なのはにならないと   作:すどうりな

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それは場違いな私なの

 

 

 

 「..............」

 

 私こと高町なのはは今現在真っ白に燃え尽きている最中だった。

 

 目の前に出された問題用紙には意味の解らない事ばかりが書いてあり、私は自分の自信やそういった物が崩れていく音が聞こえてきていた。

 

 確かに、私は前世での記憶に頼りきりであまり勉強をしている方ではない。 でも中学校では満点ばかり(当たり前だが)だったし、学校の授業でも解らない事は無かった(当たり前だが)。

 中学校ではアリサちゃんやすずかちゃん、フェイトちゃんに並ぶくらいの高成績だったのだ.......高成績だった筈なんだけど。 

 

 チラリと前を見れば凄まじい速度で手を動かしているフェイトちゃんの後ろ姿が見えた。

 問題は恐らく同じもの、此処が如何に特別な場所だからと言って此処に来た全員に違う問題を出す程労力に成果が見合わない事はしないだろう.......いや、私としてはそっちの方が精神衛生上優しいが。

 

 耳をすまさなくても聞こえてくるカリカリと問題を解く人達の音、フェイトちゃんだけじゃない、きっと此処に来ている全員にとって当たり前の問題なのだ。

 

 

 

 赤点少女場違いなのは.......始まりたく無かったです。

 

 

 

 「なのは、問題はどうだった.......?」

 

 「あは、あはは。 ........キキタイ?」

 

 「じ、実技試験の方で挽回出来るよ!」

 

 「あれ以来乗った事はあっても動かしたことが無いんだけど........」

 

 「........ゴメン」

 

 運命を感じたあの日から時は流れ.......私達は自らの進路を選ぶ重要な時期に来ていた、所謂入試の時期である。 両親の喫茶店を継ごうと日々お菓子作りに励んでいた私にとっては関係の少ない時期だと思っていた。

 

 思っていた、過去形である。

 

 あの時に私の首に下げられていたレイジングハートの姿は私が前世の知識で知っていた物とは違い金色の装飾が施してある。 見方によっては羽根の様にも見える金色の装飾.......これが今回私が入試を受ける事になった原因だ。

 

 『468』番目のISにレイジングハートが組み込まれて起動したあの日に全てが決まっていたらしい。

 少し考えれば解ること、特に厳重な警備もなく彼処に入れるなら誰でも簡単触れられる様な場所に普通のISが放置されている筈が無かったのだ。

 

 468番目のIS、またの名を出来損ない。

 

 聞いた話ではあるが、全ISの産みの親『篠ノ乃束』ですら匙を投げた欠陥品。 何をしても動かずデータ解析すら受け付けない完全な置物状態だったソレは殆ど嫌がらせの意味でA&Fにプレゼントされた物だったらしい。

 

 そんな物を私が起動させてしまったから、さぁ大変。

 

 直ぐにレイジングハートは私から取り上げられ各国の有名な研究機関を転々としながら様々な調査が進められた。

 私の方だって負けてはいないかも知れない。 国外には行かなかったものの血液検査を始め様々な検査を受けて体の隅々まで調べられた。

 

 その結果、解った事は私のIS適正がそれなりに高い.......という事しか解らなかったのだから驚きだ。

 468番目(レイジングハート)は以前と変わらずに一切の解析を受け付けず、起動すら出来ない。 にも関わらず私だけが起動出来るという研究者からすれば首を傾げることしか出来ない結果だった。

 

 私だけにしか起動出来ないIS、逆を言えば私には起動出来るIS。 ただの置物では無くなってしまったソレを放置する事は世界的に許されない事のようで.......ほぼ強制的に私の未来は決まってしまったのである。

 

 「でも、IS学園.......かぁ.......」

 

 

 『IS学園』

 

 

 アラスカ条約に基づいて日本に設置された、IS操縦者育成用の特殊国立高等学校。

 操縦者に限らず専門のメカニックなど、ISに関連する人材を育成する為に作られた学校。 日本にあるにも関わらず学園の土地はあらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されない.......なんて私からすれば難しい言葉を並べられ何処か恐いイメージをもつ学校へのチケットを渡されてしまったのだ。

 

