5月に入り、基地航空隊に陸攻隊が配備されると、飛行場姫が展開していると推定されるサンタジョージア諸島への空襲はより激しくなっていった。
大抵の場合、陸攻隊は3個中隊36機の編成で出撃した。このうち24機は250㎏爆弾を、12機は60㎏爆弾を搭載し、サンタジョージアへばら撒きに行った。一回の出撃で250㎏爆弾48発と60㎏爆弾120発という、およそ20トンもの爆弾の雨が島に降り注いだ。
更に小規模な輸送船団が行き来しているのが時おり発見される事があり、その度に航空隊が銃爆撃を仕掛けて船団の護衛についていた戦闘機隊と激しい航空戦が繰り広げられた。
そして陸上自衛隊の援軍もこの頃ムエルタ島に到着した。第1派遣戦闘団だ。率いるは、中央即応連隊出身の師山康彦(もろやまやすひこ)一等陸佐であった。
この部隊は、3個中隊編成の普通科戦闘群3つを中核として編成され、大河内の大隊もこの中に再編成されることとなった。
第1派遣戦闘団 師山 康彦一等陸佐
・第1普通科群 実山 尚人三等陸佐
・第2普通科群 飯盛 寛二三等陸佐
・第3普通科群 大河内 浩也三等陸佐
・特科群
・高射特科群
・施設隊
こうして書類上では大河内の隊を取り込む形で第1派遣戦闘団が編成されたが、実際にはしばらくの間は従来のままの部隊運用が続けられた。
第1派遣戦闘団が駐屯するには、ムエルタ島はあまりにも狭すぎたのだ。従って、書類上では大河内の第3普通科群には中隊が3つ編入されているのだが、ムエルタ島には依然として2つの普通科中隊と若干の諸隊のみが駐屯していた。
5月18日
この日はグアム島の米軍基地からA-20ハヴォック72機がサンタジョージアへと向かっていた。
A-20は合衆国陸軍所属の攻撃機だ。500ポンド(225㎏)爆弾3個を腹に納め、機首に6丁、後部の上下に合わせて3丁の計9丁もの12.7mm機銃で武装した、双発の攻撃機である。
A-20の編隊はサンタジョージアの近くの上空でP-39とP-40各24機ずつの編隊と合流し、一路敵飛行場のあるリコリス島の上空へと向かった。
間も無くリコリス島に爆弾の雨が・・・いや、嵐が吹き荒れた。連日の空襲によって既に島は酷い有り様であったが、この空襲によってまたいくつものクレーターが島に穿たれた。
更にP-39とP-40は、相手になる敵の戦闘機隊がいないことを確認すると、地上に向かって手あたり次第に機銃掃射を始めた。上空からは地上に敵らしい姿は見えなかったから、まさにめくら撃ちのように滅茶苦茶に弾丸を小さな島に叩きつけた。
そしてハヴォックの空襲が終わると、間髪入れずに今度は九六陸攻と零戦の戦爆連合がリコリス島に押し寄せた。いつものように猛烈な爆撃であったが、この日はこれだけでは終わらなかった。
陸攻隊の空爆が終わると、更に今度は日米の艦載機隊がリコリス島に襲い掛かった。もはやこの島には爆撃をすべき目標など存在しないように思えるほど、地上は酷い有り様であったが、それでも九九艦爆や九七艦攻、SBDやTBDは爆弾をしこたま叩きつけた。
更に今日はこれだけでは終わらない。間髪を入れずに今度は砲弾の雨が降り注ぐ。島の上空には絶えず偵察機や観測機が飛び交い、沖合の艦娘達に射撃目標を伝えていた。
総勢30人以上の艦娘達から、過剰とも思える程の大量の砲弾が発射される。1秒ごとに何トンもの砲弾がリコリス島に投射されていった。
その艦娘達の後方では、揚陸艦や支援艦がリコリス島を目指して海上を悠々と進んでいる。その揚陸艦の中には、戦意旺盛な海兵隊員たちがひしめいており、敵地に強襲を仕掛ける瞬間を今か今かと待っていた。
