IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜 作:幼馴染み最強伝説
ついにやってきたトーナメント当日。
俺は試合会場のアリーナ中央にて専用機『夢幻』を纏って宙に浮いていた。そして眼下にはトーナメントに参加する生徒達。
別に試合をする訳ではない。そもそもトーナメントはまだ始まっていないし、余興がてら生徒会の模擬戦をしてみてはどうかと教員から提案されたが、参加する生徒が嫌がったらしい。余興じゃなくて本命になると。
俺としても世界各国の政府の人間達に自分のISとかを見せるのは嫌だ。だってあいつら何考えてるかわからないし、いやわかるんだけど、絶対に何かしてくるのは火を見るよりも明らかだ。
まあ、そんな訳で試合はしない。
じゃあ何でISなんか展開しているのかというと、早い話がトーナメント開催の挨拶だ。
何でアリーナの中央でせにゃならんのだと思ったのだが、生徒達曰く『副会長のカリスマ性を無能な老害に示して下さい!』だそうだ。そんな汚い言葉を使っちゃいけません。ていうか、笑顔で恐ろしいこといわないでほしい。
理由は他にもあったが、大体はそんな感じ。元々、挨拶自体は管制塔でする予定だったので、その場所が変わっただけ………なんてポジティブなことは考えられない。やっと生徒達の前に立つのが慣れてきたというのにお次は政府のお偉いさんとかいきなりハードル高過ぎィ!噛んじゃったらどうするんだよ。恥晒しじゃん。
しかし、黙りこくっているわけにもいかないというのが現状だ。仕方ない、ここは腹を決めよう。
「只今から第一回ISトーナメント開催をここに宣言します。出場者の皆さんはこの一ヶ月の間に積み上げてきた練習の成果を十分に発揮し、悔いの残らないよう全力を尽くしてください。怪我などをした時は無理をせずに保健室に足を運んでください」
と此処までは便宜上主催者としての挨拶だ。此処からは副会長として俺個人の彼女達への激励の言葉だ。
「堅苦しいのは此処までかな。一応それっぽい事はしておかないと怒られるから。さて、この挨拶が終われば、いよいよトーナメント第一試合が始まる訳だけど、適度に緊張感を持って、全力で試合に臨んでほしい。油断や慢心をせず、ただ優勝の二文字に向けて全てを出し切れ。その先に俺達のいる世界がある。これからの試合、勝っても負けても君達は確実に何かを得るはずだ。それはこの学園生活でかけがえのない財産になる。だが、始めから負ける気で挑むな。例えどんなに勝ち目が薄くても、細い糸のような確率でもそれに縋れ。勝利の女神っていうのは勝とうとする意志の強い奴のところに微笑むものだからな。ねだるな!勝ち取れ!さすれば与えられん!真に欲しいものは自らの手で掴み取れ。俺から言えるのは以上だ。皆、頑張ってくれ」
そう締め括り、俺はアリーナのピットへと戻る。俺がピットに入る直前にアリーナ観客席がどっと沸きあがり、歓声が聞こえた。どうやら演説は無事成功したようだ。あーあ、また恥ずかしい事ばっかり言っちゃったよ。何時もこういう事した後は恥ずかし過ぎて死にそうだ。
「恥ずかしいなら言わなければいいだろう」
俺の思考に対する返答を返してくるのは安定の千冬さん。最早ツッコむだけ無駄だ。
「それが出来ないから困ってるんだ」
恥ずかしさに恥ずかしさの上塗りで誤魔化してるだけだからな。今も昔も。だからこういうのは後々で俺の黒歴史になるんだ。
「『ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん』か。相変わらず深みのある言葉を吐くな」
「受け売りだよ。俺のじゃない」
言うつもりなんてなかったけどな。口から勝手に出てた。誰の言葉だっけ、えーと……………レントンだったっけ。多分合ってるはず。
「ていうか、こんな所にいていいのか?解説役が当たってるだろ?」
