艦娘たちと共に ~海洋戦争戦闘録~   作:ヨシ ヒロ

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4 効力射

4月26日 01:00時

 

――こちら第1偵察分隊、敵艦隊と接触。

――どんな状況だ、神通?

――攻撃を受けてます。

――無事か?

――はい、今のところは全員無事です。現在全速で回避中。敵も深追いはしない様子です。牽制程度かと。

――よし、敵の規模は?

――間違いなく複数の戦艦クラスがいます。発砲音と飛翔音からして…16inchクラスだと思われます。

――了解した。すぐに戻って来いよ。

 

 

 「第2中隊、よく聞け。」

 

特科の中隊長の玄田1尉の声が響いた。

 

「艦娘の偵察分隊が深海棲艦と接触した。目標は西方の海域から接近中だ。…戦艦もいる。よって当初の予定通りに迎撃を開始する。いいな!」

「「了解。」」

 

 特科の隊員達は中隊長に応えると昼間にせっせと掘ったタコツボの中に入った。

 竹崎もタコツボの中にうずくまるように入った。

 

「はぁ~参った参った。竹崎、顔色悪いぞ?」

 

 先にタコツボに入っていたのは竹崎の同僚の菊池だ。

 

「菊池…お前はいつもよくそんなんでいられるなぁ。総火演の前日の時なんて俺は緊張で寝れなくて吐きそうだったのに、お前ときたらイビキをかいて寝てたよな?」

 

 菊池とはそう言う人間だった。やたらと肝っ玉が据わっていて、自分でも小心者だと思っている竹崎には考えられないような事をたびたびしでかした。

 今だってそうだ。なぜならこんなこの世の終わりのような状況の中で未だに他人を気遣えるだけの余裕があったからだ。

 

「一番気の毒なのは俺達と違って真っ正面から矢面に立たされる普通科と高射科さ。後方から砲撃する分、俺達が生き残る確率は少しは高いさ。」

 

 菊池はそう言った。

 その時だった。前方の海上から照明弾が打ち上げられ、島全体が青白い光に不気味に照らされた。

 ユラリユラリと海風に揺られながらゆっくりと照明弾は落ちて行った。

 

「あぁ…とうとう来ちまった。」

 

 竹崎はタコツボの中から顔だけ出して外の様子を伺っていた。その表情が真っ青に見えるのは照明弾だけのせいではないだろう。

 

「大丈夫だ竹崎。俺達にはビッグ7と大和が付いてる。俺達はやるべきことをやればいいんだ。」

 

 同じタコツボに入っている菊池が励ました。それは自分自身に言い聞かせているようにも見えた。

 

 

「ほう…向こうから照明弾を上げてくれるとはねぇ。」

 

 和哉が照明弾を見ながら呟いた。するとそれに応えるように海上の暗闇の奥からカメラのフラッシュのような光がパッパッと発生した。

 

「マズルフラッシュを確認!」

 

 誰かがそう叫んだ。そしてそのフラッシュから少しタイムラグを挟んで地響きのようにも感じられる砲声が響き渡った。

 

「これが艦砲の音か…。」

 

 タコツボの中にうずくまっている竹崎は普段聞いている砲声とは比べものにならない音にただただ驚くことしかできなかった。

 自分達が使っている砲は155mmだ。しかし相手は何mmだ?竹崎はあまり軍艦に関する知識は持ち合わせていなかったが、戦艦大和が46cm位の砲を持っているという仲間の話はなんとなく覚えていた。

 400mm?そんな桁の違う砲を持っているやつと撃ち合って勝負になるのか?竹崎の頭の中ではそんな考えがぐるぐる巡っていた。

 

 やがて電車が高架を通過する時の音のような「ゴォォォーッ」と言う凄まじいい音が迫って来た。戦艦の主砲弾が飛翔しているのだ。

 

「来るぞ!!」

 

 誰かがそう言い終わるか終わらないかというタイミングで砲弾が着弾した。隊員達の視界一杯に巨大な水柱が次々と立った。まるで巨大な水の壁が一瞬にして現れたような異様な光景だ。

 

「…」

 

 誰もが言葉を失った。この巨大な暴力の前に、彼らはひとまず地面に頭を付け、こちらの反撃よりも先に相手の砲弾が自分の頭に降ってこない事を祈ることしか出来ない。

 

 

「よし、今ので計れたか?」

「ばっちりですよ。」

 司令部のある地下壕も喧騒に包まれていた。先程の砲声を音響探知機で計測し、さらに上空を飛んでいるサーモグラフィーカメラを搭載した無人機を駆使し、敵のいる方向と距離を割り出すのだ。

 

「よし、奴らに21世紀の戦闘を見せてやれ。」

 

 

――こちら統合司令部、長門応答せよ。

――こちら長門。

――長門へ、これより射撃諸元を指示する。目標1番ブイ。徹甲弾、方位角1030、射角223。突撃破砕砲撃を行う。

――了解。

 

