アール、再び喜ぶ
作戦は宇宙軍主導で行われる。まず長距離ミサイルを先行させ、同時にアーミーで構成された制圧部隊を不発弾に紛れて待機させる。その後MS部隊が出撃し、基地内の戦力をおびき出し、制圧部隊がその間に潜入するといったものだ。この作戦において僕らが任せられたのは、その敵をおびき出すおとり役である。後の作戦に戦力を温存したいのだろう。この作戦に参加するメンバーのほとんどは僕らのような雇われであり、宇宙軍所属は制圧部隊や指揮官とその他少数のみであった。とはいえ、基地のほぼ全戦力と正面からぶつかる危険な任務であり、その分報酬も高額なことからそれなりの数が集められているだろう。そして、その中には一人でやってきたジョニーの姿もあった。以前会った時の言葉を考えれば、こういった作戦に参加することで勢力戦争の動向を見極めようとしているのだろう。各員はそれぞれに担当エリアが割り振られそこにとどまり戦闘をすることが命じられ、ブリーフィング後ただちに出撃となった。僕たちの編成は前衛にユアンのギャン改にユウスケのギャンクリーガー、中衛が僕のゲルググに支援でゲオルグのゲルググJである。コックピットのモニターには全機で同期された作戦開始タイマーが表示され、作戦宙域で攻撃開始の合図を今か今かと待っていた。
「ユアン」
『何? もうすぐ開始だけど』
ふと思い立って、彼女に声をかける。ちなみに、仲間とは対等でいたいという彼女の希望により、僕もユウスケも彼女に対しては敬語で話すのはやめさせられてしまった。
「あそこのエリア、たぶん面白いものが見れるよ」
そう言って座標データを送り付ける。ジョニーのいるエリアだ。
『突然何よ。知り合いでもいるの?』
「そんなところ。さ、始まるよ。」
仕込みを済ませてモニターを注視する。0のカウントと同時にミサイルが脇をかすめていく。弾着とともに、潜航していたMS群が一斉に頭部のセンサーを点灯させ目標の基地へと食らいついていった。
『ユウスケ、ついてきて!』
『了解』
二人が先陣を切って飛んでいく。基地の襲撃を受けて出撃した数機のMSがこちらに気づいたのか銃口を向けてくるが、内一機の腕は二機の後方から放たれたビームによって溶解させられてしまった。
『ポイントに着いたわ! 援護に入るわよ』
「同じく、援護に入る!」
通信機に叫ぶと数発ライフルを発射する。ビームは敵機を撃墜するには至らないものの、敵に散開を促させバラバラになったところを二機のギャンが確実に仕留めていく。
『一機、足の速いのが抜けた! 迎撃頼むぞ、アール!』
「了解」
スナイパーがいることを察知した敵が先に仕留めようとして回り込んでくる。僕はゲルググを走らせビームをばら撒く。四発中一発が脚部に命中し、鈍ったところで頭部を撃ち抜き行動不能にする。こうしておけば作戦終了後に誰かに拾ってもらえるだろう。殺さないで済むならそれに越したことはないのだ。20分後、制圧完了の通信が入るまで僕たちの戦闘は続いたのだった。
『ねえアール。さっき言ってた知り合いさん、大丈夫なの?』
制圧完了後も伏兵や外部の戦力の警戒のため宙域にとどまっていた僕らだったが、ユアンが話しかけてきた。
「何かあったの?」
『レーダー見てみなさいよ。まだ抵抗してるみたいよ。』
見るとジョニーが担当しているエリアではまだ敵機を表す赤い点が多数残っていた。
『そこは港があるエリアよ。脱出しようとしてるのね』
ゲオルグが通信に割り込んでくる。所詮ゲーム内勢力に過ぎない両軍の間には捕虜の取り扱いに関する条約などはなく、あったとしても管理が行き届かないせいで、捕虜に関してはほぼその場の司令官の裁量に任されている。何をされるかわからない以上、逃げられるならば何としても逃げ出したいのだろう。
「援護に行きましょう。どうせ言われた分のお仕事はこなしましたし」
『私も賛成だわ。放っておくのはちょっとね』