 今回の事が起こるまでは自分の友達が入学を目指している凄そうな学校、程度にしか知らなかった場所だ。 世界中のエリート達が入学しようと必死になって日夜勉強しているのはニュースや新聞でも取り上げられていたけど.......まさか自分が入学することになるなんて夢にも思わなかった。

 

 「........勉強しないとなぁ」

 

 流石全世界のエリート達が入学を目指している学校なだけあって問題の難易度は桁違い、前世の知識もあまり役には立たないくらい難しい問題ばかりだった。

 特にIS関係の問題は全然解らない、PIC?非限定情報共有?第2回モンド・グロッソ大会優勝者........さっぱりだった。

 プレシアさん曰く「参加さえすれば眠っていようがテスト用紙を破いた挙げ句配布者に叩きつけようが合格できるわよ」という事らしい。 とんだVIP待遇だ。

 

 それでも流石に勉強を全くしないまま学校に入学してしまえば待っているのは赤点生活、そんなのは嫌だと勉強を頑張っては見たのだが........結果はあまり変わらなかった。

 

 「ごめんねなのは.......私があの時.......」

 

 「ストップだよ、フェイトちゃん。 そのお話はすとーっぷ」

 

 声のトーン、顔の表情、恐らく私以上に落ち込んでいる親友の口に人差し指を当てて静かにさせる。

 あの日からいっつもコレだ。 フェイトちゃんは私がISに関わった人生を送るしか無くなった事を心底後悔していた。

 間接的な原因は確かにあるかもしれない、でも殆どは私の自業自得という奴だ。 

 私が勝手に首を突っ込んで勝手に起動させてしまっただけなのだからフェイトちゃんは何も悪くない。

 悪いのは私とアノ銀色だけだ。

 

 それに.......。

 

 「実を言うと.......ちょっとだけ嬉しかったり.......」

 

 「.......え?」

 

 信じられないといった顔で此方を見てくるフェイトちゃん。 確かに両親の店を継ぐのは私の夢だったのは間違い無い.......だけどフェイトちゃんは忘れている、私の一番初めの目標を。

 

 「空が飛べてビームが撃てるんだよ、それって魔法少女みたいじゃない? それにフェイトちゃん達に何時でも会えるようになるし」

 

 私の目標は皆を守れる魔法少女になる事なんだから。

 

 「..............」

 

 少しばかり長い沈黙.......一応励ます為の言葉だったんだけれどもしかしたら外してしまったのかも知れない。

 どうにか場を和ませようと新たな話題を探し初めてるくらいになって、やっとフェイトちゃんは笑ってくれた。

 

 「あはは、うん、なのはらしいや。 何よりも先に魔法少女だもんね」

 

 「にゃ!? 中学校に入ってからはあんまり魔法少女魔法少女言ってないよ!?」

 

 「今だって友達に会えるより先に魔法少女が出てくるくらい魔法少女熱が戻ってきてるよ、なのは」

 

 「だってフェイトちゃん達にはたまにしか会えなくなるところだったけど一生って訳じゃ無かったし.......うー........」

 

 フェイトちゃんの顔に明るさが戻っていく。 その様子を見て私は心の中でガッツポーズを決め自分を褒めてあげた。 やっぱりフェイトちゃんは笑顔が似合う、暗いフェイトちゃんなんて私はあんまり見たくない。

 

 それに今言った事はただフェイトちゃんを励ます為の冗談じゃなかったりするのだ。

 

 皆を守れるくらいに強い私に成れれば。

 

 きっと私は主人公(高町なのは)に成れる筈だから。

 

 

 

 

 実技試験当日。

 

 IS学園の実技試験は勿論ISを操作する事だ。 

 

 起動、歩行、飛行、武装の展開、ISを操作した時に精神に異常が見られないか、全てをチェックされる。

 しかしIS学園に入学を希望する子供は実に多い。 全世界のエリート女子中学生が一度に集まるのだから当然と言えば当然である、一人一人丁寧に試験をしていればきりがないだろう。

 それだけ多くのISを一度に動かしても試験官は動きを見きれないだろうし、何よりも肝心のISが全く足りない。 試験内容は全てを効率良くチェック出来る物で無ければならないのだ。

 

