艦娘たちと共に ~海洋戦争戦闘録~   作:ヨシ ヒロ

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星はためく下で
1 新戦力


4月27日

 

 前日までの戦闘で滅茶苦茶になってしまったムエルタ鎮守府だが、この日も太陽が昇ると、日の丸が描かれている国旗が掲揚され、風にはためいていた。

 しかしこの日からは、この日の丸と共に星条旗とユニオン・ジャックがその傍らでへんぽんと翻るようになった。

 

 

 まずこの日は、朝礼の時間に先日から来訪した艦娘達の簡単な自己紹介が行われた。しかし、夜通し復旧作業や負傷者の手当てにあたっていた隊員や艦娘達は、皆疲労困憊でほとんどの者がそれどころではなかった。

 こうして早々に朝礼が終わると、休む間も無く隊員と艦娘達は再び復旧作業に戻った。

 この日の作業は前日にも増して順調に進んだ。自分らの支度を終えたCTF-31の人員が本格的に助っ人に加わったからだ。

 CTF-31は海軍の合同部隊であったが、この中には強力な地上部隊も含まれていた。

 それはアメリカ軍、いや世界でも屈指の即応力を持つ殴り込み部隊・・・アメリカ合衆国海兵隊の先遣部隊、第28海兵遠征部隊(28th Marine Expeditionary Unit)である。

 

 海兵遠征部隊(MEU)は、合衆国海兵隊の1個大隊を中核とした独立部隊だ。

 兵員は2200人。歩兵だけでなく、砲兵隊、戦車隊、工兵隊など様々な兵科によって構成されており、独自の兵站部隊などを駆使して2週間以上に渡って独力で戦闘を続けられる能力を持っている。

 更に、この部隊は独自の航空隊まで持っており、必要ならばヘリコプターによる空中機動戦の実施や、航空隊の空爆による火力支援まで独自に遂行できるのだ。

 ムエルタにやって来た第28海兵遠征部隊は対深海棲艦戦の為に新設された部隊で、全員が大戦中の火器で武装し、専属のF4FやSBDによる航空隊を持っていた。

 

 

「お知り合いなんですか?」

 

 とりあえず執務室に戻り、一息ついたところで大河内三佐はライバック中将との関係について本多に聞いた。

 

「ああ、以前リムパックや合同演習の時に顔を合わせたことがね。」

「それでは・・・優秀ですか?」

「ああ、もちろん。少なくとも私が知る限りではかなりデキる指揮官だと思うよ?」

 

 大河内のあまりにストレートな問いに対し、本多は淀みなく応えた。

 

「あ、そうだ。大事な知らせが市ヶ谷から来てたんだ。」

「・・・と、言いますと?」

「ついさっき届いた情報なんだがな、陸自の部隊をここに増派するらしい。それも連隊規模でだ。君の部隊はそこの指揮下に入るとか。」

「・・・なるほど、では陸自もやっと“戦争”をする気になったようですね。」

 

 本多は返事に困った。どう返せばいいのか困っていると、それを察したのか、大河内は一礼をすると再び部屋を出た。

 部屋を出た大河内の目には、慌ただしい外の様子が映った。

 陸自、海自、米海軍、海兵隊、そして日米の艦娘達が、皆一緒に汗まみれになりながら、瓦礫を撤去し、滑走路に空いた砲弾の穴を埋め均し、資材を運んでいた。増えた兵員を収容する仮設の兵舎の建造も、急ピッチで進んでいる。

 よく考えてみれば奇妙な光景であった。

 半世紀以上前には悲惨な戦争を行っていた2つの国の軍隊・・・の艦艇たちが今やいたいけな少女になり、手を取り合って作業をしているのだ。

 もうそれなりに長い間艦娘達と一緒にいるはずだが、こうして改めて考えてしまうと、まだ自分はたちの悪い夢の中にでもいるのではないか・・・と、大河内は錯覚しそうになった。

 

 

 

「およそ復旧作業は終了いたしました。新たな兵舎の建設も順調であります。」

 

 夕陽を浴びながらあきつ丸が大河内に言った。

 昼夜を問わずに進められた復旧作業によって、日が暮れる頃にはほとんどの復旧作業は終了した。

 

「ご苦労様。・・・ところで、向こうさんとは何かトラブルは起きていないか?」

 

 大河内はあきつ丸に、危惧していることを聞いた。

 これはとてもセンシティブな問題であると大河内は考えていた。アメリカ合衆国は自分たち自衛隊にとっては最大の同盟国であるが、ここにいる多くの艦娘達にとっては寧ろその逆である。

 寧ろ同僚たちや姉妹、そして自分自身の命を絶った仇敵と言っても過言ではない。そんな関係にある彼女達をこの小さい島に押し込めて、果たして平穏無事に過ごせるだろうか?

