ハードパンチャーの金剛デース!   作:アサルトゲーマー

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1 ハードパンチャー

 私はイギリスで男として生を受けた。

 やや貧乏な家の生まれではあったが生活には不自由せず、それなりな成長をしたと思う。

 

 私の人生の分岐点は一人の女の子の取り合いとなって三人の男と喧嘩になったことであった。

 小さいころから私の身体能力は高いと思っていた。それでも似た体格の男三人の相手は手こずると思っていた。結果からすればそれは全くの杞憂だったと言える。

 襲い掛かってくる先頭の男にカウンターストマック(鳩尾)ブロウを決めて昏倒させた後、二人目の男の首にスピニングバックナックル(回転裏拳)を決め、三人目の男には顎にスマッシュを打ち込んだ。

 一瞬の出来事であった。私は一人をさっさと倒して頭数を減らしてしまおうと考えていたのに無意識のうちに全員をのしていたのだ。自分でも何をしたのかいまいち分かってなかった。

 そんなシーンにたまたま出くわした爺さん…ボクシングのコーチが私の一生の師匠になるとは夢にも思わなかった。

 ちなみに女の子にはフラれた。

 

 学校を卒業したあとはコーチの奨めですぐにボクシングを始め、若干の練習期間を挟んだすぐ後にミドル級ボクサーとしてデビューした。

 私は必殺のカウンターパンチを武器にアマチュアをあっという間に駆け抜け、詳しい説明もなしにプロボクサー入り。

 まさに負けなしの全KO勝ち。コーチ曰く私のパンチは体重に反して重い為、もの凄く効いているそうだ。得意のカウンターでさらに威力は倍になり、これに耐えられるボクサーはそう居ない。

 

 電光石火のチャンピオンに輝き、ついた渾名が「ストロングゴールディン」と「無敵の悪魔」。そのころにはファイトマネーでたいていの物がポンポン買えるようになるまでになっていた。

 チャンピオンになって一週間後。これが私の二度目の分岐点であったと思う。

 クルーザーを買って浮かれていた私はそのままの足で沖にまで出て、友人と共にバーベキューをしていた。

 そんな時、海の上に突如現れた真っ白な女。派手な武装をしているのが遠くからでも見て取れる奇妙な彼女はなんとその武装を私のクルーザーに放ってきたのだ。

 その後のことはよく覚えてない。ただ、自身の体が吹っ飛ばされたような浮遊感だけが感覚としていつまでも残った。

 

 寝ているのか起きているのか。暗く、輪郭もはっきりしない通路に私は佇んでいた。通路の先には淡い光。

 朦朧とする意識の中で私はその光に縋るように歩いていく。光に向かって歩く理由など無かったが、とにかく私は惹かれるようにふらふらと、光に向かって歩いて行った。

 道中、様々な人物とすれ違った。古めかしい軍帽を被った者やゴーグルをつけた者、中には勲章を付けている偉そうな老人ともすれ違った。

 光に近づくにつれて人物は多くなっていく。そして私は光に辿り着き──。

 

 その光に触れたか触れないかのところで私の体が重くなった。いきなりの事にたたらを踏んだがなんとか転ばずに済み、そして前を向く。

 そこには淡い光などは無く、輪郭がはっきりとした女の顔。見れば周りの光景も先ほどとは一変していた。広い部屋によく分からない機械、散らばった工具。なんとなく工場を連想させるような場所だった。

 再び前を見る。そこには再び女の顔。だがそれは鏡に映った誰かの顔だった。

 試しに笑ってみる。鏡の女も笑った。

 右手を突き出してみる。鏡の女は左手を突き出した。

 威嚇してみる。鏡の女は可愛らしく拗ねた。

 …間違いない。これは私だ。グニグニと自分の顔をいじくっているとふと笑い声が聞こえた。声が聞こえた方を向くと軍帽を被った女が口を押さえて笑っている。

 

 ──誰だこいつは。初対面だというのに笑うとはいささか失礼ではないか?

