艦娘たちと共に ~海洋戦争戦闘録~   作:ヨシ ヒロ

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もうこれ艦これじゃねぇって思われるかも知れません。
まぁしょうがないね!(諦)


5 迎撃

 

 「まだ来ないな…。」

三好士長が呟いた。誰も返す者はいなかった。

 今、ムエルタ島全体は不気味な静寂に包まれていた。そんな中陸自、海自、艦娘らが敵機の編隊が大挙して来るのを今か今かと待ち構えていた。

 

「奴ら迷子にでもなったかな?」

助手席の朝倉がやっと口を開いた。

 

「もしそうだとしたら追われてる娘達は…。」

「全滅だろうな…。」

 運転席の浅井もやっと口を開いた。だが、すぐにまた沈黙が広がった。

 

 もはやどんな些細な音でも聞こえるのではないかというほどの不気味な静けさだった。

 (嵐の前の静けさってやつなのか?)

 誰ともなく西の空を睨んだままそう思っていた。たまに機関砲か高射砲の調整か分からないがカチャカチャといじる聞こえたり、風に揺れる草木の葉音が聞こえる以外は静かな南国の昼下がりの時間が流れていった。

 

 

 「みんな…大丈夫やろか…。」

ドックの前で円陣防御を築いていた艦娘達の一人、黒潮が呟いた。

 

「な~に言ってるぴょん!時雨なら、絶対に大丈夫だぴょん!!」

 卯月がこの場では明らかにおかしいテンションで返した。

 

「木曾は飛行機なんかにやられるような奴じゃあねぇ。アイツはぜってえ戻ってくる。」

 木曾の“ダチ”の摩耶も返した。

 

「吹雪は…どうかしらね?あの娘確か初めての出撃でしょ?」

 初風は鋭く指摘した。冷たい反応にも見えるが、裏をかえせば、それだけ気にかけてるということだ。

 

「そんな縁起でも無い事言うなや!そうや、きっと皆また帰ってくる。そしたらまた明日からまた部隊を再結成や!」

 

 そう、彼女達は元々は現在撤退戦を続けているツツジ64の面子のうち、霧島を除くメンバーと一緒の部隊にいたのだ。

 “ツツジ64”とは敵艦隊が発見された場合に元々の部隊編成を無視して臨時に結成される艦隊につけられる暗号で、木曾、時雨、吹雪はもともとはこの摩耶、卯月、黒潮、初風(大淀も一応メンバーに入っているが殆ど通信室に籠っている為、“幽霊部員”状態である)で構成された“スギナ81”のメンバーだった。

 この日はたまたまツツジ64のメンバー以外は入渠したり艤装のメンテナンス中だったりした為、出撃出来なかったのだ。今ドックの前にいるスギナ81のメンバーは戦友のいるツツジ64が帰還する事を誰よりも心待ちにしていた。

 

 

 やがてこの静かな時間が打ち破られる時が来た。最初に皆が気づいたのは“音”だった。水平線の彼方から、無数の虫が飛び交っている羽音と言ったら良いのか分からない独特の音が耳に入った。

 やがて音が大きくなると共に、今度は水平線の上の空が真っ黒に塗りつぶされているのかと思うほどの大編隊が、自分達に向かってくるのが見えてきた。

 

 「おいでなすったか…。」

 大河内陸三佐が双眼鏡を覗きながら呟いた。傍らにはあきつ丸が無線機を手に各部隊に指示を送り、本多海将ともやりとりをしていた。

 

――こちら陸自司令部、本部へ、味方航空機が支援に来れる時間は分かりますか?

