マネジメントより歓迎会。
授業という学生の労働時間が終り、俺は着替えるため男子更衣室に向かう。
部室では彼女たちが着替えるため、俺は絶対に入れない。
未だに一度しか入ったことないけど。
「今日の練習メニューはと」
昨日、家でμ's練習メニューを考え書いて来た。
俺は燃え始めている。必ずランキングを上位に食い込ませるために。
「ランニング。ここから神田大明神まで往復して。そして休憩。その後ダンス練習にクールダウンか」
体力作りはアイドルには必要不可欠。
踊りながら歌うのは大いに体力を削り、途中で歌えなくなったら目を当てられない。
ちまたで有名なアイドルは華奢な身体をしているが体力は、普通の男性よりある。
基礎の前に体力すらないなら話にならない。
反対されてもやる。心を鬼にしてやる。
嫌われたくないけど……。
更衣室に着くなり、さっさと着替える。
太ってはいないけど、ちょっと痩せないといけないなと自身の身体を見て思う。
平均より筋肉付けたいし腹筋も割らせてみたい。
男の理想の身体は細マッチョ!
ムキムキのごっつい筋肉は遠慮する。
あれはゴリラだよ。俺はそこまでは求めていない。
細マッチョさ。筋肉ないようである。あのギャップがカッコいいと思う。
「おっと。時計も付けないと」
体力作りだからあまりタイムは関係ないけど。一応、タイムは計っとこう。
自分のタイムも知りたいし。
彼女たちに走らせ俺だけ待つのは良くない。マネージャーだからと走らなくていいと誰が決めたのか。
俺も彼女たちと一緒に走る。
丈の長い半ズボンに、斜めに青いラインが入った黒い半袖のランニングウェアに着替えた。
よし、行くか。
屋上にはもう九人全員が集まっていた。
「も~。遅いよー」
穂乃果に遅いと言われた。いつもは、穂乃果が遅いのに。
「ごめん。ごめん。よし、今日から俺が考えた練習メニューをやってもらう」
「メニューを考えてきたのね。私たちはいつもその場で決めているからありがたいわ」
「さすがマネージャーですね」
絵理先輩と海未ちゃんに褒められ誇らしい気分になるのは気のせいか。
「それで、最初は何から始めるの?」
「まずは、ランニング。ここから神田明神まで往復で帰ってくる。そして、休憩。休憩が終わったら、ダンス練習をする」
真姫に早く言えとちょっと圧を掛けられ、俺は今日の練習メニューを発表した。
「げ、ラ、ランニング」
「ん?」
嫌そうな声をあげた穂乃果に目を向ける。
「にこはランニングは嫌いかな~」
にこ先輩は明らかに嫌いと公言している。
「わ、私は苦手ですけど頑張ります」
花陽はモジモジとして頑張ると言ってくれた。
素直で妹にしたいランキング上位だよ。
「凜は走るのは好きにゃ~」
うん。そうだろうね。いかにも運動できる雰囲気がある。
「にこっち。せっかく、そらっちが考えた練習メニューなんよ。練習しないといかんよ」
希先輩ありがとうございます。さすが頼れる先輩。お姉さんですね。
そらっちってあだ名付けられているけど。ここはこのままにしよう。
「まずは、準備運動。さあ、始めよう」
「大空君」
「どうしたの? ことりちゃん」
「いつも、二人一組で準備運動するんだけど。今までは九人だったから一人だけ。一人で準備運動してたんだけど~」
ことりの言った事に察しがついた。
その一人と俺が準備運動することになるって言いたいのだろう。
「俺は決められないから。皆で話して誰とやるか決めてほしい」
彼女たちの話し合いが始まった。
俺は黙って待つしかない。
長いのかな~。ガールズトークは長いのが定番。
口では言ったものの会話に入れず俺は寂しいね。
「決まったわ。私と一緒に準備運動しましょう」
絵里先輩と準備運動をすることになった。
(先輩とかよー。一番やりたくないパターン。絵里先輩が嫌いとかではない。むしろ、綺麗で美人だ。俺なんて釣り合わない。そうじゃなくて。先輩相手だと緊張する)
「よ、よろしくお願いします」
「緊張しなくていいわよ。さあ、やりましょう」
「はい」
俺は半分の緊張と半分の優越感の中で絵里先輩と準備運動をする。
女の子の身体を触るのは罪悪感と羞恥心があるから指だけ触れる程度にしよう。
