IS×山崩シ之逸刀   作:エミヤ

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皆様お疲れ様です。

やっと投稿できました。
こんな小説でも読んで下さる皆様の為にこれからも頑張っていきます。

転生ということで仙谷から千石へ名前を変更していますが、誤植とかでは無いんです。
あの方とちょっとカブりますね。

今回はちょっと長めです。
それではどうぞ!


星は落ちて

千石がこの世界へ来て1ヶ月が経過した。

 

生活環境にも慣れ、愛莉にばかり背負わせていた家事も少しずつするようした。

なにぶん家事などしたことがなかった千石は中々に最初は苦労した。

バザルタの戦士となる前は家事は屋敷の女中の仕事であったし、バザルタの戦士となってらからは家政婦を雇っていた。

家事には全くと言っていい程縁は無い、しかしここではそうは言っていられない。

 

『働かざる者食うべからず』

 

千石の母が口を酸っぱくして言っていた言葉だ。

読んで字のごとくの意味だが、何も利益を上げない者は給金や飯などは与えられないということだ。

その言葉には千石も大いに賛成である。何もしない者が例え高価な物手に入れても、それには意味は無いだろう。

 

それに対し汗水垂らして手に入れた物ならそれが例え僅かな価値しか持たぬ物でも、きっとその者にとっては掛け替えの無い意味を持つ物になるだろう。

 

それが人の本質だ。例えどれだけの怠け者であっても仕事を全くしない状態が続けば、ストレスで発狂してしまうように。

それが人の営みというものだ。

 

ならば今の自分の仕事とは何だろうか。前の世界では剣を振り、敵を葬ることだった。しかしこの世界は弱肉強食が当たり前だった前の世界とは違い、剣を振るうことなど無い。

 

学問に励むこと、これは子供の本分だが自分は行きたくて学校へ通っているのだ。

義務教育制度とは親への義務であって、子への義務ではない。

それに教育費等は自分で払うことはない、学問に励むことは子供の仕事だ、という者もいるだろうがあくまで通わせてもらっているものを仕事と呼ぶのは、千石にとっては疑問が残るところである。

 

この幼子の身体では雇ってくれるところなど皆無、だからと言って何もしないというのは千石には到底認めることができないことであった。

 

ならば自然とやることは決まってくる。愛莉はそんなことしなくていいよと、頭を撫でるがせめてもの感謝の印として半ば強引に家事を手伝うことになった。

慣れない家事は最初はたどたどしい手付きだったが最近は少しずつ上達してきている。

 

「ホントに人が変わったみたいだね、千ちゃん♪」

 

からからと笑う愛莉に複雑な感情になる千石だった。

 

 

 

 

しかし中々料理は上手く出来ない。こればっかりはどうしようもない。

 

愛莉より早目に起床し、見よう見真似で朝ご飯を作ったことがあった。

しかし見よう見真似だったため味付けは適当で、ただ切って焼いただけのとてもではないが、料理と呼べるものではなかった。

 

愛莉が少しして起床し、その光景を見て一番に言ったのは

「千ちゃん!ケガしてない⁉︎」

であった。

 

そうして失敗した千石の料理だが、勿体無いということから食べることになった。

(千ちゃんの料理♪千ちゃんの料理♪)

愛莉がかなり機嫌が良かったことを覚えている。

 

味は我ながら酷いものだと思ったが、自分で作ったのだから残さず食べた。

 

隣では愛莉が、一口一口幸せそうな表情で料理を噛み締めている。

 

「…不味いだろう?」

 

千石が自嘲気味に言うと、愛莉は目を見開きもの凄い勢いでこちらを向いた。

 

「そんな訳ないじゃない!千ちゃんが作ってくれた料理が美味しいことはあっても、不味いなんてあり得ないよ!」

 

声など張り上げるタイプではない愛莉が珍しく感情を露わにしたことで少し面食らった千石だったが、愛莉は諭すように続けた。

 

「料理はね、作る人の想いで美味しくなるんだよ?愛情は最高の調味料なんだよ。千ちゃんが私の為に作ってくれた料理が不味い訳ないでしょ?」

 

「勿論、私の料理も千ちゃんへの愛情がたっぷりつまってるよ!…千ちゃん、私の料理は美味しい?」

 

愛莉は先程とうって変わって顔を赤らめ、こちらの顔を覗き込んでくる。

そんな愛莉に、千石は暖かい気持ちが胸に広がるのを感じた。

(…拙者も、この世界に来て変わったのだろうか。)

