IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜   作:幼馴染み最強伝説

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大戦が始まる前の過去回想。

三話あたりでは地の文の軽く済ませましたが、今回はそれを掘り下げてみます。本編の特別ストーリーと多少違いはありますが、ご了承下さい。

一回で終わらせられなさそうなので、二回か、三回に分けます。




秒速五センチメートル

 

「失礼します」

 

時刻は午後八時。俺は学園長室にいる轡木さんの元に足を運んでいた。

 

ここに来た理由はただ一つだけ。俺達がこれから起こす行動のことだ。

 

「藤本くんですか。どうしたんですか?」

 

「実はどうしても学園長には行っておかなければならない事がありまして」

 

「おや、よほど重要な事のようですね」

 

重要どころじゃない。何せ、成功すれば世界の名だたる有名人が軒並み豚箱行きなのだから。表に顔が知れ渡っている以上、誤魔化す事は出来ないし、隠す気もないけどな。

 

「一週間後。生徒会(俺達)は亡国企業に喧嘩を売ります」

 

「…………本気ですか?」

 

流石の轡木さんも俺の発言には目を見開いた。驚愕と疑惑、そして諦めの感情が感じ取れる。察するに俺達が亡国企業と喧嘩をするという発言に驚き、その答えに至った思考を疑い、止めても無駄だと諦めたというところだろうか。

 

「本気ですよ。こんな冗談言っても意味ないですから」

 

「…………正気の沙汰とは思えない。いくら君達でもあの規模の組織と戦うのは無謀極まる行為です、今すぐ考え直すべき…………と言いたいところですが、何故でしょうな。無謀極まると思う以上に君達ならやってのけるのではないかと期待している私がいるのは」

 

「それに止められたとしても俺達は動きますよ。俺が学園長に言いに来たのは、此方に亡国企業の刺客が攻めてきて、迎撃システムと護衛が戦ってドンパチ始まっても心配ない事。もう一つは何かの間違いで俺が死んだとしても自分が止めなかったからと思わない事です。責任感の強い貴方ならもし俺達の中で誰かが命を落とした時、自身を責めるでしょう。ですが、これは俺達自身が選択した結果だ。どうなろうと悪いのは俺達だ。それを肝に銘じておいてほしい」

 

「ええ。わかっていますよ。全ては君達が選んだ結果。私がどうこう言えるものではないし、私自身、君達がその選択の果てに何を失い、何を得ようと一切関係はありません………懐かしい響きですな」

 

いきなり何かを懐かしみ出したんだが………そんな要素あったか?

 

「今、私が言った言葉は昨年、貴方が私に向けて放った言葉ですよ、藤本くん」

 

「…………そう言えば、そんな事言ってましたね」

 

轡木さんに言われて思い出した。

 

此処に残る旨をこの人に伝えに来た時、俺は先程轡木さんが言った言葉を言い放った。今思い出すと少し恥ずかしいが、正直言って、あの時のあの言葉は俺自身を納得させる為のものでもあったような気がしてならない。昨年のあの日…………俺がこの世界に残る事を決めた日の出来事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇一年前◇

 

「まーくん。やっぱり帰っちゃうんだね……」

 

「悪いな、俺はあの時代に生きなきゃいけない人間なんだ」

 

項垂れた束の頭を撫でてそう言い聞かせる。

 

俺と千冬、束、静、ヒカルノの四人は俺がこの世界に飛ばされてきて目が覚めた場所であるアリーナの更衣室に集まっていた。

 

こんな所で何をしているのか?と聞かれれば、答えは簡単。俺が本来いた七年後の未来に帰るためだ。

 

俺、藤本将輝はこの時代の人間ではない。いや、正確に言えば俺と同じ存在はいるのかもしれないし、いないかもしれない。だが、自我も何もかもが俺と同じ人間は少なくとも五年後にならなければ現れない。それが俺という人間がISの世界に生み落とされた日付けだからだ。

 

「将輝にとっては一瞬、私達にとっては七年か…………一時の別れにしては長いな。特に想い人との別れは」

 

「その時には千冬は教師で俺は生徒だから、再会したからっていきなり抱きついてくるなよ?」

 

「無茶を言ってやるな、将輝。こういう事に疎い私でも七年という期間は永遠に近いものだと感じるんだ。再会すれば理性で考えるよりも身体が動くのは仕方ない事だと思うぞ?」

 

「それだとシスコン軍曹が黙ってないから面倒なんだ」

 

シスコン軍曹というのは一夏の事だ。あいつ、千冬の事になると温厚な雰囲気から千冬に匹敵するだけの威圧感を放つシスコンの権化に変わるからな。言葉にするとものすごくダサいけど。

 

「私も七年くらい冷凍睡眠でもしようかな………」

 

「おいおい、流石にそれはやりすぎだろ」

 

