艦娘たちと共に ~海洋戦争戦闘録~   作:ヨシ ヒロ

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遅くなってすいません。家に着いたらテレビを見ながら寝落ちしたりしてしまいまして…。


2 習志野から来た男

 月をバックに二つのローターをつけたCH-47チヌークがゆっくりと降りてきた。ヘリをよく見ると緑や黄土色の迷彩が施されている事から陸自のヘリであることが分かる。突然の来訪とあり、まともに出迎えが出来たのは大河内、あきつ丸、時雨と警戒の為に起きていた艦娘と隊員達だけだった。

 やがて着陸したチヌークの中から二人の人影が降りて来るのが見えた。この時はまだ暗く、ローターの巻き起こす強風で顔はよく見えなかった。そしてその二人組が大河内の前まで歩いてきた。この時になってようやく大河内は軍事顧問の顔を確認出来た。そして唖然とした。それは彼の考えられる限り最悪の人選だった。

 

「大河内二等陸曹、ただいま着任!さあ、訓練兵はどこだ!」

先頭切って歩いてきたこの隊員はやたらやる気満々だ。見た目は大河内三佐よりも若干年下といった所か。

「なんでお前が…。」

「お知り合いでありますか?」あきつ丸が聞いた。

「知り合いも何も…」

「俺はそこの大河内浩也三佐の弟、大河内和也(おおこうちかずや)だ。よろしく。」

「は!よろしくお願いいたします!」

「おお、よろしく頼む。」

あきつ丸と本多海将は自然な流れで挨拶したが、大河内三佐だけは不服なようだった。

 

「ちょっと待て、どういう経緯でお前がここに!?」

三佐はいつになく取り乱していた。こんな三佐を見るのはあきつ丸も時雨も本多も初めてだった。

「なんでって?それは俺が優秀だからだよ。」

「真面目に答えろ。」

「俺は何時でも大真面目だよ?」

皆とてもそんな風には見えなかった。

「兄貴が特殊部隊を作る為の軍事顧問を欲しがってるって聞いたから志願したんだ。」

「志願!?」

「ああ、今の自衛隊じゃ一番ホットでやりがいがある仕事だ。それに…」

「それに?」

「危険手当もたっぷり出るしな。」

「信じられん…。第一どうやって俺が特殊部隊を作る事なんか嗅ぎ付けたんだ?」

「俺の情報網を舐めてもらっちゃ困る。」

「…」

彼ら以外のその場の人間(?)はすっかり話に取り残されていた。

 

 この大河内和也という隊員は他でも無い第5特任中隊長、大河内浩也三佐の3つ下の弟だ。性格は真反対と言っていい程対称的だ。良く言えば社交的で悪く言えば礼儀知らずといった所だろうか。大河内三佐の覚えている限り彼は俗物の塊のような性格で無鉄砲な言動目立つ奴だ。そしてその性格は未だ健在のようだ。

 

「それじゃあ、君が教官として水雷コマンドを訓練してくれるのだね?」若干眠そうな本多が口を開いた。

「ええ、お任せ下さい。」

「因みに原隊はどこから?」

「ああ…第一空挺団だ。」

「だ、第一空挺団!?」

 海自の本多でも驚いた。それほど第一空挺団の名は自衛隊の中では知れ渡っていた。通称「第一狂ってる団」、非常に優秀で頭のネジがはずれてるような個性的隊員が多い事で有名な部隊だ。

「まあいくら俺でも艦娘とやらには会った事は無かったからな、もう一人教官を付けてもらった。」

二曹の脇には白い制服を着込み、眼鏡をかけた艦娘がいた。

 

「練習巡洋艦香取です。大河内二曹と共に色々と指導させていただきます。」

こちらは大河内二曹とは全く正反対な雰囲気を出していた。

「大河内二曹とは既に入念な打ち合わせをしてきました。私達の出来る限りの力を使って部隊を指導していきたいと思います。」

 

