アール、食べる
二回目の遭遇は、宇宙基地でのものだった。彼はもっぱらシナリオクエストに出ている、という書き込みを見た僕がそれが受注できるここでひたすら張り込みをしていたのだ。そうまでしても僕にとって彼は会ってみたい人物だったのだ。このデスゲームの中でその才能を発揮して活躍するプレイヤーは、いったいどれほどこの状況を楽しんでいるのか。それがどうしても知りたかったというのが理由だ。そのころ、僕はあるプレイヤーとコンビを組んでいた。このゲーム内で揃プレイだと何かと不便なことも多いし、なにより状況を共有できる仲間というのはいるだけで落ち着くものだ。エンジョウジ・ユウスケは僕と同じ宇宙側のパイロットだった。戦闘中に出会った敵のうんちくを延々と通信に垂れ流しながら撃墜するのだから腕は立つと言えただろうが、それを聞かされる方は集中がみだされるのだからたまったものじゃなかった。とはいえ何かと気の合う彼とは相棒といえる関係であっただろう。
「そもそもどうやって見つけるのさ。プレイヤーネームすら知らないんだろう?」
「とにかくそれっぽい人に声をかけるんだ。来るのは間違いないんだからなんとかなる」
なんとも頭の悪そうな会話だが、彼はあっさりと見つかった。見た目は少し冷たい感じのする青年、服も特に変わったものではなかったが、そのパイロットレベルが問題であった。
「アール、あの人のパイロットレベル見ろ!」
「50って……ほとんどエースじゃないか。よし、行くぞ」
「おい、行くってどこへ」
ユウスケを置いて彼の目の前に踊りだす。彼は睨むでもなく笑うでもなくじっとこちらを見てきた。
「あの、あなたがジョニーですか?
我ながらおかしな質問だと思う。きっとプレイヤーネームはジョニーではないし、帰ってくる回答は間違いなく「いえ、人違いです」だろう。言う前に気づけばよかったが、時すでに遅し。周りには何とも言えない空気が漂っており、表情こそ変わってはいないが彼も困っているのが見て取れた。どうしたらこの状況を打破できるか。光明は相棒から差した。
「すいません! あの、人違いとかじゃなくてですね、昨日ソロモン攻防戦に参加してました?」
僕の前にユウスケが割って入り、彼に聞いた。
「ああ」
「ど真ん中でゲルググで戦ってた?」
「ああ。戦っていた」
ビンゴだ。相棒のファインプレーに感謝しつつ今度は僕がユウスケの前に割って入った。
「このあと、時間あります?」
「差し迫った予定はないが」
「じゃあちょっと一緒にお食事でも。お金は出すんで」
強引に出も彼を連れ出そうとする。無礼は承知だが、彼をここで見失うわけにはいかなかった。
「構わない」
これまたあっさり出たOKの返事に思わずユウスケと顔を見合わせるが、これを逃す手はない。僕たちは半ば追い立てるように彼を食堂へと連れていった。
GBWF内では、食事も自分で稼いだマニーで買わなければいけない。みんながゲーム内でも働くのはそうしないと文字通り食っていけないからなのだ。基地内での食事は食堂で購入することが可能だが、なぜここまで再現したのかといういかにも「軍隊のごはん」への偏見の詰まった味で有名だった。僕とユウスケと彼は一つの丸いテーブルを囲むように座り、食事をしていた。
「あなた、ジョニーって呼ばれてるんですよ。強くてゲルググだから」
データ上の合成タンパクのカツというよくわからないものを頬張りながらユウスケが言う。
「シャアではないのか?」
比較的当たりはずれのブレ幅の小さい蕎麦をすすりながらジョニーが聞く。
「シャアカラーの有象無象はごまんといますからね。それにシャアのゲルググふがいなかったし」
一か八かで購入したナシゴレンの想像を絶する辛さに悲鳴をあげながら僕が答える。行儀がいいとは言えないが、食事をしながら会話をすると自然と話しやすい空気が生まれる。初めは何となく近づきがたい雰囲気だったジョニーも、今は打ち解けて会話に混ざっていた。ジョニーはソロのパイロットであった。デスゲームになって以降、出来ることが戦うことだったという理由だけで高難度のクエストに挑み、都市伝説と化してしまったらしい。馬鹿げた話ではあるが、目の前で本人が大真面目に話すものだから否定もできず、僕とユウスケはただただ頷いていた。
「あ、ジョニーさん。ちょっといいですか?」
「結局俺はジョニーなのか。なんだ」
蕎麦を食べ終わったのを見計らって、声をかけた。彼を呼び出したのは、ある理由があった。
このゲームにはクランと呼ばれる集団がある。目的や志を同じくする者、情報や物資の共有を図りたい者など同士が集まり、一つの組織になったものだ。
「ジョニーさん。僕たちと、クランを組みませんか?」
僕は、彼とクランを作りたかったのだ。強いパイロットが身内にいるというのはそれだけでこのゲーム内では有利になるということだ。それに、個人的な興味もあった。彼が見ている世界を、隣で見てみたいと思ったのだった。
「悪いが、それはできない」
しかし、帰ってきたのは冷たい言葉だった。思えばここまでうまく行き過ぎていたせいか、心のどこかで期待していたらしく、思わず力が抜けてしまった。
「今は一人でいる方が動きやすい。まだ情勢も定まっていない中で特定の誰かと組むのは得策じゃない。だから、遠慮させてもらう。」
ジョニーはそう言うと箸を置き、テーブルを立ってしまった。
「残念だったな。まあ落ち込むなよ、当たり前の反応だって」
ユウスケが声をかけてくるが、僕はすでに別のことを考えていた。
「なるほどな。つまり状況が定まった状態で、上手に戦おうって訳だ。じゃあ必要なのは……」
どうすれば彼を仲間に取り込めるか。新しい目標ができるというのは楽しいものである。なんとしてでも彼と同じ景色を見るために、僕は行動を開始したのであった。