艦娘たちと共に ~海洋戦争戦闘録~   作:ヨシ ヒロ

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3 覚悟

 

海将は帽子を取って頭を抱えていた。

 

「航空機100機以上だと?何処からそんなに湧いてきたんだ?」

 

しばし司令部に沈黙が流れた。

 

「…それは今の所分かりませんが、敵の目標は検討が着きました。」

「目標?ツツジ64じゃあ無いのか?」

「こんな小規模な艦隊が100機以上もの航空機の攻撃にこれだけの時間耐えられると思います?」

 

 この時ツツジ64はちょうど鎮守府~サンタジョージアの道のりの半分程の距離まで引き返していた。

 更に通信の内容によれば(この時司令部はツツジ64内での無線のやりとりも傍受出来るようにしていた。)未だに一隻も落伍していない。それ自体は大変喜ばしい事なのだが、大河内三佐の中では嫌な考えが浮かんだ。

 

 

「装填!!」

時雨が叫んだ。

 

 もうこれで何度目なのか忘れ てしまった。クリップを使って砲弾を装填している間にも容赦なく機銃弾の嵐を浴びせられた。

 曳光弾が自分や艤装に当たって、金属音を響かせて辺りに不規則に跳ね返っていくのがしばしば視界に入った。時折爆弾も落とされたが直撃する事はなかった。敵機は練度がそれほどでも無いのか?それとも…。

 しかし次の瞬間霧島が轟音と共に炎と黒煙に包まれた。とうとう誰かに爆弾が直撃したのだ。黒煙の漂うまっただ中にいたのは…霧島だった。

 

「霧島さん!」

 

 時雨は黒煙の中へ駆け付けた。これで沈まなくてももし機関部がダメージを受けていたら、この状況では致命傷だ。

 

「大丈夫ですよ。」

 

 煙の中で霧島が時雨の心の中の危惧に応えるように返した。

 

「この霧島、この程度の攻撃では沈みません!」

 

更に若干煤けて黒くなった顔の霧島が力強く返した。

 

 どうやら爆弾は艤装の中でも一番頑丈な主砲塔に直撃したらしい。霧島本人へのダメージはそれほどでも無かったが、砲塔にはへこみができ、砲身はひしゃげていた。これではもう3式弾は撃てない。

 

――霧島が被弾。繰り返します霧島が被弾。

――どんな状況だ? 

 時雨の通信に旗艦の木曾が返した。

 

――第3砲塔に直撃、後は何ともありませんがこれで第3砲塔では三式弾を撃てなくなりました。

霧島が応えた。いよいよじり貧だ。

 

――…了解した。まだ動けるよな?

――はい。

 

 吹雪は気を落とさずにはいられなかった。何て事だ。霧島が被弾して炎と煙に包まれるのが喧騒の真っ只中にいる吹雪からもハッキリ見えた。

 すかさず一時的に停止した霧島の回りに円陣防御を築いた。正直言って本当はそんな事したく無かった。ひたすら動き続けなければたちまち銃弾と爆弾で孔だらけにされるように思えたからだ。

 吹雪には自分達が弾と爆弾を吸い付ける磁石にでもなったように思えた。だからこそ一心不乱に撃ち続けた。そうだ。家に帰るんだ。

 水飛沫がかかる度に焼けついた12.7cm砲の砲身から熱い蒸気が上がった。

 

 

 木曾は不自然な事に気が付いた。爆弾を抱えたままの敵機が悠々と頭上を飛んでいる。いや、それ自体はこの数十分ずっと見てきた光景なのだが、考えればそれ自体が不自然なのだ。爆弾の直撃を喰らって一時的に停止した霧島にも追い討ちで爆弾を投下しなかった。

 そういやさっきの吹雪の時も追い討ちの爆弾は投下しなかった。未だに出し惜しみするかの様に多くの機が爆弾を抱いたままだ。本来なら自分達はもうとっくに全滅していてもおかしく無いのでは?

 ……どうしてもっと早く気付かなかったのだろう。そうだ、自分達は尻を突っつかれながら泳がされているのだ。

 俺達は敵にわざわざ本拠地への道案内をしていたのか !