俺より女性である絵里先輩の方が羞恥心あると思うけど。俺にだってある。
「遠慮しなくていいのよ。もっと、押してね」
「は、はい」
開脚のため後ろから背中を押す俺に、絵里先輩は背中越しで語り掛けてきた。
「柔らかいですね」
「昔、バレエやっていたのよ。そのおかげで柔軟性には自信があるわ」
「バレエをしてたんでか。すごいですね。なんか、演技している姿が目に浮かびます」
「やめてよね。恥ずかしいわよー」
顔は見えないが恥じらう声が可愛らしい先輩。
「はい。交代よ」
今度は俺が開脚する番だが、俺は身体が堅い。
「せーの」
「いって――――――――」
容赦ない絵里先輩の押しに大声で叫んでしまった。
「ご、ごめんなさい。つい、いつものように押しまったわ」
「だ、だ、大丈夫です」
危なく股が割れそうな勢いだった。
「大空君、堅すぎだよ。私の見てて。ほら」
穂乃果が俺の前で手本を見せてくれた。
地に身体が付くほど柔らかい。
「私も柔らかいよ~」
ことりも同じく開脚して見せた。
「私もにゃ~」
猫、じゃなく凜も柔らかい。
恐るべしμ's。
「ことり以外は毎日柔軟体操したから、柔らかくなったのよ。だから、大空も毎日柔軟多層やれば柔らかくなるわよ。頑張りましょう」
「は、はい……」
苦悶の声で答えるしか今はできない。
出だしから、俺は躓いてしまった形になってしまった。
校門前からランニングを開始する。
「走るぞ。自分のペースで無理せず走ってほしい。大事なのは完走」
「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」
「では、よーい。ドン」
俺の合図戸ともに彼女たちは走り出した。
「俺も後を追うように走るか」
俺も彼女たちを追う形で走り出す。
俺の前で走っているのは花陽とことり。
ふわふわ二人組。
「二人とも焦らなくていいから。ペース乱さず完走してくれ」
「え? そら君も走るの?」
「先輩はマネージャーですから走らなくても良いかと思いますよ」
二人は俺が走っていることにキョトン顔を見せた。
「マネージャーだから走らないのは良くないと思う。マネージャーだからこそ、皆と同じ事をして、同じ行動して気持ちを分かち合いたいんだ」
マネージャーだからと線引きされるのは嫌いなんだ。
皆一つのグループだと思うために同じことをする。
「優しいね。そら君。大空君も一緒に走ってくれるなら頑張れちゃうかも」
「す、すごいです。尊敬しちゃいます。大空先輩みたいなマネージャーさんはいませんよ」
二人に褒められ心が和む。
「ありがとう。俺、先に行くけど無理せず走ってくれ」
ペースを上げ二人から離れて行く中、少しだけ後ろに顔を向ける。
二人の姿が小さくなっていった。
ことりちゃんと花陽の歌声は似ている。
違う所があるとすれば花陽はギャップがある二面性の歌声。
一緒にユニット組ませれば、守ってあげたくなる可愛いさ。という人気でファンが多くいそう。
二人とも小動物なふわふわ感があるからな。
俺も頭なでなでしてみたいし。
小さな欲望。
(近いうちに曲でも作ろうかな)
「希先輩に海未ちゃん」
「そらっち。そらっちも走るん?」
「てっきり、学校で待っているのかと思いました」
ここでも、俺は学校で待っているのだと思っていたらしい。
マネージャーっていうのはそのようなイメージが強いのだろう。
「いや、俺も走りますよ。皆に走らせて自分は待っているのは良くないと思います。威張っているとまで言いませんが、そのような感じで。それに、マネージャーだからと言ってそこで線引きするのは寂しいですよ。共に分かち合ってこそマネージャーです」
希先輩の眼は眼を細めていた。
「そらっちは、やっぱりμ'sの導き手になる存在やな。カードがそう告げるんよ」
カード1枚を俺に見せて来た。
大きな輪が描かれているカード。
「大空さん。そこまで私たちμ'sの事をそこまで考えてくれているのですね。嬉しいです」
海未は感心と嬉しさを滲ませた瞳を向けていた。
「皆に認めてもらうために頑張るよ」
「もう、一員ですよ」
「そうやな」
二人の笑顔は和の美麗さがあった。
「ありがとう。そういえば、作詞作曲は誰がしているの?」
「作曲は真姫で作詞が私です」