 

「…あぁ…。そうか、だからだろうな。だからあんなにも愛莉の作る料理は美味いのだろうな」

 

千石はそっぽを向いて言う。その顔に微かな笑みを浮かべて。

 

それを見た愛莉は箸をポロリと落とし、呆然と千石を見たまま固まってしまった。

 

「…千ちゃんがデレた。」

 

「愛莉…?どうし「千ちぁゃん!」うぐッ」

 

愛莉は千石を押し倒さんとばかりに愛のタックルを食らわせ抱き締めたまま頬擦りをする。

 

「う〜ん♪何時ものクールな表情からその台詞は反則だよぅ〜!」

 

「えぇい!離せ!」

千石は愛莉の顔を左手で全力で押し返すが、それに負けじと愛莉も抱き締める力を強める。

 

(…全く。どこにそんな力があるのだ…)

 

しかし千石のその顔はどこか嬉しそうだったことに愛莉は気付かないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千石はそんな朝の風景が終わり、今は学校へ来ている。教室のドアを開け、クラスの者と軽い挨拶を交わし自分の席の近くにいくと見慣れた顔が自分の席へ来ていた。

 

「よっ!おはよ千石!今日も元気そうだな!」

 

「おはよう千石」

 

爽やかな笑顔を浮かべる少年とその隣で仏頂面で佇む少女。

 

織斑一夏と篠ノ之箒。この2人とはよくつるんでおり公私問わず一緒にいることが多い。

というよりも箒が一夏を追い掛け、その一夏が千石の元へいくので自動的に3人になるだけであるが。

千石は箒には最初、敵を見るような目で見られていたが、苛められていた箒を助けてからは仲の良い友人として付き合うようになった。

 

「…あぁ。おはよう」

 

千石は2人に挨拶を返し席へ座る。

気付けば箒と一夏は何やら口論をしている。

また一夏がいらぬことを言ったのだろう。

そんないつもの光景をみながら千石は、授業の準備を進めるのだった。

 

小学生レベルの授業は千石にとって全く難しくはないのだが、歴史の勉強は元々何事も手を抜かない彼が一層興味深く聞いていた。

 

歴史の授業を受ける度、やはりここは自分のいた世界とは違うのだと知る。

この歴史の中に何かこの世界の危機に関係するようなことがないのかとも考えて、色々な書物を読み耽ったがそれらしいものは見つからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして授業は終わり、下校の時間となった。

時間は午後4時前、季節は5月まだまだ日が傾くには早い時間だ。

教室には子供達の楽しそうな声が其処彼処でしている。

手早く荷物を纏めて帰る者、教室に残り談笑を楽しむ者、校庭で遊んでいる者、皆様々だが放課後からの時間を自由に過ごしている。

 

 

 

「よっし!千石、箒!今日も頑張るか!」

 

「うむ。一夏、今日も私が扱いてやろう。」

 

「…腕が鳴るな」

 

千石、一夏、箒達3人は他の同級生の放課後のどれとも違う。

 

向かったのは道場。名を篠ノ之道場といい、近くには篠ノ之神社がある。

箒の実家はこの神社であり、そこの神主を務めている篠ノ之柳韻は箒の実父であり、道場の師範でもある。

 

千石らは放課後は決まってこの道場で、剣道で汗を流す。

千石がこの道場に通うようになったのは、つい最近の事である。

 

 

一件のことがあり箒とも会話を交わすようになってから、学校の体育の時間に体力測定があった。

そこで千石は校内ではトップクラス、学年内ではナンバーワンの記録を叩き出した。

 

それまでの千石は運動も勉強も可もなく不可もない程度であった。

千石がこの世界に来てから確かにトレーニングはするようにはしているが、短い間では殆ど何も変わらない。

ならどうして千石は校内トップクラスの記録を叩き出したのか、それは千石の前世において生涯を賭して培った経験と技術の賜物である。

 

小学生にもなれば、身体の差はあまり無い。

それならば何故記録に差が出るのか、その理由は身体の効率的な動かし方にある。

 

同じ運動でも呼吸の仕方が違えば疲労度に差が出るように、 同じ身体でもフォームが違えばその記録に差が出るように。

 

つまりは間宮千石という平凡な少年は、その前世の経験と技術を活かすことで類稀なる運動能力を手に入れたのだ。

 