そう、いよいよ敵前強襲上陸の時が来たのである。
先陣を切って上陸するのは、米軍切手の殴り込み部隊である第28海兵遠征部隊だ。
▪第3合同任務部隊
・第31任務部隊 ジェームズ・ライバック中将
正規空母「サラトガ」(旗艦)「フューリアス」
軽空母「インディペンデンス」
巡洋戦艦「レパルス」
重巡洋艦「シカゴ」「ヒューストン」「ケント」「ベリック」
軽巡洋艦「ブルックリン」「ナッシュビル」「ダイドー」「ユーリアラス」
駆逐艦「テイラー」「ハルフォード」「ヘイウッド・L・エドワース」「リチャード・P・リアリー」「ベネット」「ベンハム」
・第1機動群 本多昌宏海将
正規空母「赤城」(旗艦)「加賀」
軽空母「祥鳳」「瑞鳳」
戦艦「金剛」「霧島」
重巡洋艦「摩耶」「鳥海」
航空巡洋艦「利根」「筑摩」
軽巡洋艦「矢矧」「酒匂」
駆逐艦「暁」「響」「雷」「電」「岸波」「朝霜」「清霜」「早霜」
・第28海兵遠征部隊 ロバート・ホッジンズ中佐
・第68旅団戦闘団 ジョシュ・アダムズ大佐
・第1派遣戦闘団 師山 康彦一等陸佐(予備)
10:30
「Come on!! Marine!!」
群れを成して前進するAAV7らの先頭にいた、米駆逐艦ベネットが叫んだ。彼女の発した声は、周囲の支援砲撃の爆音や、AAV7の奏でるエンジン音の轟音によって、彼女自身以外には聞こえていなかったであろう。
しかし彼女は自分を奮い立たせるために叫んだのだった。もう陸地は目の前に見える。もし敵がひょっこりと顔を出すようなことがあったら、敵の白目まで見えてしまいそうに思えた。
――DD Girls, Open Fire!!
無線から指揮官であるライバック中将の声が響いた。これを合図に海兵隊の周囲に張り付いている駆逐艦娘達が攻撃を開始した。
上陸部隊が陸に近づき、巡洋艦クラス以上の砲撃は誤射を避けるために海岸付近から内陸部へと移っていた。そして上陸部隊をギリギリまで援護する役目をおっている駆逐艦娘達は、至近距離から波打ち際に向かって艦砲の水平射撃や、機関砲を使っての攻撃を行った。
海兵隊員達が島に足を踏み入れる瞬間まで、砲弾の嵐が途切れることは一切なかった。
ベネットら駆逐艦娘達は5inch砲と12.7mm機銃や28mm機関砲などを乱射した。敵の姿は一切見えないが、それでも射撃を続けた。彼女らの脳裏に、ペリリュー島や硫黄島の嫌な記憶がよぎった。
「さて、藪をつついたはいいが果たして蛇が出るのか、それとも・・・。」
モニター越しに様子を伺っていたライバック中将が言った。視線の先には海兵隊員が詰まったAAV7が、黒煙を噴き上げる南太平洋のちっぽけな島へと整然と進む映像が映されていた。
そしてそのAAV7の群れの所々で、さながら羊の群れの中にいる牧羊犬のように、彼の自慢の“娘達”が援護射撃をしながら駆けまわっていた。
「ふむ・・・偵察隊の情報を信じるならば、地上の敵勢力は軽微、或いは皆無に近いということになるだろうが・・・。」
「ホンダ、君はその情報を信じるかい?」
「ええ、信じますよ。」
本多は迷うことなく応えた。これを聞いたライバックは満足そうな表情を浮かべた。
「君がそう言うなら心強い。ま、うちの偵察隊も同じようなことを言ってたがな。」
この日の強襲上陸に先立つこと3日前、サンタジョージア諸島のいくつかの島々に、秘密裏に偵察が行われていた。
本多のもとからは水雷コマンドが、ライバックのもとからは選抜された駆逐艦娘達と潜水艦娘達、そしてSEALsの特別編成チームが海上と地上から夜陰に紛れて偵察を行っていた。