「海未ちゃんが作詞だったの!」
驚き、轟、コオロギだ。
「そ、そんなに驚かなくてもいいではありませんか。わ、私だって……」
頬を紅くし少し俯く海未。
「ごめん。ごめん。てっきり、ことりちゃんとか花陽とかかなと思っていて」
「海未ちゃんの詞は綺麗で繊細な詞なんやで」
「そんなに、い、意外でしたか?」
「驚いちゃったけど意外とは思わない。海未ちゃんの想いが伝わる詞だと思う。それに、普段は真面目で誠実な海未ちゃんの可愛い一面だと思うぞ」
「か、か、か、か、か、可愛い」
羞恥のあまり海未の顔が真っ赤に染まった。
立ち止まった海未に、俺と希先輩も止まった。
「そらっちの可愛いの一言に海未ちゃんが照れてしまったで」
「本当のことだったんだけどな~」
「そらっち。先に行っててな。私は海未ちゃんを連れて行くから」
「はい。では、先に。海未ちゃんを頼みます。ごめん。海未ちゃん」
俺は罪悪感を抱きながらも二人を残して走る。
海未は恥ずかしがり屋な一面があると知った。
いつもは、真面目で清楚な佇まいを見せているけど。
少し離れ走っていると、にこ先輩と真姫が走っているが、何やら話している。
「にこ先輩。真姫」
「きゃ! そ、そらじゃない」
「お、脅かさないでよね」
「す、すまん」
真姫に怒られてしまった。
俺、先輩だよね? 真姫の方が先輩に見えるのは何故だろう?
「にこ先輩って。可愛いく先輩には見えないですよね」
「そらったら。そうなのよ~。にこは~三年生だけどそう見えないんだよね~。可愛いでしょ」
「化け猫ね」
ボソリと真姫が悪口を呟いたが、悪意や嫌味は感じられない。
「誰が化け猫よ!」
にこ先輩は睨むかのような顔で真姫を見た。
「まぁまぁ、喧嘩しない。真姫は綺麗だぞ」
「な、な、何よ! 気安く言わないでよね!」
頬を桃色にさせながら噛み付く。
「あらら~。真姫ちゃん。照れちゃってる~?」
ひやかし面白がっている先輩。
「べ、別に照れてないわよ!」
そっぽ向いてしまった。
「二人とも仲が良いんだな」
「「どこが!」」
阿吽の呼吸で反論の声がハモった。
「あ、そうだ。作曲って真姫がしてるんだよな?」
「そうよ。何か文句でもあるの?」
「いやいや。とても繊細で可愛いくも清廉された曲だなと」
「ま、まぁ、皆の思いも入った曲だからね」
「今度、俺にも手伝わして欲しいのだが、良いかな?」
作詞作曲はしてみたいと前々から思っていたこと。
これでも、ギター、ピアノ、ちょっとドラムはしたことはある。
一番はギターとピアノだけど。
「あなた作曲できるの?」
「少しだけ。一曲や二曲ぐらいは」
「手伝ってもらったら? 真姫ちゃんも一人では大変じゃないの?」
にこ先輩が真姫を心配しつつも、俺のこともフォローしてくれた。
さすが、先輩。さり気ない気遣いとアシスト。
「ま、まぁ、あなたの腕を見て考えてみるわ」
「ありがとう」
軽く頭を下げるが真姫は俺に顔を見られたくないのか、また、そっぽ向いてしまった。
「そら~。作るなら、私がセンターの曲作ってね」
「はい。約束します」
にこ先輩がセンター曲って大人らしさがない曲になるな。
甘くも、にこ先輩が持つ独特の甘さがキーとなるな。
例えると、桃のような。甘くもほのかに香る酸味がある甘さ。
あと、真姫と組み合わせても面白いかも。
二人、仲良く息が合っていたし。
俺の課題が増えるが、これは、嬉しい課題だ。
腕が鳴るぜ。
ここで一つ忘れていたことを申します。
タイムを計り忘れた。つい、走ってメンバーとのお喋りをしてしまった。
良い収穫があったから後悔しません。
お、前方にはモデルとも思わせるスタイルの持ち主である絵里先輩がいた。
さすが、生徒会長。黙々と集中して走っている。
本当に後ろ姿を見ているだけなのに、美しさと高貴さが伝わってくる。
手を伸ばしても届かない一輪の花だと思う。
(モデルやってもいけるよな。絵里先輩)
俺がモデル記者なら真っ先に声を掛けるね。
「絵里先輩」
「あら、大空。貴方も走ってたのね」
「はい。マネージャーが走らないのもどうかと思いまして」
「偉いわ。普通のマネージャーならしないと思う」
「ありがとうございます。絵里先輩は生徒会長もなされて大変ではありませんか?」
