IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜 作:幼馴染み最強伝説
「はぁ……」
日は沈み、辺りに暗闇が覆い始めた頃。アリーナピットで山田真耶は小さく溜め息を吐いていた。
彼女が持参しているノートパソコンで見ているのは過去全てのIS戦闘の映像。そしてその大半を将輝が行っている。中には他の生徒が行っている試合もあるが、合計すると八割は生徒会のメンバーが行っていた。
(先輩方凄すぎです。凄すぎて……参考になりません)
がくりと項垂れる真耶。
文字通りIS操縦者トップ3の試合。見れば何かを得られるのではないかと考えたのは何も真耶だけではない。そして現在の真耶のように映像を一通り見て、あまりに次元の違う強さに参考にならずにすぐに見るのをやめる。IS操縦者としても、そして人間としても常軌を逸している生徒会メンバーでは普通の生徒にとっては何の参考にもならない。
根気よく何度も何度も見返し、何か得られるものはないかと空いている時間の大半を費やしたにもかかわらず、これと言った成果は得られていなかった。
(あるとすれば先輩方の動きを覚えた事くらいですね…………真似できませんけど)
大抵の場合、これだけ何度も見ていれば完全とは言えないまでもある程度模倣のしようはある。だが、そんな常識が生徒会メンバーに通用するはずもなく、一挙手一投足が常人のそれとはかけ離れているために実行しようにも無理ゲー過ぎた。
「はぁ……本当にどうしましょう。これじゃあ」
「ミハエに勝つのは難しいな」
「ですよね。イギリスの代表候補生で専用機持ち、おまけに軍人だって聞きましたし、そもそも基本スペックが………って、織斑先輩⁉︎」
「気がつくのが遅いな」
何時の間にか真横に立っていた千冬に真耶は驚く。
いくら集中していたとはいえ、真横に立つまで気配を感じさせない千冬はやはり人間離れしている。最もそれをもってしても普通に気がつく将輝はもっと人間離れしているが。
「どうしたんですか?」
「今日も遅くまで練習をしていたようだから、様子を見に来た」
「私、織斑先輩みたいに才能とかないので人一倍頑張らないと優勝出来ませんから」
苦笑しながら言う真耶だが、はっきり言って比べる基準がおかしいだけで真耶にも才能はある。千冬もここ二週間でそれには気づいていた。
「才能……か。否定はしない。だが、才能の有無が勝敗を分けるとは必ずしも限らない。実質学園最強の名を冠する将輝は自分で『才能がない』とボヤいていたからな。最初は嫌味かとおもったが、そうでもないらしい」
「そうなんですか?私はてっきり将輝先輩も天才なのかと……」
「何でも未来では危機を回避する為に死に物狂いで特訓をしていたそうだ。それでも一度死にかけて、二回目は一時的に死んだと聞いたときは耳を疑ったがな」
疑問視したのは将輝の技量に関する事だけではない。ISの出現から十年と考えれば、代表候補生ではなく国家代表もいるであろうし、その時動かしてまだ二、三ヶ月程度の操縦者では搭乗時間=強さと言っても過言ではないIS戦において敗北はほぼ必死だと言える。しかし、IS学園に、それもセキュリティレベルが高いはずの国立高校にいるにもかかわらず、その短期間で死ぬような事態に発展した事を疑問視した。
「私が言ったところで説得力など微塵もないだろうが、才能はあまり関係ないということだ」
「でも、リーリス先輩は代表候補生で専用機持ちですよ?私も一応代表候補生ですけど、日は浅いし、専用機も持ってません」
「おまけにミハエは学年が一つ上で搭乗時間も私達に匹敵する。それに今回のトーナメント戦で間違いなく一番の実力者だな」
条件としてとても真耶が勝てる見込みはないに等しい。だが、それはあくまでも
「それ以前に他の皆さんに勝てるかどうか」
「その辺りの心配は特にしていない。私達の中で決勝戦はミハエと真耶で決まっているぐらいだ。それにミハエを倒しに行く気でいけば他の生徒には勝てるだろうさ」
当然というべきか、決勝戦まで一年と二年の試合は完全に分かれている。一年生で最後に残った者と二年生で最後に残った者が決勝戦で戦う仕組みとなっていて、一年生の参加者で専用機持ちはいない。となると必然的にもっとも努力し、実力を身につけた者が勝つのは当然と言え、何よりミハエもそうだが、真耶も千冬達と『同じ』なのだ。気概では全く負けていない。
「私個人としても真耶の事は応援しているからな。時間外でも教えを乞いに来てくれて一向に構わないぞ」
「良いんですか?一応主催者側なのに」
「ああ。だから『後輩』としてではなく、『友人』として教えるだけだ。それならば文句はないだろう?」
「それって結構無茶苦茶な気が…………でも、ありがとうございます」
千冬もそうだが、生徒会のメンバーは全員強引に意見を通そうとする節があり、そういう時は大抵屁理屈をこねるのだが、それがまたやたらと強気に発言をするせいか、正論と錯覚させられてしまう事は少なくない。
「じゃあ、一つお願いしても良いですか?」
「何だ」
