃と補給路の遮断を優先して行い、SZ海域の敵勢力を間接的に攻撃して弱らせてからじっくりと攻略するという方法だ。

 

 これは陸戦における浸透戦術や電撃戦を応用したもので、これなら艦娘の消耗は最小限に抑えられると考えられていた。これを成功させるには制空権の確保、すなわち敵機動部隊の撃破が必要であり、オキシドル島沖の戦いはその初動となった。

 このあと敵の機動部隊の残存戦力も可能な限り削った後、戦艦を中心とした強力な打撃部隊がSJの背後に居座り、補給を試みる敵の部隊を片っ端から排除して敵が根を上げるのを待つか、ある程度弱体化した所で航空部隊の援護の元に一気に攻略してしまうという算段だった。

 

 一部の艦娘からは「なぜそんな面倒なことを」「榊原艦隊と直にSJ海域を攻撃した方が速いのでは?」などの声が出たが、「直に攻撃するとなると恐らく何度も攻勢を仕掛ける事になるだろうから“現在の状況では”この方が確実。何よりも正面から立ち向かうよりは出血を減らせる。」と大河内が説明して同意を得ていた。

 

 「しかし状況はこの数日間で急激に変わった。皆知ってると思うが、4月1日にこのAJ海域から突如として大規模な敵航空部隊が出現し、我々はこの海域からSZ海域までの制空権を失った。オキシドル島周辺から敵機動部隊は消え去ったが、その代わりSZ海域周辺の戦力が増強されたのが確認された。加えてSZ海域は最前線のAJ海域までの補給の拠点として機能している事も確認された。よって今後の段取りも大幅に変更する事になった。詳しい話は…大河内君、頼む。」

 

 本多海将と変わり、大河内がホワイトボードの前に立った。

 

 「…まず大局的に見ると、我々はこのSZ海域からAJ海域にかけての突出部をなんとかしなければならない。特に先日敵に奪われたAJ海域には強力な航空部隊がいる事が判明した。よって…推測ではあるが…AJ海域のどこかの島に敵勢力の飛行場か何かが設営されたと考えられる。」

 

 この言葉によって会議室に明らかに動揺が広がった。

「マジかよ…。」

「大変クマ…。」

「飛行場…ねぇ…。」

 

どうやら艦娘の多くは先の大戦のガダルカナル戦を思い出している者が多いようだ。歴戦の隊員達の顔にも不安の表情が広がった。

 

「…そうだ、この際ハッキリ言ってしまえばこの島は21世紀の“ガ島”になるだろう。恐らくこの島を巡る戦いはかなりの消耗戦になる。ある者は傷付き、ある者は死ぬだろう。」

 会議室に静寂が広がった。皆が大河内を見据えた。この時会議室にいる全員がこれは厳しい戦いになるだろうと思った。

 

「しかしだ…。今度は勝つ。」

 

「そこまで言うならば、何か秘策でもあるのですか?」

 機動部隊の代表、加賀が言った。

 彼女は先の大戦では自分達の戦没が戦局の転換点となった事を知ってから負い目を感じていた。表には出さなかったが、皆はひそかに感じとっていた。彼女のこの戦争にかける意気込みは並々ならぬものだった。

 

「ああ、以前から検討していた事だが、ようやく幕僚の承認を得ることが出来た。これで突破口が開ければいいが…」

「それで、その秘策とやらは一体何じゃ?勿体ぶらずに早よう教えろ!」

 利根が催促をしてきた。

 

「ああ、特設の部隊を編成する。少数精鋭の水雷部隊だ。」

 

 一瞬会議室が静まって皆が顔を見合わせた。何を今更といった雰囲気が漂っていた。

「…お言葉ですが陸佐、水雷部隊なら…」

「ただの精鋭の水雷部隊じゃ無いんだ、神通。艦娘の性質を利用した全く新しい形の水雷部隊だ。」

「といいますと?」

大河内は少しの間の後続けた。

 

「ヘリコプターや潜水艦、ホバークラフトなどを使った空挺作戦や奇襲作戦を実施して敵の後方を撹乱する、つまりは水上のコマンド部隊といった所だ。」

 

 

 コマンド部隊、コマンドーやコマンドウとも言うこの部隊は軍の中でも特に精鋭部隊、特殊部隊の名前として第二次大戦の頃から用いられるようになった用語だ。主に少数での奇襲や偵察、後方撹乱等を行う。勿論陸上での活動が殆どで海上のコマンド部隊など前例が無い。

 

「艦娘とは、まあ端的に言ってしまえば人の“形”と“思考”を持った軍艦だ。だから人の“形”という点を最大限に利用して相手の裏をかいた奇襲作戦を行う事ができる。まさか上空から軍艦が降下してくるなんてあいつらは考えて無いだろう。」

