アール、祈る
漂う鉄くずと化したジムⅢを尻目に残りのネルソンとクラップの武装を剥ごうというところで通信が入る。
『ジョニー、NPCの乱入だわ! どうする?』
『対処しろ。撤退はこちらの戦闘終了に合わせてだ』
『了解!』
直衛に増援が来ないようにするために、ユアンたちの交戦位置はここから離れたところへと誘導されており第2小隊だけで対応してもらうほかないのだ。引き続き、ときどきジョニーへの援護射撃を行いながら右翼のネルソンの武装を剥いでいると、突如直下から数条のビームが放たれる。ビームはネルソンへと突き刺さり、大きな爆発を起こした。そんな場所に敵はおろか見方がいた覚えはない。レーダーを確認すると、敵機を表す赤い点がある一点から次々と吐き出されていた。目視で確認するとそこには輸送船の残骸のようなオブジェクトが存在していた。
「ジョニー! こっちにも新手です!」
下方から放たれるビームを回避しながら呼びかける。
『こちらでも確認した。NPCだ、優先的に迎撃しろ』
「了解!」
攻撃に堪えていたクラップも遂に爆沈し、艦が真っ二つに割れる。同時にビームは僕へと集中しだす。それを回避しながら直下の敵の群へと迫りライフルを数発はなつ。攻撃位置を予測して放ったゲルググのビームは、本来命中するはずの位置で幕のようなエフェクトに
阻止されてしまう。
「プラネイトディフェンサー!? あのNPCはビルゴなのか!」
やっと確認できた機影は雑魚のはずのNPCには似つかわしくない高級量産機のそれであった。他にもジンクスIIやドラドといった機体がこちらに向かって攻撃を放ってくる。1機や2機でないことから、おそらくこれが噂のミュータントなのであろう。油断はするなと自分に言い聞かせ間合いを計る。ビルゴの間を縫って一機ずつ確実に落としていく。NPCであるならば手加減をする必要はない。NPCはコックピットに攻撃が命中すると撃墜判定となりそれだけで行動不能にできるのだ。違和感を感じ始めたのはそれから更に数機を倒してからだった。確実に数を減らしていたはずなのに、背中に嫌な汗を感じる。ジョニーに伝えようとしたところで、別の通信が入る。
『なんでだ! NPC共が僕たちには目もくれずユアンに攻撃を集中させてる!』
『いいからちゃんと援護して頂戴! こっちはさばくのに手いっぱいなのよ!』
NPCが一人狙いなど聞いたことがない。大体は目に入った相手に一定の間隔ごとに攻撃を行うだけのはずだ。機体が強化されているだけでなく挙動も変わっているのか、目の前の敵に向き合い違和感の正体を見極める。数発を放ち回避軌道をとっているところでその違和感の正体に気づいた。予測射撃をされているのだ。通常、真っすぐ移動しているだけでNPCの攻撃は回避することができるはずだが、今放たれた弾道は僕の進行方向に向けられている。攻撃を続けるが、NPCのプレッシャーに押され徐々にジリ貧になっていくのがわかる。
『きゃあ!』
ユアンの悲鳴が聞こえる。明らかにまずい状況だ。退いてもついてこられ、的確にこちらの退路を塞ぐ攻撃を行われ、こちらからの攻撃を無効化できる敵がいる。これ以上は確実に死につながる。
「ジョニー! 撤退しましょう!」
『ユアン、そっちはどうだ』
『どうもこうも圧が強すぎて抜けられないわ! くっ!』
『ユアンに敵が群がってるんだ! 剥がしても次から次へと湧いてくるからキリがない。増援を!』
ユアンとユウスケが叫ぶ。
『わかった。パク、アールの援護をしつつアールと後退しろ。ガイは先にユアンたちのところへ、俺もすぐ向かう』
後方からの支援砲撃によって開けられた穴を縫って、残りの推進剤を使いきる勢いで離脱する。これ以上は戦闘を続けることはできなかっただろう。大きく距離をとることに成功し、パクのGキャノン・マグナとキマイラへ向かっているとひときわ大きな爆発音が通信機から響いた。
『いやぁ! 足が!』
ユアンが絶叫する。一体どうなっているのか。
『クソ! ユアンから離れろ!』
『ユウスケ、そこから出なさい!』
通信機の会話越しでしか状況がわからないが、よくない状況なのはわかる。しかし今の僕はどうにかできる手段を持ち合わせていない。ジョニーが間に合えば……。
『ユウスケさん! 真上』
アンナが叫んだが、爆発音でかき消されよく聞こえない。
『アンナ! ちくしょう! 今度はこっちばっかり……』
『いやぁぁぁ!』
『数が多すぎて……!』
戦闘エリアはこのゲルググの索敵範囲外であるためレーダーにも彼らは映らない。聞こえるのは絶叫と憎悪の言葉ばかりだ。
『なんて数だ……。援護に入ります!』
ガイが戦闘エリアに着いたらしい。まだ望みはあるはずだ。
『ガイ! ユアンを連れて撤退しろ!』
『な、コックピットですか!?』
『早く!』
ジョニーはまだ着かないのか。ジョニーさえたどり着ければ。最後の望みはその本人によってかき消された。
『ガイ、ゲオルグ、撤退する。ゲオルグと俺で道を拓く』
なぜユウスケの名前が上がらなかったのだろう。ユウスケに尋ねようとしたが、パクからの通信に遮られた。
『アールさん、キマイラです。先に着艦してください』
「あ、ああ。了解」
すぐ目の真に迫ったキマイラに気づき機体をデッキへと滑らせる。とにかくジョニーたちが戻ってくるのを待とう。きっと大丈夫だ。そう思い格納庫へと向かった。