生徒会長の学園政務とμ'sの練習は疲れると思う。
「そうね。疲れないと言ったら嘘になるけど、どちらもやりがいがあって楽しいわ。特にμ'sは、私がにやりたかったことだから楽しいのよ」
どこにも辛さなどを感じさせない絵里先輩の顔は綺麗で爽快感がある。
「ここからは、公演とかもしますよ。皆のスクールアイドルとしての人気を高めるために走り回ります」
「頼りにしてるわよ。そ・れ・と」
「?」
人差し指を立てて絵里先輩は口元を緩ませ、悪戯を思いついた顔を見せた。
絵里先輩って、もっと実直で厳しいのかなと思っていたけど、あの顔は優しいお姉さんの顔だ。
こんな一面もあるのだなと新たな発見。
(生徒会長の絵里先輩しか今まで知らなかったけど、やっぱり、同じ高校生なんだな。所謂、JKというやつ)
「大空、これから、敬語と先輩禁止ね」
「そ、そ、そ、そ、そんなの失礼ですよ。先輩ですよ。先輩というのは敬うべき存在であり、礼節の一つでもあります。それを、失くしてしまったら先輩という存在は形だけのものになりますよ。ぜっったいに出来ないですよ」
両手を前に全力で振りアピールする。
反則なのは、ウィンクしてそんな重大な事を言ってきた絵里先輩。
俺の心は噴火してしまった。
たぶん、俺以外の男でも噴火は免れないと思う。
綺麗のうえに可愛さが加わった。
これは、もう、世の男子高生は敵わない。
俺も敵わない。
「ダメよ。ここで壁を作っちゃったら、それこそ、マネージャーと私たちの関係がギクシャクすると思わない?」
「そうですが。それとこれは別で」
「はい。先輩命令」
笑顔で『先輩』という権力を振りかざして来た。
「う、わ、わかりました」
「ダメ。ました。は余計よ」
「わ、わかった」
絵里先輩の指示に逆らえない。
反則プレーをされた感じだが、俺の心が嬉しがった反則プレーだったのは言うまでもない。
ドギマギしたのだから。
ランニングが終り、屋上で休憩を取っていた俺たち。
先輩禁止命令をだされ、希先輩やにこ先輩にも普通に話したけど。
やっぱり、後ろめたい気持ちがある。
「さて、皆、集まってくれ」
集合をかけると皆集まってきた。
「先ほど、皆と走って色々と情報が訊けて、作詞は海未ちゃん。作曲は真姫がしていると分かり、自分もそれに微力ながら手伝う。それと、皆の練習プランも考えて公演場所も確保して行こうと思う。皆は各々の練習に励んでほしい。まずは、今ある曲の歌とダンスの精度を高めていくことから始めよう」
「海未ちゃん。真姫。手伝っても良いかな?」
「それよりも、あなたの仕事が多いと思うけど? それで大丈夫なの?」
「同感です。大空が無理をして倒れたりしたら本末転倒ですよ」
意外にも俺を心配してくれて、思わず困惑しそうにもなった。
「大丈夫さ。俺も自分の体調管理をしてマネジメントするさ」
グーと親指を立てて皆を納得させる。
「無理したらあかんよ。そらっち」
「はい」
「はい。じゃないで」
敬語を使ってしまい、希先輩に指摘された。
「うん。それじゃあ、休憩はここまでにして練習を始めよう」
「皆。今から大空君の歓迎会しようよ」
穂乃果がいきなり歓迎会しようと言い出した。
嬉しいけど、今から練習するんだぞ。
「賛成。そら君の歓迎会しよう」
穂乃果ちゃんの提案にことりちゃんが賛同してしまった。
「練習もしたいですが、せっかくですから、大空のマネージャー加入を記念しての歓迎会は、私も賛成です」
「歓迎会だにゃー。大空君と遊びたいにゃー」
凜は賛同すると何となく思っていていた。
(これで、先輩方が止めてくれれば)
「良いやん。私も賛成。門出を祝うのは運気上昇にも繋がるん」
希先輩が賛成するとは、いや、まだ二人いる。
にこ先輩と絵里先輩が止めてくれれば。
「そうね、私もそらのこと知りたいし」
にこ先輩も先ほどの表情とは変わって真顔で言ってきた。
にこ先輩まで賛成かよ。いや、まだ要が残っている。
最大の審判を下す絵里先輩。
(最高裁こそ絵里先輩だ。ここで反対してくれれば。歓迎会は嬉しいけど。練習を疎かに出来ないし、九人に男一人の歓迎会は歯がゆい)
「そうね。私も賛成だわ。大空の歓迎会をしましょう」
(ブルータス(絵里先輩)お前もか!)
