きんいろモザイク ~THE GOLDEN STORY~   作:legends

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今回は烏丸先生の視点からスタートします。

※2020年7月6日:文を追加しました。


Episode15 先生と占い

 私の名前は烏丸(からすま)さくら。とある高校の英語教師です。

 

「あっ先生! おはようございまーす!」

 

「おはよう」

 

 一限目に授業がある教室に向かう最中、生徒達に挨拶され、私も返事をする。

 

 生徒はみんな可愛いし、毎日とても楽しいです。

 

「おはようございま~す!」

 

 教室の扉を開き、生徒達に挨拶しながら教卓に向かう。

 

 教卓の上に立つと、皆が持っているのが数学の教科書で、違和感を抱く。

 

「あら? みんな、教科書間違ってるわよ~」

 

「あ……いえ」

 

 私が皆に対して言うと先頭の女子生徒の子が否定の言葉を言う。

 

「先生の授業は隣のクラスかと……」

 

「ええっ?」

 

 そう言われ、急いで学級日誌を確認してみる。

 

 調べてみると、確かに担当の教室は隣のクラスだと書かれていた。

 

「やだ本当~!」

 

 明らかにクラスを間違ってしまい、顔がかーっと熱くなる感覚を覚える。朝から何という恥ずかしい事を……!

 

 ですが、こんな事ではくじけません。

 

 

 気を取り直して、朝から始まる1-Bの教室へ行く。

 

「それでは、テストを返します」

 

 授業を始めると同時に、以前にやった小テストの答案を皆に返却する。

 

「大宮さん」

 

 一番初めが先頭のアリス・カータレットさんの隣に座る、大宮忍(おおみやしのぶ)さん。

 

「はいっ」

 

 笑顔で元気に返事に答える大宮さん。なのですが……ギリギリ二桁の点数でした。

 

 大宮さん……熱意は伝わるけれど……。

 

 でも、勉強が苦手なのに夢に向かって頑張ってる。それは素晴らしい事だわ。確か夢は……通訳者だったかしら? 

 

 だったら、私もそれが叶うよう応援してあげなくちゃ。

 

「次はもう少し頑張ってね」

 

 私はそう言いながらその点数の下にある文字を加えた。

 

「わーい! 努力賞です!」

 

「先生! あまり甘やかさないでくださいっ」

 

 あら? 大宮さんが喜ぶのに対して小路(こみち)さんにそう言われた。

 

 甘やかしたつもりじゃなかったんだけど……。

 

 

 一通り皆にテストを返却した後、授業を開始する。

 

「それではこの訳を……猪熊(いのくま)さん」

 

 黒板に英文をつらつらと並べた後、猪熊さんに答えてもらうよう指摘する。

 

「はいっ。分かりません!!」

 

 勢いよく立ち上がってくれたと思ったら、堂々とそう言われちゃったわ。

 

「堂々!?」

 

 隣にいる八坂(やさか)君も同じ事を思っていたのか、そうツッコみを入れていた。

 

「でも小路さんなら答えられると思います。小路さんは頭も良いし、とても努力家です!」

 

「責任転嫁かよ!?」

 

 猪熊さんが小路さんに向けて言う。小路さんのいいとこアピールされたけど流石に先生も反応に困っちゃうわ……。

 

「……コホン。先生! わ……私に答えさせて頂けますか!?」

 

「え? えぇ……どうぞ」

 

 小路さんに自信満々に言われてしまい、つい良いと返事をしてしまった。

 

「いいんだ!?」

 

 それにしても八坂君は元気ね。あんなにツッコんで疲れないのかしら。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「先生、質問が―――」 

 

 授業後、中休みの時間。

 

 さっきまで授業をしたクラスの教え子に、イギリス人の女の子がいます。

 

「シノがここ分かりづらいって。シノが苦手なのが―――。シノが―――」

 

 最初の頃は少し距離を感じたけれど最近はとても好意的。現にこうして質問に来てくれている。

 

「アリスさんは本当に大宮さんが好きですね。先生も(アリスさんが)大好きですよ~」

 

「…………」

 

 何!? この表情((((゚д゜lll))))!? アリスさんが何故か怯えた表情をしていた。特に悪気はなかったのに!?

