IS×山崩シ之逸刀 作:エミヤ
女尊男卑の世界で頑張る男性は見ていてカッコイイですね。
センゴクさんには頑張って欲しいです。
それではどうぞ!
「…一夏」
図らずも口から零れ出した目の前の少年の名であろう言葉とこの状況に少し呆然としていると、
「おう!」
その少年はまるで太陽のような笑顔を向けてきた。
(そうだ拙者は…。ならば、ここがあの守護者の言った破滅の危機にある世界か。そんな様子はまるでないが。)
場所は公園のようだった。前の世界でも同じような場所があったのを覚えている。
センゴクは辺りを見渡すも青い空が続くばかりで、太陽の位置からして時間は昼間なのだろう。
休日なのか公園は家族連れで賑わっている。
一見して守護者の言うような危険は無い、というのがセンゴクの感想である。
そして気付いた。
(身体が…幼子まで若返っているのか…⁉︎)
横たわっている訳でもなく、座っているわけでもない。
自分は立っているにも関わらず、隣にいる一夏という歳は十もいかない少年と目線がほとんど一緒なのだ。
そして公園の中にあるトイレの中で鏡を見た時、それは確信へと変わった。
「…馬鹿な。」
そこにいたのは紛れもなく自分だった。歳はあの少年と同じくらいだろう。
深い蒼色の髪は短めに揃えられ、少し吊り上がった黒色の瞳。
見間違う筈など無い。遠い記憶の中にある、写真に写った幼き日の自分に瓜二つであった。
ならば自分はこの世界に新しく生まれ変わったといことか。まさか幼子にまで若返るとは夢にも思っていなかったが。
こんな状況になってもセンゴクは至って冷静であった。
(…こうなってしまった以上は仕方ない。今は兎に角この世界の情報を集めねば。)
そう思い、踵を返すと先の少年が口を膨らませこちらを少し睨むように見ていた。
「もう、ホントにどうしたんだよセンゴク。ボーッとしたかと思うといきなり走り出してさ!」
その少年、一夏の真っ直ぐな視線を受け、少し申し訳のない気持ちになったセンゴク。
「許せ…。些細なことだ。」
「許せって…まぁいっか。ていうかもしかして…」
いつもと様子の違う様子の友に一夏は若干の違和感を感じるが、気の所為だと一蹴する。
「…?…」
徐々に一夏の表情が暗くなっていく。こんな短い時間でコロコロ変わる表情にセンゴクは感情豊かな少年という印象を受けた。
「調子でも悪いのか⁉︎それならそうと…」
一夏はセンゴクが体調を崩しているのだと勘違いしているようだった。
転生のこと等言う訳ないことは分かり切っていたが、なるほどこの少年は感情の機微に少し敏感なのかもしれない。
いや、それはともかく。
まずは色々な状況を把握することからだ。自分のこの世界での立場が全く分からない。
一夏からはセンゴクと呼ばれているからとりあえずは自分の名前はそれで間違いないだろう。
生まれ変わったにも関わらず同じ名とは数奇な運命だと、センゴクはこれからのことに少し期待するのであった。
センゴクは大丈夫だと言ったが、やはりいつもと違う友の様子から一夏は、センゴクの体調が心配になり今日は家に帰ろうと言い出した。
家に帰ること自体にセンゴクは全く異論は無いので、一夏に着いて行くことにした。
何故この少年の名前が一夏と分かったのか。
いや、分かったというよりは思い出したに近かった。
転生など当たり前だが、生まれて初めての経験でありどういうものかは殆ど分からない。
星の守護者にもう少し話を聞けば良かったのだろうが、今更考えたところで仕方ないと思い、自らの知識を総動員して今の状況を整理する。
センゴクには先程意識が覚醒した以前の、この世界での記憶がない。
まずは何故、あの時から前の記憶がなかったのか。生まれ変わったといえど自身の身体には間違いないのだから、朧げだとしても幼少の記憶があるはずだろう。
赤子の記憶がないのは分かるが、恐らくこの身体は十にもなるのに先程からの記憶が全くないことはどう考えてもおかしい。
それはつまりこの身体は先程まで、自分の身体でなかったのか。