「よし、全員射撃諸元を把握したか?」

 旗艦である長門が第1打撃群の戦艦勢に確認した。砲弾を撃ち込む場所は1人1人微妙に違ううえ、砲弾のサイズも違う為、1人1人に異なる射撃諸元が伝えられているのだ。

 

「赤外線映像に敵艦隊を確認。目標名アルファ。間もなく破砕砲撃域に入ります。」

 

 赤外線モニターには真っ白に赤熱する深海棲艦の艤装の群が映し出されていた。島に対して単横陣の陣形で迫って来ているのが確認できた。

 

――艦隊及び大隊、合戦用意。

――こちら司令部、第1打撃群、射撃用意。

――長門、良し。

――大和、良し。

――金剛、all okネー!

――霧島、良し。

――…各員、撃ちぃ方始め。

 

 ボォンッボォンッと天地を震わす砲声が閃光と共に島を震わせた。長門、大和、金剛、霧島が一人につき2発ずつ放った砲弾は不届き者へ向かって飛んでいった。

ゴオオォーッと島にいる隊員達の頭上を砲弾が翔んだ。

 

――だんちゃーく、今!!

 

 長門の言葉が言い終わった直後、次々と砲弾が深海棲艦の隊列の後方に命中した。外したにしても初弾にしては十分すぎる精度の砲撃だ。

 

――遠し、引け300。

――第1打撃群、再度修正射用意。

――第1打撃群、了解した。諸元を求む。

――了解、待て…。

 

暫しの沈黙が続く。

 

――長門、射撃諸元。

――長門、了解だ。

――方位角そのまま、射角235へ修正。

――射角235だな、了解。

 

 全員が直ぐに主砲の射角を調整する。もうほとんど限界まで砲口は上を向いている。

 

――時間が惜しい。第1打撃群、効力射でいくぞ。

――了解。

――第1打撃群、効力射、撃ちぃ方始め!

「撃てぇ!!」

 

 

 島の西方の沖合いに展開していた深海棲艦達は凄まじい光景を目にした。暗闇に包まれていた島の輪郭が閃光と轟音と共に浮かび上がったのだ。

 

「敵の斉射だ!!」

「衝撃に備えろ!!」

 

 すると暗闇を引き裂く轟音が降ってきた。弾着と共に凄まじい水の山が艦隊の後方にいる深海棲艦達を呑み込んだ。

 

「なんだこの精度は!?奴らは島の反対側から撃っているのでは!?」

 

 ル級が叫んだ。砲弾の弾着はどちらかと言うと後方に逸れたが、その精度は驚異的だった。数発の試射の後の最初の斉射で完全に捉えられていた。

 どういう訳か敵は完全にこちらを“見て”攻撃を仕掛けてきたように思えた。

 

「どうやら敵を少々甘く見すぎたかもな…この海域に留まっていたらゼロインされて一方的にやられる!」

「どうします?」

「…このまま進む。なに、奴らの懐に入り込めばいい話だ。全艦、両舷全速!一気に突っ込め!!」

 

 

「敵艦隊、速度上げました。」

 

 モニターには先ほどよりも段違いに早く島に接近する白い点が映し出されていた。

 

「こちらへの砲撃も散発的になっているようですね。」

「うむ、予定通りだな、大河内君。」

大河内はその言葉に頷くと無線機を取った。

 

――特科及び重巡部隊、射撃用意。敵に反撃の隙を与えるな。

――特科、了解。

 

「射撃諸元よぉし!!」

「射撃用意!!」

 155mmの砲弾と装薬を首尾よく装填し、竹崎の隊の155mm榴弾砲も射撃の準備が整った。緊張が走る中、皆で耳を塞いで口を開け、発射の衝撃に備えた。

 

「寝みぃなぁ。やっぱり夜間訓練は苦手だわ。」

 

 菊池はとなりで寝言のような事を抜かしていた。先ほどまで寝ていたからか、まだ頭が回っていないように見える。

 

「撃てぇ!!」

 

 呆れ返る竹崎を尻目に自走砲に据え付けられた155mm榴弾砲が火を噴いた。

 

 ドドドォーン。今度は先ほどより近くから砲声が轟いた。砲声の残響が終わる前にもう砲弾が空を切る忌々しい音が聞こえてきた。

 

「敵弾来る!!」

 

 あるリ級がそう叫んだ直後に特科の放った12発の155mm弾と2発の203mm弾が襲い掛かった。今度は全て前方に着弾し、目と鼻の先に水柱が次々と現れた。

 

「こ、これは…。」

 

 その直後、先ほどの戦艦部隊が2度目斉射をした。同じく後方に着弾したが、先ほどよりも手前に正確に修正されている。

 砲弾が1ダースセットで自分目掛けて降って来るというのは実際にその場にいなければ誰も想像も出来ないような恐怖をもたらす。

 