千冬には確か試合の解説役が回っていた。初めは俺の方に来ていたんだが、そういうのはあまり得意じゃないし、試合よりも解説に聞き入れられると洒落にならないからな。まあ、そんな訳で解説役は千冬にしてもらうことにした…………決勝戦は同席させられるけどな。
「問題ない。試合まで後五分あるからな」
五分か。まあ、余裕だな。常人にはギリギリでも俺たちの全力疾走なら一分切るし。
「将輝はこの後どうする?観客席で観戦………という訳にもいくまい」
「治安維持に務める。早くも鼠が何匹かいるみたいだからな」
何処の国の人間かはわからないが、不審な動きを見せる人間が少なくとも五人はいた。どうも誘っているような妙な動きを見せていたが、彼方から呼んでくれるとは好都合だ。全員捕まえて楯無にでもパスすれば何かしら情報は得られるだろう。
「将輝。気をつけろよ」
「わかってる。俺に何かあったら未来のお嫁さん達が黙ってないもんな」
「と、当然だ……」
俺がそうからかうと千冬はそっぽを向きながら肯定する。うむ、やはりクーデレは至高だな。憑依する前の俺が二次元に目覚めたのもそれがキッカケだし。
実際、俺が大怪我をしたとして、それが日本以外の他国の人間だった場合、その国が滅ぼされるかもしれない。割とマジで。
「将輝の命は世界よりも重い」
先程の恥ずかしそうな表情から一転、滅茶苦茶キメ顔で言う千冬。
「そんなキリッとした顔で言われても困るんだが」
いや、確かに嬉しいよ。愛が重いけど、別に病んでるわけじゃないし。でもその理屈だと俺が死んだ日=世界最後の日になっちゃうんですけど。全世界の命運が俺の命と直結してるんですけど…………もし遺言残せそうな状態だったら、世界は滅ぼすなって言おうかな。まあ、そんな状態なら多分束が治せるから、即死以外ないな。じゃあ遺書………死ぬ前に見つかって黒歴史になるからやめた。ようは死んじゃダメって事だな。死ぬつもりなんてハナからないけどな。
「それじゃあ一つ掃除してくるとするか」
(な、なんなんだ、あの化け物は⁉︎)
IS学園の廊下を男は何かから逃げるように走る。
現在、IS学園校舎には誰もいない。全員アリーナにて試合を観戦しているのだが、男にとってはそれはかなり都合が悪かった。もし一人でも生徒がいれば人質に出来たのだから。
(ただの高校生を攫うだけの簡単な任務じゃなかったのか⁉︎あれの何処が
男が上から伝えられた任務の内容は『世界で唯一ISを動かせる男子を連れ帰る事』。
ISが動かせるだけのただの男子高校生を拉致する事など自分にとっては朝飯前。さっさと仕事を終わらせて映画の続きでも見ようかと既に任務が終わった後の事だけを考えていた。
だというのに現実はそう甘くはなかった。
一緒に行動していた五人のうち二人は標的に会うよりも先に別れており、残る二人は既に標的であるはずの男子に捕獲されている。
一瞬の出来事だった。
歩いてきた標的を拉致しようと仲間二人がスタンガンを取り出し、当てようとした時、それよりも早く標的が仲間二人を沈黙させた。武器は疎かISを使うでもなくただの拳でだ。
そもそもISの展開は人間の反射能力の限界を超えない。それ故に男達は気付かれるよりも早くに意識を奪おうと画策していた為、気配は消して、かつ背後から接近したにもかかわらず、まるで初めから気づいていたかのように拳を叩き込んだ。
もしかしたら二人に何かしらミスがあって気付かれたのかもしれない。気付かれる可能性は低かったが、ゼロではなかった為、納得することも出来た。だが、問題はただの男子高校生が鍛え上げられた屈強なはずの大人を一撃の元に沈黙させた事だった。いくら防弾装備のされていない顔面を殴ったとはいえ、いくらなんでも異常過ぎる。
幸いにも気付かれる前に逃げ出す事が出来た為、被害は大きいが手が打てない訳ではない。
何かを手を打たなければ………男がそう考えた時だった。
「ん〜、逃げるのを諦めてくれた訳じゃなさそうだな」
「ッ⁉︎」