転生とは御伽噺のような生まれ変わりと同じように考えていたが、これではこの世界に生きていた少年の身体を乗っ取ったようではないか。
しかしこの身は自分に間違いない。さっき鏡を見たせいもあるが、何故か確信的な思いがあった。
答えは出ずか。
それから考えるも明確な答えは得られなかった。
一夏に連れられ暫くして、建物がいくつか見えてきた。
自分のいた世界とは少し風味が違うが、これは家屋で間違いないだろう。
その一つを見て一夏は足を止め、おもむろに家のチャイムを鳴らした。
ここが、一夏の家か。
そう思案していると、少しの間を置いて家人が顔を扉から覗かせた。
「あら、一夏君にセンちゃん。早いのね」
家人は柔和な笑顔をした綺麗な女性だった。
とても笑顔が似合う。
センゴクの第一印象だった。
歳は20を過ぎた頃だろうか。大きな瞳にスッと通った鼻すじ。茶色の髪は肩の辺りまで美しく伸ばされており、白のワンピースは彼女の清廉さを引き立たせていた。
「あぁ、ちょっとセンゴクが調子悪そうだからさ。センゴクは大丈夫って言ったんだけどね」
一夏の声は心なしか弾んでいるように聞こえる。
「あら、それは大変ね。ありがとうね一夏君。さ、センちゃん。」
そう言い女性はこちらを見る。
…センちゃんというのは、まさか自分のことか。
まさか自分のこととは思わず、少し驚いた。
そして少し口角を吊り上げた。
(拙者も、この女性からすればただの稚児に過ぎないか。この世界、中々どうして趣があるではないか。)
「じゃあ俺はこれで!じゃあなセンゴク。また身体が良くなったら遊ぼうな!」
一夏は手を振り踵を返す。
「あら一夏君。今日はご飯食べていかないの?」
「うん。今日は俺が千冬姉に作るんだ!」
そう言って一夏は笑顔を向ける。きっと千冬姉というのはは一夏にとって掛け替えのない存在なのだろう。
照れたような笑顔が全てだ。
「一夏君も大変ねぇ。分かったわ。困った時はいつでもいってね」
「ありがとう!じゃあね愛莉さん!センゴク!」
一夏ははちきれんばかりの笑顔で帰っていった。
一夏が帰ると愛莉と言われた女性はこちらを向き、ニッコリとした。
「一夏君はあぁ言っていたけど大丈夫なの?」
「あぁ」
愛莉はセンゴクが応えると不満気に頬を膨らませた。
「もう、センちゃん。そんな返事して〜。素直じゃない子はこうだ!」
愛莉はその豊満な肢体でセンゴクを抱き締めた。
「うりうり〜!」
いきなりのことに動揺しセンゴクは抵抗しようとするが、愛莉の無邪気で嬉しそうな笑顔を見るとそんな気は失せ、暫くなすがままにされるのであった。
「…ぬぐぅ」
センゴクの溜息は愛莉の笑い声に消えていった。
その後、特に風邪等を引いた訳でもないことが分かり、愛莉から開放されたセンゴクは、まずは家の中を見て周り、所持品等からなんとか自分の名前と自分の身の回りの人物のことが分かった。
この世界での自分の名は『間宮 千石』、愛莉は自分の叔母にあたる人物で、両親が家を空けている関係で自分の面倒を見てくれているそうだ。
そして一夏の苗字は織斑といい、今は中学生の姉と二人暮らしをしている。
(…小学校か。寺子屋のようなものか)
自分の部屋にあったランドセルと呼ばれる鞄の中身を見てそう結論付けた。
一夏と自分は小学校でいえば2年生になるそうだ。
とりあえずはこれくらいか。
そう思っていた時、下から愛莉の声が聞こえてきた。
「千ちゃ〜ん!ご飯よ〜!」
もう慣れたその呼び方に短く返事をし、階段を下りていると料理の香りが鼻孔をくすぐる。
居間に向かうと美味しそうな和食料理が机に並べられていた。
「ささ、千ちゃん。冷めない内に食べちゃおう。」
こちらに気付いた愛莉は手をタオルで拭きながら、千石を席に座るよう促す。
千石はあぁ、と短い返事をしながら椅子を引き、座った。
「それじゃあ、いただきます♪」
2人は合掌して食べ始めた。
愛莉の料理は素直に美味しかった。
七騎士にいる頃は高級な料理を食す機会もあった。愛莉の料理は高級品にくらべ派手さは無いし、素材の高級さなら及ぶべくもないだろうが、そこには高級店には無い暖かみがあった。