結果、偵察隊の損害は皆無、敵の抵抗らしい抵抗は一切受けずに作戦は終了した。
「敵さんがいなかったとしても・・・あれだな、超実戦的な大規模予行演習ってことでいい経験になるだろう。」
ライバックはそう言ったが、本多はこの途方もない予算が吹き飛ぶであろう一大作戦を「予行演習」などと割り切る気にはとてもなれなかった。
サンタジョージア諸島の中で最大の島であるリコリス島に上陸した第28海兵遠征部隊の3個中隊は、特に抵抗を受けることなく浜に上陸した。
浜に橋頭堡を築くと、海兵隊は内陸部を目指して前進を開始した。目標はヤシ林を抜けた先にある、航空隊を展開する予定の空港だ。
空港の滑走路に海兵隊の歩兵が展開していると、不意に砲弾が降り注いだ。滑走路を見下ろす高地の上から深海棲艦の陸戦隊が艦砲を射撃したのだ。
遮蔽物がほとんどない滑走路上で砲撃を食らってはどうしようもないため、海兵隊は一旦空港から撤収した。ヤシ林の中に撤収しても砲弾は降り注いだが、さすがに滑走路の上よりはいくらかマシになった。
事前の砲撃や空爆は上陸予定地点を中心に島全体に満遍なく行われていたため、一見クレーターだらけに耕されたように見えた島の中にも、存外生き残りが残っていたのだ。滑走路を見下ろす高地は叢林に覆われていて、敵の姿はほとんど見えなかった。
敵の抵抗に対してただちに強烈な反撃が始まった。まず撤退する歩兵を援護するために迫撃砲小隊の81mm迫撃砲や揚陸された砲兵中隊の105mm榴弾砲が海岸から砲撃を開始した。高地には煙幕代わりに白リン弾が次々と撃ち込まれ、白煙が辺り一面を包み、鼻を突く強烈な刺激臭が漂った。
海兵隊の連絡を受け、沖合に展開している艦娘達(特に第31任務部隊)も狙いを高地に絞って集中砲火を叩き込んだ。
まず上空に展開した観測機や攻撃機が、高地上の攻撃目標を艦娘達へと伝える。
そして艦砲射撃が地上の目標に対して片っ端から撃ち込まれた。特にレパルスの38.1cm砲の破壊力は圧倒的で、着弾の衝撃でめくれ上がった硬い岩盤の破片が空高く舞い上がった。
巡洋艦や駆逐艦の艦娘達は中小口径主砲弾(地上部隊からみれば重砲にあたるが)を主砲の速射性を駆使して大量に叩き込んだ。艦砲のつるべ打ちだ。高地に鬱蒼と茂っていた叢林は瞬く間に消し飛んだ。
更に午後になると、隣接するルドウィング島を無血占領した陸上自衛隊の第1派遣戦闘団とアメリカ陸軍第68旅団戦闘団の155mm榴弾砲も砲撃を開始した。リコリス島にも後詰めとなる第68旅団戦闘団の歩兵が次々と上陸した。上陸部隊は同士討ちを避けながら島内に展開し、高地周辺以外はほとんどが制圧された。
日が暮れた後も高地に対する砲撃は続いた。そして夜になると、夜陰を利用して深海棲艦側も散発的であるが、砲弾をいくらか打ち返してきた。しかし絶対的な射撃量が少なかったこともあり、あまり有効な打撃は与えらえなかった。
砲撃というのは、砲弾を何発も打ち込み着弾地点を逐次修正しながら有効弾を探っていくものだが、この戦闘においては深海棲艦側に満足に修正射をする余裕はほとんど無かった。
「火点発見!撃ちまくれぇ!」
闇夜に川内の声が響くと、高地上から火を噴いていた深海棲艦の火点に向かって10cm高角砲と15.2cm砲が火を噴いた。
機銃の曳光弾と砲弾が闇夜を裂いて飛び交った。ものの10分ほど射撃をすると、高地上の火点が火を噴くことは二度と無かった。
このように夜間とはいえ、あまり発砲を繰り返すと発砲炎によって陣地の場所が露呈し集中砲火を食らったからだ。
