トリカブトの花   作:インノケ

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新たなエース

アール、喜ぶ


3話

 僕の相棒、エンジョウジ・ユウスケには姉がいる。エンジョウジ・ナナミは、宇宙側のビルダーであった。パイロットとは違い、ビルダーとはいわばメカニックのことである。なぜメカニックといわないかといえば、そのシステムに理由がある。機械に関しては素人のプレイヤーがMSの整備や改造を行うのは不可能だが、それを可能にしたのがビルドシステムだ。機体をプラモデルのように組み立て、改造や塗装を施すことでゲーム内の実機に反映されることによって、機械知識のないプレイヤーでもメカニックの仕事ができる。ゆえにメカニックではなくビルダーなのだ。もっとも、いくら簡単になったとはいえリアルでの本人の技術が大きく関わってくるため、誰にでもできるというわけではないのだが。その点、彼女はこのゲーム内では貴重な人材といえただろう。

「あのね、タダでやってあげるわけないでしょ! こっちの都合もちょっとは考えなさい!」

僕とユウスケは今、そんな彼女に叱られていた。二人の機体の塗装を兄弟のよしみで無料で行ってもらおうと思ったのだが、それが彼女の逆鱗に触れたらしい。

「材料費とか考えたことある? 私だって食べなきゃ生きていけないのよ」

「もっともでございます……」

「そうだぞ、何が兄弟のよしみだ全然ダメじゃないか!」

「アールは黙ってなさい!」

段々漫才のようになってきてしまったところで、別の声がかかる。

「何、ナナミ? 知り合いかしら」

出てきたのは長身の女性だった。目はやや吊り上がっており、凛とした雰囲気の女性だった。

「ユアン、うちの馬鹿弟がタダで色塗れって」

「その人は?」

気になったので頭をあげて彼女に聞く。

「ユアンは私の専属パイロットよ。あんたたちと違ってちゃんと報酬を払ってくれるね」

「専属? お前、雇われるほど腕よかったか?」

さっきまで叱られていたというのにユウスケが茶々を入れる。しかし、彼の言うことももっともだ。腕のいいパイロットが腕のいいビルダーを囲うことはあるものの、それはほんの一握りの凄腕ビルダーに限った話だ。

「ナナミは私の友人よ。でも友人であっても契約なんだから、お金はちゃんと払うべきよね?」

「ぐ……」

初対面だというのなかなか厳しいことを言うが、正論なので言い返すことができない。とにかく、彼女らは友人同士で契約を結んでいるらしい。僕はふと、あることに気づく。

「じゃあ、このユアンさんもジオニストなのか?」

ジオニストとは「機動戦士ガンダム」シリーズに登場するジオン公国に傾倒している人を指す。特にナナミは生粋のジオニストであり、所有機体もジオン系列のものばかりである。もしそれ以外のMSを手に入れようものなら即座に換金してしまうほどだ。

「さすがに私の主義を他の人に押し付けたりはしないわよ。まあでも、彼女もジオン系MSを使ってたから知り合ったんだけど」

「今は彼女の作ったギャン改を使わせてもらってるわ」

ギャン改など僕がこのゲームで戦いだしてから一度もお目にかかったことの無いような機体だ。マイナーなジオン系MSを使っているあたり、どうやらナナミと同類らしい。

「あなたたちはパイロットなのかしら。ねえナナミ、この子たち強い?」

僕とユウスケがぶつぶつと文句を言っていると、ユアンが突然名波に切り出した。

「強いか……ね。私が見てないうちにとんでもない成長をした、とかならきっと強いわよ」

いやらしい笑みを浮かべてナナミが僕たちを見る。こう言われては引き下がるわけにはいかない。プライドもパイロットには重要な要素の一つだ。

「そっちこそ、ナナミの作った機体なんかでうまく戦えるのか? 弟として迷惑かけてないか心配だな」

ユウスケが挑発で返したが、これはどうやら逆効果だったようだ。

「ちょっと、いくら身内でもナナミを馬鹿にするのは許さないわよ。そこまで大口叩けるんなら顔を貸しなさい。試してあげるわ」

表情こそ変わってはいないが、その声音には明らかに怒りの色が感じられた。一瞬ひるんだユウスケだったが、もう引き返せる状況ではない。こうして唐突に、彼女とユウスケの対決が決まったのだ。