 大河内は、さながら終戦に際して連合軍を国内に受け入れることになった時の日本政府首脳たちの気持ちになった気がした。

 

「・・・お言葉でありますが三佐殿、我々は矛を交える相手はわきまえております。」

 

 あきつ丸は毅然と応えた。

 そして、実際のところはまさに終戦に際しての日本のように、大河内の懸念は杞憂であった。

 

 

 翌日から、アメリカ、イギリス軍の手をかりながら、鎮守府は着実に強化されていった。

 大きな変化と言えば、やはり基地航空隊の導入であろう。艦娘の戦力化などでは日本が世界に先んじていたが、陸上で航空隊を運用する技術は確立されていなかった。

 そしてこの航空隊の陸上運用を実用化させたのがアメリカであった。そしてこの年の5月前後から、人類側も太平洋の島嶼をはじめとする世界各地で基地航空隊を運用するようになり、戦いは新たな段階に移行しようとしていた。

 5月に入ると、ムエルタ島にも基地航空隊用の航空隊や機材が続々と到着し、本格的な運用が開始されていった。

 この頃の基地航空隊の役割と言えば、ほとんどがサンタジョージアの敵飛行場に対する攻撃や偵察であった。最も、この頃になるとサンタジョージアの敵の活動はピーク時よりも低調になっており、戦闘らしい戦闘はほとんど起こらなくなっていた。

 日や任務によって変動があったが、この頃の基地航空隊の陣容はおおよそ以下のようなものであった。

 

第一基地航空隊 海上自衛隊

・第一中隊 零戦二一型×12

・第二中隊 零戦二一型×12

・第三中隊 九七艦攻×12

・第四中隊 九九艦爆×12

 

第二基地航空隊 アメリカ海軍・海兵隊

・第一中隊 F4F-4×12

・第二中隊 F4F-3×12

・第三中隊 SBD×12

・第四中隊 SBD×12

 

第三基地航空隊 アメリカ陸軍

・第一中隊 P-40B×12

・第二中隊 P-40B×12

・第三中隊 P-39D×12

・第四中隊 P-39D×12

 

 この頃、アメリカ軍は日本などに先んじて陸軍機の配備も進め、ムエルタ島には肝心の陸軍の歩兵部隊よりも先に基地航空隊が展開していた。

 そして来るべき深海棲艦への反攻に備え、戦力の練成も進められていった。

 

 

『いーちにーいちに!』

 

 水雷コマンドの面々の声が響き渡った。この日は全員でヤシの木の丸太を両腕で頭上に上げながらのランニングをこなしている。米英の艦娘や将兵達は怪訝な顔でこれを見ていた。更に一部のアメリカの艦娘は、自分らの上官がこれに感化されて似たようなことを始めないかと心配していた。

 

「なぁヘイル、日本の海上自衛隊じゃあ昔からあんな訓練を?」

「そんな訳ないでしょ。あんなの普通じゃないよ・・・。」

 

 水雷コマンドの様子を眺めていたアメリカ駆逐艦、ベネットとヘイルことヘイウッド・L・エドワースが話していた。

 2人とも「変わった部隊がある」という噂は耳にしていたが、いざ実際に見てみると、それは変わっているなんてものではなかった。

 まず先ほどから走らされている艦娘達は全員が陸自の迷彩服を着ている。おまけに砂まみれ汗まみれになりながら走り回り転げまわる様は、艦娘とは程遠い景色であった。

 

「あんなのマリーンがやることだろ?あの指揮官、なかなかイカれてるねぇ。」

 

 そんな彼女達の頭上を、エンジン音が轟轟と駆け抜けた。一航戦の零戦であった。

 CTF-31が来てからというもの、連日のようにムエルタ島の周辺では模擬空戦が行われていた。

 大抵は島の周りで戦闘機隊どうしが空戦をするというもので、地上で眺めている海兵隊員は、この模擬空戦の結果を賭けにして楽しむ者もいた。

 零戦、ワイルドキャット、ハリケーン、ウォーホーク、エアラコブラと、3カ国の様々な機種の航空隊が空を彩り、賑やかにさせたが、勝率が一番良かったのはやはりというか、機体の性能と搭乗員たちの練度が優れていた、一・二航戦などの一部の空母の熟練戦闘機隊であった。

 

「やはり日本のゼロは強いな。噂に違わぬ精強さだ。」

 

 空戦を眺めていたライバック中将が言った。

 元々零戦隊はかなりの強さを誇っていたが、機銃や無線機などの機材をアメリカ製のものなどに転換すると、更に輪をかけてその空戦術は洗練されるようになったのだ。

 

