早く落ち着いて書ける環境を作りたいです…
あの日から慧音さんは良く鈴奈庵に来るようになった。
来ては取り留めのない話をしたり、鈴奈庵にある本の話をしていた。
そんなある日のこと何時ものように鈴奈庵に居ると慧音さんが遊びに来ていた。
発端は慧音さんのある一言だった。
「お前達は春祭りに参加しないのか?」
「春祭り…ですか?」
「そうだ祭りだ、外の世界には祭りはなかったのか?」
「いや、ありましたけど…あまり春にやる祭りは聞いたことはないですね」
実際に、祭りにはあんまり参加したことはなかった。
小さい時孤児院のみんなで地元の祭りに行ったきり参加したことはなかった。
そこで、小鈴が奥の部屋から出てくる。
「あ、慧音先生いらっしゃい!何の話してたの?」
「いや、春祭りの話だよ。今年は鈴奈庵は参加しないのか?」
「もうそんな季節かー…うーん今年は両親がいないし参加するのはやめておこうかな…」
「そうか、それは残念だな…」
自分だけ話題に置いてけぼりになる。
どうやら幻想郷には春祭りという祭りがありそこに何らかの形で鈴奈庵は参加していたのだろう。
「鈴奈庵はどんな事をしてたんですか?」
「うーんと、本の物々交換みたいな感じかな?うちで要らなくなった本を買い取って貰ったり、家にある本を売って貰ったりするだよ」
「なるほど…」
それだとあんまり祭りを見れないんじゃないかと思うがまあ、仕事だから仕方のないことだろう。
などと考えていると出入り口から阿求が入ってくる。
「あら、今日は賑やかね…」
「阿求さん、いらっしゃいませ」
「はいはい、いらっしゃいました。あんたに用はないわよ。」
あいからわず冷たい対応で反応に困る。
「三人で、何の話してたの?」
「春祭りの話だよー!」
「ふーん…ちょっと小鈴来て」
来て早々に小鈴を連れて本棚の裏に隠れていった阿求。
やっぱり二人は仲がいいんだなと思う。
慧音さんと二人になり少し気不味くなる。
どんな話題でこの時間を潰そうかと考えていると先に口を開いたのは慧音さんだった。
「夜考、お前は春祭りは何か予定とかあるのか?」
「いえ、特にないですけど、なんでですか?」
「お前、小鈴の事が好きだろう?」
「ぶっ!⁉︎いきなり何を言いだすんですか⁉︎」
余りに唐突に言われて吹き出してしまった。
小鈴とは、そんな関係ではない…筈だ。
宿主と居候、雇い主と雇われ人、友達、そんな関係な筈だ。
いや、だからと言って嫌いだとかそういうのでは無くむしろ好きなんだけれども、好きと言っても異性としてでは…あるのか…ないのか…と誰に言うでもなく自分の心の中で言い訳を繰り返す。
「だって、お前と話している時、お前の口からは小鈴の事しか話さないじゃないか」
「う…そうですかね…」
意識した事はないがそうなのかもしれない。
急に自分が小鈴の事が好きなんだと思うと胸が苦しくなってくる。
「それで、私からの提案なんだが春祭り一緒に回ってみたらどうだ?」
「え、いや…はなからそうするつもりでしたけど…」
「そして、あわよくば告白してみては如何かな?」
慧音さんが意地悪そうな笑みをこちらに向けながら提案してくる。
実に楽しそうだった。
告白、か…産まれてこの方好きという感情が芽生えた事がなくてこの上なく戸惑っているのだが、そこに告白となるとどうすればいいか分からなくなる。
告白ってどうすればいいんだ?
何を言えばいいんだ?
そもそも、告白ってなんだ?