「そこに立ってるあなたも、早くついてきなさい」

そして僕もまた、巻き込まれてしまったのだった。

 

 GBWF内のバトルでは撃墜は機体の喪失を意味するし、パイロットの死はそのまま自分の死を意味するが、例外となる場所が存在する。各街やエリアにはフリーバトルスペースと呼ばれる施設がある。ここはシミュレーターのような場所で、ここでの戦闘後は機体の損傷などはすべて戦闘前の状態に戻されるし、もちろん死ぬこともない。大きな町のフリーバトルスペースはイベント会場として使われることも多いが、今いる基地のような場所のそれは純粋に機体の調整や今回のような腕試しの施設として使われる。

『私は準備できたわよ』

通信機にユアンの声が響く。宇宙ステージを背景にモニターに映るギャン改は、本来装備している大型ビームソードではなく見慣れない長い棒状の武器を携えていた。

『待ちくたびれたよ。とっくに準備はできてる』

やけくそ気味のユウスケが応える。彼の機体は奇しくもユアンと同じギャン系の機体、ギャンクリーガーであった。こちらは大きな改造もなく、武装もグレネードやビームランスといったノーマル仕様のままだ。

「OKですよ。始めましょう」

二人の準備ができたところで僕が声をかける。僕の乗機はノーマル仕様のゲルググだ。合図と同時にユウスケのギャンクリーガーがビームランスを突き出しユアンのギャン改に突進をかける。迂闊なようにも思えるが、高機動を誇るギャンクリーガーのそれは通常のMSの突進を軽く凌駕する。迎え撃つギャン改はまるでそれが最初から分かっていたと言わんばかりに棒状の武器の石突き部分を突き出す。そこには、今にもビームを発射せんとする銃口があった。

「ユウスケ! 攻撃が来るぞ」

彼に注意を促して僕も機体を動かす。ゲルググはギャン改の右上へと飛翔すると牽制に二発、ビームライフルを放った。ギャン改は武器を下しビームライフルを避けるように左側へとスライドするが、ギャンクリーガーは肩のスラスターを大きく吹かせると吸い込まれるようにギャン改へと突撃していった。無防備になったかに思えたギャン改だったが、しなやかな動きで先ほどまで構えていたライフルの反対側をギャンクリーガーに向けると、その先端から発振されたビーム刃を迫りくるビームランスに触れさせ大きく飛び上がった。ビーム同士が触れ合うことによる反発力で、まるでギャン改は棒高跳びをしたかのように跳ね上がり、ギャンクリーガーの直上へと躍り出た。

「フェダーインライフルか!」

思わず叫ぶ。ギャン改は通り過ぎていき無防備な背中を晒すギャンクリーガーに一方が銃身、もう一方がビームサーベルとなった獲物を横一文字にふるい、数瞬後ギャンクリーガーは爆炎に変わった。それは超絶技巧とでもいうべき神業であった。いくら大型とはいえ、高速で迫るビームランスを足場にしてフェダーインライフルを突き立てるなど、いくら腕が立とうとも思いもつかない挙動であった。目を見開き驚愕する僕に、ギャン改はフェダーインライフルの銃口を向け発射した。もともと僕が買った喧嘩ではないが、こんなものを見て黙っていられるほど心は冷えていなかった。

「あっはっは! なんてことをするんだ!」

笑いながらゲルググを走らせる。お互いにライフルを発射し、それを回避しながら一気に肉薄する。勢いの乗ったゲルググのビームナギナタと、ギャン改のビームサーベルというには少し形状の違うビーム刃がぶつかり、スパークする。鍔迫り合いは一瞬で終わり、ギャン改が上体をそらす。フェダーインライフルの柄で薙ぎ払うつもりなのだろうが、切り返しは反対側にも刃のあるビームナギナタのほうが早い。そう思い手首をスナップさせ、必殺の一撃を放たんとした時であった。