 

 

「なるほど…。すると敵さんの大本命はここってのか。」

 本多海将は唸るように大河内三佐に返した。

 

「この状況からして、その可能性が高いかと。」

「そうだとしたらかなり不味いな。」

「ええ、ついてません。エイプリルフールにとんだドッキリを仕掛けられたもんです。」

 

 上空に飛来する航空機は航空機で迎撃しなければ対処しきれないのは第二次大戦での壮絶な航空戦の末に確立された定石だ。しかし、運の悪い事に今この鎮守府ではそれは出来そうに無い。

 まず、この鎮守府で最も多くの艦載機を有している正規空母「赤城」及び「加賀」の「ツバキ11」はオキシドル島沖の海戦で討ち漏らした敵の空母部隊の索敵に南部戦線の最南端付近の最前線へ出払っている。

 今直ぐ呼び戻しても鎮守府付近に展開し、更に艦載機を全機発艦させるにはかなり時間がかかる。

 「祥鳳」と「瑞鳳」の「アオイ34」は同じく南部のこちらは西寄りの戦線で哨戒活動を行っていた。

 赤城と加賀が敵の大部隊と交戦する事になった場合は即座に応援に駆け付ける予備戦力としての役もあった。

 サンタジョージアに最も近い位置にいたため先ほど司令部の通信を受けて北進を始めたが、更に今から鎮守府に航路を変更してもツバキ11よりは早く着くが、同じく敵の攻撃に間に合いそうに無い。

 「蒼龍」と「飛龍」の「スミレ22」はアオイ34と対になるような形で南部の東寄りの戦線で哨戒活動を行っている。

 こちらも鎮守府からはならかなり距離がある。早くても鎮守府付近に展開出来るのは祥鳳と瑞鳳のアオイ34と同じ位の時間になるだろう。

 となると即座に迎撃体勢を整えられるのは鎮守府に待機している「鳳翔」と「大鳳」の「カエデ67」のみとなる。

 しかし、運の悪い事に鳳翔は前日の哨戒活動中に敵潜水艦の雷撃を受け、現在はドックに入っている。つまりこのままでは大鳳一人で(少なくとも)100機以上の航空部隊と対峙する事になる。それはどう考えても無理がある。

 

「どうやっても空襲を防げそうに無いな…。」

 海将は地図を睨みながら言った。

 

「大鳳の次に迎撃体勢に入れるのはアオイ34の祥鳳と瑞鳳ですが、これでも数は不足気味です。きっと敵は波も航空隊を飛ばしてきますからね。蒼龍と飛龍が来ないとまともな迎撃は出来そうに無いです…。」

 三佐は頬の古傷を擦りながら言った。

 

 ツバキ11は最も鎮守府から離れた位置にいる為、間に合わないだろう。そもそも鎮守府の上空で航空戦を行うにしても近海に最低限の哨戒網は敷いておく必要もある。ツバキ11はそれに回してそれ以外の空母部隊が揃った所で航空機による迎撃戦を行うのが賢明だと三佐は海将に言った。

 

「しかし…そうなるとスミレ22が来る頃にはここは更地になってそうだな…。」

「劣勢の航空隊を逐次投入するよりはまとまった数が揃った所で一気に投入する方が効果的です。」

 三佐はキッパリと言った。

「それに…」

 三佐は続けた。

「こういう時の為に我々、陸上自衛隊第5特殊任務中隊がいるんですよ。」

 海将は陸佐から確かな自信を感じた。

 

 

 ――こちらツツジ64だ、司令部、司令部!!応答しろ!! 木曾は必死に呼び掛けた。早くこの事を知らさなくては!

――こちら司令部、本多だ。 

 応答したのは海将だ。

――海将、ヤバい事になったぞ、敵航空機の狙いはきっと…

――その事は気にするな。厄介な客が来る事はもう想定済みだ。

――…そうか。 木曾は少しホッとした。

――それより木曾、君の隊は無事に帰投出来そうか?

 

 木曾は辺りを見回した。

 相変わらず空からは無数の銃弾が浴びせられている。辺り一帯は気がおかしくなりそうな爆音で満ちていた。だが誰一人として諦めていない。泣き言を言う者は誰も居なかった。

 

――…大丈夫だ、皆で帰る。残念ながら余計な客人も一緒だがな。

――客人か。 

 海将も覚悟を決めたようだ。

――なら我々が熱烈歓迎してやらんとな。

 





一航戦は色んな所で活躍してるので、たまには他の空母娘にポイントを当ててみようかと思い、書きました。

時雨の給弾の描写は何か砲塔の上がカパっと開いてライフルみたいにクリップを突っ込めそうだな~と思っていたら、何とそれを描いていた素敵なイラストがあったのでそれに後押しされて書いて見ました。パクりじゃ無いよ!(焦)
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