IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜 作:幼馴染み最強伝説
「はぁ……片方は試合に満足して辞退。もう片方は試合続行不可能って……フリーダムすぎない、君ら?」
額に手を当てて溜息を吐く俺。
目の前にはIS学園の制服に着替えたセシリアと床に座り込んでいる一夏、腕組みをして立っている箒がいた。
試合結果は一夏の勝利で幕を閉じた。それまではスムーズだった。
しかし、その後が問題だった。
一夏に負けたセシリアが『最強の弟子の実力、しかと拝見させていただきました』とか言って、満足げに辞退。一刀修羅を使った一夏は試合後ISを解除すると同時にぶっ倒れる始末。以前のように指一本動かせないなんて事はないものの、そのせいで箒が手持ち無沙汰な状態に陥ってしまっていた。
終いには箒も『不戦勝でクラス代表になるのは本意ではないので辞退します』とか言っちゃうし。何このクラス。問題児多すぎない?校則をなんだと思っとるんですか。
流石にこのアリーナを使うのは一年生だけじゃない。他の学年やクラスもあるし、そのためにまた占領するわけにもいかないし……。
「仕方ない。織斑。消去法でお前がクラス代表しろよ」
「え、でも箒とはまだ……」
「そんな暇ない。やりたいなら今やれ。絶対負けるから」
「うっ……だからまた別の機会に……」
「あのなぁ……俺は神様じゃないし、俺としても後腐れのないようにはしてやりたいが、三年生は大切な時期、二年生も漸く本格的に企業やらにアピール出来る機会を得たわけだ。そんな中で訓練時間を削らせて、お前達に試合をさせるわけにもいかない。諦めて、放課後に正規の手続きを済ませてから、その時に試合をしろ」
「諦めろ、一夏。お前が私と闘うことを忘れて、全身全霊をかけて一試合だけに臨んだ事は、私からは何も言わん。ちょっとだけ苛立ったが。今回は譲る」
「……いいのか?」
「ああ。私にクラス長は向いていない事はわかっていたし、元より試合の後は結果がどうであれ、辞退するつもりだった。私はあくまで一夏やオルコットと闘いたかっただけだ」
帯刀している刀を撫で、箒は言う。
箒の専用機は変わらず紅椿ではあるものの、残念ながら第四世代だという事はない。
というのも、最初は妹大好きな束は原作同様にどんな状況でも即時対応できる万能期待を創るつもりだったのだが、箒が『そこは操縦者の腕にかかってくるので、私がどうにかします』と言って、拒否した。
だから自己進化機能もなければ、高度な操縦者支援システムもない。絢爛舞踏はあるものの、性能自体は開発当初と大きく変化し、結果『限りなく第四世代に近い第三世代』となった。
なんとも箒らしい事ではあるものの、あえて中途半端に作らざるをえなかったことには少しだけ束も不満はあったらしい。最初は近接ブレードだけだったらしい武装も、弓や籠手などの武装を追加したんだとか。
「よし。じゃあ、クラス代表は織斑って事で……」
千冬に報告しに行くか、そう言いかけて、ポケットに入れていた携帯が震えた。
通話ボタンを押そうと画面を見た時、その相手を見て、どっと疲れが湧いた。
……そういや、こいつも最近は白式の開発とかで会ってなかったなぁ。
「……もしもし」
『やあやあ、まーくん。元気してるー?』
スーパーウザいテンションで電話をしてくるのかと思いきや、少し前に会った時と変わらない落ち着いた雰囲気で電話の相手……束はそう言ってきた。
「今、勤務時間だぞ。私事なら後にしてくれ」
