新しく入った組織が果てしなくブラック企業な件 作:神聖SmD
「服装よし、髪型よし……ネクタイの角度よし――――
髭はそったし、目は生まれつき悪いから今更どうしようも無し」
青年が鏡の前でぶつぶつつぶやきながら入念に確認を行う。
何度もネクタイを解いては直しを繰り返し今に至る。
彼は今日、人生の転機に立っていた。そう――――企業の入社面接である。
高校を卒業した後、大学へ進む友人を尻目に彼は高卒で就職を目指した。
しかし、当たる社会の荒波高く今に至る。現在、二十歳。女性経験無し。
それがこの男の人物像である。
「それじゃ、行くとしますかね」
青年は意気揚々といかないが、
普段よりも三割増しは気合を入れて家を出た。
◆
「この道で合ってるよな?」
何度も確認した道を進む。片手のスマートフォンには目的地とはかけ離れた
現在地が写っている。この男は、方向音痴であった。
救いが無いとはこのことだろうか。
「……さっきから、胸になにか刺さる」
気のせいである。
「おい、今まで気のせいだったものが確信に変わったぞ」
独り言をいいつつ見慣れない土地を進む。刻々と面接の時間は迫っていた。
男は焦りつつ歩を速める。
「遅刻とか洒落にならないぞッ……」
と、その時だった。細い十字路に出る。男は一心不乱に前に前にと意識を
巡らせるばかりに横から接近していたトラックに気が付くことが出来なかった。
いや、ソレが自らの身体の横に来るまでは。
「あ」
男の口から発せられたのはそんなあっけない一言だった。
齢20。女性経験なし。職も無く、女性経験も無い。
それが彼の悲しい終わりだった。
(てか、なんでいま「女性経験なし」って二回――――)
気のせいである。
◆
西暦2071年。誰もしもが夢見る未来は存在しなかった。いや、正しくは
存在しているといえよう。だが、その現実こそ誰しもが想像しえなかった
ものだった。
人類が誕生して以来、人間は生態系の頂点に胡坐をかいていた。だが、その
秩序は余りにも簡単に覆されることになる。
その原因こそ、全ての物を捕食する細胞“オラクル細胞”の登場だ。
その集結体として形成させる異形の怪物“アラガミ”により人類は荒廃の
一途をたどっていた。
人類はそれでも策を講じ、抗い続けている。
物語はその2071年より、3年の月日が経ったときから動く。
◆
「――――大丈夫ですか? もしもし?」
「ふゃ?」
青年はよく分からない単語を零す。それを受けて、声をかけた少女は
困惑の表情を示す。
「どうしよう……次、この人の番なのになぁ」
「どうかしましたか?」
「あ、あのこの人寝たままなんですね。どうしたらいいかなって」
「あぁ、こちらでお運びしますから大丈夫ですよ」
「そうですか~。お願いしますね」
青年は2人のスタッフとおぼしき人物らによって運ばれていく。
その後ろ姿を少女は見守っていた。
「さてと、おでんパンでも食べようかな」
◆
(あれ、おかしいな。俺……運ばれてる?)
青年はベッドというよりも、装置と表現すべき寝台に置かれる。
その様子を上のウィンドウから金髪の男と女性が覗いていた。
「気を楽になさい」
スピーカーから女性の声が響く。
(あ、やっぱこれ俺生きてるんじゃないの? 死んだような気が……)
気のせいである。
(それ気にってるね! 天の声の人ね!)
「―――貴方は既に選ばれてここに居るのです」
女性の声が続く。寝台が駆動し青年の身体が徐々にセットポジション
に着く。
「え! これ……え? え?」
覚醒した青年が自らの置かれた状況に気づき慌てふためく。
だが時すでに遅し。諸行無常、オサラバである。
「オサラバしないから! ちょ! これなんですか!
入社試験にしては過激じゃないですかね! 大の男縛り付けて!」
そんな声を無視して、女性は続ける。
「あなたには今から、対アラガミ用戦闘員。“ゴッドイーター”の
適性試験を受けてもらいます。
ふふ……試験といってもそんなに肩肘を張る必要はありません」
「いや! これ縛られてるから! 肩肘張れないから!