それは天賦の才能と呼ばれるもの。

 

決して才能に恵まれているとは言えなかった彼が、その業とも呼べる暗闇の中で手にした確かなもの。

それは時を越えて彼の才能としてその存在を輝かせていた。

 

それを見た周りの者たちはあまりの変化に驚き、一夏と箒も例に漏れず驚いていた。

千石としては身体が小さくなったことによって落ちた身体能力に愕然としていたが、仕方ないと割り切っていた。

 

そして箒は思わず

「剣道を…する気はないか」

と聞いていたのだ。

 

剣を振る場所を探していた千石はこの誘いに二つ返事で了承し、今に至るのだ。

 

楽しそうに話している箒と満更でもなさそうな千石の様子を、一夏は首を傾げながら見ていた。

 

(…ホント千石って変わったよなぁ。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3人が道場に入ると既に柳韻は道場で座禅を組んで黙想をしていた。

 

「おぉ、来たか、3人共。それでは始めるかね?」

 

「「はい!」」「うむ」

 

篠ノ之道場には今はこの3人しかおらず、道着に着替え準備体操を終えた千石らは、基本打ちを終え実戦形式の稽古をしていた。

 

「りゃあぁぁ!」

「はぁぁぁぁ!」

 

千石の前で一夏と箒が互いに気と声を張り上げ、竹刀を交えている。

今はローテーションの関係で千石は2人の稽古を見ていた。

前世では世界にその武を轟かせた千石だが、その千石から見ても目の前の2人は才能溢れる存在である。

今の2人の実力は千石に及ぶべくもないが、いつかは自分を超える日が来るかもしれない。そんな確信にも似た想いがあった。

 

千石はというと、柳韻をもってして「教えることはない」と言わせるレベルで、愚直に積み上げられたその剣技は幼くして、柳韻を凌ぐものであった。

 

 

 

 

2人の稽古が終わり、少しの休憩を挟んで次は一夏と千石が稽古を始めた。

箒はその様子を食い入るように見ていた。

 

一夏は本当によく食らいついている。しかし如何せん相手は千石だ。一夏の猛攻を悉く受け流し、手痛い一撃を与えている。千石のその一打一打は試合では誰が見ても一本になるだろう。

それを正確に一度も外さず打っているのだ。自分からすればまさに雲の上の存在。どれほどの鍛錬を積めばあの領域に辿り着けるのだろうか、箒は千石の底知れぬ実力に身体を震わせるのだった。

 

その一方で箒はいつも気になっていることがあった。

(…何故父さんは、千石が剣を振っている姿を見る時、あんなに悲しそうな顔をしているのだろう。)

 

柳韻は哀れむような、悔やむような、そんな瞳で千石を見つめていた。

箒はそんな父の姿が印象的で、何故か胸が締め付けられるような気持ちになるのだった。

 

 

「はぁ〜つかれたぁ。」

「お疲れ一夏」

 

稽古も終わり時間は6時半、辺りは暗くなってきている。

夜になると少し肌寒い風だが、稽古終わりの火照った身体には丁度良い。

 

楽しそうに会話をしている一夏と箒の声を背中に、千石は一人夜風にあたっていた。

すると千石の横を一人の女性が通り過ぎた。歳の頃は15あたりだろうか。刺すような空気を漂わせ、一夏と所々似た雰囲気を持った女性だった。

 

その女性は千石には目もくれず、一夏の方へ向かっていった。

 

「…一夏、稽古は終わったようだな。柳韻さんはもう帰られたようだな。箒もご苦労、一夏私達も帰ろう。」

 

「あ、千冬姉!ちょっと待って、直ぐ準備するから!」

 

「あぁ、焦ることはないぞ」

 

一夏と話す時はその物々しい雰囲気もなりを潜め、時折微笑むなど、年相応の反応であった。

(これが話しに聞いていた、千冬という一夏の姉か。)

 

一見すれば少し恐い雰囲気をした少女だろう。しかし千石はそれ以外のものを感じ、千冬から目を逸らせずにいた。

 

(…強い。今の拙者ではもしや…。)

身体が少しずつ熱くなっていくのが分かった。

 

 

 

「そういや千冬姉、なんで防具持ってるのさ。」

 

「あぁ、明日は部活は休みでな。家で少し手入れをするつもりだ」

 

「へぇー重そうだね、持とうか?」

 

「何を言っている。私の使っている防具だ。私が持つ。もう大丈夫か?」

 

