艦娘たちと共に ~海洋戦争戦闘録~   作:ヨシ ヒロ

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前回は全く艦娘が出ませんでしたね(笑)。
やっと艦娘の出番です。


迎撃戦:ムエルタ大空襲
1 出撃


令和13年4月1日

 

 南国の照りつける太陽の元、出撃の準備を終えた特型駆逐艦1番艦吹雪はどうかこの状況が司令部の洒落た冗談かなんかである事を願っている(と言うより現実と思いたくないだけだが)。やがて彼女の虚しい願いも諦めなければならないときがきた。

 

――こちら司令部。各艦通信状況をチェックせよ。

――こちらツツジ64旗艦木曾、問題無い。

――同じくツツジ64霧島、マイクチェック…OKです。

――ツツジ64時雨、大丈夫だよ。

――ツツジ64吹雪、問題ありません!

 

 とりあえず格好だけは元気に返したが相変わらず彼女の中で不安は広がるばかりだ。

 

「おう、吹雪気合が入ってるなあ。初めての出撃だっけか?」

「大丈夫ですよ、これまでのように敵の艦隊は偵察を兼ねた斥候部隊か先日の航空戦で破れた部隊の残党です。肩に力を入れすぎる必要はありませんよ。」

「いつもの訓練通りにやれば大丈夫だよ。」

「う…うん。」

 

 仲間の励ましの声が次々と欠けられた。いつもならもっと気のきいた返事が出来るだろうが、今の彼女にそんな余裕は無い。

 直後、ドックにサイレンが鳴り響いた。とうとう出撃だ。彼女、吹雪が「艦娘」になってから初めての出撃なのだ。

 

 

「よしっ!出撃だ!!吹雪、お前に『艦娘』の戦闘って奴を教えてやるよ!」

「た、楽しみですね…。」

 

 どうやらまだ吹雪は木曾のテンションについていけないようだ。

 この緑色の髪が特徴的なセーラー服に身を包んだ男勝りな言動をする当鎮守府ではある意味アイドル的な存在である艦娘木曾は今回このスクランブル艦隊、ツツジ64の旗艦を務めている。

 ある意味とはその中性的な容姿から艦娘の間では主に駆逐艦、また最近やってきた陸上自衛隊第5特任中隊の中にも熱心なファンがいるからだ。

 実は彼女、大所帯の特型駆逐艦姉妹の長女吹雪が球磨型軽巡洋艦姉妹の末っ子木曾と艦隊を編成するのは通算で二度目なのだ。もっとも最初に一緒になったのは1937年、当の本人すら記憶が曖昧になりつつある程昔の話なのだが…。

 

 

 「発見した偵察機の情報によれば、敵艦隊の出没海域はサンタジョージア諸島周辺、構成は駆逐艦が主で最大でも巡洋艦クラスが1隻見られるのみ。やはり先日オキシドル島沖で撃破された敵の機動部隊の残党の可能性が高いですね。」

 

 そう言いながら眼鏡を光らせている巫女装束を着たすらりと背の高い艦娘は艦隊の頭脳を自負する高速戦艦、金剛姉妹のこれまた末っ子霧島だ。眼鏡が特徴の見た目そのまま頭が切れると評判だ。

 しかし同時に当鎮守府有数の武闘派である事もよく知られている。面倒見がいいから駆逐艦や巡洋艦をはじめとする妹分からも評判は悪くはないが、一番人気なのは戦艦勢だ。みな先の大戦での数少ない戦艦同士の砲撃戦である第三次ソロモン海戦の話を聞きたがっているのだ。

 特にろくに戦う事の出来ないまま終戦を迎えたビックセブン長門からはこの鎮守府に配属されて以来切望の眼差しで見られている。

 いつもはビックセブンの誇り云々などと言って鎮守府を威風堂々と闊歩している鍛え上げられた体つきの長門がいかにもインテリな風貌な霧島にまるで忠犬(はたまた不良の舎弟)のように取り巻いている光景は非常に滑稽でおもしろいといつも言われている(勿論本人には誰もその事は教えない)。

 

 

 霧島が話していたオキシドル島沖海戦とは先日3月29日に鎮守府の南に位置するオキシドル島付近で繰り広げられた航空戦とその後の追撃戦の事だ。敵の機動部隊が運良く哨戒網にかかり、赤城、加賀、祥鳳、瑞鳳を中心とした機動部隊が奇襲を仕掛けたのだ。

 激しい航空戦の末、敵の旗艦を撃破、状況が不利な事を察した敵艦隊は全速力で撤退を始め、その後はスコールに見舞われる中で更に数時間程今度は駆逐艦や巡洋艦を中心とした部隊による激しい追撃戦が行われた。

 視界がきかないスコールの中で追撃戦が行われた為、最初の航空戦以外の戦果はまだハッキリしていないのだ。

 そしてサンタジョージア諸島はその海域の北西に位置するサンゴ礁の上に出来たミクロネシアではありふれた島々だ。この辺りの海域では熱帯特有のスコールが時間を問わず発生するため方角を見失って遭難する事は珍しくない。それは見方も敵も同じ事で予期せぬ場所からひょっこりと艦隊が現れ、遭遇戦になることもしばしばあるのだ。

 今回もそんな所で、はぐれた敵の機動部隊の一部が方向を見失ってサンタジョージア諸島に出没したのではと霧島は踏んでいる。

 

 

 「吹雪ちゃんは出撃初めてなんだよね?くれぐれも無理はしないようにね?」

「時雨ちゃん…ありがとね。」

 

 実を言うと吹雪が今一番この艦隊で頼りにしているのはこの物静かな雰囲気をつねに漂わせている時雨だ。

 火力こそは木曾、霧島の両艦には及ばないが、なにより同じ駆逐艦として木曾や霧島と違って普段から多愛もない会話を交わしている時雨の存在が一番ありがたいのだ。

 この時雨という艦娘はどうも雨が好きなようで度重なるスコールに皆がうんざりしている中でもまだ雨に見飽きていないようだ。

 曰くその日その日で一見同じような雨に見えても実は注意深くみれば違った表情があるらしい。彼女の話は哲学的過ぎて皆聴きたがらない(それこそスコールにうんざりしているように)のだが、吹雪だけは時雨のその講座と言ってもいい難儀な話を頷きながら聴いている。勿論内容の半分も理解出来ないのだが、聴いているだけでも吹雪は楽しいようだ。

 

 そうこうしているうちに目的地のサンタジョージア諸島が水平線に見えてきた。浅瀬が周囲に広がる小高い山をもった幾つかの島だ。いよいよ艦娘吹雪にとっての最初の戦闘が始まった。

 

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