気丈に振る舞う千冬と静とは対照的にヒカルノは束同様、目に見えて落ち込んでいた。だが、俺にしてやれることなんて何もない。慰めの言葉なんてかけるだけ無駄だ。それにヒカルノが七年も眠ってたら原作に少なからず影響が出るはずだし、学籍だってないだろう。何より二十二歳でまだ国立の高校生とか洒落になってない。

 

「それじゃ、俺帰るわ」

 

あまり引き摺りすぎても良くないと思い、俺は擬似タイムマシンの前に立った。

 

これに入り、束がスイッチを入れれば、俺は晴れて未来への帰還を果たす。

 

一夏や箒、セシリアにラウラ、鈴やシャルロットのいる本来俺がいるはずの時間へ。

 

目の前の装置の中に入れば全てが解決するのだ。ここに来たのはほんの事故。俺はいるはずのない人間であり、彼女達は俺がいなくても自らの道を進み、それぞれの実利に見合った地位を手に入れるだろう。

 

何も心配することなんてない。未来に帰れば千冬達とはまた会える。わかっているんだ………わかっているのに…………俺は後一歩が踏み出せないでいた。

 

腹は括ったつもりだった。今の時代にいるのは何もかも偶然の産物で、俺が望んでいるわけではない。未来で生きる事こそが俺の生きる道だと信じていた。

 

けれど、未来に帰ろうと思った途端、俺の脳裏を様々な出来事がよぎる。

 

四人との出会い、半ば無理矢理巻き込んだ掃除、真耶のお蔭で事なきを得たテロリスト討伐、全校生徒に祝われた人生最大規模の誕生日、そしてーーー彼女達の想いを知った学園祭。

 

走馬灯のように俺の頭の中をぐるぐるとこの二ヶ月の記憶が回っている。振り回され、気苦労が絶えない毎日。未来と違って、肉体的にも精神的にも負担の大きい毎日ではあったが、その日々は確実に俺の心の奥深くに根付いていた。

 

ーーー俺の本当に生きるべき時代………いや、生きたい時代は原作(未来)ではなく過去(現代)だ。

 

そう思った瞬間、俺は《無想》を展開し、目の前の装置を叩き斬っていた。

 

「え、ちょっとまーくん⁉︎何してるの⁉︎」

 

俺の突拍子のない行動に束が……いや、俺を含めた全員が驚愕していた。

 

叩き斬ってしまった本人が驚いているんだ。俺が未来に帰ると思っている四人からすれば何考えてるかわからないだろう。

 

でも、これが俺の答えだ。四人の想いを拒否しながら、結局それに後ろ髪をひかれるどころか完全にこちらに繋ぎ止められてしまった。最早俺の日常はあちらではなく、こちらとなってしまった。何て信念の浅い男なのだろう。こうもあっさりと心変わりをしてしまうのだから。

 

「あーあ、ついうっかり手が滑って壊れちまった」

 

わざとらしく、戯けた口調で言う。

 

普段は俺がこういうのに対してツッコミをいれるのだが、その俺が言っているために誰も何も言わない。いや、もしかしたらツッコむ気など毛頭ないのかもしれない。

 

「つーわけで、また装置が出来るまで当分ここにいていいか?作ってもまたぶっ壊すかもしれないけどよ」

 

俺は《無想》を収納し、振り返りながらそう告げる。

 

四人は一体どんなリアクションをするのだろうと少しだけ緊張気味に振り向いた俺の視界に映ったのは、四人の泣き顔だった………何でだ⁉︎

 

え、遠回しに俺残るって言ってるのに⁉︎なんで泣いちゃうの⁉︎あんなこと言っといて、実は嫌だったってオチですか⁉︎それはないよね?それだけはないよね?もしそうだったら俺死ぬよ?鬱病待った無しだよ?

 

「えーと……皆さん?何故に泣いてらっしゃるのでせうか?」

 

俺の質問に対する答えはなかった。だが、その代わりと言わんばかりに無言で歩いてきた千冬が俺に抱きつきながら唇を重ねてきた。

 

学園祭の時のように二、三秒ではなく、まるで俺が本当にここにいるのを確かめるかの如く、抱き締める力は強くなり、キスの時間も長かった。

 

十数秒経ったのち、ゆっくりと千冬は俺から離れて瞳に涙を浮かべたまま、笑顔でたった一言こう告げた。

 

「ありがとう」と。

 

それが何に対しての礼なのか、俺にはわからない。わかるのは言った千冬とその後ろで何か俯いて震えている束達だけだろう。でも、無理に今わかろうとする必要はない。これからまた彼女達の事を知っていけば良いだけの話なんだから。

 

「そんな訳でこれからもよろし「「将輝《まーくん》〜!」」うおっ⁉︎」」

 

良い感じに締めようとした俺の言葉を遮って飛びついてきたのは束とヒカルノだった。今回ばかりは流石に油断していた所為か、踏ん張り切れずに床に倒れた。

 

