アール、強くなる
20分後、ジョニーたちは帰ってきた。着艦と同時にキマイラは最大戦速で離脱、進路を月へと向けた。デッキにいたのはゲルググJに一部損傷のある高機動型ゲルググとレイダー、そして穴の開いたイジェクションポッドが一つだった。僕たちのMSでイジェクションポッドを搭載しているのはギャン改だけなので、恐らくはユアンのものだろう。ゲオルグとガイは機体から降りるとすぐさまポッドへと向かった。中から引きずり出されたのはまるでジオングのようなシルエットになったユアンだった。ぼんやりと入り口で立っていた僕の横をゲオルグとガイが急いで通り過ぎていく。続いてジョニーが機体から降りてこちらに近づいてくる。
「アンナとユウスケは回収できなかった」
「そうですか」
事務的なジョニーの言葉に特に何も感じず、適当に返事をする。
「ユアンは下半身がやられた」
「みたいですね」
それ以外に返しようがなかった。
「……俺の判断ミスだ。もっと早い段階で撤退を指示できたはずだった」
それまでとは打って変わった重みを伴った言葉に、自衛のために閉じていた心が開きだす。
「だめ……だったんですね」
ジョニーは答えない。
「ユウスケも、アンナも、いないんですね……」
「そうだ」
ジョニーの口調はいつもの無感情なものへと戻っていた。
「どうすれば……もっとうまくできたんでしょうか」
「……」
結局そのあと、ジョニーが口を開くことはなかった。
月の施設にユアンは預けられた。外傷に関しては義肢の用意はできるものの、心に植えつけられたトラウマは、彼女をパイロットとして使い物にならなくしていた。どこか遠くを見てはときどき暴れだすという症状を見せ、とてもキマイラには置いておけなくなったのだ。今回の作戦が軍からのものであったことから、彼女に関しては軍が面倒を見てくれることになった。彼女のような障害を抱えるパイロットは多く、サナトリウムを軍が運営しているのだ。他のメンバーにも休息が必要と感じたジョニーは一か月間、月にとどまることを決めた。そういうわけで僕は、一人月のフォン・ブラウンを歩いていた。地球のフォルテンツィアのように娯楽のある都市ではないが、裏通りなどは野良のジャンク屋やマーチャントが店を開いており、活気あるものだ。僕は端末を見ながら細い道を進んでいく。目的地は一件のマーチャントショップだった。品ぞろえに特に変わったものはないし、別段安いわけでもないが、それでもここにくるのは理由があった。
「おじさん、強化っていうのはここであってるかな?」
とても商売人とは思えない不愛想な青年が奥から出てくる。
「……いいのか?」
「そのために来たんだよ」
一言それだけ言うと、ついてこいというジェスチャーで青年は再び奥へと消える。ついていくと、複数の端末とコックピットのリニアシートのようなものが並んだ部屋に通された。
「料金は前払いだ」
「聞いてるよ」
ダミーのクエストを発行し、彼に報酬金を振り込む。法外な金額ではあるが、スポンサーまで付いている僕に払えない金額ではない。青年は端末で振り込まれたのを確認すると顎で椅子に座るように促してきた。
「ウチのは別にファンネルが使えるようになったりとかではないのはわかってるな?」
「ああ」
エースだったはずのユアンはあんな姿にされ、ジョニーも力不足を嘆いていたのに、僕が何もしないのはおかしい。もっと強く、今よりも遥かに強くならなければいけない。そんな時に見つけたのがこの強化処理だった。副作用も覚悟の上だ。何があっても強くならなければいけないのだ。僕は椅子に座り目を閉じた。