トリカブトの花   作:インノケ

7 / 10
運命の作戦

アール、出撃する


7話

 その日は、次の作戦のために軌道上の基地の一つに来ていた。宇宙軍は幾度かの基地侵攻作戦により既に軌道上の制宙権を確保しており、この基地も元は地球軍が使っていたものである。当然地球軍はこの基地を取り返したいわけであり、僕たちに任されたのは地球から上がってくる部隊の迎撃であった。本当の戦争であれば艦砲射撃で上からたたいてしまえばいいのだが、なるべく人殺しをしたくないという軍の意向により、軌道まで上がらせてから無力化しろとの命令であった。ジョニー曰くこれでは何度も上がってきては追い返してのイタチごっこだそうだが、クエストを発行しているのが軍であるため受けざるを得なかった形だ。上がってくる艦隊は事前に与えられた情報によれば中型艦艇が三隻、MS隊はそれに見合った数なので一個中隊規模ほどであるとのことだった。対する僕らはこの作戦に参加を表明したMS8機で二個小隊を編成、母艦のザンジバル級キマイラが一隻である。メンバーが増えたからといって全員で挑まないのには訳がある。三倍ほどの戦力差があるが、こういった作戦をこなすことで部隊の名前を売っていったからなのだ。

「なあアール」

食堂で作戦に関するデータに目を通していると向かいにユウスケがやってくる。

「ああユウスケ、久々に違う小隊だぞ」

付き合いが長く連携の練度も高かった僕らは同じ小隊に配属されることが多かったが、今回は僕がジョニー率いる第1小隊、ユウスケはユアン率いる第2小隊だ。しかし、ユウスケは片手をひらひらと振った。

「そうじゃないよ。今回僕ユアンと一緒でしょ?決めたんだ、告白する」

飲んでいた水が気管に入りこみ激しくむせた。言いたいことはいくつかあったが、まずは呼吸を落ち着かせ順番に話すことにした。

「そもそもお前がユアンに気があったっていうのは初耳だぞ。あとそれいわゆる死亡フラグじゃないのか」

「いつ死ぬかわからない以上どこかで言っておかないとと思って。もしかしたらうまくいくかもしれないし」

ユウスケの言うことにも一理はある。僕らはいつ死ぬかわからない環境に置かれており、その上胸に気持ちを秘めておくというのは中々に難しいことだ。どうせなら喋ってしまって少しでも気を楽にしたいだろう。

「気持ちはわかるけど、ユアンにもユアンの事情があるでしょ。突然そんなこと言われる身にもなってみなって」

「それはそうかもしれないけど……アールはそういうの無いの?」

「ないな」

僕にとっての最優先事項はこのゲームを最大限楽しむことである。それが果たされない以上恋愛だなんだというのは二の次になっている。

「仲間としてはもちろん大切だと思ってるし、一緒にいたいとも思うけどそれ以上はないな」

「そっか……。とにかく、僕は告白する。決めたんだ」

「わかったけど、ちゃんと作戦も確認しておくんだぞ」

ユウスケが言いたいことは言ったという顔で席を去っていった。彼に限らず恋愛というのはこのゲームでも多くみられる。なんでもフォルテンツィアには教会に本物の神父がいて結婚式までできるという話だ。共に死線をくぐって同じ釜の飯を食うこの環境では仲間との絆だけでなく、守りたい人というのも自然と生まれるのだろう。自分にもいつかそういうことが起きるのかとも思ったが、今は目の前の作戦に集中すべきと考え段取り確認の続きに移った。

 

 三つ首龍の紋章の旗艦、ザンジバル改級巡洋艦キマイラは劇中通り特殊なカスタマイズが施されている。クランの支援を申し出てくれたギルド「ジオニック」より提供された艦で、一隻で部隊を収容し戦場を転々とするのに、居住区と格納庫ユニットが追加されたキマイラはうってつけの艦であった。また、見た目のインパクトも強く、一目で三つ首龍の紋章と分かるため重宝していた。キマイラは敵艦隊が上がってくるポイントの後方で待機、攻撃は出撃したMS隊のみで行うことになっており、僕たちは出撃の時を格納庫のMS内で待っていた。予定時刻まであと五分といったところで不意に通信が入る。チャンネルはMS隊全機へのものであった。