 こちらは頼りになりそうだ。というかこちらだけにはできなかったのか?大河内三佐は思った。時計を見るともう日付は4月5日になっていた。

「それで、俺達の部屋はどこなんだ?もうくたくたでな。荷物もあるし。」

 チヌークを見ると段ボールが何個も運び出されていた。次から次へと隊員達の手によって運び出されていた。

「荷物ってあれか?」

「ああそうだ。」

「もしかして全部お前個人の私物か?」

「うん。」

「凄い量だな…。」

「必要な資料やら何やら色々持ってきたんだ。」

「あの量じゃ専用の倉庫が必要だな…。」

「じゃあ俺の部屋は倉庫で構わないよ?」

「それじゃあお前はどこでデスクワークを?」

「…何とかするよ。」

 

 

 翌朝、浩也に叩き起こされた和也は会議室に来ていた。結局和也は段ボールの上で寝ていた。香取は艤装の調整の為に工廠に行っていた。彼らの前には7人の艦娘がいた。川内、那珂、神通、夕立、秋雲、野分、浜風だ。

 

「いいかカズ、ここにいる7人が二つの水雷コマンド部隊のチームの一つ、“サクラ45”だ。」三佐が言った。

「サクラ45?もしかして兄貴が考えた名前?」

「もちろん。」

「へえ、素敵な名前だね。」

「ありがとう。」

「皮肉で言ってんだよ。」

三佐はムッとして二曹を軽く睨んだ。そんなにセンスが無い名前か?

「えっと、それじゃあ俺が大河内和也二等陸曹、大河内浩也三佐の弟だ。任務は君たちをみっちりしごいて一人前の空挺団員にする事だ。よろしく。」

「…てな訳でこれが今日から君たちの教官だ。何かあったらすぐに俺に報告するように。」

「どういう意味だそりゃ。」

三佐はとにかく心配でならなかった。妹に“野蛮人”とまで揶揄されたこの弟が艦娘達を教育する姿など全く想像できなかったからだ。

 

「それじゃカズ、ここにいる娘達の事は…」

「ああ、事前に資料に目を通したから大体の事は把握してるよ。みんなは俺に何か質問は?」

「はい!!」いの一番に手を挙げたのは川内だ。そしてこの段階で殆どの者は質問の内容は察した。

「二曹は、夜戦って好き?」

「夜戦?夜間戦闘の事か?う~んあまりいい思い出は無いな…。」

 

 自衛隊では夜間に戦闘だけでなく行軍の訓練もする。和也はそのなかで行軍の訓練の方がキツかった。戦闘訓練の時は適度な緊張感で目が冴えているが、行軍訓練は戦闘訓練後の疲労を抱え、しかも単調な動きしかしない為凄まじい睡魔に襲われた。和也も歩きながら睡魔に襲われ、藪に突っ込んだり崖から落ちそうになって教官から大目玉を喰らった。

 

「思い出すだけでも眠くなってきたな…。という訳で夜戦はちょっと苦手かな。」

「えぇ~つまんないの。」

「心配すんな、夜戦ならいくらでもやらせてやるよ。他は?」

 

「はぁ~い!」

次に手を挙げたのは那珂だ。そのノリに和也は若干置いてかれた。

「二曹さんは、アイドルには興味ある?」

「んん?誰のファンかって言ったら特に居ないが…。」

「本当!?じゃあじゃあ今度のライブに…」

「那珂!…ちゃん、自重しろ。」ライブの告知の紙を渡そうとしていた那珂を浩也が止めた。

「いいよいいよ、何?明後日に中央広場でライブ?」

「そうそう、那珂ちゃんのライブ楽しみに待っててね♪」

「検討しておこう。他は?」

「はい。」次に手を挙げたのは野分だ。

 

「二曹は先程私たちを空挺団員にするとおっしゃってましたが、そうなると私たちは落下傘での降下などを行う事になるのでしょうか?私たちは普通の人間と違うので正直不安が残りますが…。」