「それが…秘策ですか。」

「そうだ加賀。まあこの部隊の役割はあくまでも本隊が攻撃を仕掛ける前の下準備といった所だ。コマンド部隊が敵の陣形を掻き乱した後に君たち機動部隊や打撃部隊が撃ち破るという感じだな。」

「しかしだ陸佐、これはもちろん前例の無いことなんだろう?そんな部隊を一から短期間に作る事なんてできるのか?」

 長門が言った。

 

 どうやら陸佐はAJ海域をはじめとする突出部の攻略にこの部隊を投入するつもりらしいが、部隊が出来上がるのを待ってる程事態は悠長では無いことは分かっていた。

 

「その事なら問題は無い…筈だ。幕僚には優秀な教官を派遣するように要請している。」

「ではその教官次第という事か?」

「そうなるな。だが時間はある程度は確保できる筈だ。」

「…というと?」

「今後の作戦の流れを説明すれば分かる。」

 大河内は再びホワイトボードの地図を指した。

 

「ご覧の通り敵勢力は突出部を作っている。だからセオリーに従い、我々は突出部の付け根をおさえて敵勢力を包囲する。その為にこのSZ海域を迅速に攻略してここに前哨基地を築く。」

 そう言って大河内はSZ海域を指した。

「我々はこれからしばらくの間はAJ海域やその補給路を中心に攻撃を続ける。昼間は補給を妨害し、夜間にはAJ海域の島に艦砲射撃を続ける。コマンド部隊はその間に訓練を続けるんだ。そして敵がAJ海域と補給路に釘付けになった頃合いを見計らってコマンド部隊を中心に奇襲攻撃を仕掛け、一気にSZ海域を攻略する。」

皆が大河内の説明をじっと聞いていた。呆気に取られている者も少なからずいた。

 

「突破口を開くには敵の裏をかいた攻撃ができる部隊が必要なんだ。」

「それで…一体どんな面子でその部隊を構成するクマ?」

「うむ、次に呼ぶメンバーで構成する。自分の部隊のメンバーの名前があったら解散後の1300時にここに集合する事を伝えるように。川内、那珂、神通、夕立、秋雲、野分、浜風 、大井、北上、陽炎、不知火、黒潮、島風、以上だ。」

 話を終えると大河内は居眠りしている本多海将のイスを軽く蹴った。

「おあ!?…本日の会議は以上だ。何か質問は?」

本多はまだ若干目が覚めていないようだ。

「はい…。ではその教官はいつ到着するのですか?」質問をしたのは神通だ。

「3日後を予定している。」

「ねえ、その教官ってイケメンだったりするの?」

 次に質問をしたのは鈴谷だった。

「詳しい情報はまだ来てないが“優秀な教官”を頼んだからな。あまり期待はしない方がいいかもな。○ートマン軍曹みたいのが来るかもしれん。」

「誰それ?」

 自衛隊の小隊長達の方から軽い笑い声が聞こえた。

 隊員達の中には、自分の受けた地獄のような訓練を思い出した者もいた。それをあの可愛らしい艦娘達が受ける光景を想像すると気の毒と思わずにはいられなかった。

 

「質問は以上か?では会議は終わり。各隊長は連絡を忘れるなよ。」

 

 

 1300時。予定通りコマンド部隊に選抜された艦娘達が集まり、打ち合わせをした。

 大河内は先程の会議の時と殆ど同じ説明をした。訓練も実戦もかなりハードとなる事が予想される為、不安を感じている者は無理せずに言うように言ったが特に誰からもそんな声はなかった。

 こうして新しい部隊が二つ出来た。これからは選ばれた艦娘はこのコマンド部隊と通常時の部隊を兼任し、訓練の時と有事の時にこの部隊で行動する事となる。

 

 話し合いは首尾良く進んだが、途中思わぬトラブルが発生した。自分が選ばれなかった事に納得のいかない艦娘達が会議室に文句を言いに来たのだ。

 

「おいおいおい!この深雪様を忘れてもらっちゃ困るんだけどなぁ~。」

「君は経験が少なすぎる。」

「一人前のレディーの私が呼ばれないなんてどういう事なのよ!」

「君レディーの意味分かってる?」

「この摩耶様を呼ばないったぁ、いい度胸じゃねえか!」

「悪いな摩耶、重巡の枠は考えて無いんだ。」

 

 余りにうるさかったから、大河内は一段落したら志願者の部隊を作ると言ってしまった。まあ士気が高いに越した事は無い。しかし未だ不安な部分が多すぎる為、やはり選抜したメンバーで様子を見る必要があった。彼女達には悪いが志願者部隊は当分保留となった。