 

「え……えっとねアリスさん―――」

 

 私がどう言葉を返そうかと悩んでいた時だった。

 

「わっ!!!」

 

「きゃああ!?」

 

 後ろからいきなり大声をかけられ、心臓が口から出ていくような感覚を覚えた。

 

 その直後、全身からふらぁっと力が抜け、へなへなと思わずその場に足を着いてしまう。

 

「ごっごめんからすちゃん、そんなに驚くとは!!」

 

 どうやら犯人は猪熊さんだった。まだ心臓がドキドキとしている。

 

「ちょっと陽子、先生をびっくりさせるような事しないでよ」

 

「先生、大丈夫ですか?」

 

 小路さんや八坂君も来ていたようで、八坂君に至っては私の心配をしてくれていた。

 

「ん? 先生、何か落としたよ」

 

 アリスさんが写真を拾い上げる。それは私が抱えていた日誌から落ちたものだった。

 

「もしかして、恋人!?」

 

「違いますよ。飼っているペットの写真よ」

 

「ウサギだー可愛い~」

 

 アリスさんが素直な感想を言う。

 

「名前はなんて言うんですか?」

 

「えっとそれは……」

 

 小路さんにそう言われたけれど……これは答えていいものなのかしら。

 

「あのぅ……」

 

 アリスさんの顔をちらっと一瞥する。

 

「?」

 

 私が逡巡していると、アリスさんも私の顔を見てきた。

 

「な、内緒です!」

 

「(何故!?)」

 

 恥ずかしくなり、やっぱり()()()()()()()()()言い出せなかった。

 

 この時、小路さんが困った表情をしていたのは私には知る由もなかった。

 

「ケンー、カラスマ先生囲んで何してるんデスかー?」

 

「ん、カレンも来たか」

 

 八坂君が言ってて思い出した。あの子は1-Aの九条(くじょう)カレンさんだわ。アリスさんと同じイギリス人だと思いがちだけど、母方がイギリス人なのであの子はハーフ。

 

「ねえねえ、名前なんて言うのからすちゃーん」

 

「気安いぞ陽子」

 

 しつこく聞いてくる猪熊さんに八坂君が注意していると。

 

「カラスマ先生のあだ名は『からすちゃん』。u~n(う〜ん)、もう少し呼びやすいあだ名があるといいデスネー」

 

「例えば?」

 

「カ……カラスミ……」

 

 響きが似テルから……と九条さんは言うものの……。

 

「あぁ~っ! それはダメ~~」

 

『カラスミに何か嫌な思い出が!?』

 

 皆の声が聞こえた気がするけど、思わず私は頭を抱え込んでしまって、それどころではなかった。

 

「アヤヤー、私も何かあだ名欲しいデス!」

 

「今更!? 『アヤヤ』はカレンが勝手に呼んでるだけだけど」

 

「私は『忍』なので、『しの』です!」

 

「そんな感じがいいわね。カ……カレ……。カレー……はっ! カレーなんてどうかしら! いえ、食べ物のカレーと勘違いするかしら。『カレー、カレー食べる?』みたいな……」

 

「やっぱいいデス」

 

 九条さんと大真面目な小路さんとそんなやり取りがあったのは別の話。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 次の授業はD組です。

 

「よし、今度は間違えないようにしよう」

 

 そう気を張りながら私は教室の扉を開く。

 

「こんにち―――わぁ!?」

 

 扉を開けた瞬間、パーンと突然大きな音が鳴り響き、身を(すく)ませてしまう。

 

『先生、おめでとー!!』

 

 その直後、教室中の生徒達から賛美の声が上がった。

 

 再び、私はその場に足を着いてしまう。

 

「って、えっ、烏丸先生!?」

 

「やばい間違えた!」

 

「はー、はー」

 

 こんな事ではく……くじけませ……。

 

 どうやら先程の大きな音はクラッカーだったようで、さっきの猪熊さんの驚かしに続いて、本日二回目。

 

 ここは教師として、ちゃんと叱らなければ!

