IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜 作:幼馴染み最強伝説
更識との試合から翌日。
俺は治療の報告を聞くために一年の教室まで足を運んでいた。千冬達もついてくると言っていたが、生徒会メンバー全員で押し掛けた日には何か別の事と勘違いされかねないので、俺一人で行くといったのだが、そしたら代わりにミハエがついてきた。彼女はどうやら更識と面識があるらしく、病気の事などは既に知っていた。俺達のやり取りが偶然耳に入ってきた(本人談)ので、気になったからついていくのだそうだ。絶対聞き耳立ててただろうけどな。あんまり大きな声で話せるような事でもないし。
「貴方、今ものすごく不愉快な事を考えたでしょう?」
「考えてねえよ」
「そう。その割には目が泳いでいるのだけれど」
何でわかるんだよ。普通に前見て歩いてるだけなのに。千冬達といい、超能力者か何かなのか?
「あまり失礼な事を考えると、その額に風穴を空けるわよ」
「銃は出すなよ。ただでさえ、二年生だから目立つってのに、俺もお前も何かと注目を集めるだけの理由を持ってるんだ。こんな所でいざこざを起こす訳にはいかねえ。やるなら誰にも迷惑がかからない所で二人きりでするぞ」
流れ弾で怪我人や死人が出られるとマジで洒落にならないからな。それにミハエはモデルもやっているそうだから、性別問わず視線を集める。その隣に男が歩いていたら、何かと勘違いされることもあるだろう。俺としてはこいつを彼女にする場合、先ずは照れ隠しに銃をぶっ放すのを止めていただきたい。
「二人きりでなんて………貴方、大胆ね」
言ってる意味がようわからん。というか、何故そこでしおらしくなるのかが疑問だが、こういう時のミハエは普通に女の子だから安心は出来る。何時もなら言葉の一つ一つに注意を払い、銃をぶっ放されないように警戒しなきゃいけないから………と、一年三組に着いた。ここが更識のクラスだったはず。
大声で呼ぶか?いや、それは勉強してる子に悪いな。かと言って、席まで呼びに行くのも変に騒ぎが起きそうだ。確か更識の席は一番後ろだし。
「ミハエ。悪いけど、呼んできてくれないか?俺が行くと騒ぎになりそうだから」
「女性を使いっぱしるなんて、酷い男ね。わかったわ、行きましょう」
一つ一つの行動を起こす度、俺をディスるのはどうにかならないものか。これでもかなりマシになった方なのだからなんとも言えない。以前なんて心の底からディスられてた気がするしな。
呼びに行ってもらっている間、教室の入り口付近で待っているのだが、視線が痛い。新入生への挨拶の時ほどではないが、今も今でなかなか辛いものがある。しかも昨日の今日だから、彼女達の興味の視線が凄い。敵意が混じっていないのは幸いだ。
「呼んできたわよ」
「ありが「ふっくかいちょ〜!」なぁっ⁉︎」
振り向こうとしたら吹っ飛ばされた。因みに横からなので、受け身も取れなかった上に飛びついてきた一人分の体重もあったので、割と痛い。
「急に飛びついてくるな、更識」
「ええ〜、良いじゃないですかぁ〜。可愛い後輩が甘えてるんですから♪」
そう言って更識は顔をぐりぐりと俺の胸元に押し付けてくる。ついでに腹部には柔らかい感触が伝わってきているのだが、その代わりに俺に冷たい視線が突き刺さっている。
「これはどういう事かしら?」
「俺にもさっぱりだ。心当たりがない」
「無意識に、という事かしら?貴方、何時からそんな器用な事が出来るようになったの?」
出来ねえよ。お前まで俺の事をラノベの主人公扱いする気かっつーの。それにしても何でこいつはこんなにデレデレしてるのか。そして何故ミハエの機嫌は悪いのか。全くわからない。しかし、わからないと口にしたら、さらに俺がディスられるのは火を見るよりも明らかなので、わからないとは言わない。
「それより更識。俺がここに来た理由はわかるよな」
「私に会いに来てくれたんですよね〜」
違えよ。いや、違わないけど。だが、そのニュアンスだと壮絶な誤解を生む。
「はぁ………此処だと話がし辛い。ちょっとついてこい」
「いやん!大胆なアプローチですね!副会長。でも、私はその熱い想いを全身で受け止める覚悟があ痛っ⁉︎」
凄まじい暴走具合に思わず頭を叩いてしまった。昨日までとは大違いだ。これじゃあ理性が強化された劣化版束だ。ミハエは更識の暴走具合を見て、頭を抱えている辺り、彼女は元々こういう人間という事なのだろう。
更識の言葉を聞いて、一年生達が騒ぎ始めたので、取り敢えずなんでもないと釘を刺して、生徒会室に連れて行く。その間、更識は頭を抑えていた。加減ミスったか?