 

 少しムッとしたのがその女に伝わったのか、女はコホンと咳払いした後に日本語でこう言った。

 

「始めまして。私は──。覚えにくかったら提督と呼んでください」

 

 女が区切って息をスッと吸う。

 

「そして貴女の名は金剛。金剛型ネームシップの金剛」

 

 何の因果かは知る由も無いが、私は日本語でダイヤモンドを表す金剛という名を与えられた。奇しくもそれは私の渾名ともよく似ていた。

 私の元の名はAdamas Golding(アダマス・ゴールディン)。アダマスとはラテン語で不屈という意味であり、ダイヤモンドの語源となった言葉だそうだ。

 ただ、当時の私は日本語など自己紹介とかに使うちょっとしたことくらいしか分からなった。とにかくこの場で分かったことは私の名は金剛で、この軍帽を被った女をテートクと呼べばいいという二つの事だけだった。

 

 しかし不思議な事もあるものだ。つい最近までボクサーをしていた男が可愛らしい女性になるとは…。

 何かの映画で似たようなものがあった気がした私は思い出すついでに鏡をもう一度見た。じっくり見ると判るが、とても快活そうな女性だ。まつ毛も髪も長く、頭頂部にはにゅんと伸びたひとかたまりの髪の毛があった。胸も大きい。

 そして服装は今までおおよそ見た事の無いようなものであった。いや、似たようなものであれば見たことがある。それはミコ服というものでレイヤーなる人物が着るものらしい。友人が『ミコはモエ』だとのたまっていたのを覚えている。

 鏡を見つめる事一分。結局何の映画だったかは思い出せなかったが、次の疑問が首をもたげた。それは自身の体格はどのくらいかという事だ。

 自身の体格などボクサーでない女性になった今ではあまり意味はないとは思うが気になってしまうのだ。ボクサー時代は過剰とも言えるほど体重計に乗ったりしていたのだ、一種の職業病である。

 そこでお手頃な比較対象、テートクを呼んで一緒に鏡の前に並んだ。みれば私の方が若干大きい。彼女の身長を仮に160cmとするのなら私は165cmだ。私の今の身長はボクサー時代よりもやや小さいが、殆ど体格に差が無いのはいいことだ。

 それが何となく嬉しくて、調子に乗ってテートクは小さくて可愛いねと言ったらため息を吐かれた。ううむ、女性の背が小さいは良い事なのではないのか?

 

 

 

□□□

 

 

 私が金剛となって一日が経つと、テートクにユーバリを紹介された。なんでも私に日本語と艦娘について教えてくれるらしい。

 ユーバリはプラチナブロンドのスレンダーな女性だった。思わず口説いたがリリーがどうのこうのと言われて彼女にはうまく躱わされてしまった。あとで教えてもらったことだがリリーとは日本語でユリと発音する。

 日本語の勉強はつまらなかったが教材として見せてくれたアニメは大変面白かった。古いアニメの『あしたのジョン』なんかは日本語がわからなくても食い入るように見てしまったものだ。夜中についうっかり、立つんだジョーン!と叫んでユーバリに怒られたりもした。

 艦娘の勉強も並行して進められた。艦娘というのはいわばオカルティックな存在で、古い軍艦等の霊を励起したものを人間の型にはめた物らしい。船に霊が宿るものなのかとユーバリに聞いてみた所、ここ日本においては魂や霊といったものは物にも宿ると答えてくれた。

 艦としての特徴は自身の体に出やすく、記憶や性格はフナノリ…ユーバリ曰く船に乗っていた人の物が色濃く出ると言う。つまり私は船に乗っていたから金剛の人格としてここに居るのだろう。適当もいい所だと思ったが口には出さないでおいた。

 次に艦娘の特徴を勉強した。艦娘は常にバリアのようなもので守られているようだ。いまいちどんな物かわからなかったのでユーバリに聞いてみるとアニメを見せられた。それは最近の作品でタイトルは『アーマード・ストラトス』。これに出てくるスキンバリアそのものだと言っていた。大変よく分かったが事あるごとにユーバリがワンサマ爆発しろと煩かった。

 だがアニメに出てくるバリアとは若干だが違いがある。それは強烈な物理エネルギーが加えられること以外に、霊的な干渉を受けることでバリアが無力化してしまう事だ。

 ユーバリ曰く私たちはいわばゴースト。ゲーム的に例えれば物理攻撃にはめっぽう強いが魔法にはてんで弱いと言っていた。要するに日常生活で私を害するものは無いらしい。

 次に霊的な干渉というものだが、それは艦娘の持っている小さな大砲がその能力を持っていると言っていた。ここまで聞いた私は大砲を使って艦娘同士で戦争でもするのか?と聞いた。