背後から聞こえる男の声。この状況で聞こえる男の声など限られている。そして言葉から察するにそれが味方でないことはすぐにわかる。其処からの男の行動は素早かった。転がるように横に移動すると懐から取り出した銃の引き金を引く…………はずだった。
懐から取り出したはずの銃は天井に埋まっており、次の瞬間男も数メートル先へと殴り飛ばされた。
壁に強く背中を打ち、男は気を失いかけるが何とか意識を保つ。
「加減し過ぎたか。やっぱりあんたらみたいな奴は首をへし折る覚悟で殴った方が良いな」
「お、お前………何者だ……?」
「全世界の……う〜ん、七割くらいは知ってるIS学園唯一の男子だよ。そんでもって生徒達を守る副会長様だ」
戯けた様子で答える標的ーーー藤本将輝に男は激昂しかけるが、ここで冷静さを欠くわけにはいかないと呼吸を整える。
「どういう事だ?お前はただの餓鬼じゃないのか?」
「ただの餓鬼だよ。あんた達みたいに人を殺した覚えはないし、裏の事情だってなーんにも知らない。だから捕まえるのさ。知らないなら教えてもらうまでだ」
「………良いだろう」
「ん?えらく素直だな。まあ、俺としてもなるべくスマートに終わらせたいからそれはそれでいい。それに抵抗しないっていうなら悪くはしないし……はい」
将輝はそういって男に手を差し出す。一瞬何をしているのかわからなかった男は取り敢えず差し出された手を握るが、将輝は違う違うともう片方の手でジェスチャーする。
「あんたが隠し持ってる凶器全部俺に渡してって意味。ナイフ、スタンガン、爆発物諸々、持ってるんだろ?ああ、後ワイヤーも。反撃して気絶したのを運ぶのは面倒だから」
「ッ⁉︎」
男は何でもないように自分の持っている装備を全て言い当てた将輝に硬直した。彼は組織の中でそういう事には長けた人物であったし、それを踏まえてこの任務に抜擢された。もちろんバレる可能性は考慮して、服の中にワイヤーを仕込んでいたにもかかわらず、それはあっさりと見抜かれていた。そして捕まったふりをして反撃に出る事も。
(まさかあの噂は本当だったのか……?)
実をいうと将輝の事については裏の世界でも噂があった。
ISに乗るためだけに造られた人造人間や子どもながらにして数多の戦場を生き延びた歴戦の傭兵という噂だ。
そのどちらも真実ではないのだが、その噂の根源はISが出現した際に乗れると判明しなかった事と過去の経歴が必要最低限以外存在しない事が原因だった。
世間に公表された事しかわからない。情報部が総力を挙げて調べたというのにだ。ともすれば根も葉もない噂が広がるというのはそう珍しい事ではない。故に男は聞いた。
「一つ聞きたい。お前は人間か?」
質問にしては限りなく無礼だ。前提として自分から見たお前は人間には見えないと言っているのだから。
流石の将輝もこの質問ばかりは目を丸くし、その後思わず笑ってしまった。
「人間か……ね。ク、ハハハハハハハハハ!」
「?何がおかしい」
「いや、あいつら以外に俺が人間である事を疑問視する人が出てきたのかって思うと、ついおかしくて」
言っている意味がわからないと男は首をかしげる。それもそのはず、彼等はIS学園生徒会の事を知らない。人智を超えた存在達の集まりを。
「まあ、あいつらと違って、俺はあくまで副作用でなってるだけだから、間違いといえば間違いだし、正解といえば正解だな。誰よりも人間に近いし、誰よりも人間から離れている。色んな意味で矛盾してるけど、それが
将輝は何処まで言ってもISと同化した事による副作用で得た人間の限界の力と未来で得た力で無双しているに過ぎない。後六年経てば経験がある為に負ける事などないだろうが、今のように圧倒的な強さを見せられないかもしれない。身体能力もISのエネルギーが無くなれば少し強いだけの一般人に戻る………と将輝は思っているが、残念ながら身体能力だけはその限りではなかった。そもそも人間がリミッターを外して行動すると必ず肉体に多大な負荷を受けて何かしら怪我を負う。それこそ虫一匹殺すのにもリスクを伴うのだが、将輝も例外ではない。たった八ヶ月の期間に自分の身体をこれ以上ないくらいに破壊し尽くした。痛覚神経がかなり鈍くなっていた事と元からそこそこ高かった自然治癒の力がさらに高められていた所為で将輝は例えIS抜きでも一般人とはかけ離れた肉体を維持する事ができ、そして日常茶飯事とも言える同じ生徒会役員達の行動が原因で高められた観察力などから考えるとやはり彼は人外と呼べる存在だ。