『報告します。帰港予定だったウェヌス基地がNPCの襲撃を受け交戦状態にあるため、変更の可能性があるとのことで、変更後の港については追って連絡が来るそうです。』

『了解した。聞いていたな?』

ジョニーに応えて各々が通信で了解の意を示す。

「了解……ナナミ、それって噂のミュータントだろうか」

キマイラのオペレーター席に座っているのはナナミであった。戦闘中、ビルダーは応急修理要員と操艦要員に分かれて運用している。

『そこまでは言ってなかったわ。あそこも使い始めたばっかりの基地だから索敵が甘かっただけかもしれないし』

『アール、ミュータントってのは何?』

ユアンが通信に割り込んでくる。彼女は戦闘能力こそ高いもののこういった情報に疎い面があった。

「最近スポーンするって噂の強化NPC。レアだと思って近づいたら返り討ちにあったって話が上がってて」

『でもNPCなんでしょ? 油断した方が悪いわよね、それ』

「僕もそう思う」

このゲームは元々PvPがメインであり、勢力戦争も本来はその一環である。NPCはローカルクエストの討伐対象や設計図ドロップのためなどの雑魚として配置されている。少しでも長く生き残るにはそうした相手であっても、自分のレベルと相談してから戦うべきというものだ。それから数分が過ぎ、コックピットモニターのタイマーが作戦の開始を告げた。カタパルトがジョニーの高機動型ゲルググを撃ちだす。新人のビルダーが勝手につけたユニコーンの紋章が一瞬目に映った。続いてユアンのギャン改、新人のガイのレイダー、ユウスケのギャン・クリーガーが射出される。射出の順番は前衛から順にポジション別であり、次は中衛の僕の番である。

「アール・ミュラー・イノセンツィ、ゲルググ、出ます!」

信号がゴーサインを告げる青へと変わり、フットペダルを踏み込む。強いGに見舞われるが、しっかりと前を見て前のレイダーに続く。後続は第2小隊の新人アンナのドートレス・ネオ、第1小隊の新人パクのGキャノン・マグナに第2小隊のゲオルグのゲルググJだ。各小隊でフォーメーションを組んで飛行していくと、行く手に3つの光点が見えた。目のいいゲルググJのセンサーが種別を捉え、各機の情報が自動で更新されていく。クラップ級が一隻にブースター付きのネルソン級が二隻、どれもMSの運用を前提にした艦であるため搭載数は少し多めに見積もった方がよさそうだ。三隻からいくつかの光点が吐き出されるのが目視で確認できる。こちらに気づいたようだ。それを合図に僕たちは小隊ごとに進路を二手に分ける。僕らのいた場所に向かっては敵艦から放たれた何条ものビームを脇に見ながら敵MS隊にジョニーが食らいついた。高機動型ゲルググのマシンガンに対して回避行動をとり散開した先鋒の小隊にレイダーが機関砲をばら撒きながら飛び込み、直後高機動型ゲルググのすれ違いざまのナギナタによって一機が四肢をもがれた姿へと変貌させられる。後続の小隊の銃口がこちらを向くが、それが火を噴く前に僕のゲルググのビームによって破壊されてしまう。突然目の前で起こった爆発に怯んだ隙を先ほどの小隊を通り過ぎたレイダーが突き、敵機の頭部が跳ね飛ばされる。僕はゲルググを爆発に合わせ敵上方へと走らせ、直上からビームの雨をお見舞いする。対応しきれなかった次鋒最後尾の脚部にビームが刺さり爆発を起こすが、行動不能とはいかず反撃をシールドで受ける。上方へと注意が向いたところをGキャノン・マグナが砲撃し、最後尾の一機はあえなく爆散した。

「クソッ」

コックイット内で一人つぶやく。僕の射撃は致命傷になりづらく、無力化にワンステップ多くかかってしまう。こと今回のような対集団戦では一人当たりの担当数が増えるため迅速な処理が求められるのだが、近接戦闘への苦手意識からくる適正射程外の射撃ミスは僕に技術不足を感じさせた。

『ガイ、パク、こいつらは任せる。アール、後ろの小隊を叩くぞ』

『『了解!』』

「了解!」

敵の小隊は全部で五つ、内二つが今相手をしていたもの、二つはユアンたちが相手をしているもの、残りの一つは艦隊の護衛であった。艦の進行に合わせ戦闘エリアに入ってきたのを見計らって攻撃するのである。今相手にしていた小隊を飛び越え目標へ向かって高機動型ゲルググとゲルググが走る。お互いが射程距離に入ると同時に対空機銃の網が前方に広がる。

『俺が囮になる。機銃の数を減らせ』

「了解っ!」

先行して飛び出した高機動型ゲルググがMS隊を引き付ける。僕はその真後ろを全速力で通り抜け、左翼のネルソン級に取り付く。ライフルでミサイルポッドや機銃、メガ粒子砲を剥ぎ取り、トドメに機関部へと一発浴びせ航行不能へと陥らせる。中央のクラップの機銃の掃除に取り掛かろうというところでジョニーの声がコックピットに響く。

『一機抜けた。注意しろ』

その言葉通り一機のジムⅢが肉薄してくる。一瞬機体を後方へと下げライフルで迫っていたミサイルを迎撃すると、爆炎の中からサーベルで切りかかってくるのが見えた。

「邪魔をするな!」

サーベルを抜く暇はない。とっさにライフルの先の銃剣でサーベルを受け止め、同時にキックを叩きこむ。ジムⅢが体制を立て直すよりも早く銃剣ですれ違いざまに頭部をはね、後ろから肩部と腰部にビームを叩きこむ。

「僕だって……三つ首龍の紋章の一員だ」

操縦桿を強く握り呟いた。

 

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