生徒会室に着いた俺と更識(ミハエは授業があるので帰した)。
どういうわけか、更識が生徒会室の扉の鍵を閉めたのだが、おそらく他人に聞かれるのを防ぐためだろう。寧ろそれ以外の理由がない。
「更識。結果を聞きたいんだが」
「連れないですね、副会長。学園の皆が授業中で、密室で美少女と二人きりなんですから、楽しい事が出来ますよ?」
「馬鹿か。まだ知り合って間もない女子に手を出すなんて、種蒔きじゃねえんだぞ」
第一、そんな事で更識に手を出してたんじゃ、今頃生徒会メンバーの全員と合体してらあ。束に関しては何度夜這いを仕掛けてきたかわかったもんじゃない。
「確かにそうですね。では、報告します。結果からいえば治療の方は大成功だそうです。大した副作用はありませんし、それに合わせて少しだけ弄ったらしいので少し身体能力が上がったらしいんですけど、立派に人間です」
「そうか。それは良かった」
束がやるのだから、失敗する心配なんて微塵も無かったが、正直ほっとした。彼女は人間のままでいられたんだな。
「藤本将輝さん。ありがとうございました、貴方のお蔭で私はもう死の恐怖に怯える必要はなくなりました」
「いや、礼なんて必要ない。助けたのは束だし、ヒカルノがいなきゃ、病気の事すら気がつけなかった」
頭を下げて礼を言ってくる更識にそう返すと、更識はクスクスと笑う。おかしな事言ったか?
「すみません。篠ノ之博士が「まーくんならそう言う」って言ってらしたので。つい」
何と。まさか束は未来予知の術まで覚えたのか………って違うか。日頃の俺の言動からそう予測しただけだろう。まあ、束の知能なら予測も予知レベルにまで昇華されてるけどな。それでもって束の事だ。その後に何かしら更識に言っているはずだ。
「篠ノ之博士はこうも言ってました。「もし、まーくんが私に頼んでないと私はこんな事はしないから、君を救ったのは間違いなくまーくんだよ。ヒカリんだって、まーくんに頼まれてなきゃ調べてないだろうしね」だそうです」
うーん。そう言われると返す言葉がないな。こういう時の束の発言には妙に威圧感があって困る。特に俺達じゃないからこそ、ふざけようとはせずに普通に話しているからな。
「という事で、私決めたんです」
「何を?」
「私、副会長に全てを捧げると誓いました!」
ふむ、成る程。なかなか殊勝な心掛け………って違う違う!
「待て、更識。何がどうしてそうなった」
「えーとですね。まず私の寿命は二年以内だった訳です。そこに副会長という救世主が現れて、私を救ってくれました。つまり、今の私の命は副会長が与えて下さった物という事になります。そうなると私の命は副会長の物という事になります。はい、おしまい」
いや、はいおしまいじゃねえよ。すごく重い事言ってるのに、軽すぎるだろ。
「それに思い出して下さい。私と副会長の間で賭けをしたじゃないですか」
したな。俺が勝ったら更識の事を煮るなり焼くなり好きにしてもいいんだったか。そんな気はさらさら無かったし、今言われるまで忘れてたんだけど。
「そんな訳で副会長は私の事を好きにしちゃってくれて構いません。何なら夜伽の相手でもOKですよ?寧ろ今からでも覚悟がーーー」
「あのな、更識。一応俺歳上だし、男には嘘でもそういう事を言うのは良くないぞ。俺は勘違いしないが、他の男がそうとは限らないからな。そういう事は好きな奴にでも言っとけ」
うっかり聞き返しかけたが、それを飲み込んで窘めるように言う。第一、好きでもない奴に抱かれるのなんて、女性からしてみれば死ぬよりも嫌なことだろう。命を助けたからとはいえ、それを強要するのは最低の行為だ。
「それも問題ありません。私、副会長の事が好きですから」
「そうか。確かに問題ないな」
そうかそうか。好きなら何の問題もないよな……………ん?待て、今こいつ俺の事好きって言わなかったか?めちゃ自然に言ったから普通に返したけど。