「おいおい、泣くなって」

 

「無理言うなよ〜……グスッ………びえええええん……」

 

「まーくんが……まーくんが悪いんだから………ふええええん……」

 

うおおおい、びえええええんってなんだ。女子の泣き方じゃねえだろ。束は思ったよりも普通の鳴き方だったけど、二人とも作画的に言うと目がバツみたいな感じで大粒の涙が出まくっている感じだな。ていうか、鼻水も凄い。まあ今回ばかりは許してやるか。後、二人の胸部装甲の押し付けられ具合も凄い。

 

二人の号泣具合に苦笑しているとすぐ近くに静が立っていた。その所為で下着が普通に見えてしまったのだが、本人は気にせず屈むと千冬同様に無言で唇を重ねてきた。違うとすればその後だ。ただキスをしてきただけではなく、ディープだった。なんて言うか感動の場面?が色々と台無しだー!

 

「……ぷは……ご馳走様」

 

「お粗末様でした………じゃねえ!普通ここでするか⁉︎何か違くねえか⁈」

 

「いや、七年待つと考えていた分、将輝が残ると言った途端、我慢が効かなくてな。反省も後悔もしていない」

 

ダメじゃん⁉︎せめて反省か後悔のどっちかはしようよ!まあ、こういう好意の向けられ方は男としては役得だけどさ。あんまりされるとレア度が減少する気がしてならない。

 

「あー!ちーちゃんに続いてシズちゃんまで!これは私もするしかない!」

 

「タバねんもするなら私もするぞ!将輝!拒否したら泣くからな!」

 

いや、もう泣いてるし。ていうか、この押し倒されている状況でどう逃げろと仰いますか、貴方様は。

 

俺は一時的にキス魔と化した四人の攻撃に晒され続ける事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、藤本くん。まだここにいたのですか?」

 

「ええ、まあ」

 

引っ付いてくる四人を引っぺがして来たのは学園長室。夜遅い突然の訪問に加え、轡木さんも俺が今日学園を離れる事を知っていたから、ここに今俺がいる事はそれなりに驚いているだろう。

 

「ここを離れる前の挨拶と言った所ですか?」

 

「あー、残念ながらそれは違います」

 

「では、何か忘れ物でも?」

 

「いえ、そういうわけでもありません。夜遅くで申し訳ないんですけど、改めて貴方には挨拶をしておくべきだと思いまして」

 

「ッ⁉︎………それはつまり……」

 

「はい。俺はこの学園に残ります」

 

俺がそう告げるとソファに深く腰を下ろしていた轡木さんは勢い良く立ち上がった。その表情は驚愕に包まれていて、今までの柔和な表情からは想像もつかない。

 

「それは一時的なものではなく、彼女達と共に卒業する……という意味ですかな?」

 

「はい。どうやら俺の居場所はもう此処だったみたいです。なので、急ですみませんが俺を仮ではなく、本格的にIS学園の生徒として是非入学させてくれませんか?」

 

「もちろん構いませんよ。貴方が此処に残る事を願っていたのは何も彼女達四人だけではありません。この学園に存在するほぼ全ての人間が貴方と共に日々を謳歌する事を願っていましたから」

 

それは言い過ぎだとも思うが、そう言われて悪い気はしない。

 

誰かに必要とされるのも、共に日々を謳歌する事も、多分こちらでなければ得られないものかもしれない。

 

だから感謝しなければならない。七年後の束に。俺を過去に飛ばしてくれてありがとうと。

 

「さて、そうと決まれば、藤本くんの編入手続きを済ませましょう」

 

「いえ、それは明日でも良いですよ」

 

「遠慮する事はありませんよ。何事も善は急げと言いますし。藤本くんが大きな選択の結果、ここに残ると決めてくれたのなら、私も張り切らないといけませんしね」

 

「無理はしないでくださいよ。一応、世間一般ではお爺さんなんですから」

 

「まだまだ現役ですよ。これでも『生涯現役』モットーですから」

 

この人何処ぞの暗殺一家のお爺ちゃんみたいなこと言うな。まあ、生涯現役がモットーというのは良いことだ。仕事を続けられるというのはそれだけで健康維持に繋がるからな。

 

「ところで藤本くん。私がこんな事を君に忠告するのは些かおかしいかもしれませんが…………ここに残る事を絶対に後悔しないでください。本心でも冗談でも、です」

 

「後悔ですか?しませんよ。それにこれは俺が選んだ結果です。貴方にも千冬達にも、どうこう言わせません。その選択の果てに俺が何を失い、何を得ようとも、全ては俺が招いたり結果ですから」

 

「………そうですか。すみませんね、こんな不躾なことを言ってしまって」

 

「いえ、此方としても改めて自分の意思を確認出来たのでありがたかったです。ではまた明日。全校集会で会いましょう」

 

俺は軽く頭を下げて、学園長室を後にした。

 

 

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