IS×山崩シ之逸刀 作:エミヤ
皆様長らくお待たせしました。
やっと更新です(泣)
次の更新はなるべく早くするつもりです。
それではどうぞ!
閃光と、竹刀が防具を弾く音が道場を走り抜ける。
勝負がついたというのに、歓声など一つとして上がらない。道場の中はまるで水を打ったかのように静まり返っている。
その中で千冬はもう何年振りかの敗北を噛み締めていた。
(…完敗だな。手も足も出なかった。最後の一太刀は分かっていても凌ぐことが出来なかった…全くなんという奴だ。)
千冬は目の前の、自分と比べ一回り小さい剣士を見た。
(…全く。少しは嬉しそうな顏でもしたらどうなんだ。)
千冬の意見は最もである。
鼻にかけるつもりはさらさら無いが、これでも全国制覇した身であり全国のどの中学生よりも強いのだ。
男性の大人相手でも負けたことは無い。
それに勝ったのだから手放しとはいかずとも、ガッツポーズくらいは取って欲しいものだが、当の本人はそんな素振りなど全く無く道場の真ん中で、試合の始まりと終わりの礼である蹲踞の構えを取っている。
(本当に真っ直ぐで、意志の強い良い目をしている。…ふふ、もしかして私は…)
「千冬君?大丈夫かね?」
勝負が決まっても、全く動かない千冬を心配した柳韻が声を掛ける。
もしかして具合でも悪いのだろうか、そんな柳韻の言葉が千冬を思考の海から現実へ引き戻した。
千冬は少し慌てて千石に相対するように蹲踞の構えを取る。
そして竹刀を構えた状態から帯刀の状態にし、一礼する。
試合はここに終了した。この試合がどれほどの意味を持っていたのか、それはきっと当事者の間のみで語られるべきことなのだろう。
「申し訳なかった。」
試合が終わり、千冬に対し千石が発した第一声がそれだった。
なんとなく千石の人となりを分かり始めた千冬だったが、少しこれには面食らってしまった。
「…どういうことか、説明してもらえるか。」
全く心当たりの無い千冬は少し考えるように言う。
千石は下げた頭を上げ、真っ直ぐな瞳で千冬を見た。
「あぁ、自分の我儘の為に其方の誇りを利用するような真似をしたのだ。一言詫びねば拙者の気が済まん。」
そう言い、また頭を下げようとする千石を千冬は大声で笑った。
「アッハハハハハ!は〜、悪い悪い。何だか可笑しくてな。お前を相手にしているとまるで歴戦の剣士を前にしているようでな。」
そうやって千冬は目元を拭う。
一体何がおかしいのだと、千石は疑問が残るがそれは直ぐに晴れた。
考えてみれば今の自分は千冬からみれば、ただの稚児。
それが剣士の真似事をしているのだ、親の服を背伸びして着ても布が余ってしまう子供の様な、成る程確かにそれは可笑しい。
ふと千冬に視線を向けるとこちらを見ていることに気付いた。
「…どうした。」
「いや、こうして見るとやはり一夏の同級生なのだなと思ってな。竹刀を握っている時はあんなに…。」
(…カッコ良かった。と言えばいいのだろうか。…馬鹿らしいな。)
千冬はフッと笑みを零し千石へ向き直る。
「何はともあれ私はもう気にしていない。私にとっても今日は有意義なものだったしな、感謝する。」
「…そうか。」
千石は何かを考えるように瞳を閉じる。
そしてしばらくすると瞳を上げた。
「しかしそれでは納得がいかん。何かやれることはないか」
千冬は気にしていないと言った、しかしそれで自分のしたことがなかったことになる訳ではない。
後悔はしていないが未熟な精神が生み出してしまった結果である、千冬の言葉に甘えることは千石の今までの在り方が良しとしなかった。
千石の真っ直ぐな視線を受けた千冬は顎に手をあて首を傾げる。
一夏と箒は少し離れている場所で柳韻と会話している。
時折千冬と千石の様子をチラチラと見ているが、2人の間に険悪な雰囲気も無いことからあまり心配をしているわけではないようだ。
