IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜 作:幼馴染み最強伝説
秋も深まり、程よい気温が徐々に冷たさを帯びてきた頃。
俺のクラスではとある話題に授業もそっちのけで盛り上がっていた。
以前、俺達が亡国企業を壊滅させた時も約二週間はフィーバーしまくって収拾がつかない状況が続いていたが、こちらもこちらでなかなかに騒がしい。
因みにその話題というのは学生にとっての一大イベントの一つでもある修学旅行だ。
体育祭だと思った奴らもいるだろうが、残念だったな。ここ最近の事を考えて、今年も体育祭はなかったよ。つまり来年に持ち越しという訳だ。まあ、来年になれば一年、二年、三年と漸くマトモな学校らしくはなるのでそちらの方が楽しいだろう。
彼女達が楽しそうに話し合っているのはその修学旅行の行く先。京都か北海道かはたまた沖縄かとやいのやいのと騒がしい。その気になれば国外にでも行けそうな気もするが、一ヶ月半程前に世界でほぼ知らない人間いない超有名人にクラスチェンジを果たした俺が海外旅行を満喫出来るはずもない為に国内限定となった。その辺り、彼女らに申し訳ないが、皆口を揃えて「副会長と行けるならどこでも良い」と嬉しい事を言ってくれた。あの時は本当に泣きそうになった。
「さて、そろそろ決まったかー?」
「決まりました!」
「そっか。何処になった?」
「副会長に決めてもらいます」
あれ?さっき決まってるって言ってたよね?何でそこで俺?おかしくね?
「私達で話し合ったんですけど決まらなかったので、副会長に決めてもらうで満場一致になりました」
ああ、成る程。決して途中で面倒くさくなったとかでは無いならいいや。
「じゃあ北海道で」
「北海道決定でーす!」
なんとなく東北の方には行ったことがなかったから北海道をチョイスしてみたら、だれも迷うことなく頷いた。本当、俺って宗教団体の司教様か何かになれるんじゃないかな。ならないけど。
「行く場所も決まったし、部屋割りは皆で決めてくれ。先に行っておくけど、
安定の同室。俺だけ別室にしてはいただけないのだろうかと抗議してみたところ、見事会長権限で捩じ伏せられた。千冬さんや、そういう時だけ会長権限を行使しないでいただきたい。
「いいなぁ、織斑さん達。副会長と同室なんて」
「トーナメントに優勝すれば同じ生徒会で同室になれたのに……」
あ、それは今言っちゃダメだ。
後方から重たい空気を感じてそーっと振り返ってみると、案の定ミハエが頭を抱えていた。
「………失策だったわ」
真耶に生徒会入会の権利を譲った事を相当後悔しているらしい。今の今まであまり気にしていない雰囲気だったのに、修学旅行で生徒会の人間は同室というのを聞いた途端にこの世の終わりと言わんばかりにミハエは後悔している。
………何か見てたらものすごく可哀想に見えてきた。
「あー、ミハエ?」
「………将輝くん。どうしたのかしら?」
テンションが凄まじく低いせいか、反応がやや遅れていた。千冬達もそうだが、通常のテンションなら俺が言葉を言い終えた直後くらいには話し始めているのに。あいつら、滅茶苦茶早い。
「何ていうか、自由時間があるし、あまり気を病むなよ。せっかくの修学旅行なんだ」
「それも……そうね。けれど、私が気にしているのはその事ではないのよ?」
?他に気にするような事なんて………あった。
「私がいない間に先を越されるのが嫌なの。私だけ遅れているなんて嫌じゃない」
「その辺は安心しろ。絶対に耐えきる」
修学旅行で思い出作って、子どもも作るとかやば過ぎる。
「本当に?いくら貴方でもそろそろ限界ではなくて?」
「最悪、自分で意識を断つから」
「つくづく化け物ね、貴方。だからこそ、信用は出来るのだけれど」
うん。ちょっとは元気が出たみたいだな。良かった良かった。ただ、自分で意識を断っても強制的に叩き起こされる可能性が無きにしも非ずだが、何とかなるか。
「そういえば、一つ言い忘れていた事があったのだけれど、ここでは話せないから廊下で良いかしら?」
「一応授業中だぞ」
「殆ど自由時間のようなものよ。それにこれは先の一件に関係のあることだから」
真剣な表情でそう言うミハエ。先の一件という事はあれしかない。確かに一般の生徒に聞かれるわけにはいかないだろうな。おそらく、それは国家の意向そのものだろうから。
「千冬」
「どうした?」
「ちょっと大事な話があるから、皆が盗み聞きしないようにしておいてくれ」
「わかった。後で私達にも聞かせてくれ」
これで盗み聞きされる事は無くなったな。今回ばかりはされると厄介だ………色んな意味で。
「さて、盗み聞きされる心配はなくなったぞ」
「そうね。先ずは何処から話したものかしら…………」
ミハエは顎に手を当てて、考える仕草を見せた後、一つ頷いて口を開いた。
「私達は何時貴方と籍を入れる事になるのかしら?」
「え?なんだって?」
重要な話だと思っていた俺はミハエの放った言葉に思わず、難聴系主人公にクラスチェンジしてしまった。
いや、だってこの状況でそんな冗談ぶっこんでくるとは思わないから仕方ないじゃん?