「うん!お待たせ千冬姉!」

 

そう言うと手を振りながら

「じゃあな〜千石、箒!また明日!」

姉と手を繋いでいる一夏はなんとも嬉しそうだった。

 

 

しかしそんな一夏の声も、千石の耳には入っていなかった。

 

 

 

 

 

 

やっと見つけた強敵。それも今の自分では勝てるか分からぬ程の難敵。

是が非でも戦いたい、強者との戦いこそ己の本望。

一夏の姉ならまた会う機会もあるだろう、しかしこの想いはまたの機会まで待ってくれそうもない。

 

胸が高鳴る…

 

この戦いを前にして。

 

血が滾る、まるで全身が心臓になったかのように…

 

この想いは、それすら呼吸をするように。

 

ならばそれに従うのみ…

 

求め続けた場所がそこにあるなら…

 

 

断ずるに一切の迷いは持たん‼︎

 

 

 

 

 

(あぁ、なんと拙者の愚かなことよ。だが…!)

 

千石は壁に立て掛けてあった竹刀を持ち、一夏と共に帰ろうとしている千冬の背中を追いかけた。

 

(愚か者で結構‼︎いざ!)

 

 

「一夏の姉上殿。しばし待たれよ。」

 

「…?…お前は…。」

 

「どうしたんだ千石?」

 

 

首を傾げる2人を前に、千石は竹刀の柄の方を千冬へ向け差し出した。

その真っ直ぐな瞳に千冬はこの少年の言いたいことが何たるかを理解した。

 

「それで私に戦えと…」

千冬の鷹のような瞳がさらに厳しくなり千石を睨み付けるが、千石はまるで待ってましたと言わんばかりに頷いた。

 

睨み合う2人。その間で一夏はオロオロと右往左往している。

箒もその光景を固唾を呑んで見守っている。

 

しかし次の瞬間、千冬は鼻で笑い踵を返した。

 

「フッ…何をそんなに熱くなっているのか知らないが、私は生憎そんな暇は無くてな。またにしてくれ。さ、一夏帰ろう」

 

「えっ…?千冬姉、あの、千石?」

 

一夏は相変わらずだったが、千冬に手を引かれ半ば引きづられている。

 

 

千石はその背中を見つめ、自分はいつからこんな堪え性の無い男になったのかと息を吐いた。

 

(こんな手は使いたくないが、致し方無い。)

 

 

 

 

 

千冬の背中を襲ったのは殺気。誰のものかは分かり切っている。刺すような敵意。

千冬は苦虫を噛み潰したような表情で振り返った。

 

千石の企みは成功した。

今の千冬にしてみれば、千石が極限まで手加減して飛ばした殺気は少し悪寒がする程度であった。

しかし剣士としての千冬は違う。敵意を剥き出しにしている者に背を向けるということは、敵から逃げることに他ならない。

 

この者がそれを良しとする訳がない。

 

千冬の剣士としての矜恃を逆手に取って、千石は千冬を戦場へ引き摺り出したのだ。

 

「貴様…!舐めたマネを…!」

 

「2度は言わん。拙者と打ち合えい。」

 

2人の視線はさらに熱くぶつかり合い、千冬も殺気を露わにし、射殺さんばかりに睨み付ける。

 

「千冬姉⁉︎いきなりどうしたんだよ!千石も落ち着けって!」

 

大好きな2人が今にも戦いそうな雰囲気に一夏も声を荒げるが、2人は最早お互いしか見ていなかった。

 

「…いいだろう。受けてやる、一夏の友達とてここまでされたのだ。容赦はせんぞ?」

 

「無論だ。全力でなければ意味が無い」

 

千冬は千石が差し出していた竹刀を受け取ると

 

「準備をしてくる、少し待っていろ。」

 

そのまま道場の奥へと消えていった。

 

 

 

それから少し経ち、千石は胡座を組んで千冬を待っている。

一夏は千石に何度か詰め寄っていたが、千石は「許せ」の一点張りだったため、先に一夏が折れ今は箒と共に事の成り行きを見守っている。

 

(ほんとどうしたんだろう2人共…。)

一夏は人知れず溜息を吐いた。

 

すると道着に着替え頭以外の防具を付けた千冬が現れ、その後柳韻も道場へ入ってきた。

 

「千冬君から聞いたよ。私が審判をしよう」

 

 

 

 

 

 

 