 

「あ、ごめん。深海棲艦について教えるのが先だったわね」

 

 そう言うとユーバリは写真を取り出した。それには白い女…私のクルーザーを攻撃したヤツと似た格好をした誰かが写っていた。

 これが深海棲艦。私の仇。

 ユーバリ曰く深海棲艦は民間船舶、軍艦問わず海に浮かぶ人工物ならば無差別に破壊する高い攻撃性を持っている。そして艦娘と似た性質を持ち、また会話は成り立たず、さらに正体はほとんど解明されていない。

 その攻撃性から人間は海から叩き出され強烈な人的被害と経済的被害を受けているのだ。そしてそれを排するのが艦娘。

 ここまで聞いて艦娘とは何なのか分かった。私は深海棲艦に対抗するための剣なのだ。

 

 

 さらに数日が経ち、私は日本語に必要な部分を大体覚えた。こんなに早く憶えられたのは思うにユーバリの教材の良さがあると思う。昨日なんかはユーバリと共に『装甲騎兵ヴォトムズ』を見ながら興奮していたものだ。日本では炎の臭いはしみつくものらしい。

 ある程度日本語が喋れるようになったのでテートクが皆に自己紹介をするといいと、何か広い部屋に案内された。そこにはユーバリ以下いろんな艦娘らしい人物がそろっていた。ここで初めて知ったことだが艦娘とは女の子ばかりだ。

 こういった場では自分の名と特技や好きなものを言うらしい。なので名前と特技を簡潔にまとめて発言することにした。特技はボクシングだと言おうとしたが、日本語に訳すことが出来なかったので人を殴ることが得意だと言った。

 なぜか部屋の空気が凍りついた。

 

 次の日から私の教師はシラヌイになった。彼女はピンクの色がかなり強いストロベリーブロンドだ。とても珍しい色合いだったので触ってみたら酷く叱られた。考えてみれば他人の、それも女性の髪の毛を無断で触るのはとんだ失礼だったと思い深く反省。

 翌日、シラヌイに髪の毛を触ってもいいかと聞いてみた。渋々といった感じだったが許可してくれたので手櫛でスッと梳く。彼女の髪の毛はとても良い手触りだった。また叱られるのは嫌なのであまり触り過ぎないようにしてその日は勉学に励んだ。

 さらに翌日、翌々日もシラヌイに髪の毛を触らせてもらった。最初は不機嫌そうな彼女ではあったが日が経つにつれて表情が柔らかくなってきたように感じる。きっと私に心を許してくれたのだろう。嬉しくなった私は勢い余って頭を撫でてしまった。

 しまったと思った時にはもう遅い。今は彼女も目を白黒させているが混乱が収まったら叱られるのだろうと身構えた。だが叱られることは無く、シラヌイは次からは言ってから撫でてくださいと言って顔を伏せた。無性に嬉しくなったので一言いってからナデナデした。

 その日の夜。明日から私の本格的な訓練が始まるようだとシラヌイに教えられた。楽しみである反面、多少不安でもある。

 

 不安は杞憂であった。武装の扱いはユーバリに教えてもらっていたので問題なく扱えたし、砲弾を回避するのもテレフォンパンチを避けるように簡単だった。ただ、魚雷だけはタイミングが掴めず何発か喰らってしまったおかげでペイント液を頭から被ってしまったのだ。

 体がベタベタするので演習後はそのままお風呂に向かった。更衣室に入り、はたと胸を見つめて思い出に耽る。主に始めのうちは好きなだけ女の子のおっぱいを揉めると喜んだものだが実際揉んでみると凄まじい虚しさが心をえぐったのでそれ以来お風呂以外では触らなくなってしまった事とか。

 頭を振ってそんな記憶を無理やり追い出しながら風呂場に入ると、そこではなぜかイナズマとミユキが湯船に浮かんでいた。失神しているようなので湯船から出して更衣室に運び入れるとイナズマが目を覚ました。何が起こったのかと聞いてみると。

 

「お風呂で足を滑らせて深雪さんとぶつかっちゃったのです…」

 

 という答えを戴いた。私たち艦娘が湯船で沈没など笑い話にもならないのでこれからは重々気を付けながら入浴しよう。私はドックに運び入れられるミユキを見ながらそう思った。

 

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