――こちら本部、航空機による支援が可能なのはおよそ3、40分後になりそうです。

――了解。

 

「長くて40分か…。やるしかなさそうだな。」

 三佐は自分を奮い立たせるように言った。

 彼もまた、深海棲艦と正面から対峙するのはこれが初めてだった。双眼鏡の中の敵機の編隊はどんどん大きくなっていく。

 人生で最も長い40分になりそうだ。彼はそう確信した。

 

 

――総員待機。

 

 真っ先に応戦し、恐らく真っ先に狙われるのは西側に展開する迎撃部隊だ。そこにいる誰もが生きた心地がしなかった。

 

(まだかよ…まだかよ…)

 三好も指示を聞きながら、ずっと敵機の編隊を睨んでいた。今にも敵機に押し潰されそうな圧迫感で気が気でなかった。

 彼は腕時計を見た。これでここに陣取ってから何回目だろうか。時計は3時辺りを指していた。これが今日の最後の仕事だ。夕日もやや西に傾き始め、もうすぐで水平線に太陽が沈む美しい夕暮れが見れるだろう。生きていればの話だが…。

 

――射程内に入るまでは発砲を控えよ。

 

「分かってるよ畜生。」

 思わず不満が口に出た。奴らもうすぐそこだ。早く撃たないと、殺られる。

 

――総員、攻撃用意。待機せよ。

 

 まだなのか?もうすぐ目の前だぞ!

 三好は恐怖で一杯だった。敵機が徐々に高度を落とした。速度は上がっているように見える。

 降下して攻撃する気だ!

 三好はもう待てなかった。

 

――総員、攻撃開始!

 

 三好の忍耐の限界とほぼ同時に攻撃命令が下された。

 三好の両脇にある合計4挺の機関銃が一斉に火を吹いた。隣の奴もその隣の奴も撃ち初めた。曳光弾の長い列が、次々と青空に吸い込まれていった。だが中々思うように当たらない。苛立ちと不安がより多くの弾を発射させた。

 20mm機関砲も鈍重で力強い音と共に弾を飛ばし、ボフォース40mm機関砲は発射する度に空気を震わせながら砲弾を飛ばした。

 後方では高射砲が次々と発射され、青空に黒い花火を作りながら破片を撒き散らした。

 

 辺り一帯は耳栓をしていても鼓膜がはち切れると思うほどの銃声と砲声に包まれた。無数の銃声や砲声や敵機の唸り声がいっしょくたになって、1つの巨大な爆発音に聞こえるほどだった。

 三好は口の中に火薬の味が広がるのを感じた。もの凄い硝煙の上を敵機が飛び交う。

 今、島の西側の空は無数の光の筋に覆われていた。それは幻想的で恐ろしい光景だ。

 凄まじい密度の弾幕に捉えられ、ある機は黒い機体を錐揉みさせながら、ある機は砲弾に撃ち抜かれて空中で爆散して撃ち落とされていった。

 だが、多くの機は弾幕を潜り抜け、地上への攻撃を始めた。爆弾を落とし、爆弾の無くなった機は機銃で地上への掃射を始めた。

 上から下から銃弾の嵐が飛び交い、地上は投下される爆弾で、上空は高射砲の炸裂する砲弾と撃墜される敵機で赤く、黒く染められていった。

 

 

 「津久井!弾!津久井、弾持ってこい!!」

 工廠の倉庫の中で機関銃で応戦していた韮山二曹が叫んだ。

 

「ハイハイ、ただいま。」

 津久井士長が息を切らせながら弾帯を持ってきた。よく見れば韮山の撃っている機関銃の銃身は真っ赤に赤熱し、煙を噴いていた。

 

 「サンキュ!」

 手早く礼を言って弾を装填すると韮山は直ぐにまた射撃を始めた。

 

 韮山の撃っているMG42は1分間に1200発もの弾を撃ち出す。韮山は全身でその強烈な反動を受け止めようとしたが、さすがに限界があるようで、もはや弾をただひたすら空に向けてばらまいているようだった。

 

 津久井は銃身の事を言おうとしたが、直ぐに諦めた。今の韮山の様子じゃとてもでは無いが声を掛けづらいし、何よりもそんな暇は津久井にはなかった。

 津久井は首にネックレスのように弾帯を引っ掛け、両手には銃弾がぎっちり詰まった弾薬箱を持って工廠内を上へ下へ右に左に走り回っていた。とにかく人手が足りない為、韮山だけでなく工廠内で応戦する何人もの隊員の弾係になっていた。

