私はここの鎮守府で女性の身ながら提督をしている。軍人といえば男性のイメージが強いが、こと艦娘を指揮するものは男性と女性の比率が大体1:1だ。それはとある理由があるのだが今は関係が無いので置いておく。
深海棲艦が現れてからおよそ三か月。それと同時に現れた艦娘もそれなりに艦種がそろってきた我が鎮守府。今日、いよいよもって戦艦を迎え入れる日となった。
艦娘を作り上げる妖精さん曰く、艦娘はおおまかに分けて二つの要素で出来ているそうだ。
一つ目は外装。いわゆる体だ。これは主に大本となる艦と人々のイメージが混ざった物が外見になる。
次に内装。いわば精神や記憶、魂にあたる。これは名の通り当時の乗組員の想い、思念が複雑に交じり合ったものがそうなるらしい。
ちょっとした要因で大きく変わるので姉妹艦であっても全く同じになることは無いそうな。
そうして現在、外装だけが出来た状態だ。魂をこれから入れるらしい。魂を入れる瞬間は必ず私が立ち会う事になっているのでこれから向かうのだ。
妖精さんを肩に乗せ、工廠の前まで赴く。
さあ、いよいよだ。扉に手を掛け、押し開く。
そこには一人の女の子がいた。目を瞑り、俯きながら立っているその姿は例えるなら電池の切れたロボットだろうか。
そんな彼女の目の前には姿見を置いてある。これは最近私が見つけた事で、艦娘は目覚めた瞬間自分を自分と認識し辛いのでコレを置いておくことで認識を楽にさせることが出来るのだ。
妖精さん、お願いしますね。
私がそういうと妖精さんは飛び降り、彼女の元にテコテコと歩いていく。そして右手に持った光る何かを彼女に押し当て──。
「Wow!」
思いっきりネイティブな英語が彼女の口から飛び出た。彼女は一瞬よろけたがそのまま立ち直り、目の前の鏡を見つけて睨めっこを始めた。
いきなりの英語に面喰った私は一瞬ぽかんとしてしまったが、再び彼女の観察に戻る。
彼女は鏡の前でキョロキョロしたり笑ったり変なポーズを取ったり百面相をしていた。そんな可愛らしい仕草に思わず吹き出してしまう。
笑い声が聞こえたのだろうか、彼女はこちらを向いた。そして私が笑ったのをみてムッとしたような、若干不機嫌な顔になった。
いけないいけない。私は慌てて咳払いをして誤魔化し、自己紹介をする。
しかしいまいち伝わってないのか彼女は首を傾げる。いちいちそんな仕草も可愛いくて撫でまわしたくなるのだが今は仕事中だ。ガマンガマン。
我慢ついでに深呼吸をして彼女の名前──「金剛」という名を教えた。
「My…name?」
聞き返してきたので、そうだと返した。金剛は再び鏡を見て、自分の姿を見た。鏡を食い入るように見つめる金剛。その姿はやや必死といえるものだった。
無理もない。軍艦がいきなり人の体を与えられたのだ。私たちにしてみればいきなり犬の体を与えられて「お前の名は○○だ」と言われたようなものである。中にはやはり、その事実を受け入れる事が出来ない艦娘も居る。彼女もそれを受け入れがたいのだろう。
「テートク、Over here」
待つこと1分。金剛は姿見を掴んだまま私の方を向いて英国式の手招きをした。途中で妖精さんを拾いながら招かれるまま金剛のそばに行く。
彼女に肩を持たれ、姿見に二人並んだ。戦艦である彼女の身長は大きい。私も165cmと女性にしては長身なのだが、彼女はさらに5cmほど大きかった。
金剛の意図が掴めず鏡に映った彼女の顔を見ると、なぜかニンマリといい顔で笑っていた。
「テイトク、チイサイ、カワイイ!」
私の金剛に対する第一印象が『変なヤツ』になった瞬間であった。
□□□
一日金剛と付き合って分かった事だが、彼女は日本語を殆ど喋れない。原因ははっきりしないが恐らく英国産の戦艦の魂を使ったのでそれが影響していると思われる。
そんなわけで秘書官である夕張に日本語と艦娘のお勉強を一任した。夕張は優秀だ。彼女は英語もそれなりに堪能だし艤装や武装についても造詣が深い。日本語を教えながら艦娘について教えられるので一石二鳥である。
さらに金剛も優秀だった。日本語についてずぶの素人だったはずが一週間のうちに文法を習得し、単語も一般会話なら問題ないレベルまで覚えたのだ。
そんな訳で会話が出来るようになった金剛は改めて我が鎮守府の面々と自己紹介することに相成った。
「ワタシの名前は金剛デース!特技はヒトを殴ることネー!」
爆弾発言であった。私だけではなく艦隊全員の金剛に対する印象が『変なヤツ』になった瞬間である。
まずは一般常識を覚えさせるべきだと思った私は教育係を不知火に変えた。不知火はうちの艦隊の中でも割と常識人だ。やや性格がきついのが欠点ではあるが、頭の緩そうな金剛にぶつけることで良い具合に引き締められるかもしれない。
…そう考えていた時期が私にもありました。
2、3日経った後で様子をこっそり見てみた所、なんと金剛が不知火の頭を撫でていたのだ。提督である私ですら不知火の頭をナデナデしたことないのに。軽くジェラシー。
いや、そうではなく問題なのは金剛の緩い具合がちっとも改善されてない事である。むしろ逆に不知火の方の性格が柔らかくなってしまった。それはそれでいい事なのだが釈然としない私である。
その翌日に艦隊内演習を行った。金剛の戦闘力を図る為に様々なシチュエーションで彼女を戦わせるのだ。結果、彼女は状況把握能力と危機回避能力と近距離戦闘能力に優れていることが分かった。天才は変人だとよく聞くが彼女がまさにそれだったようだ。
砲撃戦を仕掛けても彼女の被弾はほんのちょっぴり。それもかすり弾程度。後ろから狙っても撃つタイミングが判るのか砲撃の一瞬前にその場から飛び退くし、至近戦闘になれば戦艦特有の馬鹿みたいな膂力で投げ飛ばされる。不知火はそう絶賛していた。
唯一雷撃には反応が鈍かったが最初の数撃をもらった後は他のすべてを危なげなく回避していた。どうやら彼女は海上最強の戦力、戦艦として恥ずかしくない順応性と性能を持っていたようだ。
金剛は人当たりが良い。優しく、強く、賢く、驕らない。たまに喧しい時もあるし誰彼構わず好意を向けると言う困った癖もあるがムードメーカーとしてみればそれも長所だ。彼女を中心にしてこの艦隊はもう一段階成長する。
──事件が起こったのは、私がそう確信した次の日の事だった。
(続きは)ないデース