きっとこうやって毎日のように自分の為に食事や身の周りの世話を焼いてくれているのだろう。
頭が下がる思いであった。
久しぶりのまともな食事に千石は柄にもなく夢中になり、黙々と口を動かした。
愛莉はそんな千石の様子を愛おしそうに見守るのであった。
食後、千石はせめて皿洗いくらいはしようと思い、台所に立つと愛莉はとても驚いた様子であった。
(今日の千ちゃんどうしたんだろ。なんか一気に大人びたというか。)
食事中もそうだった。箸の使い方がいつの間にか上達していた。
帰って来てから話し方も、ずいぶん大人しくなった。体調は悪い訳ではないのだから…
(はっ…!もしかして千ちゃん、思春期⁉︎もう独り立ち⁉︎むむむ…)
「…?…」
千石は、愛莉が険しい顔で思案しているのを横目に皿を洗い続けた。
千石は以前のこの世界での記憶がないので知らなかったことだが、思ったことが一つある、それは。
愛莉は千石を溺愛している。愛し過ぎている。
千石がテレビを興味深く見ていた時も、愛莉が隣に座ったかと思うと千石の身体をひょいと持ち上げ、自身の膝の上に乗せ後ろから抱き締めるのだ。
愛莉のたわわに実った2つの果実を押し付けられ、千石も表情には出さないが内心は穏やかではなかった。
抵抗しようにも、幸せそうな笑顔をこちらに向ける愛莉を見ると何も言えなくなってしまうのだった。
風呂に一緒に入ろうと言い始めた時は流石に拒否した。何と言うかそれは不味いと思ったのだ。
愛莉は強引に一緒に風呂に入ろうとしたが頑なに拒否する千石に、頬を膨らませ「いけず〜!」等と言いながら渋々という様子で1人で入っていた。
それは甥に向ける言葉では無かろうに。
千石は今日何度目かになる溜息を吐いた。
そんなこんなで時間もあっという間に経ち、もう寝るような時間になっていた。
千石は自身の部屋にベッドがあるのは確認していたので、そこで寝ようと階段を登る。
すると愛莉も千石の後を着いてくるように階段を登って来た。どうやら愛莉の寝室も2階にあるようで、千石の部屋の隣だった。
千石が部屋のドアノブに手を掛け入ろうとすると、愛莉が泣きそうな声で呼び止めた。
「…うぅ千ちゃぁん。もう一緒に寝てくれないの?」
まさか寝床まで一緒とは思わず千石はまたしても溜息をつく。
愛莉には悪いが今日からは別々で寝させてもらおう。そう思いドアノブを回すが、愛莉は相変わらずこちらを潤んだ瞳で見ている。
千石はグッと瞳を閉じ、何かを考えた後ドアノブから手を離した。
記憶は無いが、きっと今まで自分は愛莉には世話になっているのだろう。愛莉は「子供はそんなこと気にしなくてよろしい!」と笑っていたが、そういう訳にはいかない。
千石には自覚はないが、彼は元の世界でも義理堅い性格でそれが人々の好意を集めていた。
それならば愛莉の願いはなるべく叶えてやりたいと千石が思うのは当然の帰結である。風呂は一緒には入らないが。
「…え?千ちゃん…?」
「一緒に寝るのだろう?」
千石は愛莉の部屋へ入っていく。
「う、うん。千ちゃん待ってよ!」
愛莉は少し情けない声を出しながら千石に続いた。
「千ちゃん…むにゃ」
やっぱり別々の部屋で寝るべきだったと千石は後悔していた。愛莉の腕を枕にして寝ることになるとは予想外だった。愛莉は横になったかと思うと千石を引き寄せ両手で抱き締めるように身体を寄り添わせてきた。
そして自身はあっという間に寝てしまった。
そんな彼女にまた溜息をつく。
もしかすると以前の自分もこんな気持ちだったのかも知れない。
千石はそんな事を考え、幸せそうに涎を垂らす愛莉を見ながら徐々に微睡みの中へ落ちていった。
これからは暫くセンゴク改め千石さんの日常が続きます。
大分千石さんキャラ変わってない?と思う方がいると思いますが、あくまで彼は千石ですから。
生暖かい目でみてやって下さい。
次くらいから後書きを使ってキャラ同士のダベりとかしようかなと思うんですがどうですかね⁉︎
それではまた!