 「受験番号798番さん、そろそろISを展開して準備をしていて下さい。 797さん、もうそろそろ試験が始まりますからね、準備は宜しいですか?」

 

 「大丈夫です! なんだか........何でも出来るような気がして........!」

 

 

 結果としてIS学園が試験内容として採用したのはISを使った模擬戦だ、受験生はISを身に纏い試験官と模擬戦を行うというのがIS学園の実技試験の内容だった。

 

 模擬戦のフィールドからISを纏った女の子が呆然として帰って来るのを見て受験番号797、私の番号より一つ前の彼女は飛び出して行く。 身に纏っていたのら恐らく『打鉄』と呼ばれる機体だろう。

 

 武者鎧のようなその機体は安定性があり使いやすいらしいが乗った事すらない私には今一解らない。

 試験を終え帰って来たのは『ラファール・リヴァイヴ』と呼ばれる機体だろう、こちらも扱い安い機体で模擬戦にはうってつけの機体らしい........そして今私が腕に握っているIS、合計三種類の機体が此処にある試験会場で使われている物だ。

 

 「セットアップ」

 

 私が静かにそう告げるとソレが輝きはじめ、装甲が展開されていく。

 いや、それは装甲と呼んでも良いのだろうか? 私が元々着ていたどう見てもスクール水着にしか見えないIS用のパイロットスーツ、通称ISスーツを上書きする様に展開されたのは服だった。

 

 まるでソレはコスプレの様な服だったのだ。

 兵器特有の金属チックな雰囲気は何処にもなく、ISならばあって然るべきである肩部や背部に浮遊する非固定装備が何もない。 特徴と言える様なものは大きな青いジャケットくらいの物だろう。 ISが産み出されてから初期の頃にあった身体全体を覆う全身装甲とはまるで真逆の発想にも見え、実の所は全身装甲に通ずるソレはこう呼ばれている。

 

 BJ(バリアジャケット )

 

 シールドエネルギーや絶対防御と言ったISに初めから登載されている防御機能とは別に登載されている防御装置、『A&F』のIS専用の機能だ。 

 

 BJを展開するにあたってネックであったエネルギー問題と搭乗者にのし掛かるBJを常時展開するための桁違いの計算を、高い演算機能を持つデバイスと拡張領域のほぼ全てをBJ専用のエネルギータンクにすることにより可能となった防御装置。 ほぼ手持ちの武装でしか戦えない代わりに同世代では打鉄を追い抜き並び立てるモノの居ない防御性能を誇るISだ。

 

 名を『ブルー・ロー』と言った。

 

 名前の由来は日曜日の買い物を含む娯楽、飲酒、労働を規制する法律の事らしいが.......恐らく開発したプレシアさんはこの機体に対する労働、すなわち攻撃は無意味であるという事が言いたかったのだろう。

 

 こう聞けば非常に優秀なISに聞こえるが実際は欠点も多々ある。

 

 一つ、実弾を使った戦闘持続時間が極端に短い事。

 二つ、拡張領域をほぼ全て使っているため後付武装による幅広い戦闘に対応出来ない事。 

 三つ、デバイスによって緩和されているとは言えそれでも高い負担を搭乗者に強いる事。

 

 そして最後に、あまりにも他のISと勝手が違う為に普通のISパイロットには非常に乗りにくい機体になっている事である。 .......蛇足だが受験生が受かりたいのなら実技試験で選んではいけない機体として本に書いてあった。

 

 光が治まり展開が終わる。

 

 そして視野が広がった、比喩ではなく本当に。

 

 全てが見えた.......壁の向こう側.......周りの人間の目の動きや呼吸音.......空気の流れといったものまで全てが同時に理解できた、前の番号の人がやや興奮気味だった理由が解るような気がする。

 身体は力が漲り、まるで自分が全てを支配出来る様な.......そんな想いすら頭を過りかけた。

 

 そしてそんな想いは急速に冷やされていく。

 

 足りないのだ、なにかが足りない。

 力が漲っているのに、なにかが足りない。

 足りない足りない足りない、空虚で空っぽで、それがどうしようもなく苦しい。

 ISを使っているからこそ解るような何かがあった。

 

 .......レイジングハートじゃないからかな.......?