 

 西側の対空陣地と同じ位猛烈な応戦がされていたのは工廠やドック等の施設が集まっている島の東側の海岸だった。

 付近の陣地は勿論、施設の中からも比較的軽い機関銃などを隊員が持ち込んで窓や屋上から空に向けて乱射して応戦していた。それだけで無く、海上からは艦娘達が対空砲撃を行っていた。はっきり言って自衛隊員達の攻撃とは桁違いの火力だった。

 

 

 「全砲門、fire!!」

 金剛の主砲が火を吹いた。

 発射された砲弾は勿論三式弾だ。発射された35.6cm三式弾は工廠の真上で見事な炎の華を咲かせた。地上で応戦している隊員達にとってこれ程頼もしいものはなかった。

 

「さっすが戦艦!!」

「よっしゃあ、その調子だあ!!」

 沿岸のタコツボで機銃を撃つ隊員達が思わず歓声を飛ばした。宇喜多一等陸士もそのうちの一人だった。

「スゲェ…。」

 彼は生まれて初めて艦砲射撃というものを間近で見た。

 空気を震わせ、体全体で熱と爆風を感じながらながら発射された三式弾は頭上で打ち上げ花火の何十倍もの音と共に炸裂し、何機もの敵機を一気に叩き落とした。

 あんな華奢な体つきの艦娘がこんな凄まじい攻撃力を持っているのか?

 宇喜多は驚きを隠せなかった。なにもかもが一緒に起こって彼は軽い興奮状態だった。

 敵機の攻撃は激しい弾幕を形成している西側の対空陣地と東側の海岸の施設群に集中していた為、比較的安全な(それでも目標を逸れた爆弾が付近に何発も落ちた)海岸の木陰のタコツボの中で彼の小隊は思う存分機銃を撃っていた。

 

 辺りには空薬莢が散らばり火薬と海の潮の臭いが混じった南国の戦場の臭いで満ちていた。

 

「Oh,year!皆さんも頑張って下さいネー!!」

 金剛が海岸に向かって愛想よく声援を返した。宇喜多は一瞬目が合った気がした。

 

「金剛!よそ見すんじゃねぇ!」

 後ろから摩耶の怒号が飛んだ。

「What?」

 金剛が振り向くと5機の爆撃機が急降下体勢に入り、独特の甲高い音を出しながら金剛目指して突っ込んできた。

 

「Holly,shit!!」

「「クソッ!!」」

 宇喜多と摩耶がほぼ同時に攻撃をした。

 

 降下してきた5機の敵機のうち宇喜多と摩耶は二人とも先頭の機を狙って撃った。しかしここで経験の差が出た。

 摩耶は目標の未来位置に向かって適格に撃ったが宇喜多は敵機に照準をぴったりくっつけて撃った。結果として摩耶は先頭の機を撃ち落とし、宇喜多の弾丸はその後ろの機に吸い込まれていった。

 2機は撃ち落としたがその後ろの3機は弾幕を潜り抜け爆弾を投下した。

 3、4機目は胴体の下のでかい500ポンド爆弾を金剛と宇喜多の間の辺りに落とした。金剛は既に回避運動をとっていた為、直撃する事はなかったが凄まじい水飛沫の波の中に飲みこまれて金剛は宇喜多からは見えなくなった。

 最後の機はこれまでと違い、小型の爆弾をいくつも付けていた。そして弾幕に恐れをなしたのか先の2機よりも上の方で投弾した。爆弾は狙いの目標には当たりそうに無いが、結果として付近のかなり広い範囲に爆弾が降り注ぐ事になった。

 

 「ヤベェ!伏せろ!!」

 誰かが叫んで皆タコツボの中に伏せたが、機銃を撃っていた宇喜多は退避が遅れた。

 