「よぉぉ――し。歓迎会をやるぞ――」
「じゃあ、凜とかよちんでお菓子買ってくるにゃ」
「そうだね。歓迎会と言えばお菓子とジュースだよね」
一年生二人がはりきっている。
特に、花陽はどことなくハキハキしているのは気のせいだろうか。
「私もいくね。あと、小道具も必要だと思うから」
ことりちゃんも一緒に行くらしい。
小道具って何だ?
「では、私たちは部室に行ってましょう」
「ほら、大空君も行こう」
穂乃果に腕を引っ張られる形で部室に行くことになってしまった。
ガールズ+メンズトークの嵐が始まり、俺は質問攻めの対応に追われていた。
「では、大空は炊事洗濯などを一人でしているのですか?」
「たまに、サボる事もあるけどな」
「得意料理は何?」
「肉じゃがやオムライスとかかな」
「私は肉じゃが好きです。あの自然な甘味は美味しいですよね。栄養も十分に取れますし」
「私はオムライスが好きー。あのふわふわの卵にケッチャップご飯が合うよね」
同級生二人が食いついて来た。
和食は海未、洋食は穂乃果と分かれた好み。
「私はたまにしかしないから。毎日家事全般をこなしている大空がすごいと思うわ」
絵里先輩は俺に感心して褒めてくれた。
「もう、慣れたから苦ではないし、今では普通だよ」
「わ、私には出来ない」
苦虫を噛んだかのような引きつり顔で穂乃果は言った。
「寂しくはないん?」
「寂しくはないと言ったら嘘になるけど、一人暮らしも慣れたよ」
本当は寂しいけど、ここで寂しいなんて言えないでしょ。
男はね嘘でも強がりを見せるものだ。女の前では。
「男なら平気なんじゃない」
真姫、男でも寂しがり屋はいるんだ。俺みたく。
「まっ、もし寂しかったら~、にこが手伝ってあげても良いいわよ」
「ありがとう」
優しいな先輩方々。俺、一人暮らし頑張れる。
ここで、本題の話に話してみよう。
どんな曲を歌いたいか意見を訊く。
「皆はいろんな曲を歌っているけど、次はどんな曲を歌いたい? 皆の意見を訊いて曲作りしたいと思う」
皆一斉に考え込む表情を見せた。
「やっぱり、元気になる曲かな?」
「私は和を主体とした曲が良いですね」
「夢を与えられるような曲が良いわね」
「にこは~。にこがセンターになれる曲がいいなぁ~」
皆、バラバラな意見。
「私は作曲する側だから。意見なんてないわ」
「うちはラブソングがええな」
これすべてを作ることは可能だと思うけど、時間はかかる。
「歌いたい曲が皆違うけど、吟味して作っていくよ。さて、皆の意見も訊けたことだから」
「ねぇねぇ。大空君って好きな食べ物は何なの?」
穂乃果ちゃんのありふれた質問に、妙にドッキとした。
「これと言ってはないけど。和食は好きかな。最近は洋食も食べる様になったけど」
「洋食は嫌いやったん?」
「うん。舌が受け付けなくてね。今は大丈夫だよ。パスタとか好きになったし」
「洋食が嫌いとかありえないんだけど。美味しいじゃない」
「美味しいのは分るけど、何か受け付けられなくてな」
小さい子が好きなベスト10に入るハンバーグとかも嫌いだったからね。
今でも自分からは食えない。
「ボルシチはどう?」
「ボルシチ?」
「ロシアの家庭料理なの」
「食べたことが無いので何とも……」
いきなり、ロシアの家庭料理を言われても分らない。
何故にボルシチと限定するんだ絵里先輩。
「和食だと何が好きなの?」
「う~ん。焼き魚とか」
「随分と普通ね」
「でも、好きなんですよ」
にこ先輩。それが良いのですよ。
「ん?」
俺はふと壁のポスターを見た