 

 私は未だに研究機関を転々としている私の本当の専用機レイジングハートが使えないからだと結論付けて身体の調子を確認する。

 

 両腕で握りしめた一丁の大きなライフルの持ち心地は悪くない、恐らくこれ一丁で数十キロはする筈なのだがISのアシストのお蔭で全く重いとは感じなかった。

 

 まだ喪失感、何かが足りないという焦りの様な物はあったが腕や脚は問題なく動くきっと大丈夫だ。

 

 「受験番号798番さん、前の番号の人が帰って来るのを見てから進んでください」

 

 「はい」

 

 「........?」

 

 職員さんに自分の受験番号を言われて返事を返す。

 ........ただそれだけの事なのだが、職員さんは首を傾げて何かを言いたげな表情で手元にある資料とにらめっこし始めた。

 絶対合格できる、プレシアさんがそう言った理由が書かれているであろう資料に驚いているのかも知れない。 

 そう考えていると先程意気揚々と飛び出して行った797番の人が帰って来ていた。 何でも出来るような気がする、そう言って自信満ち溢れる表情をしていた彼女の面影は何処にも無く、今にも泣き出しそうな表情をしている。 

 

 理由は機体を見れば明らかだった。

 

 機体の至るところに塗料が付着している........模擬戦用のペイント弾だ。 機械だけで当たったか当たってないかを判断すれば必ずごねる受験生が出てくる、そういった諦めきれない人の為に解りやすくしているのだろう。

 

 「798番さん、進んでください」

 

 「あっ........すいません! 今行きます!」

 

 番号を言われて慌てて飛び出した。

 

 筆記試験の二の舞にならないようにと決意しながら........。

 

 

 

 

 

 

 模擬戦用のフィールドに飛び出して初めて見えたものは濃い桃色のISを着た誰かだった。

 良く見てみればソレはカラーリングこそ違うものの797番が装着していたIS『打鉄』である事が見てわかるが、それはあまりにも797番とは違い過ぎた。

 機体に塗料が一切着いていないという点、そして何より........圧倒される様な闘気と呼べるような雰囲気。

 

 「お前が次の受験生か」

 

 「........え?」

 

 予想外の出来事に思わず気の抜けた声が出たが、長い日本刀の様な近接用のブレードとブレードに比べればあまりにも小さな拳銃を腕に握り此方を見つめる試験官の迫力に思わず身構えてしまう。

 

 聞いた事のある声だった........話した事は無いだろうし、それ以前に会った事すら無いだろう。 でも私は彼女を一方的に知っていた。

 

 機体と同じ濃い桃色の長い髪をポニーテールにまとめ、意思の強さを感じさせる目が特徴的な彼女は状況から見れば私の模擬戦相手、試験官なのだろう。

 

 「まずは武装の展開を........既に展開済みだったか、すまないが展開しなおしてくれないか? 私としてはどうでも良いが一応項目に含まれて.......聞いているか?」

 

 「は、はい.......」

 

 今日は何だか予想外の出来事だらけで、つい考え込んでしまう.......これは試験なんだと自分自身を叱咤しつつ私はライフルをしまいこみもう一度展開し始めた。

 目の前で粒子となって解けていき、もう一度現れた事に私は少なからず驚くが動揺をあまり見せない様に心を落ち着かせる。

 

 「.......速いな」

 

 意外と高い評価をいただけた様で安心した。

 試験官は小さな拳銃を拡張領域に仕舞うとブレードを正眼に、まるで剣道の様に構えをとっていた。

 

 「番号と名前を」

 

 「受験番号798番! 高町なのはです!」

 

 大きな声で答え、照準を合わせて何時でも撃てる様に武器を構える。 圧倒的な闘気に飲まれない様に自身を奮い立たせて試験官である彼女を見つめた。

 

 

 「模擬戦の相手をすることになった、試験官の『八神シグナム』だ。 緊張しなくても良い、今出せる全力で挑んできてくれ」

 

 「はい!」

 

 

 『闇の書』

 

 『守護騎士』

 

 『ヴォルケンリッター』

 

 『烈火の将』

 

 

 頭に思い浮かんだ様々な役に立たない情報を振り払う様に、私は自らの武器のトリガーを引いた。

 

 

 

 

 




 

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