 

「あ……あなた達、こういう心臓に悪いイタズラは……!」

 

 言葉を続けようとすると、一人の生徒の子が私に思いもよらない事を言ってきた。

 

「―――ごめんなさい。担任の田辺先生が今日誕生日なので、サプライズをしようと……」

 

「え……」

 

 田辺先生の誕生日……ああ、そういう事だったのね。

 

「あなた達……」

 

 皆いい子で、私はじーんとつい感極まってしまう。

 

 

 授業後……。

 

「いい生徒を持ちましたね、田辺先生!」

 

 私は皆のプレゼント代わりにクラッカーの残骸を田辺先生に渡しながらそう言った。

 

「何ですかこれ」

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「大宮さん、スカートにゴミが付いてますよ」

 

「わぁ~、ありがとうございます♡」

 

 私は教室移動している大宮さんを見つけ、スカートにゴミが付いていたのでそれを払う。

 

 大宮さんは喜んでいるものの、どこからか(アリスさんの)視線を感じる……。

 

 私の事を遠い目の如く見ている……仲良くなれたと思ったのだけど。

 

 ここはハッキリと聞くべきだわ。

 

「アリスさん! 私の事嫌い? 直して欲しいところがあったら正直に教えて!!

 

 

……よしっ」

 

 職員室でのシュミレーションはばっちりね。

 

「烏丸先生……」

 

 

 その後、実際に聞いてみると。

 

「え? わたし先生の事好きだよー」

 

 良かった!! 「シノと仲良しすぎるのはちょっと~」と言われた気がするけど。

 

「実はね、さっき言えなかったんだけど、うちのウサギちゃんの名前、『アリス』って言うの。アリスさんが可愛らしくて思わず同じ名前を―――」

 

 私がそこまで言うと何故かアリスさんとの距離が空いていた。

 

「って、あれっ、ちょっと引いてる?」

 

 単にアリスさんが引いてただけみたい。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「実はウサギ写真の他にもう一枚、落としてったのを拾ったんだけど~」

 

「いつの間に……」

 

 陽子がいきなりそう言ってくる。俺は落としていったのが烏丸先生のウサギ写真しか分からなかった。盗った訳じゃないよな?

 

「これってからすちゃんの昔の写真かな!!」

 

 そこに映っていたのはウチの制服を着た烏丸先生らしき人物。それと同時に何か違和感が。

 

「かわいー!」

 

「なんかでも、今と全く変わってないけど?」

 

 忍は褒めていたが、綾の言う通り昔の姿というよりは、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その瞬間、近くから「ダメー!」という声が聞こえてきた。

 

「いっ猪熊さん、その写真はダメ!」

 

「わっ、バレた!」

 

 地獄耳か、烏丸先生がだだだ、と走りながら俺達の近くまでやってきた。

 

「それは忘年会のコスプレ大会で撮ったものなの~!」

 

「何やってるんですか先生!?」

 

 綾がツッコんだ。というか、ウチの制服を着こなしてる時点で、随分似合ってるな!? と俺は思わざるを得なかった。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「占い見てから行きましょう!」

 

「うんっ!」

 

 大宮家。わたしとシノは登校時間だけど、シノの言う通り、占いを見てから登校する事に。

 

「二人共、遅刻するわよ~」

 

 シノとイサミのマムはそう言うけど、実のところわたしとシノはこう見えて占いを信じている派なの。

 

 ちなみにわたしがおひつじ座で、シノがふたご座。シノと星座が違って、ちょっと残念。

 

『今日の一位はふたご座のアナタ!』

 

「わぁ~っ、一位です!」

 

「良かったねーシノ!」

 

 今日のシノは絶対いい事あると思うと、素直に嬉しい。

 

『そして、今日の最下位は―――ごめんなさ~い、おひつじ座のアナタ!』

 

 あっ……。

 

 その後、シノと一緒に登校し始めるけど、わたしはシノの傍に寄るどころか、くっつくようにした。

 

「どうしたんですか? アリス~」

 

「できるだけ幸運の人の近くにいようと思って!」

 

 シノの制服の裾を掴みながらそう言った。

 

 

 一方、同時刻。

 

『今日のてんびん座のアナタ! ラッキーカラーはオレンジです!』

 

「えぇ~? オレンジ色の服なんてあったかしら~? でも選んでると遅刻しちゃうし……」

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「そうは言ったものの、朝から災難だったよ~」

 

 学校の休み時間、アリスが疲れた顔でそう言っていた。

 

「アリス、どうしたんだ?」

 

「アリス、占いが最下位だったので……。占いなんて、そんな気にしなくても大丈夫ですのにねぇ」

 

 俺が聞くと、代わりに忍が微笑みながら答えてくれた。

 

 しかし、占いか……俺は元々そういうのはあまり信用しないタチだ。何せ、例え一位だったとしても、悪い事は普通に起こる時もあるし、逆に最下位でも良い事があったりするからだ。