千冬は思案する。
恐らくこの少年のことだ、気にするなと何回言ったところで引きはしないだろう。
かと言って、謝罪など全く受けるつもりはない。確かに千石の言うことはもっともだが、この試合は自分にとっても意味あるものとなった。
心のどこかで自分が強いと思い込んで天狗になっていたのかもしれない。それを気付かせてもらった。
これをきっかけに私はもっと強くなれるかもしれない、いやきっとなれるだろう。
そんなきっかけをくれた相手に謝罪をされるのはお門違いだ。
(…ふむ、ならば…。)
「そうだな、ならば一つだけ。」
「あぁ、何でも構わん」
千冬は一夏と箒へ視線を移した。
向こうでは一夏と箒がなにやら揉めている。それなのに2人は楽しそうで、柳韻は優しく見守っていた。
千冬は僅かに口元を緩め言った。
「あの2人の、良き目標で居続けてくれないだろうか」
それは親愛なる家族を想っての言葉だった。
一夏と箒。
この2人には類稀なる剣の才がある。
しかし自分は中々一夏の相手をしてやることが出来ない。
箒には柳韻さんがいるが、目標は近くにある方が良い。
2人にはその才を良い方向に伸ばしていって欲しい。
はっきり言って千石の剣の腕は現段階でも、日本の並み居る実力者とも渡り合えるだろう。
そして、まだ会って少ししか経たないが、千石がとれだけ強くなることに貪欲かも分かった。
その力の使い方もきっと間違えはしないだろう。
そう確信させる何かがこの少年にはある。
千石はきっと、あの2人のこの上ない目標になってくれるはずだ。
千冬が千石へ向くと、千石は腕を組み力強く頷いた。
相変わらず口は一文字に結ばれている。
「それは構わんが、そんな事でいいのか?」
そう言う千石にそれこそ構わんとばかりに、千冬は鼻で笑った。
「フッ、侮るなよ。あの2人はこれからもっと強くなる、惚けていると直ぐに抜かれるぞ?」
それを聞いた千石はさぞかし嬉しそうに声を上げて
「結構、結構!ならばこちらも強くなり続けるのみよ!」
そうやって笑う千石は年相応の少年のようだった。
「…なんだそんな顔もできるんじゃないか。」
「…む?」
少し驚いた表情の千冬を千石は見上げるように伺う。
「い、いやなんでもないんだ。」
千冬は千石の視線から逃れるように背を向けるとブツブツ何か言っている。
(その顔は、反則だろう…。)
鬼神のような強さを見せる千石も、身体は未だ少年に過ぎない。そのギャップはきっと彼の魅力なのだろう。
千冬は仕切り直しと言わんばかりに咳払いをする。
「今日は世話になった。本当に良い経験ができた、感謝する。…あと、それともう一つだけ。」
「どうした。」
「あぁ、またこれからも手合わせをしてくれないか。お前を見ていると強くなれそうな気がするんだ。」
千石は何だそんなことかと腕は組んだまま言う。
「それは有難い。今から頼もうとしていたところだったのでな。」
千石の返答を聞き満足気に頷いた千冬は
「そうか。そういうば自己紹介がまだだったな、私は織斑千冬だ。好きに呼んでくれ、これからよろしく頼むぞ?」
「うむ、拙者は間宮千石という。またし合える日を楽しみにしている。」
「拙者…?まぁいいか、それではな。…間宮。」
「うむ。またな千冬。」
千冬は踵を返すと未だ口論をしている一夏の元へ歩いていく。
(…千冬か。そう呼ばれたのはもう何年振りだろうか。)
苦い敗北の後だというのにその足は心なしか軽やかだった。
「じゃあな〜千石〜箒〜!」
一夏が手を振りながら笑顔を浮かべている。
あれから千冬が間に入るとあっという間に2人は言い合いを辞め、大人しくなっていた。
箒が若干震えていたことを覚えている。
一夏は千冬にその手を引かれ、それを箒と柳韻そして千石が見送っていた。
時間はもう7時半を周り、辺りはそれはすっかり暗くなっている。
