ヴァンのISバトルオンライン   作:どるき

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その2

 アゲハ達が初回プレイに勤しんでいるころ、一般プレイヤーの間ではある噂が広まっていた。曰く、『赤い髪の織斑一夏が現れる、その強さは無類』。何時、何処で現れるかは不明なのだが、唯一の共通点は赤い髪とNPC最高難易度を超える強さの二つだけである。

 

「―――と、言うわけなんだよアリスちゃん。普通じゃないよアレ」

「さもありなん。Dさんが今更初級ステージで負けるなんてただ事じゃないですからね」

 

 この話を聞いたプレイヤーの一人である『アリス』は、興味本位からこの『赤い髪の一夏』を討伐してみようかと試みた次第であった。話をきいたのが丁度三日前の話であり、アリスの廃人プレイ継続時間はそろそろ六十時間を超えようとしていた。噂の目撃例を頼りに延々とシナリオモードで一夏と戦い続けたのだが、彼女の前には一向に件の一夏は現れない。

 あと半日で出てこなければ諦めようと思っていた矢先、ついに彼女の前に赤い髪の一夏が現れた。対戦開始前のイベント画面の時点で、教室に赤い髪の一夏が座っていたのだ。あとはメッセージを進めて『一夏と対戦』を選べば戦えると、アリスの気が少し緩んだ。

 

「やっと会えましたね。まったく、諦めてズルしようかと思っていたところですよ」

「そうか、悪かったな」

 

 アリスはつい独り言を呟く。アリスは眠気もあってかノイズのように聞き流していたが、前に座る一夏もそれに反応するかのように呟いていた。

 

 そして件の一夏とアリスの戦いが開始された。アリスの機体はラファール・リヴァイブをベースにカスタマイズを施した『アリスカスタム』、一夏の機体は当然『白式』である。

 アリスは牽制も兼ねてアサルトライフルによる先制攻撃を仕掛ける。普段のNPC一夏なら躱すにしろ防御するにしろ一度足を止めるのだが、流石に件の一夏は違っていた。雪片弐型で弾丸を弾き飛ばしつつイグニッションブーストにて逆襲を仕掛けたのだ。零落白夜こそ発動してはいないが、突進しながらの胴は痛恨の一撃に見える。

 

「さもありなん。噂の一夏を侮りすぎましたか」

 

 しかしアリスは寸前のところで一夏の突進を阻んでいた。アリスの眼前には魔法陣のような模様が展開され、一夏の接触を拒む。このバリアはAICのちょっとした応用にて発現する防御障壁であり、魔法陣に関してはアリスが持つ防御に関するイメージをシステムが読み取った結果である。

 カイルが使う『マテリアル・ハイ』による障壁と違い、応用性に劣る代わりに防御性能では上回るこのバリア(名前はまだ無い)こそがアリスカスタムの神髄なのだ。

 バリアで間を取りつつ次の手段を如何様にしようかと思考を巡らせるアリスの事などお構いなしに、一夏は次の手を切る。バリアがあるのなら切り裂けばよいとばかりに零落白夜を発動させたのだ。アリス自慢のバリアも対エネルギー兵器である零落白夜の前には紙束も同然であり、易々とバリアを切り裂くと一夏はそのまま大上段の一撃を放つ。

 

「ですよね~」

 

 一夏がバリアを突き破った先に待っていたのは、ショットガンを構えたアリスであった。

 アリスは零落白夜の光剣を銃の先端で受け止めるように位置を合わせ、ショットガンの引き金を引く。ショットガンの持つマンストッピングパワーを逆利用した変則マニューバにより一撃を回避すると、離れ際にアサルトカノンに武器を切り替えて追撃する。

 だがこの一夏に対して通常火器による攻撃など無意味なのであろうか、零落白夜を解除した一夏は雪片弐型の刀身で易々とカノン砲を切り落とす。この段階でアリス564対一夏510とエネルギー残量で見ればアリスが優勢ではあったのだが、攻撃が一切通用しないのではアリスには白旗を上げざるを得ない状況だった。