 真面目かっ!まさかそこまで考えてる艦娘がいるとは和也は思わなかった。

「その点は心配無く。落下傘降下よりも難易度は低めの降下をする。」

「といいますと?」

「あれだ。」

和也が指した窓の外を見るとローターの音を響かせながら真っ白な機体のSH-60“シーホーク”が飛んでいた。

 

「君たちが降下作戦の時に乗るのは21世紀の騎兵隊、ヘリコプターだ。あれからロープを使って海上に降下する。艤装を付けてるからやりづらいと思うが…まあそこは訓練でカバーする予定だ。他に質問は?無いか?無いなら解散、訓練は明後日の午後から始めるからそのつもりで。それじゃあね~。」

 

 

 会議室を出た和也と浩也は工廠へ向かっていた。

 

「いや~しかし中々個性的なメンツだったなあ。」

「お前もだろカズ…。艦娘はみんな個性的だよ。お調子者もいれば寡黙な娘もいる…生身の人間と同じだ。事実艤装を外せば普通の人間と変わらん。あんな小さな娘達が人類の希望なんだよ。信じられるか?」

「そんな彼女達を教え導く俺も人類最後の希望って訳だな!」

「お前なぁ…。」

 二人が喋っていると鎮守府の上空を零戦の編隊が全速力で通り過ぎて行った。

「ワーオすげえな。まるで第二次大戦の時にタイムスリップしたみたいだ。」

「ああ、方角からするときっと赤城と加賀への援軍に向かったんだろうな。」

「赤城と加賀って…あの一航戦の?南雲機動部隊の!?」

「ああ、そうだが…」

「マジか!近くにいるの!?」

「あ、ああ…彼女達は鎮守府の防空を担当してるからな。」

「ええ!?彼女達にインターセプターやらせてんの!?」

「カズ落ち着け。何をそんなに興奮してるんだ?」

「何っておま、あの赤城と加賀だぜ!?ミリオタの俺が興奮しない訳が無いだろ!!」

「あ…そういやそうだったな…。」

 

 自衛隊には“そういう人達”が少なからずいる(というかかなりの数だが)が、大河内和也もその一人だった。兄の浩也が知ってる限り中学に入った辺りからそんな傾向が始まったと記憶している。模型やらビデオやら色々集めて大変な事になっていたのを思い出した。

 

 

 二人は工廠に来ていた。先日の空襲の時の穴は何とか塞がれ、あちこちで小さな妖精さん達がせわしなく動きまわっていた。

 

「ここが工廠、鎮守府の核と言っていい程重要な施設だ。艦載機や砲弾の生産、艤装の修繕や改修も全部ここでやってる。」

「へぇ~…。って事は特注のパーツとかも発注出来んの?」

「まあ設計図とかがあれば妖精さんの作れる範囲でなら可能だが…。カズ、お前何を企んでる?」

「だって特殊部隊だろ?彼女達の砲塔にピカティニー・レールとかも付けてやりたいな~って。」

 

 ピカティニー・レールとは小火器に設けられたスコープやライト等のオプションパーツ用の取り付け台の事だ。取り付け台と言っても見た目はただの等間隔の凸凹だから作るのにそれほどの技術は必要無い。

 

「成る程…まあ確かに夜戦の時とかにライトやらなんとかサイトやら必要になるかもしれんな…。」

「まあ今後の戦訓次第って事で…」

とその時工廠の扉が開いてその先の海原が広がった。

「お次はなんだ?」

「艦娘の帰艦だな。まだローテーションの時間じゃ無いから誰か損傷でもしたかな…。」

 

 工廠に入ってきたのは3人の艦娘だった。一人は負傷していて、残りの二人は護衛のようだ。負傷している艦娘はどうやら空母娘のようで肩に大きな甲板があった。

 