吹く風は肌寒いが、月が夜道を照らしいる。走って帰るのには丁度良いだろう。
一夏と千冬の姿が見えなくなり、千石も帰路に着こうとした時不意に柳韻に呼び止められた。
「千石君、君は何故そんなに強さを求める。その先に君は何を見ている?」
突然の問い、長年千石が探し続けていた答え。
それは追い求めることに意味があると知った。この柳韻の問いは、もう自身の中で何万回と自問自答を繰り返した。
今更考えることなど無い。
「強さとは、強くなろうとするその姿を言う。見えぬからこそ人は暗闇の中でもがく。拙者はただ前へ進むのみ、答えなどとうに出ているのだ。」
千石は柳韻に一礼し、その場を後にした。これ以上語ることはないと言わんばかりに。
柳韻はもう一度呼び止めようとして、出した腕を下ろした。
「そうか、君はきっといつまで経っても自分のことを未熟者と呼ぶのだろう。その終わらぬ道を歩み続けるのか、それはあまりにも…」
「君は…まだ箒と同い年の子供だというのに。」
柳韻が千石の後ろ姿を見つめていると、側にいた箒がクイクイと引っ張って柳韻を見上げていた。
「父さん、何故父さんは千石を見る時そんな悲しそうな目をするのですか?」
箒が心配気に言うと柳韻はさっきまでのことがまるで嘘のように柔和な笑みを浮かべ、箒の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「さ、箒。こんなところにいては風邪を引いてしまう。お風呂に入って温まって来なさい」
柳韻はそのまま道場の外へ歩いていく。しかし箒は俯いたまま動こうとしない、どうしたのかと柳韻が振り向こうとすると
「誤魔化さないで下さい!確かに父さんは千石を見る時の目は悲しそうでした。…どうして隠そうとするのですか⁉︎」
「…箒。」
見れば箒はその両目から大粒の雫を溢れさせていた。拳をギュッと握り、柳韻を力一杯睨みつけている。
隠し事をされるのが辛かった。力になりたいのに、何も話してくれない、まるで自分が必要とされてないように思えた。
胸が締め付けられるような悲しみがあった。
とうとう感情が溢れてしまったのだ。
「箒…済まない。心配をかけてしまったようだね。」
箒を見つめる柳韻の目はどこまでも優しかった。
「詳しいことは今は言えない。それはきっと箒が彼を見て学んで欲しい。ただ一つだけ言っておく。」
その時の柳韻の目はあの胸が締め付けられるような悲しみを帯びていた。
「彼のようにはなってはならない」
「…!どうしてですか⁉︎千石は私から見ても最高の目標です。千石のようになれれば私は…!」
「いや、箒にはまだ可能性が沢山ある。彼のようになるといことはそれらを閉ざすことになりかねない。その可能性を大事にして欲しい。それに彼の在り方はまるで…」
一振りの刀の様。
ただその身を研ぎ、斬るだけの存在。
救いなど訪れはしない。もし救いがあるとしても…
「強くなり続けることが救いというなら、それはなんて悲しいことだと思わないか。何故彼があんな道をあの歳で歩んでいるのか、あの領域へ辿り着く為にどれだけのものを犠牲にしてきたのか。それを思うと悲しくて堪らなくなるんだよ。彼に剣を教えた人間を恨まずにはいられない。」
「…父さん…」
「フッ…。今はきっと何を言っているか分からないだろう。でもいつか分かる日がくる。その日、絶対に選択を間違えないで欲しい」
柳韻はいつの間にか笑みを浮かべていた。
「さ、帰ろう!母さんが美味しいご飯を作ってまってくれているからね!」
「…はい。分かりました…」
納得したわけではない。しかし父は言った。答えは自分で見つけるべきだと、ならばその日が来るまで頑張ってみよう。
他ならぬ父の言ったことなのだから。
箒は最愛の父の背中を小走りで追い掛けていった。
「おかえり〜千ちゃん!どうしたの?今日は遅かったね」