千石と千冬はお互いにストレッチ等をし、竹刀を振るなど試合への準備を進めている。

 

竹刀を振る千冬を見て千石は微かに口角を吊り上げる。

 

(やはり拙者の見込みに間違いは無かった。良い太刀筋だ、先が読めん。)

 

 

 

しばらくして準備が出来たのか、何を言うわけでもないのにお互いに正対して正座をし、面を装着する。

 

そして竹刀を左手に持ち、一礼をした後お互いに剣を構え向かい合う。

 

「試合は二本先取、時間は5分。それでは…初めッ!」

 

 

戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

「ヤァァァァァ!」

 

2人は声を張り上げその闘志をぶつけ合う。

 

どちらも構えは中段。間合いは遠間、一歩踏み込んで打っても相手には届かず、逆に相手の打突を躱せる間合いである。

この間合いで相手の中心点を取り、払うことが試合を進めて行く上で重要になる。

お互いに相手の出方や動きを観察し、隙を伺う。

 

(あの少年…。中々に隙が無い。大口を叩くだけはあるということか。だが所詮は小学生、いつかボロが出る。それを突く!)

 

 

(打ってこぬか…。まだこちらを侮っているならそれで結構。その間に一本はもらう)

 

 

 

相手を舐めている訳ではないが、千冬の心には油断があった。

それが次の2人の動きに差を付けた。

 

 

「震の型…!」

 

「何ッ⁉︎」

 

間合いは遠間。一歩踏み込み打っても打突は相手には届かない。

 

そこから一歩踏み出せば一足一刀の間合いであり、一歩踏み出せば相手の打突部位に竹刀が届き、逆に一歩退けば相手の打突を躱せる間合いである。

 

更に一歩踏み込めば近間、いつでも相手の打突部位に届く間合いではあるが、逆に相手からの打突も届く攻めの間合いである。

 

相手がいつ踏み込んでも捌き切れる自身が千冬にはあった。

しかしどうだ、相手はもう近間におり、竹刀を横に降ろうとしているではないか。

(馬鹿な…!なんて踏み込みだ。一瞬で間合いを詰めるなど…!)

 

千石は身体が幼くなり力は全盛期とは比べものにはならないが、それでも遥か化物であった。

しかし迎え撃つ者も化物。中学一年生にして全国を制覇した肩書きは伊達ではない。

 

「ハァァァ!」

 

千冬も面打ちを繰り出す。

 

しかしもうそれは…

 

 

 

 

 

 

『震の型』

 

これは千石が得意とする剣技で、遠間から一気に飛ぶように踏み込むことで相手の隙を突きその胴を薙ぐものである。

 

 

千冬の放った面打ちは後手に回っていたとしても間違いなく、決定打。

神に愛されたとしか思えない才能と弛まぬ努力によって鍛えられたその剣はまさしく神剣。

全国の並み居る猛者も防ぎ得なかった。

 

しかし千石は世界最高の剣士。

その業とも呼べる修練の中で生涯を賭けて鍛えた剣は正に逸刀。

斬るという概念にすら届く一振りは、神さえも堕とす。

 

 

 

 

千冬が面を打つより早く、千石の竹刀がその胴を一閃した。

 

 

 

バシィィン!

 

 

静まり返った道場に、竹刀が防具を打つ音が響き渡る。

最早一夏と箒には2人の剣筋は目で終えてなかった。

 

 

そして柳韻の右手が上がった。

 

 

「ッ!…」

 

やられた。千冬は面の中で悪態をついた。まさか遠間から一気に近間まで踏み込んでくるとは、油断していたとはいえ反応が出来なかった。

確信が生まれた。相手は間違いなく強敵。

今まで戦ってきた中で最も強かった者と比較しても、天秤にかける重りとしては軽すぎる程の。

 

相手が小学生とかそんなことはどうでも良い。全力を持って倒す!

 

 

 

「ほぉ。いい闘気だ。それでこそよ…!」

 

一本を先制した千石だが、あと一本取れば。などとは微塵も思ってなかった。

 

溢れ出す千冬の闘気を見て、むしろ勝負は今始まったばかりだと意識を引き締めた。

 

 

 

 

「ヤァァァ!」

「オォォォ!」

 

そこからは一進一退の攻防が続いた。

2人は何度も竹刀をぶつけ合う。

 

千石の身体がどんどん熱を帯びてくる。

それは戦いの高揚故に。

竹刀が弾き合う音はさながら戦士を鼓舞する太鼓か。

 

(あぁ…!なんと血湧き肉躍る戦いよ!なんだ、拙者の身体には血潮の代わりに炎でも流れているというのか!)