くッ……離せッ! 嫌な予感しかしないんだけど!」
男は抵抗し、もがく。
「あらあら。手荒だけどここは――――お願いしますね」
女性がそう言うと、縛られた男の後方からスタッフが出てくる。
そして、シューッという音を立てて現れた台。そこに乗っている剣に
男の手を触れさせようとする。
「やめッ! なんですかその剣ッ! 御社の新しい商品ですかッ?!
かか、かっこいいですねぇ! けど可笑しいなぁ! 俺が面接するとこ
お菓子メーカーなんですがねッ!!」
「ラケル博士。少々意識が混濁している様子です。ここは――――」
「心配はありません。ジュリウス」
見かねた金髪の青年がラケルと呼ばれた女性にストップをかける。
が、その提案は否決される。
「何故なら、彼もまた……“荒ぶる神”に選ばれし者ですから……ふふ」
「ラケル博士! セット完了です!」
「ぐッ離せ……! こんな会社入社しないからな!」
2人がかりで押さえつけられ、青年は呻く。
「では、あなたに神の祝福があらんことを……」
その言葉と共に、天上から新たな機械が青年の腕を目掛けて降りてくる。
「これヤベぇやつだって! はっきり分かるぞッ……おッや、やめ!」
そしてそれは降ろされる。
「ぐ、ぐぁあああッあああああああああ!!!」
青年は腕を抑え激しく呻き、叫ぶ。耐えかねず床を転がる事数往復。
その姿を見ていたジュリウスが「やはり、失敗か」と呟く。
が、やがてその叫びは止まる。そしてラケルがそれに答える。
「よく御覧なさい」
「っは……はぁ……お花畑が見えたぞクソ」
青年は地面に鉄剣を突き立てて息を整える。周りの押さえつけていた
スタッフからも「成功だ……」という声が漏れる。
「ふっふ。貴方に“洗礼”を施した時とそっくりね、ジュリウス」
そのラケルの言葉にジュリウスは否定の目を向ける。
「おめでとう。これであなたも“ゴッドイーター”になりました。
これから特殊部隊“ブラッド”に配属されることになるでしょう
まずは体を休めてください」
「はぁ……“ブラッド”? “ゴッドイーター”?」
なんだそれはと言うも答える人はいない。
「あなたには――――期待していますよ」
そんなラケルの言葉に青年は、
「あの……もう帰ってもいいですか?」
そう呟いた。
◆
適合試験の後、青年は登録を済ませる運びになった。
受付嬢のフランに頭の痛い人だという印象を与えつつ、
「神田 リョウ」という名前で登録を済ませる。
この間にリョウは「帰らせてください」「面接の話は無しで」と
言ったが話にならなかった。
「今のうちに個々の施設を見ておくことをおすすめします。
きっと意識が混濁しているんでしょう……」
そのフランの言葉に押され、リョウは施設内をうろつくことにした。
「だからここはなんなんだ? 責任者の部屋……社長室は何処だ?
直訴してやる。こんな会社辞めてやる!」
リョウは悪態を付きつつ進みやがて、庭園に出る。
「なんだここ……建物に花畑?」
その奥で気の元に佇む男を見つける。
(アイツが責任者に違いないな。オーラで分かる)
よく分からないまま男に詰めかかろうとするリョウ。
「あぁ……君か。適合試験お疲れ様」
「あ、どうも」
先に声を掛けられて、出鼻を挫かれる構図になる。
自分から怒鳴りつけようとした反面、あちらから話しかけられて
勢いはだだ下がりになり、ありきたりな挨拶となってしまう。
いや、もはや哀拶である。
(上手くねぇよ!)
「一先ず座るといい。ここは“フライヤ”の中でも一番落ちつく」
ジュリウスは自分の隣を差し、リョウに座るように促す。
この紳士的な態度にリョウは若干頬を赤らめる。
「いや! 赤らめないよ!? 俺はノーマルだからね!?」
気のせいである。
「気のせいじゃねぇえええええ!!」
「どうかしたのか? もしや、先ほどの疲労がまだ……」
「いえ、大丈夫ですんで。そういえば貴方は?」
「あぁ。そう言えば名乗っていなかったな。
俺は……ジュリウス・ヴィスコンティ。これからお前が配属される
極致化技術開発局“ブラッド”隊の隊長を務めている」
(ブラッド……俺が配属される? 隊長ってことは――――上司?)