「将輝先輩と更織さんの試合の時のことなんですけどーーー」
「ふぅ。相変わらずここは静かで落ち着きますね」
「おや、藤本くんはご不満ですか?生徒会にいる事は」
「不満なんかありませんよ。あそこにいたら飽きませんから、その変わりものすごく疲れますけど」
学園長室。其処で俺と学園長たる轡木十蔵が紅茶を飲みながら話をしていた。ここにプライベートで来るのはあまり珍しい事ではない。轡木さんの方からよく俺を呼び出してはこうして話をしている。
「私も藤本くんが来てから、ここは本当に賑やかになったと思いますよ。校舎が壊れる事がよくありますが、以前に比べればそちらの方が元気があって良い。もちろん壊れないほうが良いですよ?」
「それは俺に言わんで下さい。原因は専ら束とヒカルノでしょうに」
「藤本くんは彼女達の保護者のようなものですからね。それに既に将来を誓い合った仲とも聞きました」
轡木さんの口から出た言葉に俺は盛大に吹き出した。確かに将来を誓い合った仲とも言えなくはないが、それはあくまで俺達の内緒話であり、轡木さんが知っているはずがない。
「ゴホッ、ゴホッ!ど、何処でそれを?」
「臨海学校の翌日に篠ノ之くんが雄弁に語ってましたよ。『もしかしたら在学中に育児休暇取るかもしれない』とも仰ってました」
あの兎何考えてんだ⁉︎ていうか、俺が孕ませる事前提で話してんのかよ⁉︎
「驚きました。私の知らないところで其処まで関係が進んでいたとは。大変ですね」
「いえ、まあ……なんというか、俺の優柔不断さが招いた結末です」
引き攣った笑みを浮かべながら俺はそう答える。確かに俺がもっときっちりとしていればこういう結末にはならなかったのかもしれないが、俺としてはこれが最善だとも思っている。何せ、それ以外のルートは全てR指定がかかるイベントが起きかねないしな。
「そういえば、二週間後にISのトーナメントを開催するそうですね。それも生徒会の入会を賭けて」
「ええ。もう折り返し地点も来た頃なので、そろそろ後釜を選ぶべきだと思いまして。とはいえ、一年生だけ、というと二年生の不満が解消されないのでこういう形に。ついでに言うとそろそろ各国の方々が痺れを切らす頃でしょうから、今回のトーナメントを観戦させれば黙るでしょう」
本来なら適当な理由をつけて一年生から真耶を選出する予定だったのだが、先日の真耶の行動の結果、そうするわけにもいかなくなっているが、そう悲観する必要もない。少々大事になったというのは事実ではあるものの、そのお蔭で一部の生徒には経験を積ませられ、各国政府の人間にはIS戦を見せる事が出来る。
「トーナメントの観戦に乗じて、面倒な輩も入ってくると思いますが、其方も任せて下さい。その後の身柄についても楯無に任せますので」
「その辺りは心配していませんよ。何せ、テロリスト鎮圧の実績もありますし」
「となると次に相手にするのは特殊部隊か何かですかね」
それか変装の達人とか暗殺の達人とかそういうのを偵察に使ってきたりして………あり得そうで怖いな。
「藤本くんが言うと冗談に聞こえませんね」
「冗談で済ませたいですけど、そうも言ってられませんから」
「どちらにしても問題ないでしょう。君達はーーー」
「『最強の生徒会』ですからね」
自分でいうのも憚られるが、まあ事実だしいいか。割とガチで特殊部隊とかにも勝てそうな気がするし。そういえば、皆は俺一人でも世界相手に戦争仕掛けられるとか訳のわからない噂を立ててたっけ。流石に一人じゃ体力的に限界がある。まあ、生徒会でって言うなら戦争仕掛けても余裕で勝てそうな気がするが。
「それにしても、藤本くんがいると賑やかでいいですね。君が此処に残ってくれると聞いた時は年甲斐もなく喜んだものです」
まるで遠い過去を懐かしむように言ってるけど、去年の話だから勘違いしないように。とはいえ、あの時の学園長の狂喜乱舞っぷりは半端なかったっけ。そのままぶっ倒れるんじゃないかとすら思った。
「やはり彼女達の存在ですかな?」
「ですね。去るにしては大事なものが増え過ぎた」
千冬達もそうだが、二ヶ月の内にあまりにもこの時代のIS学園に慣れ過ぎてしまっていた。それこそ、俺が生きるべきはこの時代だと感じる程に。あの時は随分葛藤したものだ。今となっては良い思い出だが、その話はまた別の機会にというやつだ。
「先の話ですが、卒業後、彼女達の事はどうするつもりで?」
「どうもしません。ただ、全員娶るというのは確定してますよ」
「ほぉ……大変そうですね。一夫多妻とは」
大変そうっていうか絶対大変だけどな。俺大丈夫かな。かなり不安だ。
「俺達の日常に大変じゃない日なんてありませんよ。それが学園から家庭に変わるだけですから」
でも、退屈よりはマシだ。退屈は人を殺す。だから原作の束は変わった。災禍を振りまいた。出来ることなら、束にはそういう事をさせたくないし、全員と楽しく過ごせる日常が一番良い。
「それでは失礼します。まだ仕事があるものですから」
「長く留めてしまってすみませんね。生徒会のお仕事頑張ってください」
轡木さんに軽く会釈をして返すと俺は自分の部屋へと帰った。