 アリスカスタムは機動性を捨ててバリアによる防御と各種実弾火器による射撃戦闘に特出した構成であり、近中距離のカノン砲を容易く防ぐ相手など考慮に入れていないのだ。こうなると残る手段は一夏側のガス欠狙いしかない。アリスは弾幕を張るために、アサルトライフル二丁を構えて波状攻撃を仕掛ける。

 総弾数約400発の銃弾が一夏を襲うが、動じる様子は全くない。涼しい顔ですべての弾丸を切り捨てたのだ。

 

「さもありなん。これだけの動き、絶対にNPCではないですよね?」

「たしかみてみろ!」

「え?」

 

 アリスは愚痴に返答する一夏に驚き、後れを取ってしまう。アリスの動揺を見逃すことなく、一夏はイグニッションブーストで間合いを詰めて眼前に迫っていたのだ。先ほどの焼き直しとばかりにバリアを展開するが、同じ手は二度も通用しない。今度の一夏は最初から零落白夜を発動させており、しかも光剣による突きを放っていたのだ。

 光剣はバリアを易々と貫き、アリスの胴体を貫通した。元々零落白夜は原作中においても最終安全装置であるシールドバリアーすら貫く危険な武装として定義されている。もしISBOが現実の戦闘なのであれば、アリスの重症は免れない一撃である。

 

「くはぁ!」

 

 そして現実に怪我を引きずることこそないが、痛みそのものはフィードバックされ、アリスはその痛みに悶絶し息も絶え絶えになる。その様子をまるで砂山を崩すかのように見つめると、一夏は動けないアリスを縦に切り裂いた。

 

――――

 

 対戦が終了すると、アリスは何事もなかった顔で立っていた。戦闘が終了したことでプレイヤーへのダメージフィードバッグがなくなったため、苦痛から解放されたからだ。

 戦闘が終了してもまだ教室にいた赤い髪の一夏に、アリスは声をかけることにした。

 

「ごきげんよう。アナタは誰?」

「織斑一夏だ」

「そうではなくて、その織斑一夏という殻の中にいるアナタの方ですよ」

「織斑一夏だ」

 

 一夏は何を訊ねても『織斑一夏だ』としか返さない、まるで本物のNPCのように。それならばと、アリスは次の手を講じる。

 

「もう一度、勝負しましょう」

 

 そうして再びバトルフィールドに移動したアリスの前に立っていたのは、黒い髪の一夏だった。まさかと思いつつ先ほどと同様に牽制のアサルトライフルを放つが、一夏は『普通に』回避行動をとった。

 『先ほどの一夏と中身が同じなら、まず雪片で切り落とす』

 そう考えていたアリスは拍子抜けし、落胆してしまう。あの『赤い髪の一夏』にまんまと逃げられてしまったからだ。

 

「さもありなん。アナタには恨まれる理由はありませんが、私のわがままで落とさせてもらいますよ」

 

 アリスは両手にアサルトカノンを構えると、改造ハイパーセンサーの照準能力を遺憾なく発揮した連続狙撃を敢行する。並のNPCである黒髪の一夏にはこの攻撃を躱しきる術など持っていない。回避行動も虚しく一夏は瞬く間に蜂の巣となり墜落した。

 僅か四十五秒というNPC殺しの自己記録を更新したアリスが教室に戻ると、当然ながらあの『赤い髪の一夏』はとっくにいなくなっていた。

 

「仕方がありませんね。とりあえず、あの動きに対応する方法でも考えましょうか。その前にそろそろ寝落ち―――」

 

 アリスは一夏へのリベンジを思いながら、ゲームをログアウトした。

 

――――

 

 アゲハと桜子は、シナリオモードでも最初に当たる『代表戦』を開始することとした。

 このイベントは原作中での一夏vsセシリアをモチーフに、一夏とセシリアを相手に順に戦うというものである。勝利するとそれぞれの専用機を取得可能になり、双方に勝利すれば次のシナリオが解放されるというものである。オープニングイベントということもあり、難易度は最低ランクのやさしいものである『はず』だった。