千石は帰宅するとその帰りを首を長くして待っていた愛莉に熱い歓迎を受けた。
「ねぇねぇお風呂にする?それともご飯?それとも…」
「いつも悪いな。先に風呂に入る。」
「えっ、あ、はい。」
冗談を真面目に返されてしまい、愛莉は思わす素で返事を返してしまった。
千石は愛莉の横を通り、着替えを手に風呂場の方へ向かっていく。
「…何か今日の千ちゃん、すごく嬉しそうな笑顔してた。」
しばらく惚けていたが、既に作っていた料理を温めるため台所へ向かう愛莉だった。
風呂から上がり食事も終え、千石は愛莉とともにテレビを見ていた。
見る番組はもっぱらニュース番組ばかりであるが、これは千石が世界の情勢等を知るためそうしているのであり、愛莉も特にこだわりが無いためである。
いつしか愛莉の膝の上は千石の特等席となっている。
いや、愛莉の特等席と言った方が良いのだろうか。
千石も最初は抵抗をしていたもののあまりにしつこく、番組を見るのもままならないのでこの形に収まった。
晩ご飯を食べ終え、就寝するまでの時間。
愛莉は千石を後ろから抱きしめ、その頭に頬を乗せている。
愛莉にとっては1日中の疲労が癒される、大事な時間である。
千石は当初愛莉の豊満な身体を押し付けられ、穏やかではなかったが今ではもう慣れしまっていた。
ニュースではあるタイトルを獲得したスポーツ選手が記者の問いに応えている。
「どうしてここまで頑張れたのですか?」
その記者の問いを聞いた瞬間、千石にあるビジョンが浮かんだ。
「愛莉、一つ今決めたことがある。」
「うん?なぁ〜に?千ちゃん。」
「あぁ、拙者がもし剣道かその他の何かで全国、いや世界の頂点に立った時にきっとこんな風に多くの記者が質問を投げかけてくるだろう。」
「ふんふん、それで?」
「その時、拙者は言うのだ。大きな声で胸を張って。『ここまで来れたのは愛莉のおかげだ、愛莉が居なければ今の自分は無かった』と。今の拙者にはそれくらいしか愛莉に恩返しが思いつかん。」
「…だからその時まで待っていてはくれないか。」
「…千ちゃん…。」
愛莉はそれっきり俯いて黙りこんでしまった。それに何故か身体が震えている。
どうかしたのかと、後ろを振り返るとそこには頬を真っ赤に染めた愛莉がいた。目が血走って若干鼻息が荒い。
「…千ちゃん。それってプロポーズだよね…!」
やってしまったと千石は思うがもう手遅れだった。
「ま、待て!そんなつも「聞こえません!」グッ⁉︎」
それからしばらくの間、少年の苦しむ声と若い女性の興奮した声が間宮家に響いた。
そんな時間も過ぎ、2人はベッドに横たわっていた。
2人で一緒の布団で眠るのもいつしか恒例になってしまった。
愛莉は騒ぎ疲れたのか、幸せそうな顔で既に眠っている。
千石も少しずつ瞼が重くなっていることを感じていた。
今日は色々なことがあり、それはこの少年の身体にはなかなか堪えたようで自分が思っていた以上に身体は疲れていた。
まだ世界の危機とやらの正体は掴めないが、守らなければならぬ者が出来た。
愛莉のだらしない寝顔を見ながら、千石はゆっくりとその意識を手放していく。
その夜は月が美しく辺りを照らしていた。
「ねぇねぇ!千ちゃんってツンデレだよね!」
「…ツンデレ…?どういう意味だ。」
「千ちゃんみたいなこと♪」
「答えになっておらんではないか…」
「そうです。千石はツンデレの才能があります。」
「おっ、分かるねえ千冬ちゃん。」
「えぇ、あのギャップは反則だと思います」
その瞬間2人は固い握手を交わしていた。
「「同志!」」
「でも千ちゃんはあげないから!」
「いや、私はそんなつもりでは…」
「千ちゃんはあげないんだから〜!!!」
「ま、待て愛莉。引っ張るな!肩に担ぐな!」
あぁー…
「行ってしまった。本当に愛莉さんはどこにあんな力があるのだろうか」
千石と愛莉のコンビが大好きな作者です。
それではまた!