多少マニアックな描写があります。
読みづらかったら申し訳ないです!!
カンカンと照りつける太陽の本、今日もムエルタ島では自衛隊と艦娘達の訓練が続けられていた。その証拠にこの日は日が昇ってからというもの砲が弾を発射する重く、とんでもなく大きい轟音がずっと響き渡っていた。
――FDC(射撃指揮所)へ、こちらFO(観測班)、目標確認。修正射、座標1129 2233、 標高07、観目方位角2600。四番ブイのフラッグだ。
――了解。
「FOより射撃要求、修正射、座標1129 2233、標高07 、観目方位角2600。四番ブイのフラッグです。」通信手が報告を班長に大声で伝えた。
「了解、よしメカニック君、計算頼んだよ。」
「了解しました。」
そう言うと「メカニック」こと丹羽算定陸曹はキーボードをカタカタさせながら黙々と計算を始めた。それと同時に指揮所の班長は砲撃を行う特科の隊員達に連絡を入れた。
――1中隊、FOより射撃要求、間も無く射撃はいりまーす。
――こちら1中隊、了解。
「竹崎!砲撃用意、弾持ってこーい!!」
「了解!!」
竹崎が重いりゅう弾を運び終えると新たな指令がFDCから入った。どうやら射角の計算が終わったらしい。
――こちらFDC、中隊修正射、基準砲、方位角2301、射角124だ。
――了解。
「方位角2301、射角124。砲撃用意!!」
小隊長の指示で155mm砲の砲塔が左右に、砲身が上下に動き狙いを定めた。いよいよ発射の瞬間だ。準備完了を知らせる赤いフラッグが振られた。
「よーい!!」
竹崎を初めとする隊員達は耳を塞いで(一応耳栓はしているのだが)待つ。
「撃てぇ!!」
ズガァン という空を引き裂くような轟音と大量の白煙を吐き出し、砲弾が発射された。発射の衝撃で25tもある重い自走砲がぐわんと揺れる。
「だんちゃーく、いま!!」
小隊長が言い終えるか終えないか位のタイミングで海上に水柱が立った。
「んー…」
FOの隊員達が双眼鏡で水柱を食い入るように見た。
「いやはや、しかしこれはまた五月蝿くててかなわんなぁ。」
そう声をあげたのは執務室で事務処理をしていた本多海将だ。執務室といっても気持ち豪華な兵舎の様なもので、防音などは恐らく最低限の考慮しかされていない。
「仕方ありませんよ。特科は艦娘達とは違って沖合いで砲撃訓練をする訳にもいきませんし。これも、我々の勤めです。」
大河内は陸自出身とあってこの程度の騒音には慣れっこなようで、ケロっとしている。
しかしこの鎮守府を統べる本多は全く対称的な状態だった。
「うぅむ…耳がおかしくなりそうだな…。」
「そのうち慣れますよ。」
「もう三日間位そう言われてるがねぇ。」
「文句ばかり言ってないで仕事しましょう、仕事。」
「そうは言ってもだねぇ…」
その時「ドドドォーン」と今までとは比べ物にならない発砲音が本多の声を遮った。凄まじい衝撃に窓ガラスがカタカタと小刻みに揺れた。
「効力射ですね。見事なもんです。」
ケロッとしている大河内だが、対称的に本多は頭を抱えて小さくなっていた。
「頭も痛くなってきたぞ…。」
そんな様子を見て大河内も別の意味で頭が痛くなりそうになっていると、執務室のドアを叩く音がした。
「いいぞ。」
本多に変わって大河内が返事をした。
「失礼します、大淀入ります。提督、こちらの書類の確認とサインをお願いします…って大丈夫ですか?」
「海将ならこの通り、ピンピンしてるよ。」
海将の顔は真っ青だ。大淀は苦笑いしながら続ける。
「あの…三佐にもお願い事がありまして…。」
「ん?何だ?」
「お持ちした書類にも関係してるんですが…その、アメリカ軍が連日大量に送り付けてくる支援物資についてなんですが、あなたの大隊から搬入作業にもっと人数を頂いてもよろしいですかね?」
「ああ…あれか。いいだろう、今日から第3小隊も作業に加わるように指示しよう。」
「ありがとうございます。助かります。」
「何だ…またこの書類か。」
ダウンしていた本多がようやく回復したようで、大淀が持ってきた書類を手に取っていた。
「何だっけ『エンジェル・フォール作戦』だったっけ?アメリカ軍の支援物資ばらまき作戦。」