「まずい、挟まれた!敵のキルゾーンに誘い込まれた!」

「どうします!?」

「退避!!退避だ!!」

「上陸部隊の支援砲撃は!?」

混乱が混乱を呼び、艦隊は恐慌状態に陥っていた。

「くっ…こんな…。艦隊、左右に別れて各々で敵艦隊及び陸上施設を攻撃しろ!」

「…!!敵弾来る!!」

 

 その直後、重巡部隊の放った16発もの20.3cm弾が降り注いだ。この斉射は混乱の最中の深海棲艦の艦隊にもろに直撃した。

 あるイ級は砲弾を頭上からもろに喰らい、その身体を貫かれる。そして次の瞬間にはその身体を真っ二つに裂かれて沈んで行った。

 あるホ級は魚雷に砲弾が命中、誘爆し、瞬く間に全身を爆炎に包まれた。

 

 この一斉射の直撃で駆逐艦3隻が瞬く間に撃沈、更に3隻が大破し、軽巡も4隻が大破し、戦闘不能となった。至近弾や砲弾の破片で損傷した艦はもはや数えきれない。

 見渡せばそこら中で仲間が炎上し、魚雷が誘爆して辺りを明るく照らし、炎に炙られた対空機銃の弾がポップコーンのようにパンパンッと弾けていた。

 

「分かれろ!!」

 

 誰かがいい終えるのが先か、動くのが先か、蜘蛛の子を散らすように艦隊は二手に別れた。

 

 

――敵艦隊、南北に別れた。依然攻撃を続けている。各員、近接要撃に備えろ。

 

 カメラによって深海棲艦達の動きを把握している本多はただちに指示を下した。

 間もなく本多の声が艦娘の各分隊の旗艦と陸自の各隊長の元に届いた。

 

 

「こちらスギナ31、了解。水雷分隊、行くぞ!準備はいいか?」

 無線の指示を聞いた木曾が言った。

 

「おう、行こうぜ!!」

「準備完了だぴょん!!」

「大丈夫、問題ないよ。」

「はい!吹雪、行けます!!」

「私も行けるわ…それにしても毎度うちの分隊だけやけに騒がしくない?」

 

 それに摩耶、卯月、時雨、吹雪、初風が応える。

 

「それって僕も入ってるのかい?それにあそこの部隊も…」

 時雨が続けようとするとその件の部隊の声が遮った。

 

「水雷コマンドー、行くぞ!!」

「はいっ!!」

「行くぞ!!!」

「はいっ!!!」

「よぉし行けぇ!!奴らのドタマに1発ブチ込んでやれ!!」

 

 そう迷彩服の男が叫ぶとその部隊は暗闇に消えて行った。

 

「なかなか賑やかだと思うけどね…。」

「あんなの例外中の例外よ。陸戦畑の指揮でどれだけ戦えるんだか…。」

「他人の事を心配するのもいいけどよ、自分の心配をしたらどうだ、初風嬢。」

「ちょっと摩耶、そう言う柄の悪い呼び方で私を呼ばないでくれる?」

「おい二人とも止めろ。お喋りは一段落した後だ。いいな?」

 

 旗艦の木曾がすかさず止めに入る。摩耶は初風のさばさばとした態度が気に食わないのか、いつもこうして突っ掛かる。端から見ればかなり大人気ない絵面だ。

 

「…はい。」

 

 初風はいささか不服なようだが、割とあっさりと引く。

 

「摩耶、いいな?」

「ハイハイ、分かりましたよ。ったく、軽巡風情が摩耶様に…」

「今は“重雷装巡洋艦”だ。それに俺の方が艦としては年上だぞ?」

「そりゃそうだけどよ…。」

 

――おい、喧嘩するなら無線を切ってからにしろ。それに今は交戦中だ。

 

「やっべ。」

 摩耶は無線をチェックしようと付けっぱなしにしていた事を忘れていた。おかげで真面目で口うるさい大河内に目を付けられてしまった。

 

――ああ、すまんな3佐。こいつには俺がしっかり言っておく。

 すかさず木曾が大河内に弁明をした。

 

――…以後、気をつけろ。通信終わり。

 

 摩耶は大河内のことだからもっとしつこく文句を言って来ると思ったが、存外素っ気なくやり取りは終わった。

 そうだ、今は戦闘中なのだ。

 

「よし、出撃だ!行くぞ!!」

 木曾が力強く言うと6人の艦娘達は暗闇に飛び込んだ。

 すると彼女達の行く先はにわかに騒がしくなり始めた。機銃や砲撃の音が陸から海へ、そしてそれに応えるように海から陸へ閃光とともに砲弾が飛び始めた。

 

 島の周辺一帯は地獄の底をひっくり返したような凄まじい轟音と爆音に包まれた。

 

 

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