『しょうがないじゃん、まーくんに最近全然会えなかったし。本当なら最高速フォーリンラブな私としては、貴方の胸に突撃ラブハートしたいんだけど、ISの事で忙しくて、それどころじゃなかったし。今、ようやく終わったところ』
「ようやくって……お前またIS創ってたのか?」
『創ってた……っていうのには語弊があるかな。少し改造をね』
少し、ね。
束のいう少しとは、常人の大幅を指す。つまり、その改造されたISは元の性能をぶっちぎり、何を目的に作られた機体なのかわからなくなっている可能性がめちゃ高い。
「お前……またやりすぎてないよな?」
『ぶぅー。まーくん、私をなんだと思ってるのさ。ちゃんと操縦者の意思を尊重して改造したもん。何せ、私の愛弟子の専用機なんだから!』
電話越しでもあいつが胸を張ってドヤ顔で言っているのがわかる。成る程、合点がいった。鈴の専用機なら、こいつが手を出していても何らおかしくない。
『本当なら一から十まで私が作ろうと思ってたんだけどねー。それじゃ中国に肩入れしてるみたいだし、嫌だなぁって思ったから、完成間近のISを鈴ちゃんが私に流してくれたんだ』
「流したって……どんな方法使ったんだ?」
『多分まーくんの名前出したんじゃないかな?まーくんの事をちゃんと知ってる人なら、喜んで流してくれると思うよ?知らない馬鹿なら怖がって土下座して渡してくれるだろうし』
結局のところ、渡してくれるという事態は変わらないらしい。そしてどっちも事実なのがなんとも言えない。
『そういうわけだから。近々、鈴ちゃんもそっちに行くからよろしくね~』
「とかなんとかいって、お前も来るんだろ」
『イエス、サー!さっすがまーくん』
そんな事だろうと思った。
四六時中一緒にいたいと嘯く束が、よりにもよってようやく落ち着いたというのに、俺に会いに来ないわけがない。
「普通に来いよ。またわけのわからんもので来たら、追い返すからな」
『わかってるよー。鈴ちゃんと一緒に来日するから、お迎えよろしくね』
「いや、俺学園で教師やって……聞いてねえよ」
もう電話は繋がっていなかった。都合が悪くなると、一方的に会話を切るというのは束の悪い癖だ。治すつもりがないというのもタチが悪い。
「……姉さんですか?」
「ビンゴ。今度IS学園に来るってさ。で、俺がそれを迎えに行く」
「そうですか。……はぁ」
額に手を当てて、露骨に溜息を吐く箒。
因みに嫌がっているわけではない。面倒くさがってはいるかもしれないが、扱いは蔑ろにしないし、毒を吐くが嫌ってはいない。寧ろ、箒も若干シスコンの気がある。
「篠ノ之博士がいらっしゃるのですか?とても楽しみですわね」
「あー、オルコット。あまり期待はしないほうがいいぞ。相手にすると酷く疲れる……主に精神が」
「はい?」
「師匠の言う通り。多分ミハエさんの弟子だから、すごい構ってくれるけど」
「??」
「最終的には鬱陶しくなる。その時は適度に張り倒していいぞ、オルコット。私が許可する」
「あの、皆様が言っていることがわたくしにはよくわからないのですが……」
「「「いずれわかる」」」
「はぁ……?」
こてんと首をかしげて、わかったようなわかっていないような返事をする。まあ、篠ノ之束を知らない人間からしてみれば、俺達の言ってる事はいまいちよく理解できなくて当然だ。後で嫌ってほどに理解できるけど。
それはそれとして、束の事は報告しておかないとな。頭を抱えるだろうが、何も知らないよりかは幾分かマシだろう。
side out
ドンッ!