「そう言っていただけるとは、恐縮です。・・・しかし問題はこれからです。」

 

 ライバックの隣で同じく空戦を眺めていた本多がこれに応え、更に続けた。

 

「零戦が優れた性能を発揮できているのは、やはり優れた熟練搭乗員たちに拠ることもあります。これは我が国の自衛隊全てに言えることですが、我が国は人材の層が薄い。敵も対抗してどんどん新しい機体を造るだろうから、人材に頼らずともそれに追随できる後継機種を量産しなければなりません。」

「なるほど、君らしい謙虚な意見だな。しかし人がいないのはこっちも同じさ。」

 

 今度はライバックも顔を渋くしながら続けた。

 

「海軍はともかく、陸軍と海兵隊の頭数はまだ十分ではない。もう本格的な戦争に突入してからそれなりに経つが、未だに限定的な攻勢しか掛けられていない。歯がゆいものだよ。」

 

 

 アメリカ軍は深海棲艦に対抗するための地上戦力の確保に腐心していた。

 深海棲艦達に有効な打撃を与えられる兵器は、大戦中以前に使われていた兵器である。だから地上部隊の装備を旧式のものに取り替えて再編成しなければならないのだが、これが容易なことではなかった。

 これはアメリカ軍だけでなく各国の地上部隊でも問題となっていたが、まず兵器の頭数がすぐには揃えられなかった。当然のことながら半世紀以上前の兵器の生産など大半はとうの昔に終了している訳だから、まずは生産設備から構築しなければならなかったのだ。

 そして、1つの軍隊の中に2つの異なる兵器体系の部隊を構築、運用しなければならないのも大きな問題であった。つまり、「対深海棲艦用部隊」と「対人間用部隊」の併用運用だ。

 特に「世界の警察」を標榜するアメリカは、現有の「対人間用部隊」の数をなるべく減らさずに「対深海棲艦用部隊」を運用する必要があり、部隊の増設と練成に躍起になっていた。

 アメリカでも苦労しているのだから、当然ながら日本もこの点にはかなり苦労していた。現に地上部隊は、少しずつ五月雨式に送られて来ている。戦力の逐次投入は悪手であるが、これ以外にどうしようもないという現実があった。

 

 

「我々の大きな目標はマラッカ海峡の確保だ。そのためにはフィリピンを完全に取り戻す必要があり、更にそのためには中部太平洋を安定化させる必要がある・・・難儀なものだね、戦争は。」

 

 ライバックは青空を縦横無尽に飛び回る戦闘機たちを眺めながら言った。

 

「日本の経済状況を鑑みて、どんなに遅くても今年中にはマラッカを取り戻して欲しいと防衛省と内閣からせっつかれてますよ。」

「こっちも似たようなものさ。早いとこ西へ行けとペンタゴンはわめいている。・・・独立記念日までにはここらへんの片をつけて、ハロウィンまでにはブルネイに、クリスマスまでにはシンガポールへ、だとさ。」

「言うには易し、行うはなんとやら・・・とにかく、こっちはやっとお上がやる気を出してくれたみたいですから、気が変わらないうちに歩を進めていきたいものです。」

「こっちはやる気があり過ぎて困ってる位だ。できるなら分けてやりたいよ。」

 

 

 間も無く、防衛省と合衆国国防省から「五月作戦(仮)」、「Operation May(provisional)」と称する作戦が下命された。

 マリアナ諸島周辺の防御体制を固めるための、戦略的防御に基づいた限定的な攻勢である。

 敵の水上戦力及び航空戦力が襲来した際には、防御及び反撃の足掛かりとなる拠点、サイパン、グアム、ムエルタの保持が必要となる。このためには、いくつかの前哨基地を設けて縦深(緩衝地帯)を確保する必要があり、このためにサンタジョージア諸島とファレーズ環礁を奪回する要あり・・・要するに中部太平洋地域の足場を固めるために敵の拠点をいくつか取ってこいという趣旨のものであった。

 そしてこの作戦を実施するために、ムエルタ島には陸上自衛隊からは新たに編成された第1派遣戦闘団が派遣されることが決まった。更にこの作戦のために、合衆国陸軍からは同じく新たに編成された、第68旅団戦闘団がグアムに派遣され、作戦に参加することも決定した。

 更に海上自衛隊からは、基地航空隊の攻撃力の増強として、陸攻隊が派遣されることも決まり、基地航空隊はますますその存在感を強めていくこととなった。

 こうして、この戦争は着実に新たなる段階に足を踏み入れようとしていた。

 

 




ちなみにMEUのF4FはF4F-3です。
合衆国海兵隊って微妙に古い型落ち兵器とか使ってるイメージがありません?
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