 

「まあな。こう言っちゃアレだけど、占いってあまりに当てにならないもんだからな」

 

「そうですよね~」

 

「でも、シノが大変な目に遭ったんだよ」

 

 そうなの? アリスが言っている事に俺は疑問に思う。

 

「何があったんだ?」

 

「車が跳ねた水にかかりそうになったり、電柱にぶつかったり……きっとわたしの悪い運が全部シノに……!」

 

「……そう? あまり関係ないと思うが」

 

 迷信じゃあるまいし。

 

「でもでも、その後外国人の双子ちゃんを見たんですよ! 金髪で可愛くて……朝からいい事ありました!」

 

 忍が興奮しながら言う。どうやら災難だったのはアリスじゃなくて、忍の方だったらしいが、当の本人は凄まじくポジティブシンキングだった。

 

 流石というか大物というか……そこが忍のいいところなのかもしれないな。まあ、やはりというか本人がいい事あったと言ってるから、占いにはあまり当てにならないな。

 

「でも今月の占い、しのはあまり良くないみたい」

 

 綾が占いの本を見ながら言う。それに対して忍はガーンとがっかりした表情を見せるものの……。

 

「占いなんて関係ないよ! シノはすっごくポジティブなんだから」

 

「ありがとうございます。私はアリスが居るだけで幸せなんですよー」

 

 アリスが自信満々に言ってくれた事で、笑顔を見せる忍。こういうところは流石はアリスだな。

 

「アリスはまるで魔除けのお守りですね! えへへへっ」

 

「…………(何かやだ)」

 

 何かやだ(断言)。忍の言っている事は褒めてるつもりなのだろうか分かりません。 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「草野球、しまショーデス♪」 

 

 お昼休み。ニットを被ったカレンが俺達の教室にやってきたかと思うと、野球のボールを(かざ)しながらそう言ってきた。

 

「野球?」

 

「Yes!」

 

 俺の反応にカレンは返事をしながら俺達の元へと駆け寄ってくる。

 

「良いけどルールが分からないわ」

 

 綾は野球とか見なさそうだからなぁ。それは忍やアリスにも似たような事言えるかもしれないけど。

 

「そこはヨーコとケンが!」

 

「いや知らんのかい」

 

「ほんとな」

 

 カレンの物言いに陽子と俺がツッコみ返す。

 

 てか陽子は分かるけど俺が野球のルール知ってるのかって? 小さい頃草野球したりたまにテレビで野球中継とか見たりするから知ってる。

 

「けどこの人数じゃ無理じゃない? 野球って普通九人でやるものだし」

 

 俺がそう言うと陽子も「だよなぁ」と相槌を打つ。

 

 まあカレンが言ってるのは“草”野球だし、ある程度適当でもまかり通ったりするから自由なものでもあるんだけどな。

 

「実はパパが野球好きなので、道具を借りてきたのデス! バットにグローブ……」

 

 カレンがバッグから野球用の道具を取り出す。ていうかカレンのお父さんって、野球好きだったのね。

 

「それとボールデス! ちょっと汚れてマスが、ガマンして欲しいデス」

 

 そして、硬式のボールを取り出す……待て、硬式? よく見ると、ボールに文字らしきものも書かれてるし……。

 

「それサインボール!」

 

 俺が言うよりも先に陽子がツッコんだ。サインボールを流石にボール代わりはダメでしょ……。

 

 流石はカレンのお父さん。やる事も規模が大きいねぇ。

 

 俺達は揃って校庭に移動。ちなみに部活の練習してる人もいないので、何だか広く感じる。

 

「私バッターやりたいな!」

 

 陽子がバットを持ちながら言う。

 

「OK~じゃあ私は監督やりマス」

 

 カレンが監督か。

 

「アヤヤはマネージャー」

 

「女子マネってやつね」

 

 綾がベンチの紅一点。いや今は俺以外皆女子だけど。

 

「シノは応援」

 

「はい! フレー、フレー」

 

 忍が腕を上げながら応援し始める。

 

「アリスはマスコットキャラデス」

 

「へ?」

 

「球場にいるキグルミデス」

 

 アリス……不憫。

 

「て事はじゃあ俺がピッチャーか」

 

 そうじゃないと試合が成り立たないし。

 

「nーn? ケンは審判デス!」

 

「ええっ……?」

 