「「はい…」」
大淀と大河内が揃って似たような顔で応えた。
「支援物資を送ってくれるのはありがたいんだが…」
「もはやこちらの受け取りが追い付かなくなりつつあります。こちらとしては嬉しい悲鳴とでも言いましょうか…これが“持っている”国の力なのですね…。」
アメリカ軍は2週間前から「エンジェル・フォール作戦」と称した、深海棲艦に対抗している国に対する支援作戦を開始した。
イギリス、日本、ドイツ、ロシア、イタリアなどの艦娘を配備、運用させている国の軍を特に優先対象とした作戦だが、最前線に近く、且つアメリカ軍基地とも比較的近い距離にあるムエルタ島には、ほぼ連日のように輸送機で大量の武器弾薬や食料、娯楽品などの支援物資が届けられていた。
「今まで届けられた物資は武器弾薬だけでもかなりの量です。AN/M2重機関銃400丁以上に、カービン銃1000丁、50口径弾10万発以上、30口径弾20万発以上、30カービン弾25万発以上…」
「聞くところによると、アメリカじゃあ本土の武器製造会社が妖精さん達を大量に雇ってあらゆる対深海棲艦用の武器を製造してるらしい。お陰で武器メーカーも大儲けだとか…。」
本多が書類を見ながらそう言った。
「お陰でこっちは結構なライセンス料を払う事になりましたけどね。」
大河内が少し困った顔で言った。
自衛隊はアメリカ軍をはじめとする国連軍と円滑に作戦を行えるように弾薬の規格の統一化を試みている。
特に空母艦娘が搭載している航空機の弾薬はだいたい日米共に似たような規格だから、次々と統一化が進んでいる。
その中でも特に大量に必要なのが、戦闘機の機首機銃、爆撃機または攻撃機の後方機銃など、あらゆる所で使える「AN/M2重機関銃」と「12.7mmNATO弾」だった。今ではこの鎮守府の工廠でも量産しているが、この話を製造元の銃器メーカーに打診した所、かなりの額のライセンス料を払わされたのだ。
「全く、商売人には敵わんね…」
そういいながら本多は、窓ガラスの奥に今日も大量に運ばれる「FN」というマークが青く描かれた箱の山を眺めた。
調度その頃、鎮守府の沖合を1隻のホバークラフトがエンジン音を轟かせながら凄まじいスピードで走っていた。
「おるぁ!!行くぞぉ!!飛び込み用意!!」
ホバークラフトのエンジン音にも負けない声で大河内二曹が吠えた。ホバークラフトには大井、北上、陽炎、不知火、黒潮、島風らの訓練生と香取が乗っている。彼女らの顔色はあまり良いとはいえない。
何せ彼女達は徹夜のフル装備行軍訓練を終えたばかりなのだ。そんなわけでかれこれ20時間以上まともに寝ていない。
香取は風でペラペラと舞う記録用紙と悪戦苦闘している。彼女もまた大河内の過酷な訓練に付き合っていた。訓練中の艦娘達の様子をチェックして何やら紙にメモをしていた。
「ちょっと、本気でやる気なの…。」
「はっやーい…。」
大井と島風が呟くように言った。現在彼女らの乗っているホバークラフトは約40ノット(時速約74km)ものスピードで海上を駆けている。
「ああ勿論!!このホバークラフトを使えばお前達は浅瀬や多少の陸地も無視して作戦が展開できるようになるんだぞ!!奇襲には持ってこいだろぉ!!」
「でも正気じゃないです。」
不知火が水を刺すようにいう。
「今ここから飛び込んだら、あっという間に衝撃で大破して戦闘不能ですよ。」
「そうならんように今まで受身やら飛び降りの訓練させてして来たんだろうが!!」
「ですが…」
「ようし、いいだろう!!不満があるってんならお前達が全員飛び込んだ暁には、俺も飛び込むぞ!!」
「何言ってるんですか!?」
不知火は柄に合わないような声を挙げた。他の艦娘達も唖然としている。
「やっぱりこの人頭おかしいわ…。」
「何だどうしたってんだ!?スカートがめくれるのが恥ずかしいか、大井っち!!」
「その言い方止めてください!」
「文句言わずに、さぁ行け!!自分を信じろ!!神通達は飛び込んだんだぞ!!」
言われるがままに艦娘達はホバークラフトの縁に体を動かすが、そこから先にはなかなか進まず、物凄い勢いで視界の中を右から左に流れていく海面を見るだけだ。