「お帰り加賀、やられたのか。」

「三佐…はい不覚を取り敵の爆弾を1発被弾しました。直ちには任務に支障はありませんが念のため修復する事にしました。穴は二航戦が埋めています。」

「ずっと付きっきりですまんな。」

「いいえ…そちらは?」

「ああ、紹介しようこれが例のコマンド部隊の教官の…」

「大河内和也二等陸曹でぇす!よろしくお願いします!」

 

 和也が食い気味で割り込んできた。それも当然目の前にいるのは良くも悪くもかつて太平洋での日本の海の覇権のカギとなった空母機動部隊の代表格「加賀」なのだから。今まではモノクロの古ぼけた写真の向こうにしかいなかったあの正規空母加賀が目の前にいるのだ。

「おいカズ!」

「お会い出来て光栄だ!握手できる?」

「え、ええ…」

「おああ、ありがとう。なあ後でサイン…」

「カズ!!」

「いいだろ?本土に帰ったら部隊のやつらに自慢してやりてぇんだ。」

 

 

 帰投した加賀はいきなりの見知らぬ客人の出迎えに最初は混乱した。いきなり握手を求められたのはもちろん初めての経験だし、初対面からこんなに食い付かれたのも初めてだったからだ。しかし気分は悪くなかった。大河内二曹の言動から自分達が沈んだあの戦争から何十年たっても一航戦の威厳(というかブランド力?)は健在だという事が分かったからだ。

 

 加賀は自分と赤城の所属する“一航戦”というポジションに並々ならぬこだわりを持っていた。前世では世界に先駆け空母機動部隊の中心として中国から南太平洋までを縦横無尽に暴れ回った。世界最強の機動部隊。それはもちろん再び甦った今現在も自負している。もう不覚はとらない。かつてのように自分の失態で負け戦になる事は絶対にあってはならない。彼女はそう決心していた。

 だから彼女は鎮守府の防空という任務に自ら志願した。志願の直接の原因となったのは先のムエルタ大空襲だ。あの時、結局自分達は存在しない敵機動部隊を探していた。そしてその間に鎮守府の窮地を救ったのはあの五航戦だった。加賀はそれが気にくわなかった。具体的には説明出来ないが、とにかく歯痒かった。

 「ここは譲れません。」彼女は海将と三佐にそう言うと相棒の赤城と共に鎮守府周辺の防空兼敵地の偵察、攻撃の任務に就いた。

 

 鎮守府西方海域の哨戒、迎撃及びAJ海域への攻撃には赤城、加賀の「ツバキ11」と伊勢、日向の「チドリ93」が中心となって行う事になった。任務の性質上赤城と加賀の艦載機は全て戦闘機(零戦)になっていて、敵地や敵艦隊への爆撃は伊勢と日向が積んでいる瑞雲で行う事となった。ムエルタ大空襲の時の被害が敵も多かったのだろうか規模の大きな空襲はまだ無く、小競り合い程度に落ち着いていた。しかし日に日に敵の攻撃が激しくなっているのも事実で、今日は軽傷とは言えとうとう加賀が負傷した。

 

「彼女達はサッカーで言うなればディフェンダーだ、カズ。そしてゴールキーパーは俺達だ。」

「でも1日の時はこっぴどくやられたようだな。ちょっとガバガバなんじゃないの?」

「あれは完全に想定外の事態だったんだ。まさか1日2日で戦線から離れた鎮守府の近くに飛行場ができる何て…。」

「飛行場か…でもそれも実際の所はどんな感じか分かんないんでしょ?」

「戦場ってのはそんなもんだ。確かな情報なんて無い…場所を決めるのは俺じゃない。」

「ふ~ん…。」

「他人事じゃないぞカズ、鎮守府が空襲を受けるような事になったらお前にも銃を取って戦ってもらうからな。」

「いいよ、いつでも準備はOKだ。もし奴等が特大のクソを飛ばして来たら俺がはたき落としてやる。」

「カズ…。」

和也はまわりに艦娘がいる事をすっかり忘れていた。

「おっと…下品で失礼。」

 

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