不意に将輝にプライベート・チャネルで通信が入る。掛けてきたのは楯無だった。
『副会長〜、そっち終わりましたぁ?』
「終わったよ。その言い方からするとそっちも終わってるみたいだな」
『もちろんです。副会長の命令ですから♪それでどうします?』
「尋問の方は楯無に任せる。こういうのには向いてないしな」
『任せてください。こってりと搾り取りますので』
プライベート・チャネルを切り、将輝は男の方に向き直る。
「と言うわけでこれから専門の奴にあんたを引き渡すけど、まあ素直に話してくれたら一昔前の警察の取り調べよりも断然優しいと思うから。まあ、どっちにしてもあんたには吐いてもらうけどね」
あれから一通り、校内を見回ってみたが、特に怪しい人物と俺が出会う事は無かった。
しかし、それはあくまで俺がというだけで、静やヒカルノや束達の方で見つけていたらしく、俺が捕まえた精鋭っぽそうな人を生徒会室に連れて行った時、何かいろんな国籍が入り混じっていた。
人権無視な気もするが、取り敢えず俺と楯無が捕まえた奴ら以外は全員束行き。流石に廃人コースはマズいので一応釘は刺しておいたが、多分無理だろう。あいつ滅茶苦茶笑顔だったし。捕まえた奴らの狙いは多分全員俺だ。その時点で生徒会役員全員の逆鱗に触れている事になるから、良くてトラウマ、悪くて廃人コースは確定だ。お疲れ様としか言いようがない。
「まぁぁぁぁくぅぅぅん!終わったよ!」
尋問が始まってから凡そ十分早くも束が帰ってきた。あれ?二十人くらいいた筈なのに五人しか尋問していない楯無より早いとはこれいかに。多分聞いちゃいけないような事をしてるのは間違いないな。
「それで?あいつらの親玉と目的は?」
「アメリカとロシアとフランスとドイツの特殊部隊らしいよ。目的はわかってると思うけどまーくんだね。国によって違ったけど、アメリカとフランスは自分達の所に国籍を取得を変えさせようとしてたみたい。多分、まーくんが正式に国籍を取ったのがこの学園に入学してからだからだろうね。後はロシアとドイツだけど……………」
何か変に深呼吸しだしたが、どうしたとは聞くまでもない。
今、束はブチ切れている。何故わかるかというと今までの経験だ。どんなにキレていても笑顔が消えない束から笑顔が消えているんだ。普通の人間なら逆かもしれないが、束の場合は寧ろ笑顔でない方がヤバいんだ。
「あいつら、まーくんを誘拐して人体実験しようとしてた。世界で唯一ISを動かせる男子をバラせば何かわかるかもしれないからだって。巫山戯やがって…………まーくん」
「あいつらを壊した事には目を瞑ってやるが、国を壊すのは容認しかねる。それが国のトップの意見で政府も満場一致で承認してるなら、そいつらを社会的に抹殺すれば良いしな。どちらにしても国を壊すのは世界のパワーバランスが崩れるから却下だ。第一、俺が生きているうちはお前にこれ以上世界を壊させるつもりはない」
「わかった。まーくんがそういうならやめておくね。でもでもー」
「うん?」
「その代わりにいーっぱいご褒美ちょうあ痛っ⁉︎何で!何でさ⁉︎我慢してあげたんだから、ちょっとくらい良いじゃん‼︎キスの一つくらいしてくれても良いじゃん‼︎」
「阿呆。今はトーナメント中だ。それは全部が終わってからだ」
「よっしゃ!じゃあお掃除続けてくるぅ〜」
そう言って束は生徒会室から走り去る。という事はまだ他の国の人間が………或いは奴等か………。
まあいい。どちらにしても目的は俺だ。他の生徒で無ければそれでいい。
「覚悟しとけよ。悪党ども。俺の命は世界よりも重いらしいぜ?」