 ボール(サインじゃないやつ)とグローブを持とうとしたのにカレンにそう言われ、ガックリと肩を落とす。

 

 仕方なく、俺はベースの後ろに立つ。

 

「それじゃ―――かっとばせー、ヨーコ!」

 

「何を!?」

 

 一体何と戦っているんだ……。

 

「流石にこのままじゃ試合にならないから、投げて打つ遊びにしよう?」

 

 陽子からの提案。人数も圧倒的に足りないし、そうした方が良さそうだと俺は即、了承した。

 

「いくよーアリス」

 

 そして、陽子がピッチャーの役割に。

 

「は~い。って、わたしが打つの?」

 

 アリスがバッターに。

 

「アリス、手加減はいらないぞ」

 

 その俺はというと、キャッチャーに。流石にキャッチャーグローブは無かったから普通のグローブで代用。

 

「フレー、フレー、アリス!」

 

「女子マネって何をすれば……」

 

 忍と綾は引き続き、応援と女子マネ。

 

「プレーボール!」

 

 カレンも同じく監督。今の発音は中々だった。

 

 アリスがバッターボックスに立つと、陽子が振りかぶって―――投げた!

 

「わわっ!?」

 

 ズパン! といい音が鳴り響く。

 

 聞いて分かる通り、アリスは振り遅れて空振り。陽子が投げたボール(女子らしく下投げ)は俺のグローブに向かって一直線に突き刺さった。

 

「ナイスボールー陽子!」

 

 俺は女子からぬ勢いでグローブに収まったボールを掴み、そう言いながら陽子に返す。実はまだちょっとグローブはめている左手がジーンとしている。

 

「そっちこそ! ナイスキャッチー!」

 

 陽子が手を振りながらボールを取る。陽子はスポーツ全般得意だから流石だな。

 

「ヨーコの早い球を取るとは流石はケンデス!」

 

「そうね、私じゃ全く取れる気も打てる気もしないわ……」

 

「健君流石です!」

 

 外野(意味合いが違うが)の三人がそう言っているが、そんなもんかなと思ってしまう。

 

 その後も、何度も陽子が振りかぶっては投げ、アリスはスイングをするものの空振り、それから俺がキャッチするの繰り返し。

 

「全然当たる気がしない……」

 

 アリスがバットを杖替わりにしながらショボくれる。

 

「諦めるのはまだ早いデス!」

 

「そうだぞ、カレンの言う通り。それに段々タイミングが合ってきてるし」

 

 俺が励ましの声をかけるが、アリスはまだ落ち込んだままだ。

 

「でも……わたし今日運勢は最悪だったし」

 

 その事をアリスは引きずってるのか。んーどうしたものかな、と俺が悩んでいると、ずっと応援している忍が目に入った。

 

「アリス、忍が応援してるぞ」

 

「え? シノが……?」

 

 俺が伝えると、釣られてアリスも忍を見据える。

 

「頑張れ頑張れアリス! きっと打てますよ!」

 

「シノ……!」

 

 忍の応援に火が付いたのか、アリスはバットを握り締めて、バッターボックスに立つ。

 

「いくよー!」

 

 陽子がそう言いながらボールを振りかぶって―――投げた。

 

 ―――次の瞬間、カキンと小気味いい音が鳴り響いた。

 

 アリスが打ったのだ。

 

「当たった……! シノ、当たったよ!」

 

「すごいですアリス!」

 

「一塁に走らないと!」

 

 バットにボールが当たった事を褒める忍と、野球のルールに(のっと)って言う綾。

 

(健……)

 

(ああ……陽子……)

 

 俺と陽子は顔を見合わせる。

 

 

((今のがファールとは言えない!!))

 

 

「やったなーアリス!」

 

「ナイスバッティング!」

 

 陽子と俺は、ヒットと言えない代わりに当たった事を褒める事にした。

 

 

 

 

 

 余談だが、英語の授業がラストだった時、烏丸先生が教卓にミカンを置いていたんだが何でだろうな? 本人に聞いても「オレンジです!」と言い張るばかりだったし。

 




ずっとオリ主の視点を書いていたので、別の人物に視点が変わると難しいですね。

自分が住む地域は自粛を続けるとの事で、「あれ? これは溜まってた小説を消化すればいいんじゃね?」という結論に至りました(今更感)
まあ、色々な事あって遅れる結果に……。

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