「お、失礼しました! 俺……じゃない! 私は神田 リョウです!」
リョウはジュリウスの肩書を聴くや、いきなりかしこまる。先ほどまで、
文句を言おうとしていたはずがとんだ掌返しである。
「そんなに恐縮する必要はない。よろしく頼む」
「こ、こちらこそ……」
「さて、休んだらフライヤを見て回るといい」
「はぁ」
ジュリウスは「また後で」と言うと立ち去ってしまう。
リョウはその後ろ姿をアホみたいに口を開けてみていることしかできなかった。
(アホは余計だ!)
◆
その後、暫くしてリョウは訓練に参加することになった。
基本的な武器――――“ゴッドイーター”専用対アラガミ用武器“神機”の
扱い方を学んだ。が、
「なんだこれ……意味が分からないぞ。てか、なんで武器持つ必要が?
なんか色々わからないんだけど。これ夢?」
出来は全くで悪態を吐きつつエントランスに戻る。
「あ、お疲れ様ー」
「あ」
エントランスには少女が居て、その手には怪しげなパンが握られていた。
(なんだアレは……挟んであるの、もしかしておでんか? 嘘だろ)
「君もブラッドの新入りさんだよね?」
「へ? あぁ……そうみたいねー全く記憶に無いけどねー」
(てか、この子……凄い露出だな恥ずかしくないのだろうか。
女子ってイマドキはこういうのが流行っているんだろうか?)
リョウは少女のことを観察する。その少女の服は上着こそ羽織っているが、
胸元以外は出ていて、ヘソは丸出しという大胆なファッションである。
女性経験が無いリョウには刺激が強く別の神機が解放され―――――
(ねぇよ! 下ネタかッ)
「あ、私はねーナナって言うんだ。香月 ナナ。よろしくねー」
「あぁよろしく。俺はリョウ。神田 リョウ」
簡単に紹介を済ませるリョウ。コミュ障ここに極まれり。しかし、
果たしてここで会話を終わらせていいのだろうか。そう考え、
「で、香月さんは訓練はどうだった?」
会話を伸ばすことにした。
「あ、ナナでいいよー私もリョウ君って呼ぶから。ん? リョウさんかな?
見た感じ年上って感じだもんねー」
「え、いや……君でいいよ。リョウさんだと某警官と被るからね」
葛飾区亀有公園前派出所にいるあの人である。
(言っちゃダメだろ! あえて隠してんだぞ空気読め!)
「了解ー。訓練はね、イマイチだったかな。リョウ君は?」
「俺? 俺は……あぁ、全然ダメだったよ。ていうか、もう帰りたい」
「同じだねーこれからも仲良くしてやってねー」
「あ、あぁ。よろしく」
そう言うとナナは怪しいパンを食べ始める。
(うぁ……)
リョウはその様子を引き気味で見る。その視線に気づいたのか、
「あ、これよかったら食べてよー。お母さん直伝のおでんパン!
おいしいんだーこれ。私が作ったの」
「え、あぁ……どうも。ぅぁ……やっぱおでんなんだこれ」
(おでんのだし汁がパンに染みて……大丈夫かコレ。
けど、貰った手前食わないとダメだよなぁコレ)
「あ! 私そろそろ訓練の時間だ!」
ナナはそう言うと駆け出して行った。
「そうなんだ。頑張って(これ後で処理――――)」
だが、ナナは振り返るとこう言った。
「残したら、後で怒るからねー!」
「………」
パンはリョウが割と美味しく頂きました。
◆
「ここは一体なんなんだ。いる人は変な人ばかりだし。訓練は謎だし。
変な知識ばかり増えていくし……兎に角、今は責任者に会わないと」
リョウはそう強く思い。目標を定める。果たして彼の運命は如何に。
(その終わり古いな……)
たぶん続く