 シナリオモードの特性上、各々が個別にNPCとの戦闘を行うわけなのだが、その際のアゲハの対戦相手は通常と異なっていたのだ。赤い髪の一夏はアゲハに問いかける、熟練のプレイヤーならばこの時点で普通じゃないと察するところだが、ゲーム初心者のアゲハは気付かない。

 

「キミは誰だ?」

「アゲハだ」

「―――アゲハ?」

 

 一夏はどこかで聞いた名であるかのようにしばらく小首を傾げる。聞かれた側であるアゲハは『体感ゲームだからキャラもそれらしく作っているのか?』としか思ってはいない。

 

「(アゲハ―――そうか、やはり『夜科アゲハ』か―――)」

「まずは俺と勝負だ」

「いいぜ」

 

 一夏からの挑戦に、アゲハは拳を鳴らした。

 対戦機体はアゲハがノーマルのラファール・リヴァイブに対し、一夏は専用機『白式』。機体性能ではアゲハが不利ではあるが、相手が『本来の一夏』であればもちろん雑作もないほど操縦者の腕は離れている。だがアゲハの前にいるのは『赤い髪の一夏』であり、そのように易々と勝てる相手ではない。

 アゲハはアサルトカノンを構えて狙撃で先制しようとするが、一夏はその隙を与えない。狙撃姿勢に入ってから照準を定め始める数秒の間に、イグニッションブーストでアゲハの眼前に迫っていたのだ。

 

「速え!―――だけど、影虎さん程じゃねえ!」

 

 咄嗟に腰に隠し持っていたブレードで受け太刀して攻撃を回避するが、アゲハはその動きに肝を冷やす。流石に専用機と言うだけはあるのか、先ほどのヴァンやカイルの戦闘速度の比ではなかったからだ。

 アゲハはいくら速いとはいえライズの師である『雹藤影虎』と比べたらどうと言うことは無いと気合を込め、返す刀で切りつける。一夏は単距離ブーストによるスウェーバックで軽々と回避し、足を止めた。

 

「(流石に黒いバーストまでは無いにしても、思ったよりやるようだ)」

 

 一夏はアゲハの動きに唸る。これまで戦ってきた有象無象のプレイヤー達とは雲泥の差に喚起したのだ。一夏はまるでアゲハを試すかのように雪片を構える。

 

「(コイツ、本当にゲームキャラなのか?)」

 

 一夏の構えから発する気迫に、アゲハは眼前の相手に疑いを持つ。しょせん相手はゲームキャラ、それも最弱と相場が決まっている最初の敵のはずだったからだ。エルモアウッドのメンバーが上位ランカーである以上、その彼らより(ハンデの有無こそあれ)上回る存在がゲームキャラだとは思えない。

 

「アンタ、クサカベさんみたいなコスプレか? インチキしてまで俺と戦う理由はなんだ?」

「(夜科アゲハ―――感づいたか?)」

 

 一夏はアゲハの言葉に耳を貸さないが、内心は違う。もしこの場が現実であり傍らにシャオがいるのならば、彼が持つ『読心』の力でそれは読み取られていたことであろう。一夏は対戦終了後の逃げる算段を頭で組み立てながら、バレる前に狩ると言わんばかりに零落白夜を発動させた。光剣を構えた状態での最速チャージは先のアリスも容易く打ち取った一夏の必殺技である。

 だが相手は歴戦のサイキッカー『夜科アゲハ』、突進の速度が速かろうとも直線的な動きなら弾丸ですら見切る力を持つ。光剣を紙一重で躱すと、ブレードによるカウンターが一夏を襲った。ブレードは白式の肩装甲に突き刺さるも、シールドエネルギーを削り取るほどは深くは無い。一夏はそのまま光剣を横なぎに振り回し、アゲハはブレードが抜けず防御が遅れる。