 

 

 

 その日の夜。一人の艦娘が月明かりの下で歩いていた。駆逐艦の時雨だった。

 彼女は先日の空襲以来悪夢にうなされていた。内容は決まって先の大戦の時の事だった。もうあの戦争を経験した人間は死に絶えてしまった程年月は流れたが、時雨には昨日の事のように思い出す事が出来た。彼女の中ではまだ“あの戦争”も終わっていなかった。あの時に味わった絶望感と悲壮感は本当に自分の魂が消え去るまで焼き付いているだろう。

 自分は何の為にまたこんな事をしているのだろうと自問自答していた。答えが出ない事は分かっていたが考えずにはいられなかった。

 神の悪戯とか言うやつか?だとしたら神というのはとてつもなく悪趣味なものなんだなと思った。

 

 彼女が歩いていると何処からか「カチッ」という音が聞こえた。音のした方を見ると司令部の建物の玄関にオレンジ色の小さい炎が見えた。どうやら誰かが煙草を吸っているようだった。 よく目を凝らすとそれは大河内三佐だった。彼は煙草を片手に項垂れていた。

 

 

 大河内もまた先日の空襲以来再び悪夢に見舞われるようになった。

 彼は今まで戦死した自分の部下の名前は全員覚えていた。3年前に死んでいった部下もまたそうだった。

 もう無駄だ、あの時はあの状況下でやれる事はやった、と忘れようとする一方、今でもあの時の自分の行動を思い出して考える事もあった。本当にあの判断は正しかったのだろうか、ああしていればあいつは死ななかったのではないか。

 そんな事をぼんやり考えながら彼は煙草を吸った。煙草は体に悪いと家族や友人に散々言われたが、こうでもしなければやっていけなかった。彼はうなされて起きた時に鏡で自分の顔を見たこともあったが、酷い顔だったのを覚えている。

 項垂れていた顔を上げると自分の前に誰かがいるのが見えた。近付いて来たのは駆逐艦の時雨だった。月明かりに照らされて顔が見えたが、とても悲しい顔をしていた。上官の前とだけあって多少取り繕おうとしていたが、それでも隠しきれていなかった。

 

「…散歩にはいい夜だな。」

 先に声をかけたのは大河内だった。

「そうだね。静かないい夜だね。」

「その顔からすると、随分昔の事を思い出したようだな。」

「貴方も…後悔してる?ここにいる事を。」

「そうだな…そうかもな。」

 大河内は煙草をポケット灰皿に押し込んだ。

「君たちは強いな。」

「え?」

「君たちは俺と違ってしっかり前を見てる。海将を補佐し、隊を率いる自分がこんなんじゃな…。」

「ううん、貴方は買いかぶりすぎだよ。ホントはみんな大なり小なり思う所はあると思うんだ。」

「それもそうだが…。時雨、俺は怖いんだ。毎晩のように夢を見てると、いつか自分の記憶に呑まれてしまうと思う事がある。」

「でも忘れる訳にはいかない。そう思ってるんでしょう?」

「そうだな。俺と俺の部下達の事もいつかは歴史の彼方のどこかにいっちまう。君たちが戦ったあの戦争と同じようにいつかはな…。だからせめて俺だけは…。」

「やまない雨が無いように、終わらない悪夢も無いよ、三佐。だからみんな前を見ているんだ。」

「だといいがな…」

 

 大河内と時雨はその時、遠くから響くヘリの音を聞いた。音はどんどん近付いて来る。ヘリ自体は珍しくも無いが、どうやらここに着陸するようだ。そんな事は聞いてないが、きっとエンジントラブルか何かで不時着するものかと思った。

 

「中隊長殿!中隊長殿!どこにいるでありますか!!」

 

 すると今度はあきつ丸の声が聞こえた。ひどく慌てているようだ。

 

「あきつ丸、ここだぞ。」

「ああ、中隊長殿!幕僚から緊急の連絡がありました、今夜軍事顧問が到着すると!」

「は?」

「ですから、今夜軍事顧問がここに到着すると…」

「ちょっと待て、それは一体どういう事だ?到着は3日後の筈じゃなかったのか!?」

「それが何でもその軍事顧問が“ここまで来てるのに時間がもったいない”等と言って勝手にグアム島の基地から出発したそうであります。だから連絡が遅れたと…。」

「信じられん…。」

 

 音のする方を見ると月をバックにこちらに悠々と来るチヌークが見えた。人の都合も考えずに、身勝手な奴だな。どんな面か拝んでやる。大河内は少々ご立腹だった。

 




いやぁ長いですね(笑)
キリのいい所まで書いたらこんなになってしまいました。
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