『じゃああたしたちはここで警戒を続けるわ。いいわね、ユウスケ』
『了解です。早く終わらせて来いよ』
「『了解』」
該当のエリアでは表示通りまだ戦闘が続いていた。近づいてみると、ユアンが異変に気づく。
『ねぇ、味方機が少なくない?』
レーダーを見ると味方機を表す緑の点がブリーフィング時に聞かされていたよりもはるかに少ない。つまり、ここでの損耗率が他よりも高いということだ。
「他のエリアと比べて敵の数が多いようには見えないが……」
口に出してから一つの可能性に行きつく。こんなことが起こるのは、相手にエースがいた時くらいのものだ。僕はレーダーを注視する。当たりだ。レーダー上には一体、明らかに他とは動きの違う点が飛び回っている。ジョニーたちは敵エースと相対していたが、他の敵機からの包囲と援護射撃により思うように戦えていないようだ。このままではじり貧になってしまう。
「ユアン、援護に入ろう」
『了解。周りの雑魚を蹴散らすわ!』
ユアンも同じことを思ったらしい。先行するギャン改のすぐ後ろにゲルググをつけ、射撃を開始する。新手に気づき、数機の注意がこちらにそれる。ジョニー以外の味方機もその隙に包囲を離脱、ジョニーのみが敵エースと相対する形になった。敵エースの乗機はジムスナイパーカスタム、ジョニーは高機動型ゲルググで激しく撃ちあいを続けていた。彼らの戦闘を横目で見つつ、援護射撃をしている機体の武器やセンサーをつぶしていく。途中、いくつかのランチが港から出ていくのが見えたが、それを攻撃するものは誰もいなかった。高機動型ゲルググとジムスナイパーカスタムの戦いは佳境を迎えていた。お互いにライフルをつぶされてしまい、高機動で翻弄しあいながらサーベルで切りかかるタイミングを計っていた。このままでは勝敗は五分といったところだろう。それほどまでに強力なエースであったのだ。余計なこととは思ったが、僕はライフルを数発ジムスナイパーカスタムの進路上にはなった。その弾は、命中こそしなかったものの突然の攻撃によりひるませるには十分であった。ジョニーは一瞬の隙を逃すような真似はしない。ここぞという急加速でジムスナイパーカスタムに肉薄するとそのまま両足を切断、ついで切り返しで頭部をはねる。そして、流れるような動作でジムスナイパーカスタムの胴体を蹴り飛ばし基地の方へと飛ばすと、こちらに向けて通信を入れてきた。
『今のは、お前が撃ったのか』
「久しぶりです、ジョニー。余計な真似でしたか?」
気を悪くしたかと思い先に謝ろうとしたが、ジョニーがそれを遮った。
『いや、助かった。烏合の衆の俺たちと軍の部隊とではやはり連携の練度が違った。対応できる数ではなかった。援護は必要だった』
どうやらこの戦闘全体のことを言っているらしい。大局を見る、ということだろう。思い立って、以前もかけた言葉をかける。
「ジョニー、僕たちとクランを組みませんか?軍よりも動きやすく、かつ連携もとれる。こういった状況にも、あらかじめクランで参加していればやりやすいでしょう」
『そうだな……』
もうひと押し、何かあればジョニーを引き込める。そのもうひと押しはユアンからかかった。
『戦闘外の支援もできるわよ。有能なビルダーがいてくれるからね』
『なるほどな。勢力戦争も本格化してきた中での支援体制の重要性、いいだろう』
「それじゃあ……」
『お前たちと、行動を共にする。よろしく頼む』
ジョニーはついに僕の提案を受け入れてくれた。
「ユアン!」
『いいわよ。さすがに大所帯になってきたしね』
「ユウスケ! ナナミ!」
『ユアンがいいなら私もいいに決まってんでしょ』
『似たようなもんだね』
「ゲオルグさん!」
3『あたしだけ仲間外れはいやよ?』
これでやっと、目標へのスタートがきれたのだ。コックピットで一人こぶしを握り締め喜びをかみしめていると、ユウスケから通信が入る。
『で、リーダーとか名前とか決めてるのか?』
まったく、考えていなかった。