 仕方なしにブレードを支点にブーストを発動させて光剣を躱すと、収納機能でブレードを回収したのちに零距離でのカノン砲を打ち出した。固い装甲に阻まれてダメージは軽微ではあるが、ここまでアゲハ566対一夏458、この一撃によりライフゲージ上ではアゲハ優勢に大きく傾いた。

 アゲハは衝撃で一夏の姿勢が崩れていることを見逃さず、ショットガンを取り出して引き金を引く。いかに弾丸を容易に弾き落とす一夏とはいえ、近距離の散弾だけはその限りではない。たまらずイグニッションブーストを発動させ、その速さによる圧倒で弾丸を回避する。

 

「黙っていないで何か言ったらどうだ!」

 

 アゲハは問いかけるが、一夏からの返事は無い。一夏は正体を詮索されることを嫌い、黙秘を決め込んでいたからだ。一夏はアゲハを遊び相手として以上に厄介の種になると判断し、勝負を急ぐ。

 しょせん相手はドノーマルの量産機、こちらもノーマル仕様とはいえ専用機とは地力が違う。スペックの差をいかんなく発揮できれば技能が互角以上であれば必勝と、一夏は確信していた。

 アゲハはショットガンとブレードをいつでも構えられるように準備すると、狙撃の姿勢を取る。じわじわと詰め寄る一夏に対して狙撃を行うが、一夏は待ってましたとばかりに弾丸を切り落とし、イグニッションブーストで接近した。

 一夏にとっては狙撃後の間は絶好のチャンスである。一瞬で間合いを詰め、零落白夜の光剣を横なぎに振るう。

 だが―――

 

「どうだ! 動きを止めればこっちのもんだ」

 

 アゲハからしてもこの展開は予想の範疇である。アサルトカノンを犠牲に光剣を受け止めると、アゲハは雪片弐型の基部を右手でつかむ。カイルが桜子に対してつかった白刃取り作戦の応用が見事に決まり、アゲハは一夏の動きを止めることに成功した。

 こうなればアゲハのアタックチャンスである。身動きの取れない一夏の胴体にショットガンを打ち込み、一夏は衝撃により弾き飛ばされる。一夏は追撃こそすぐさま姿勢を取り戻して回避したが、この一撃が痛手なのは間違いない。

 

「(甘く見すぎたか)」

 

 一夏はアゲハに対する認識を改めざるを得なかった。いかに自分が本来の調子ではないとはいえ、戦闘で後れを取るなど考えてもいなかったのだ。一夏は負ける気など毛頭ない。故に『本来の自分に極力近づけるために』今まで封じていた第二形態の封印を解く。

 大型ウイングバインダーが羽根のように広がる姿は、一夏の赤い髪と相まってまるで堕天使のような印象をアゲハに与えた。

 そんなアゲハの感想を吹き飛ばす勢いで一夏の猛攻が開始された。第二形態に移行したことで向上した機動性能はアゲハが体術で補えるレベルを超えていた。さらに左腕の『雪羅』により攻撃のバリエーションが増えたことで、これまで剣撃一本故に見切り安い状態だったアゲハに追い打ちをかける。

 一夏は片手斬撃の受け太刀による一瞬の硬直の隙に左腕のエネルギー爪でアゲハを掴んだ。まるで必死に斬撃を捌くアゲハをあざ笑うかのように。密着状態のエネルギー爪は見る見るうちにアゲハのシールドエネルギーを削る。

 

「離せ!」

 

 アゲハは苦し紛れにショットガンを放とうとするが、一夏に投げ飛ばされて狙いを外されてしまう。それでも拘束状態から解放されたのだと姿勢を取り戻そうとした矢先である。荷電粒子砲がアゲハを打ち貫いた。

 まともな被弾だけを数えるのならたったの二回、それだけでラファール・リヴァイブのエネルギーを削り取るのには充分であった。




ぶつ切り御無礼ですが、ちょっとだけ続きを書いた奴が見つかったので投稿します。
このあとはありません。
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