特に水雷コマンド部隊は、優れた練度と夜間戦闘能力を利用して海岸ギリギリまで肉薄し、発砲炎に向かって主砲や機関砲を撃ちかけるなど危険な任務をこなした。
5月19日
夜明けと共に艦載機隊が空爆を仕掛けてこの日の戦闘が始まった。
フューリアス隊 シーハリケーン×9機、スクア×4機、ソードフィッシュ×9機
サラトガ隊 F4F-4×18機、SBD×18機、TBD×9機
祥鳳隊 九九艦爆×9機、九七艦攻×18機
瑞鳳隊 零戦二一型×3機、九九艦爆×9機、九七艦攻×18機
総計134機もの日米英戦爆連合がリコリス島に襲い掛かった。60kg爆弾36発、250kg及び500ポンド(225kg)爆弾58発、1000ポンド(450kg)及び500kg爆弾36発、800kg爆弾18発という、およそ50トン近い航空爆弾が高地に投下された。
木々の残骸がマッチ棒のように巻き上げられ、高地はこの日の朝には完全に禿山となった。
爆撃がひと段落すると、まだ煙が立ち込める高地に向かって第28海兵遠征部隊の3個中隊と第68旅団戦闘団の1個大隊が進行を開始した。
戦車や装甲車も繰り出し、敵が潜んでいそうな場所へ片っ端から銃砲弾を撃ちながら部隊は前進した。
入念な事前攻撃によって高地上の陣地はほとんど破壊され尽くしていた。それでも生き残った深海棲艦たちは必死に抵抗を続けたが、彼我の兵力と火力の圧倒的な差によって瞬く間に制圧された。
この戦いにおける人類側の損害は、死者22人、負傷者43人にとどまった。一方で深海棲艦側は250もの損害を出してほぼ全滅した。
15:00
全てが終わった後のリコリス島に大河内三佐と師山一佐が上陸した。海兵隊の将校らと共に早速実地調査というわけだ。
一行は最も激しい戦闘があった高地上を歩いていた。
「残っていたのは1個中隊ほどの兵力。しかも孤立無援…敵ながら悲惨なものだな。」
師山一佐が言った。
師山はこの任務を受ける前は中央即応連隊の連隊長を務めていた。大河内三佐も一時期にはこの中央即応連隊に所属していたが、師山とちょうど入れ替わりに形で移動したため、2人はほとんど初対面であった。
そして師山の実戦出動はこの任務は初めてであった。
「確かに悲惨です。しかし、陣地は教科書通りにしっかりとあるものを使って作ってます。もっと時間と人員と経験豊富な指揮官がいれば、相応に強固な陣地ができていたでしょう。練度はともかく、下士官将兵の士気も高いです。」
大河内は破壊された陣地や深海棲艦陸戦隊の死体をつぶさに見ながら言った。
全体の経過から見れば人類側が圧倒した戦いであったが、反省すべき点や新たな知見も多数あった。
特に上陸部隊が内陸部へ侵攻して敵の「金床」に乗るまで、敵は1発もこちらに撃ってこなかった。偵察部隊や航空隊に向かって功に焦って発砲する兵が1人もおらず、ギリギリまで自分たちの存在を秘匿していのだ。これはすばらしい統率であった。
本多はとにかく多くの人命が損なわれずに作戦目標を達成したことに胸をなでおろした。しかし一部の将校…特に大河内(弟)などは不満気な様子であった。確かに敵のほとんどの戦力は依然無傷のままだ。
目標地点こそ確保したが、不安材料自体はそっくりそのままどこか…恐らくすぐ南のファレーズ環礁へ移動しただけだ。
しかし何はともあれ、とにかく今のところは計画通りだ。制圧した翌日には滑走路が整備され、基地航空隊が順次進出し始めた。
ここを足掛かりに更に南にある敵の拠点、ファレーズ環礁を攻略するのだ。
海兵隊と陸軍が主力となって奪還したサンタジョージア諸島のリコリス島飛行場には星条旗が誇らしげにはためいていた。