「ぐっ……!」

唐突にコックピットを揺さぶる、下から突き上げるような衝撃に声をあげてしまう。そこにあったのはギャン改の膝であった。ギャン改はゲルググがビームナギナタをふるうより早く膝蹴りをコックピットに放ったのであった。無防備になったゲルググの腹部に銃口が突き立てられ、その後コックピットは暗転した。

 

 戦闘終了後、僕はユアンに駆け寄った。

「さっき使ってた武器はなんです? ただのフェダーインライフルにしては形状が違うし大型だ。それにあの挙動、MSでできるものじゃとてもないですよ。どうしてあんなことをしようと思ったんですか?」

突然浴びせかけられた質問の嵐にユアンは一瞬目を白黒させたが、すぐにいつもの凛とした表情に戻り答えた。

「あの武器はナナミがギャン改用にしつらえてくれたフェダーインライフルの改造品よ。あの挙動は……そうね、そうするのが一番効果的だったからかしら」

あっさり言ってのける様に、僕はどこかジョニーのそれを思い出していた。この人も自分とは違う景色の見えているパイロットなのだ。僕の興味はとどまるところを知らなかったが、後ろから掛けられた声が僕を引き止めた。

「またやってるのかアール。俺たちは敗者だぞ。負けたら黙るってのがルールじゃないのか?」

この期に及んでまだ見栄を張ろうとするユウスケに、ナナミから追撃が入る。

「そうよ負け組。何があたしの作った機体じゃ心配ですって? そこいらのギルドモデルのあんたらの機体じゃ敵うわけないじゃない」

彼女の言う通り性能も段違いではあったが、それ以上にユアンの操縦技術は規格外のものであった。そのとき、僕の脳裏にあの野望がよぎった。

「あの、ユアンさん」

彼女の目を見て言葉をつづける。

「一緒にクランを作りませんか?僕は、あなたの戦うところをもっと見てみたい。あなたと同じ景色を見てみたいんです」

まるで愛の告白のようなセリフにユアンは顔を赤くしたが、平静を取り戻すと答えた。

「君は私と一緒に戦いたいみたいだけど、それって私にもメリットあるのかしら?」

至極もっともな意見だ。自分よりも格下のパイロットとクランを組む意味は薄い。それでも、僕は続けた。

「何でもしますよ。生活費の支援でも、パーツ集めでも。こんな死と隣り合わせの中でその才能を発揮する、そんな人の景色をなんとしてでも見てみたいんです」

真剣に、大真面目に言いきった。ユウスケが聞いてないぞと目で訴えかけてくるがそんなものには構わない。すべてはこのゲームを楽しむためなのだ。

「困ったわね」

先に折れたのはユアンの方だった。彼女はそれまではなっていた緊張を解くと、砕けた笑顔を見せた。

「クラン、っていうのは早いけど、一緒に行動するくらいならいいわよ。要は私の戦うところが見たいんでしょ?」

「いいんですか!」

思わず大声をあげてしまう。ジョニーのときにうまくいかなかったせいか、その喜びはひとしおだった。側ではエンジョウジ兄弟がそっくりな顔で揃ってあんぐりと口を開けている。喜びに浸っていると、ユアンが一言付け加えた。

「あ、もう一人一緒にいるメンバーがいるんだけど。だいぶ時間経ったしそろそろ戻ってくるんじゃないかしら」

「どんな人なんですか?」

「ゲオルグさんっていう人のいいおじさんよ。少し変わってるけど……あ、噂をすれば」

ユアンの指さした先には、こちらに向かって歩いてくる初老の紳士がいた。彼はこちらを見つけると、不自然な小走りで近づいてきて口を開いた。

「やっと見つけたわ。もう、どこ行ってたのよ」

 

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