「心外だわ。本気で言っているのよ」
そうだった。こいつらは真剣にそう考えているんだった。もちろん、俺も真剣にその事は考えているが、今話すような事ではない。というか、最早心を読むのは当たり前なんだな。
「関係ない……と思っているところ悪いのだけれど、かなり関係があるわ。女尊男卑の傾向があるとはいえ、男女が婚約すれば大体の人の姓は男性のものになるわ。私だってそうするつもりだもの。それに棲む家に関しても同じ家になるはずよ。そうすれば私は祖国であるイギリスではなく、この国に滞在する事になるわ」
「それがどうしたんだ?」
「貴方の事について先日、イギリス政府が結論を出したわ。「刺激せずに可能であればイギリスに引き込め」だそうよ。そんな事無理に決まっているのに。私が落とされたのであって、私が落とした訳ではないのに。馬鹿な人達ばかりで困るわ」
やれやれミハエは溜め息を吐く。聞いた感じだと、俺の扱いはさながら核爆弾もびっくりの破壊力を持った不発弾ってとこか。何時牙を向けられるかわからないが引き込んでしまえば他国を牽制するどころか確実に世界のトップに君臨することが出来る。そんな相手の奴を刺激せずに引き込むには最早誘惑しか方法が無いわけだ。ミハエはイギリスでもアイドル並みの容姿と人気を誇っていて、言い寄ってくれば鼻の下を伸ばさない男子はいないだろう。だが、それはあくまでも殆ど初対面に近い状態にしか通じない上に俺とミハエの関係は既にそれを超えているのだ。誘惑もへったくれもない。
「安心して。私は貴方の為なら祖国なんて捨てるわ。イギリスが貴方屠ろうと動くなら、私はイギリスを屠る為に動くわ」
「嬉しいけど、出来ればそうならないように頑張る。家族や国を捨てるっていうのはあまり良い選択じゃないから」
「………失言だったわ。ごめんなさい」
そう言ってぺこりと頭を下げられた。俺は本当に言葉の通りの意味で言ったのだが、おそらくミハエは俺が未来人であるがゆえに家族も帰る場所もないという事を気にしていると取ったのだろう。確かに実質的に家族を捨てた事を気にしていないわけではない。だが、憑依者という特別な存在でもある俺は未来で生きていた時よりも今の生活の方に充足感を感じている。帰る場所も皆がいる場所がそうなんだ。
「ま、俺が死ぬまで静観を決め込んでくれるとありがたいんだが、そういうわけにもいかないよな」
「ええ。あり得ないとは思うけれど、貴方を潰すためだけに全国家が手を結びでもしない限り、仕掛ける事はしないでしょうね。もっとも、手を結んだところで貴方が負けるとは思えないけれど」
「流石に無理………でもないか」
ミハエに言われて、考えてみたがいけそうな気がする。
核ミサイルなんて叩き落せばいいし、ISにハッキング出来るようなやつもいない。おまけにIS戦で俺に勝てるやつなんて片手で数えるくらいでそいつらは全員俺の味方。負ける要素が見当たらなさすぎる。さりげなく日本の軍事力が世界を敵に回しても圧倒できるレベルになってた。
「それでも気をつけてちょうだい。貴方の行動一つで世界は揺れる事になるわ。数年先がどうなっているかはわからないけれど、少なくとも今この時点では貴方を中心に世界が回っているという事を覚えておいて」
「大袈裟だな。それに俺がそんなに危なかっしい奴に見えるか?」
「ええ。何せ、私達に危険が及んだという理由で大規模なテロ組織を潰したくらいだもの。何をしでかすかわからないわ」
クスリと微笑を浮かべ、ミハエはからかうようにそう言った。言い返せないところが何とも悲しい。これからは多少は自嘲しよう。
「一応、イギリスの代表候補生として貴方の答えをイギリス政府に伝えておきたいのだけど」
「そうだな…………俺に何かしてくるのは構わないが、この学園に手を出すなら、国家滅亡くらいの覚悟はしてから来いとでも言っておいてくれ」
「ふふっ………それは怖いわね。わかったわ、イギリス政府には一言一句、間違えずに伝えておくから、先に教室に戻っておいてくれるかしら」
「わかった」
そう言って教室の扉を開けると…………目の前に千冬がいた。何やってんだ。
「盗み聞きか?後で教えるって言ったはずだが?」
「特にする事がなくてな。暇を持て余したからなんとなく」
じゃあ自主勉強とかしてろよ………何故に盗み聞き。別にいいけどさ。
「それよりもだ。先程の話、本当なのか?」
「ミハエに嘘をつくメリットはないな。嘘なら結構、本当でも………別にいい」
「お前は全世界と敵対するつもりか?無謀にも程がある」
「仕方ないさ。向こうが勝手に俺を危険人物扱いしてるんだし、何より千冬達まで巻き込む訳にはいかないからな」
「今更何を言うか。将輝がこの時代に残った時点で私達は運命共同体のようなものだ。巻き込む云々ではない。もし全部わかった上での今の発言なら流石の私でも怒るぞ」
やや怒り気味の声音で千冬が睨みを利かせてくる。千冬がこんな目を俺に向けてくるのはいつぶりだろうか。ひょっとしたらこの時代で会ったあの日以来かもしれない。怒るぞとは言いつつも割と怒ってるという事か。
「悪い。軽率だった」
「わかってくれればそれでいい」
ふぅ、と千冬は溜め息を吐くと既に彼女から怒気は消えていた。いや、もしかしたら怒っている振りをしていただけかもしれない。どちらにしても千冬には不服だったという事だろうが。
けど、俺は千冬達の事が大切だ。傷ついて欲しくないし、彼女らが何かを捨てざるを得ない選択をしたくはない。彼女らには普通の生活を送ってほしい。俺は四年後の未来に生まれ落ちた時から既にイレギュラーだった。普通なんてありえない。そもそも俺そのものが普通ではないのだから。
なればこそ、俺は俺に出来るやり方で彼女達を幸せにする。それがトゥルーエンディングではなくとも、ハッピーエンドなら構わない。いつの時代も真実を知る事こそが最も残酷な事なのだから。