「副会長反応薄過ぎませんか?もっと大きなリアクションを期待してたんですけど」
「更識が普通に言ったから、反応が遅れただけだ。これでも凄く驚いてる」
俺の頭の中は絶賛混乱中なのだが、表面上は普通にしているから、そう見えるだけで。ていうか、何で更識も更識で平然としているのか。多分、そっちの方が気になってリアクションが薄くなったのかもしれない。
「因みに何で好きになったのかと聞かれれば、寧ろ、あのやり取りで惚れない方がどうかしてると言いたいですね。誰にも治せない病気で余命二年の女子をかっこよく助けた訳ですから。副会長は私の病気を損得感情抜きで治す機会をくれたんです。それどころか、篠ノ之博士と交換条件まで出して。ただでさえ、乙女は弱っている所に優しくされると弱いんですから、その上で命まで助けられちゃったらもう惚れるしかないです。チョロインがなんぼのもんじゃいです。惚れてまうやろー!です。そんな訳で私は副会長に何もかも捧げちゃっていい所存です。いっそ性奴隷でも良いレベルです。あ、やっぱり愛を感じたいので出来れば妻の方が良いですけど、メイドとかでもOKです。世界の中心で「これが私のご主人様!」って叫びますから」
「落ち着け、更識。俺はお前を性奴隷にもメイドにもする気はない。俺は更識が生きたいって言ったから、助けたんだ。それなのに俺が更識の人生を奪っちゃ意味ないだろ」
「違いますよ、副会長。私が貴方に捧げるのであって、貴方が私から奪うんじゃないんです。私がそうしたいからそうするのであれば、文句はありませんよね?」
そう言われると俺も返す言葉がない。しかし、幾ら何でも奴隷だとかメイドだとかは回避したい。更識の事もそうだが、それ以前に俺の人格が問われそうだ。ていうか、それを許すとあの五人(主に束)が何をしでかすかわからん……ッ!
「では、副会長。これからは私の事を好きに使っちゃって下さい」
かと言って、この様子。どう足掻いてもこいつは何かしら命令でもしてやらない限り、永遠に俺の周りで付きまといそうだな。何か妙案はないものか…………………は!閃いたぞ!
「よし、更識。お前俺の秘書になれ!」
「はい?」
「という訳で、今日から将輝副会長の秘書になりました。更識楯無です、皆様よろしくお願いします」
放課後。生徒会室で更識が一礼して挨拶をする。話をしていた俺はともかく、その他の四人は突然の出来事に目を丸くしていた。
「将輝。どういうことだ?」
「言葉通り、彼女には俺の秘書になってもらうのさ。秘書って言っても単に俺の副会長の雑務を手伝ってもらったり、彼女にしか出来ない事をしてもらうだけだから、問題ない」
新入生も入ってきて、俺の仕事はただでさえ多いのに1.5倍くらい増えたからな。ちょうど猫の手も借りたいと思っていたところだ。特別彼女に苦手な物はないらしいし、三分の一くらいは彼女に任せても大丈夫だろう。それに彼女は対暗部用暗部の長。もし以前のような事態に陥っても戦力になるし、彼女に引き渡せばあわよくば情報を引き出せるかもしれないしな。
「まーた、将輝は誑かしたのかにゃぁ。これで七人目だぜぃ」
「ここまで来ると諦めの境地だな」
誑かしたとは随分人聞きの悪い事を言うが、残念ながら俺は言い返せる立場じゃない。ただ女誑しと言われるくらいなら人誑しとかの方がいいな。響き的に。それにしても七人目?今までの事を思い返してみても、彼女はせいぜい六人目くらいの筈だが。
「ぐぬぬ………久しぶりに良いことしたなって思ってたら、まさか自分の首を絞める羽目になるなんて………だがしかし!最後に笑うのは束さんなのだ!」
ぬははははは、と笑っている束は放置。ていうか、お前最初から最後まで笑ってるだろ勝敗問わず。
そんな訳で俺の秘書として更識楯無こと更識華凛が生徒会の仲間として加わる事になった。