アール、食べる
どれほど経っただろうか。やっと痛みが治まり、精神が安定したことを感知した枷が自動で外れる。体は重く、ひどい空腹感に襲われる。端末のカレンダーを見ると痛みは三日ほど続いていたらしい。ドアのロックを解除してサングレ・アスルのブリッジへと向かう。
「アール、もう大丈夫なの?」
ブリッジに入るとオペレーター席のナナミから声がかかる。ナナミは僕と一緒にキマイラからサングレ・アスルへと転属になっていた。
「ああ。艦長、簡単な報告だけお願いするよ」
「サンダーボルトまであと3時間ほどですね。到着後はキマイラと合流、物資の搬入と兵員の入れ替えに2時間ほどでその後は指示待ちです」
MSを伴っての宇宙での移動は軍艦で行うほかなく時間がかかってしまうが、今はその方が都合がよかった。
「じゃあまだご飯食べたりできるね。次の出撃には出れるようにしておく」
「よろしく、お願いします」
ブリッジを出て食堂へ向かう。サングレ・アスル、キマイラの食堂はともに支援企業から手配される料理人経験のある人材が常駐していることから、軍艦とは思えない食事がとれるとメンバーから好評であった。
「アールくん、三日ぶりでしょ。ナナミさんからたくさん食わせてって連絡来てるよ」
食堂に入ると料理長のヤンが厨房から顔をのぞかせていた。
「さすがに腹ペコだよ。炒飯とか食べたいな」
「まかしときな。すぐ作るよ」
時間外なのか食堂には僕以外食堂にはいないと思っていたが、一人僕に手を振って座っているのが目につく。
「アールさん! 体調治ったんですか」
ランだ。僕は彼女の向かい側に座る。
「三日間も閉じこもってたんですか。気がまいったりしないんですか?」
「まぁ、まいっちゃうよな」
それどころではないとは言わなかった。自分は強化人間だから副作用に苦しんでいるとは、自分からは言いだしづらいものだ。
「あ、聞いてくださいよ。私、パーソナルマークつけていいって言われて」
「早いね。普通半年くらい待つものだけど」
三つ首龍の紋章にはジョニーのユニコーンの紋章に端を発するパーソナルマークの伝統があった。専属のビルダーに認められるとパーソナルマークが付けられるようになるのだ。
「どんなのがいいですかね。隊長はユニコーンだし、ガイさんはガルーダだし……」
モデルのキマイラ隊にあやかってマークの意匠は幻獣モチーフが多く、戦場ではマークが通り名になることも多いため、この時期の新人はこうして考えるのが恒例である。
「そういえばアールさんのってお花じゃないですか。あれ何のお花なんですか?」
「あれはトリカブトの花なんだよ」
もちろん僕にもパーソナルマークが存在しており、赤紫色のトリカブトの花をかたどったものである。
「幻獣じゃないんですね。由来とかあるんですか?」
「んー、一応ね。でも秘密」
「このクラン本当に秘密ばっかりですね……」
彼女の言う通り、ジョニーの意向でクラン内の情報はほとんど外には出していない。曰く、その方が影響力が増すそうだ。
「ランなんかはしつこい戦い方をするから蛇なんかいいんじゃないかな」
「蛇ですか……ラミアとかナーガとかかな」
ぶつぶつと考え始める。彼女を見て僕のマークを決めた時のことを思い出す。
『ユウスケはね、ケルベロスがいいーとか言ってたわよ』
ナナミがそう教えてくれた。弟を失った悲しみは計り知れなかったが、ナナミは彼のことを話すときは笑顔でいるように心がけてると言っていた。
『じゃあ、彼にあやかってトリカブトなんてのはどうだろう』
そう言ったのは今も僕の専属ビルダーをしているジャックだった。ケルベロスのよだれから生まれた毒草、ぴったりだと思った。
「おまたせ、炒飯ね。ランちゃんもなんか食べるかい?」
「あ、私お茶とかもらえませんか」
ヤンが料理を運んできてくれる。次の出撃に向けて体力を取り戻さねばなるまい。あの時よりもっと強くなって、僕はここにいるのだ。そして、いつかあのミュータントを殲滅できるほど強くなってみせる。そう思い、炒飯をかきこんだ。
最終話です。ヤッタ!
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
僕の他にもGBWFで書いている方もいらっしゃるのでそちらもぜひどうぞ。
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