 

 

 

 

 

千冬が攻め、千石がいなし、千石の打突を千冬が躱し、また攻める。

 

一足一刀の間合いからの鍔迫り合い。お互いの正中線を取り合う為、払い、切り上げ、押さえ付ける。

 

そして生まれた隙。千冬が攻めあぐね一瞬足を止めてしまった。千石はそれを見逃さず、千冬の小手へ竹刀を振るう。

 

「イャォォ!」

 

「させるかぁァァ!」

 

千冬は、ならばと強引に身体ごと腕を引いた。

 

(ッ⁉︎おのれッ!)

 

千石の小手打ちが空を切り、目前には腕や振り上げ面を打たんとしている千冬の姿。

千石の竹刀は振り下ろされ、竹刀で守ろうとすればそれより早く千冬が面を打つだろう。

 

(もらった!)

 

(ぬぅ…!)

 

 

絶対的不利、打たれるのを待つだけの中で千石はまだ諦めていなかった。

 

 

 

 

「…まさか、防いだのか…!」

 

竹刀での防御は間に合わなかった。

その為。千石は咄嗟に顔を上げ、面の金具の部分で千冬の太刀を防いだのだ。

 

真剣での勝負なら間違いなく千石は命を落としている。

これは剣道だからこそできるものであり、千石は自身がこの世界に来てから変わり始めていることを改めて実感した。

 

「く…そんな…!」

 

千冬はやっと見つけた見つけた好機を逃し、愕然とする。

 

それに比べて千石は更にその闘気を研ぎ澄ませていた。

(あれが刀ならば、拙者は死んでいた…。それでこそ勝負よ!)

千石は竹刀を上段に構える。

 

 

 

勝負の終わりが近づいている。

 

千冬は平然を装うも、強敵を相手にやっと見つけた好機を逃し、更に鋭さを増した千石の覇気に動揺を隠せないでいる。

 

千石は、そんな千冬の様子を竹刀を上段に構え見やる。

 

体格差のある2人で、千石が竹刀を上段に構えるのはデメリットしかない。

千冬から見れば、胴と小手を無防備に晒しているも同様である。

しかしそれであってもこの構えは必勝のもの。

そこから繰り出される逸刀の前にはそんなデメリットなど些事である。

 

何度こうして振り続けただろうか、狂気に身を任せ、何度も何度も。

ただ一つの強さを求めて、それは最早息をするように。

千石は千冬を見据え、スッと息を整える。

 

 

 

動揺しているとはいえ、千冬もその千石の隙を突かぬ筈はなく、ガラ空きの胴をフェイントを混ぜながら薙ぐ。

 

確実に取った。千冬は確信した。

もう防御は間に合わない、何故上段にしたのかは分からないがまずは一本だ。

 

そう思った千冬は間違ってなどいない。

 

相手がこの男でなければ…そして竹刀は振り下ろされた。

 

 

 

瞬間千冬は自分の身体がまるで世界に置いていかれたような感覚に陥った。

動いていく時の中で自分だけが動かない。

 

(なんだ、これは…?)

 

面前では千石の大上段から振り下ろされた竹刀が自分の面を打たんと迫る。

 

(動けッ!このままでは…!)

負けてしまう…そう思った時千冬は理解した。

 

(置いていかれているのは私ではない、この者の剣が時を置き去りにしているのだ…。)

千冬は瞳は閉じた。

 

(…完敗だよ…。)

 

千冬が竹刀を振り切るよりも早く、千石の竹刀はまるで閃光のように振り下ろされた。

 

 

柳韻が右手を上げるのを見て、千冬は目の前の少年に惜しみない賞賛の気持ちを向けるのだった。




?「千石さんと千冬さん。ププッ!千繋がりでいい感じですね(笑)」

「「………………」」

?「…あれ?なんで私の頭掴んでるんですか?爪が食い込んでますよ⁉︎イタタタ!てか竹刀!竹刀でなんで物が切れてるんですか⁉︎」

「…名前を馬鹿にするな」
「…からかわれるのは嫌いなんだ。」

?「ギャアァァァァ!」



なんか真耶さんは地雷を踏み抜くイメージ。

それではまた次回!ありがとうございました!
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