山の中に響き渡る打撃音。突然の出来事に山の生物達は蜘蛛の子を散らすかのようにその音がした方向とは逆方向に向かって逃げていく。
二発。三発と響き渡る打撃音。
そして四発目が打ち込まれた時、メキメキッという音を立てて、木が半ばから折れ、倒れる。
「ふぅ……これで五本目。師父ー、これでいいですか?」
手をパンパンと叩き、道着に身を包んだ少女は離れた場所でキーボードを叩いている師父ーー篠ノ之束へと問いかける。
「いいよー。うんうん、鈴ちゃんも四打で折れるようになったんだね。最初に比べれば凄い成長だよ、さっすが私が見込んだだけの事はあるよ」
「いかにもあたしの才能があるみたいにいいますけど、科学的に理に適ってるだけのトンデモ理論特訓してれば誰だって強くなりますよ。ていうか、あれであたしよく生きてたわね」
過去を思い出して、げんなりする鈴。
束の弟子になった当初、あまりの無茶苦茶ぶりに何度ブチ切れたか分かったものではない。
束は天才だ。無駄はないし、全てにおいて効率はいい。
だが、当事者のことを全く考えておらず、剰えどんなにズタボロになってもすぐに治される。疲れたから、怪我してるから、などという言い訳は一切通じない。
「いいじゃんいいじゃん。鈴ちゃんは強くなれたわけだし、いっくんや箒ちゃんにだって負けないくらいに育てたつもりだよ」
「あたしもそのつもりです。これで僅差ならともかく、大きく差が開いてたら、今までの地獄がなんだったのかって叫びますから」
「安心していいよ。鈴ちゃんに教えたマジカル八極拳は間違いなくいっくんたちに通じるし、
「師父がそういうんだから、そうなんでしょうね。師父の言ってる事ってムカつくくらい当たってるし」
「天才だからね。当然のことだよ」
「ほんっと、腹立つ」
思わず顔面に向けて掌打を叩き込んでやろうかと思う鈴だが、以前は指二本で止められ、そしてそこから命懸けの組手に発展したのを思い出して止める。
先程、鈴は四打で木をへし折ったが、束は鈴が折ったものよりもずっと大きい木を一撃で殴ったところを爆散させた。
強くなればなるほどわからない。あの時自分の目指すといった領域が。
「さ、鈴ちゃん。日本に行く準備しよう」
「あれ?確か行くのはもう少し先の話じゃ……」
「ISも完成したし、鈴ちゃんも強くなった。これ以上ここに留まり続ける理由はないよ。明日にでも出発しよ」
言っている事は正しい。
中国に鈴がいたのは、国家代表候補生になるためであり、束が「八極拳を学ぶなら本場にいた方がいいよね」というよくわからない理由でいた。
そして国家代表候補生となり、専用機持ちとなった以上、ここに留まる理由はない。
ないのだが……。
「師父……さては将輝さんに早く会いたいからって急かしてる?」
「そだよ。それが?」
「うわー。隠す気すらないわー」
「そういう鈴ちゃんもいっくんに会いたいでしょ?勝負抜きにしても」
「そりゃ、まあ。初恋の相手ですし。今でも大好きだし。今すぐにでも」
「うわー。この子も大概だなー」
この師にしてこの弟子あり。
束の弟子になったせいか、なんだかんだで鈴も欲望にいささか忠実になっている節があった。
「ま、でもいいか。鈴ちゃんはいっくんに会いたい。私はまーくんに会いたい。意見は一致してるし、どちらにしても少し早くなるだけの話だから、問題ないでしょ」
「まあ、あるといえばあるんですけど……師父には関係ないか」
もちろん大有りである。
鈴がIS学園に入学するようになったのは、政府の人間から直々のお達しだ。即OKは出したが、政府にも準備はある。入国手続きやらなにやらそれはもう色々。
しかし、束にそんな都合なんて関係ない。そんなどうでもいい人間達の都合は全力スルーだし、束には入国手続きなんてものは必要ないので「後から勝手にやれ」といった具合だ。
「お家に帰ろー、お母さんのご飯待ってるよー」
「本当にフリーダムだなぁ、この人」
両親と一緒に中国に渡り、かれこれ二年弱。
当たり前のように鈴の家に居候した束は、当たり前のように家族の一員となり、これまた当たり前のように馴染んでいる。
自分が認めた人間だけには素晴らしい適応能力とコミュニケーション能力を発揮する束に最早鈴自身、つっこむのも煩わしくなったが、両親もそれを平然と受け入れている。明日には中国を発つと言っても、束が関係していて、一緒に行くと知れば、笑顔で送り出してくれる事だろう。
(ま、早く会えるに越した事はないわよね。一夏もそうだけど、箒とも拳を交わしたいし)
手合わせをしたのが遥か以前のように思える。
あの時の鈴は二人に比べて一回り劣っていた。今のように無茶苦茶なことをしていた訳ではないから当然であったのだが、ただの一度も勝利を収めたことがなかったのが、鈴はとても悔しかったし、そのお蔭で頭のおかしい修行も乗り越えてこられたとも言える。
「生身でも、ISでも、今度はもう負けないんだから」
パシンっと拳を叩き、鈴はそう呟いた。
「ところで鈴ちゃん。日本に行くのに三十分コースと二時間コースがあるけどどっちがいい?」
「……一応聞きたいんですけど、三十分コースは何で行くの?」
「それはもちろん、私特製の乗り物で。こう、ギュイーン!っと」
「師父。お願いだから普通に行きましょう」