自分でもこの上なく焦っていた。
「告白するかは置いといてとりあえず春祭りに誘ってみます。」
「うむ、それがいいと思うぞ」
満面の笑みを浮かべながらそう告げる。
ちょうどそこに今まで本棚な裏で話していた二人が出てくる。
阿求は少し嬉しそうな笑顔を浮かべ、小鈴は珍しく少し顔を赤らめながら出てきた。
「私の用は済んだからもう帰るわね、慧音先生も一緒に帰りませんか?」
「そうだな、私も帰るとしよう。」
二人は同時に店の出入り口に向かいのれんをくぐり出て行った。
「ありがとうございました…」
少し気の無い見送りの言葉をかける。
「…」
「…」
小鈴と二人きりになってしまった。
気不味い、さっきの慧音さんの時の数十倍気不味い。
原因は慧音さんの言葉だろう、『お前、小鈴の事が好きだろう?』
意識してしまって声を掛けにくい。
小鈴は阿求と話してから少し変だった。
顔を少し赤らめたまま下を俯いていた。
何をしていたのだろう。
好奇心に身を任せて聞いてみることにした。
「さっき、阿求と何を話してたの?」
「……ひみつ」
「そっか…」
話が途切れる。
空気に押しつぶされそうだった。
何とか話題を作ろうと必死になる。
「今日はいい天気だね」
「…もう夕方だよ?」
しまった…ありきたり過ぎて墓穴を掘った。
「あはは…そうだね。もう遅いけど店閉めちゃう?」
「うん、そだね」
その言葉を聞いてから店を閉める為に出入り口に向かう。
その時、
ピシャ‼︎
何かを叩く音が聞こえた。
小鈴の方からだった。
振り向いて小鈴の方を振り向く。
すると小鈴は両手で自分の頬を平手で叩いていた。
「よし‼︎、さ、早く店閉めよう!」
さっきまでと違い何時もの元気な小鈴が頬を赤くしながらそう言った。
「そだね…早く店を閉めて晩御飯にしようか」
さっきまでの重苦しい空気が嘘のように軽くなっていた。
二人で店を閉めて、俺は晩御飯を作るために台所に向かう。
しかし、買い物に行くのを忘れていて料理を作るにはあまりに材料がなかった。
小鈴に一言掛けてから食材を急いで買いに行った。
遅めの買い物であまり食材は売ってはなかったが二人分の料理を作るには十分な食材が買えた。
その帰りにふと雑貨屋が目に入りふらっと立ち寄った。
人里の中では一度も見たことがない雑貨屋だった。
店の中には色んなものが乱雑に置かれていて店主は少し老いたおじいさんだった。
店内を軽く見て回ると昔懐かしい玩具やアンティーク、対魔グッズや日用品と色んなものが所狭しく置かれていた。
そんな中、何もついてないシルバーのネックレスが目に入った。
そこでまた、慧音さんの一言を思い出す。
『あわよくば告白してみては如何かな?』
告白に何かプレゼントって鬱陶しいかな…
いや、まず告白するかどうかも決まってないし。
告白に限らずに別にプレゼントを送ってもおかしくはないか日頃の感謝の気持ちとして送っても不思議ではないはずだ。
よし、買おう。
「あの、おじさんこれ下さい」
思わず買ってしまった。
衝動買いにも程があるだろうと思いつつ足早に鈴奈庵に戻った。
買ってきた食材を使って料理を作り食卓に持って行くときにはもう既に小鈴は席に着いていた。
もう待ちきれないといった様子だった。
「「いただきます!」」
二人でご飯を食べ始める。
よほどお腹が空いていたのかガツガツと小鈴が食べている。
「そんなに急いで食べなくても料理は逃げないよ」
「お腹…空いてたし…ごくん…それに夜考のご飯美味しいし!」
「ありがと、作った甲斐があるよ」
それだけ言うと小鈴はまた口一杯にご飯を頬張る。
「そういえば、春祭りっていつだっけ?」
おもむろに小鈴に尋ねてみる。
「ごくん…えっと確か明後日だった気がする」
「意外にすぐだね、良かったら一緒に見て回らない?」
よし、ごく自然に誘うことが出来たことに内心ガッツポーズをする。
しかし、小鈴は
「え、あー…うん、いいよ一緒に回ろう」
何故か含みのあるような返事だった。
もしかしたら迷惑だったかな…他に誘われていたとかあったのかな。
気になって聞き返してみる。
「えっと…嫌だったら嫌だって言ってくれればいいよ」
「嫌だなんて全然思ってないよ!
ただ…」
「ただ?」
「先に言われちゃったなー、と思ってさ。本当は私から誘おうと思ってたんだけど…ね」
苦笑しながら答えてくれる。
その返事を聞いて少し安心した。
「良かった…」
「私が夜考の誘いを断る訳ないじゃん」
快活に笑って返してくれる。
本当に小鈴と一緒にいると居心地がいいというか笑顔になれるという
か、毎日楽しくなった気がした。
そして、明後日の春祭り当日、何時もの人里より何倍も賑わっていた。