 次の瞬間宇喜多の目の前の浅瀬に小型爆弾のうちの二発が落ちて炸裂した。宇喜多はまるで後ろからロープで引っ張られるような感覚を感じながら吹っ飛ばされた。同時に近くにあったヤシの木が爆発の衝撃で木片を撒き散らしながら倒れた。

 しばらくして宇喜多が酷い耳鳴りの中で目を開けると、そこには凄惨な光景が広がっていた。

 

 

「誰か、誰か弾をくれ!!」

「クソッ、ジャムった!!」

「衛生兵!衛生兵!!腕を飛ばされた!!」

 

 工廠の中では怒号や悲鳴が飛び交っていた。中は火薬と血の臭いで満ちて息をするのも苦しいくらいだった。

 外からは絶えず砲撃や爆弾の炸裂の轟音が響き、中では相変わらず銃声がそこら中から響き渡り、会話もろくに出来る状態でなかった。

 壁も屋根も機銃掃射の孔だらけで太陽の光が硝煙と埃で満ちる工廠内を可視状態で照らし、神秘的で不気味な空間を形作っていた。もっとも誰もそんな事を考える暇はなかったが。

 

 津久井はそんな中でも未だに運良く一発の銃弾も受ける事無く息を切らせながら弾薬を運びに走っていた。次々に飛び込んで来る銃弾に隊員達は倒れ続け、今や津久井は何人もの射手の弾薬係を兼任していた。

 

「はいよ、お待ちかねの弾だ。」

「どうもな。」

 

 津久井は会ったことも無い隊員に銃弾を渡していた。休憩がてら雑談をするつもりだ。もっとも大声で叫ぶように喋っている為、休憩になっているかは分からないが。

 

「君の相棒は?」

 津久井が尋ねた。機関銃には普通射手と助手の二人が就くからだ。

「ああ、下で彼女達といい思いをしてるよ。」

「何?」

 津久井は一瞬耳を疑った。

「艦娘達に手当を受けてるよ。艤装が駄目になった連中がやってる。」

「そうか…そいつは堪らなく羨ましいな。」

 

 彼は初めて自分が幸運にもかすり傷1つ無く機銃掃射の嵐を走り回ってきた事を気付いた。

 でも脚を撃たれて艦娘達に手当でもしてもらっている方が得かもしれない。

 彼は一瞬そう思った。

 

「だろ?脚を吹っ飛ばされたけどな。」

 津久井はそれを聞いて苦い愛想笑いをしてまた走り出した。前言は撤回だ。

 

 その時、自分の頭上の屋根が凄まじい音を立てて崩落した。と、思ったら視界の左端に屋根の残骸と共に黒い何かが落ちて行くのが見えた。

 一瞬のうちに思考が停止して立ち止まった。

 あれはまさか…。と思った次の瞬間には大量の水飛沫と衝撃に襲われていた。津久井の視界は一瞬のうちに暗転、光転を繰り返し、身体が無重力の空間にいるのが分かった。

 彼は死を覚悟した。俺の悪運もここまでか。

 

 投下された小型爆弾のうちの一発は津久井達のいる建物に直撃した。既に機銃掃射でボロボロになっていた屋根を突き破って爆弾が落ちてきたのだ。

 この建物は艦娘が出撃の直前まで待機している所で、床板は張られずに海上に壁と屋根をこしらえたような格好になっていた。

 だから飛び込んできた爆弾は海中の柔らかい砂の中に潜り込んでから信管が起動して爆発した。

 幸運な事に爆弾の破片は殆ど飛び散らず、爆風もいくらか減らされる事になった。しかしそれでも砂と海水を撒き散らして物凄い爆風が建物の中を駆け巡った。

 津久井は窓際を走って移動していた時に爆風をもろに受け、窓ガラスを突き破って外に吹き飛ばされてしまったのだ。

 

 




読みづらいかも知れませんが、読んでいただきありがとうございます。
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