「どうしたの?」
「あれは?」
「スクールアイドルグループのポスターだよ」
キョトン顔の穂乃果だが、俺の指差したポスターを見て説明してくれた。
「あの三人グループは?」
「a―RISEよ。スクールアイドルの中で一番の人気を誇り頂点にも立つグループよ。でも、私たちは彼女たちに勝たないとラブライブにも出れないのも事実」
にこ先輩が険しい顔で熱弁してくれた。
センターの女の子は輝きち、双眸には揺るぎ無い信念の炎が宿っているような気がした。
綺麗でありも強いプライドが彼女をより美しくさせているようにも思える。
彼女は……。
(ふん。面白くなってきた。まさかここで)
俺は彼女の顔を見てそう呟いた。会いたくない相手でもあるが。好敵手でもある。
「彼女たちに勝たないといけないか……」
「現段階では厳しいのよ。私たちはまだ出て来たばかりのアイドルグループだし」
「そうね。まだまだ。経験不足もある。それは、否定できないわ」
「そうですね。実力は離れすぎています」
「無理に近いと思うわ」
「でも、これからだよ。これから俺たちもライブや売り込みをすれば認知度が上がり、自ずとファンも増える。終りではない。始まったばかりだ」
「そうだよ。大空君の言う通りだよ。皆、これから、いっぱいライブしてラブライブに出よう」
俺の声に便乗し穂乃果も皆を鼓舞した。
「そうですね。穂乃果と大空の言う通りですね」
「そうやね。そらっちの加入はμ'sにとって幸運をもたらすやから」
「大空の加入は大きいかもしれないわ」
「そらの加入が大きく左右されるから、しっかりしなさいよ」
皆が奮起しつつ、俺はにこ先輩に叱咤された。
「必ずラブライブ出場しよう。皆の力で!」
皆、俺の顔を見て力強く頷いた。
と、その時。
「お菓子とジュース買って来たよ~」
一瞬にして場の雰囲気を破壊した者が来た。
ふわふわちゃんこと、ことりだった。
「クラッカーもかってきたにゃ」
「おにぎりも買ってきました」
ここまで盛大にしてくれるとは感謝感激。
花陽のおにぎりは疑問だけど。
「ここまでしてくれて感謝です」
軽く頭を下げて礼を述べる。
「いえ、大空のマネージャーとして加入してくれることは喜ばしい事なのです。私たちも歌とダンスに一層集中出来ますし、マネージャーは欲しいと思っていました。頼りにしています。さあ」
コップにジュースを注がれる。
海未の注ぎ方は上品で舞妓さんがお酌しているような風情。
(着物姿の海未なら完全に舞妓さんだ。見て――)
「ではー、大空君がマネージャーとして入ってくれることをお祝いして、かんぱーい」
「「「「「「「「かんぱーい」」」」」」」」
―パン
―パパンパン
同時にクラッカーも俺を祝福してくれた。
俺は今、幸せだ。右を見ても女の子。左を見ても女の子。前を見ても女の子。
これこそ、青春謳歌。今の言葉で言うリア充といやつだ。
(幸せすぎる。だが、俺の本業を全うして行かなければ、秘密の花園でランランとスキップしている暇はない。今はスキップするけど)
「はい。そら君」
ことりから渡されたのはショートケーキ。
「あ、ありがとう」
俺はケーキが苦手、食べると後が惨劇として出てしまう。
(ここは食べないと彼女たちの厚意を無下にしてしまう)
周りを見ると美味しそうにケーキやお菓子を食べている。
女子はなぜケーキが好きなのか。
気持ち悪くならないのか。
(食べるしかないか……)
俺はケーキを完食したが、次なる強敵も任されてしまった。
言うまでもなく、その後、俺は泥沼の惨劇を出してしまった。