「ホレ、行け!!」
そう言うと大河内は一番手前にいた北上を軽く蹴って海面に落とした。
「ちょっと!あんた何て事北上さんにしてんのよ!!」
「ごちゃごちゃ騒ぐな!!さぁお前も北上に続け!!」
「もう我慢できないわ!あんた何様のつもりよ!!」
そう言うと大井は持っていた単装砲を大河内に向けた。それは極度の緊張と疲労と怒りの末の衝動的な動作だったが、一気に周りのメンバーに緊張が走った。香取は静かに連装砲を大井に向けた。いつでも撃てるという事を視線で大河内に合図した。
しかし大河内は一切表情を変える事はなかった。香取に“そんなのは必要ない”と目配せをするほど余裕なようだ。
「おお?何だ何だ。この俺に砲口を向けるか?」
「黙って…。」
「…面白い!気に入ったよこいつ、ハッハッハ!!」
張り詰めた雰囲気の中大河内一人だけが笑っていた。それはそれは異常な光景だった。
単装砲を向けられた男はさらに続ける。
「教官様に楯突くその度胸は認めてやろう、大井っち。」
「なっ!」
そう言うと大河内は左手で大井の持つ単装砲を払い、一気に間合いを詰めた。
「だがCQCでこの俺を打ち負かすのは10年早いな。」
次の瞬間には大河内の右手は大井の襟元を掴み、彼の体は大井の懐に完全に入っていた。
「頭冷やせぃ!」
そう言い終える頃には大井はホバークラフトの後方遥か後方に消えていった。見事な背負い投げであった。
「さて…」
大河内は残りの艦娘達を見渡す。
「他に俺と遊びたい奴はいるか?」
「これはこれは…大河内君、君の弟くんも容赦が無いねぇ。」
「アイツは手加減てものを知りませんから。」
島の陣地を見回っていた本多と大河内は工廠近くの浜にいた。そこで見たのは水が滴るほどびしょ濡れになった状態で干されている艦娘達の制服と、だぼだぼの迷彩服を着てぐったりと浜に座り込む艦娘達だった。
「あんなの横暴ですよ!!ねぇ、北上さん?」
「いや~さすがに今回ばかりは死ぬかと思ったね~。」
大井と北上の二人組はあい変わらずベッタリ(大井がほぼ一方的にくっついているだけだが)だ。
「まったく…提督はなんて奴を寄越してくれたのかしら…。あの人の人選能力を疑うわ…」
「あっ、提督じゃん。何してんの?」
大井が小声で愚痴を呟いていると、大河内達に気付いた北上がいきなり声をあげた。すると大井も一息あけて大河内達に顔を向けた。
「あら~提督ですか?今日も見回り御苦労様です。」
語尾に♡が付きそうな程の猫撫で声だ。さっきの愚痴の時の声は何処に行ったんだと大河内は内心言いたくなる。
「いや、ちょっとした散歩がてら寄ったんだ。大井君も、北上君も御苦労様。精が出るねぇ。」
本多は先程の愚痴は全く聞こえて無かったのか、至って普通に話しかける。
「ええ、ほんっっとうに有意義ですばらしい訓練でした。あのような殿方を寄越していただき、ありがとうございます。」
大河内は笑みを浮かべてそう話す彼女に得体の知れない気味の悪さを感じた。
「海将、そろそろ行きましょう。仕事が残ってますよ。」
「おっ、そうだな。ではこれで私は失礼するよ。」
大河内は即時に撤退するのが身のためだと本能的に感じた。帰り際に少し後ろの様子を見たときに目があった大井に睨まれたときは歴戦の大隊の中でも古参クラスの大河内でも寒気が走った。
彼女は色々ヤバそうだ。
だがまぁ、実際は多少は同情している、というのが大河内の本心である。精神的にも外見的にも年頃の人間と同じ彼女達が毎日弟にシゴかれているのは不憫と言えば不憫だ。
重い艤装を頭の上に持ち上げた(万歳のような)状態でひたすら島を周回していたり、週に2、3回真夜中に艦娘寮の方から中華鍋か何かを叩く(もしくは起床ラッパの)音と弟の怒鳴り声が聞こえたと思うと、そのまま夜間訓練開始、というような光景を見てきた。
しかし弟はかなりのヘイトを集めてもおかしくないが、本人は全く意に介していないようだ。改めて弟の精神のタフさ、もしくは無頓着さに感心する大河内だった。
登場人物が多くなってきたから紹介ページ作ったほうがいいかも…